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【18-011】中国における第4次産業革命の最新情勢~政策、技術、知的財産権の観点から~

2018年 8月29日

分部悠介

分部 悠介(わけべ ゆうすけ)氏:
IP FORWARDグループ グループ総代表・CEO

略歴

日本国弁護士(登録番号:31050)・弁理士(登録番号:19385)
東京大学在学中1999年司法試験合格、2000年同大学経済学部卒業。
03年弁護士登録。同年、日本最大級の総合企業法務弁護士事務所の長島・大野・常松法律事務所に入所し、企業法務、知財法務全般に関与。
06年から09年まで、経済産業省模倣品対策・通商室に出向し、初代模倣対策専門官弁護士として、中国、インド、東南アジア、中近東諸国の知的財産権法制度の調査・分析、関係各国政府との協議、権 利者企業からの知的財産権侵害被害に係る相談対応などを担当。
09年に渡中後、知財専門の弁護士事務所での勤務を経て、IP FORWARDグループを創設し、知的財産権取引・保護を中心にサポート。

 近年、中国において、モバイル決済、無人運転、スマート家電、シェアバイク、IoT、ビッグデータ、AI等の技術革新手段により様々なサービスが新しく生まれおり、世 界中から注目を集めるようになってきています。これらの技術革新の背景として、「第4次産業革命」の進行がありますが、本連載では、中国における第4次産業革命の最新の動向について、政策、技術、知 的財産権の観点から、具体的な実例を交えつつ、紹介していきたいと思います。

1 中国政府の取り組み

 中国では影響の大きい、革新的な政策が、政府の力強い指導の下、進めてられていくことが多いですが、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、AI(人工知能)、ロ ボット等の最新技術をコア技術とする第4次産業革命についても、中国政府は2009年前後からこれを意識した政策を出すようになり、2015年に、これの基礎となる「中国製造2025」と「インターネット・プ ラス」の二大政策が打ち出され、これらに基づき、様々な政策が遂行されています。

図1

図1 第4次産業革命にかかる中国政府の動向

 「中国製造2025」では、2049年の建国100周年までに「世界の製造大国」の地位を築くことを主目的として掲げており、中でも、次世代情報技術、高度なデジタル制御の工作機械・ロボット、航空・宇 宙設備、海洋エンジニアリング・高技術船舶、先端鉄道設備、省エネ・新エネ車、電力設備、農業機械、新世代材料、バイオ・高性能医療機器を重点産業として位置付けています。同政策が発表された翌2016年には、早 速、各自治体での実践を推奨するべく、制度改革支援、融資・減税、土地提供、人材教育にかかる「中国製造2025モデル地区」が設置され、現時点では、寧波、泉州、瀋陽、長春、武漢、青島、成都、広州、合 肥などが選ばれています。

 次に、「インターネット・プラス」では、電子商取引、工業インターネット、インターネット金融などを発展促進させて、中国インターネット関連企業の国際市場開拓・拡 大を促進することが主目的として掲げられています。具体的な適用分野として、起業・イノベーション、共同製造、現代型農業、スマートエネルギー、金融、公共サービス、物流、通信販売、交通、グリーンエコロジー、人 工知能などが重点分野として定められています。

 この二つの重要政策をより効率的、かつ迅速に実践していくために、2016年、中国政府は140余りの企業・団体を創立メンバーとする「工業インターネット産業連盟」を立ち上げ、官民一体として、こ れらの政策を実践する体制の基礎を構築しました。同連盟の創立メンバーには、製造業、IT分野それぞれにおいて著名な中国企業が含まれており、具体的には、華為(ファーウェイ)、海爾(ハイアール)、阿里巴巴( アリババ)など世界的に有名な企業から、第一汽車、三一重工、宝鋼など古くから中国の製産業を支えてきた伝統企業までが含まれています。

 官の力が相対的に強い中国では、こうした官民一体の取り組みはスピーディに進行していくことが少なくないですが、これらの取り組みの結果として、IoT、ビッグデータ、AI、ロボット等、各 分野の市場規模は軒並み拡大し、今後も一層、成長し続けていくと見られます。

図2

図2 IoT市場規模

出所:中国工業情報化部

図3

図3 ビッグデータ市場規模

出所:中国ビッグデータ発展調査報告書(2017)

図4

図4 ロボット市場規模

出所:中国ロボット産業発展報告(2017)

図5

図5 AI(人工知能)市場規模

出所:2017中国AI投資市場研究報告

2 具体的な成功事例

 昨今、中国での電子決済の普及状況が日本でも多く報道されるようになってきておりますが、中国では電子決済がこの5年の間で、一気に普及し、まさに「財布いらず」の生活ができるようになってきていて、最 近では、おつりがないので現金の支払いが拒否されるという事象まで出てくるようになりました。この電子決済は、モバイル端末の決済アプリを通じて実現されており、現在、アリババ社が運営する「アリペイ」、テ ンセント社が運営する「WeChatPay」の2つのアプリが中国市場を占拠していますが、今回は「アリペイ」について簡単に概説します。

 「アリペイ」は、アリババ社が開発・運営する世界最大の第三者決済サービスで、2017年時点で、5億人程度のアクティブユーザーを抱え、世界中の400以上の金融機関パートナーを有し、最近では、訪 日中国人観光客の取り込みを狙って日本でも多くの店舗に導入されるようになってきています。同サービスは、店頭でもインターネット取引でも使え、具体的に支払いをする際、以下の2つの方式が取られています。 

①「消費者QR提示方式」

 消費者が携帯電話やタブレットなどを使って、アリペイアプリを起動させ、そのアプリにおいて支払用のQRコードを表示させ、それを店側がスキャンして決済する方式です。

②「消費者QRスキャン方式」

 店側が、店頭のレジなどで用意されているステッカーや、インターネット上の決済画面などにおいて固定のQRコードを表示させ、消費者側のアリペイアプリでこれをスキャンさせて決済する方式です。

図6

図6 消費者QR提示方式

出所:百度図片 [1]

図7

図7 消費者QRスキャン方式

出所:百度図片 [2]

 上記の通り、アリペイの主たる機能は支払い・決済になりますが、こうした決済機能をベースに、以下のような様々な新しいサービスが出てきています。

・資産運用

 インターネット上のアリペイ口座にお金が入っている場合、1クリックでそれを資産運用に回す事が可能で、かつ、いつでもユーザー指定の銀行口座に払い出しができます。統計によると2017年時点で、ア リペイユーザーのうち2~3人程度に一人の割合でこの機能を利用し、運用資産総額は1兆元を超えています。

・与信活用

  ユーザーのモバイル決済記録から分かる買い物習慣、金融商品の利用状況、公共料金の支払状況等といった支出行動のほかに、学歴、勤務先、資産、人脈といった項目を踏まえて、ユーザーの信用力を採点、数 値化して、ポイントの形でユーザーの信用度合いを可視化するサービスです。ポイントが示す信用度の高さによって、各種特典(信用度が高いと預り金なしでレンタカー利用可能、アパート賃貸時の保証金の減免など)を 受けることができます。

図8

図8 与信活用機能の操作画面

・健康管理

 ユーザーの普段の外食等における消費習慣を分析して、スマートフォンの他の機能とも連動して、ユーザーの運動・体調状況も把握した上、生活・飲食改善のソリューションを提供するサービスです。ユ ーザーの体調が悪い場合、これについて初歩診断することが可能なうえ、病院に行く必要がある場合には、推奨する病院を提示したり、直接アリペイを通じて病院を予約することも可能となっています。

 上述した電子決済、及びこれを活用した応用サービスは、一般消費者生活に変革をもたらした分かりやすい事例になりますが、製造業の現場においても、第4次産業革命の流れの中で、様 々な技術革新成功事例が出てきており、その中の一例として、大手白物家電メーカーであるハイアールの無人工場の事例を紹介します。

 ハイアールは中国家電メーカーの中で、最も早くIoT、AI、ロボットの技術融合を行い、物作りのモデルチェンジを実現し、2016年頃から、瀋陽所在の同社冷蔵庫工場にて「スマート・イ ンタラクティブ製造プラットフォーム」が導入されています。同プラットフォームを通じて、消費者、メーカー側管理システム、工場、物流がリアルタイムで繋がり合い、これによって、消 費者はどこからでもインターネットを通じて、自分専用の冷蔵庫をオーダーメイドの形で注文して、工場は即座にオーダー内容に応じて生産を行い、完成後すぐに物流業者によって製品が消費者指定の時間・場 所に届けることが実現されました。同プラットフォームは、中国内で、「中国製造2025」における模範的な存在であり、単なる製造大国から創造強国への転換の象徴として評価されています。

図9

図9 ハイアール工場様子

出所:百度図片 [3]

3 支えとなる技術開発、特許

 第4次産業革命の覇権争いの行方を占う上で参考になるのが、技術開発及びその成果としての特許出願の動向です。まず、研究開発支出額の国別データを見ると、中国の研究開発費は右肩上がりで増加し、2 015年には、27,941億元を超えて日本を抜いて米国に次ぐ世界第2位の研究開発大国となりました。「国家中長期科学技術計画」においても、GDPの伸びよりも、研 究開発支出額の伸びを高くすることが目標として明記されており、この傾向は今後も続くことが予想されます。

図10

図10 主要国・地域の研究開発支出額

出所:OECD Main Science and Technology Indicators

 この「右肩上がり」の傾向は、特許出願件数にも見ることができ、2015年には、特許出願件数がついに100万件の大台を突破し、2011年以降6年連続で世界一の座を保持しています。中 国国内の特許出願について、中国企業の特許出願件数を見てみると、2016年1位の華為技術のほか、上位半数以上をインターネット、通信関連企業が占めており、中国の技術開発、特許出願を、こ うした業界が牽引していることが伺えます。

図11

図11 中国の特許出願件数の推移

出所:国家知識産権局

図12 年度別中国企業特許出願件数ランキング
出所:2012~2016国家知識産権局年報 [4]
ランキング 2012 2013
企業名 件数 企業名 件数
1 華為技術有限公司 4,231 国家電網公司 7,182
2 中興通訊股份有限公司 3,446 華為技術有限公司 5,012
3 中国石油化工股份有限公司 3,334 中国石油化工股份有限公司 3,701
4 鴻富錦精密工業(深セン)有限公司 2,314 騰訊科技(深セン)有限公司 2,002
5 騰訊科技(深セン)有限公司 1,934 海洋王照明科技股份有限公司 1,983
6 聯想(北京)有限公司 1,768 中興通訊股份有限公司 1,948
7 海洋王照明科技股份有限公司 1,458 鴻富錦精密工業(深セン)有限公司 1,897
8 京東方科技集団股份有限公司 1,047 聯想(北京)有限公司 1,870
9 深セン市華星光電技術有限公司 1,025 中国石油天然気股份有限公司 1,261
10 珠海格力電器股份有限公司 974 京東方科技集団股份有限公司 1,173
ランキング 2014 2015
企業名 件数 企業名 件数
1 国家電網公司 10,091 国家電網公司 6,111
2 華為技術有限公司 4,119 中国石油化工股份有限公司 4,372
3 中国石油化工股份有限公司 4,073 中興通訊股份有限公司 3,516
4 中興通訊股份有限公司 3,270 広東欧珀移動通信有限公司 3,338
5 聯想(北京)有限公司 2,260 華為技術有限公司 3,216
6 京東方科技集団股份有限公司 2,183 小米科技有限責任公司 3,183
7 騰訊科技(深セン)有限公司 1,770 北京奇虎科技有限公司 2,777
8 中芯国際集成電路製造(上海)有限公司 1,524 京東方科技集団股份有限公司 2,761
9 中国石油天然気股份有限公司 1,390 珠海格力電器股份有限公司 1,981
10 北京奇虎科技有限公司 1,358 聯想(北京)有限公司 1,826
         
ランキング 2016  
企業名 件数
1 華為技術有限公司 4,906
2 中国石油化工股份有限公司 4,405
3 楽視控股(北京)有限公司 4,197
4 中興通訊股份有限公司 3,941
5 広東欧珀移動通信有限公司 3,778
6 京東方科技集団股份有限公司 3,569
7 珠海格力電器股份有限公司 3,299
8 北京小米移動軟件有限公司 3,280
9 努比亜技術有限公司 2,912
10 国家電網公司 2,784

 第4次産業革命の要素技術のうち、特に、IoTやビッグデータを利用した技術は、新たなビジネスモデルの創出につながりますが、この点に関連して、2 017年4月1日より施行されている新たな特許審査指南では、「ビジネスモデルに係る請求項には、ビジネス規則と方法の内容以外に、技術特徴も含む場合、専利法 25 条に基づいた上で、そ の専利権を取得する可能性を排除してはならない」と規定され(第二部分第一章第 4.2 節)、技術特徴と結びついたビジネスモデルについては、特許の保護対象となることが明確化されました。こ うした関連法規等の改正も、今後、当該技術分野の特許出願の増加を後押しする要因となりそうです。

 以上、今回の記事では、中国における第4次産業革命の全体像について簡単にご紹介しましたが、次回からはより細かく、各分野の詳細状況を紹介していきます。


[1]百度図片

[2]百度図片

[3]百度図片

[4]2012~2016国家知識産権局年報


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