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【18-019】[套路貸]をめぐる攻防と人間の成長

2018年11月21日

御手洗 大輔

御手洗 大輔:早稲田大学比較法研究所 招聘研究員

略歴

2001年 早稲田大学法学部卒業
2003年 社団法人食品流通システム協会 調査員
2004年 早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了 修士(法学)
2009年 東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学
2009年 東京大学社会科学研究所 特任研究員
2009年 早稲田大学比較法研究所 助手(中国法)
2012年 千葉商科大学 非常勤講師(中国語)
2013年 早稲田大学エクステンションセンター 非常勤講師(中国論)
2015年 千葉大学 非常勤講師(中国語)
2015年 横浜市立大学 非常勤講師(現代中国論)
2016年 横浜国立大学 非常勤講師(法学、日本国憲法)
2013年より現職

[套路貸(套路贷) a routine loan]とは何か

 この用語は今年8月1日に最高人民法院が公布した司法解釈で久しぶりに現れました。この[套路貸]から生まれる論調自体は、借金が借金を生むことを認める資本主義の問題であるとして、長らく社会主義の優位性を確かめるものとして指摘されていた論調と軌を一にしています。

 そもそも[套路]とはルーティンすなわち繰り返しを意味する中国語です。そのため、[套路貸]とは、繰り返し金銭を貸すという意味になります。金銭の貸しを繰り返し受けてつぶれてしまうという結果から考えると、「雪だるま式借金貸し」というところでしょうか。(もはや遠い昔の話なのかもしれませんが)「借金が雪だるま式に増える」という話を聞いたことはありませんか。まさにその意味の現代中国における事態が[套路貸]です。

 なぜ借金が雪だるま式に増えていくかというと、借りたお金を毎月というように期限を区切りながら返済するわけですが、返済が遅れた場合に「遅延延滞金」が発生して借りた元本に加えて返済しなければならない金銭が増えるため、または、返済が遅れた場合に、その賃借人に別の金融業者から借りさせて、この時に自分のところの遅延延滞金とその金融業者の利息払いで借金の総額を少しずつ借り増しさせるためです。この少しずつの借り増しが、実質的に高い利息を取るのと変わらなくなって、結果つぶされてしまうわけです。なお、時には返済の見込みがないのに借金をする賃借人の習癖すなわち借金依存症・借金癖を原因に指摘する意見を耳にすることもあります。いずれにせよ、常時(事実であれ感覚であれ)自転車操業せざるを得なくなる環境に置かれることが原因なのだろうと私は考えています。

 さて、今回のコラムでは[套路貸]すなわち「雪だるま式借金貸し」についてのご紹介と、なぜこの現象が中国社会で顕在化しているのかを考察し、そこに人間の成長という展望をみてみたいと思います。

「民間ローン案件を法に基づき適切に審理することに関する通知」について

 早速この司法解釈(以下、本司法解釈)を紹介いたしましょう。本司法解釈は、民間においてローン市場が拡大するのにともなって、民間ローン案件が爆発的に増加し、人民法院の審理業務に新たな課題を突き付けているとの警告から始まります。

 なぜ民間ローン案件として紛争になるのでしょうか。本司法解釈によれば、中国社会において民間ローンの名目で、債務を偽って増加させたり、証拠を偽造したり、あるいは事情を知っていながらわざと違約させたりすることが横行しているのだそうです。そしてこのような手法を使って、結果として高額の金額を請求し、払えないのであればその財物を引き渡せというようにして「雪だるま式借金貸し」を通じた新手の犯罪が横行していると言います。このような状態は、いわば借金を理由に人間を支配するやり方であり、このような犯罪行為の横行が人民大衆の合法な権利利益をひどく侵害し、金融市場の秩序を混乱させ、社会の安定に影響を及ぼしており、その一端が民間ローン案件として法廷に舞い込んできていると言うのです。ということは、本司法解釈を最高人民法院が敢えて立法した本音は、司法権の一端を担う人民法院がこの乱れた秩序を正すのだ、といったところにありそうですね。

 本司法解釈が各級の人民法院(そして、民間ローン案件を担当する審判官[法官]に対して)法廷審理に当たって意識せよと指示する点は次の4つです。とはいえ、第4に言及することは、もはや宴の終わりに常套句のように使われるものですから、(おそらく誰も)意識しないでしょう。曰く「党と国家の業務の枠組みは、党委員会の指導と政府の支援にしっかりと拠るものであり」「部門を超えた総合的なガバナンスメカニズムを模索して確立しなければならない」と。どの国でもどの社会でも同じ問題だろうと思いますが、完璧なガバナンスメカニズムを確立するなんて理想であり、簡単なことではないと私は考えますから、軽く触れておく程度にとどめておきましょう(そういえば、このような常套句表現が司馬遼太郎の「坂の上の雲」と重なるという指摘もありますね)。

 以上の次第ですから、確認すべきは前三者の内容ということになります。本司法解釈が第1に指示することは、ローンの事実と証拠について徹底した審理を行ないなさいということです。これは前回のコラムで取り上げた訴訟詐欺に通じる問題意識なのですが、「雪だるま式借金貸し」を合法化させるために人民法院を介そうとする現状に、どうやら危機意識をもっているようです。というのも、本司法解釈は、通常の審理に加えて、貸借金額の出所や取引習慣、当事者の経済力や財産の変化状況のほか、当事者を含む関係者の陳述などの要素を総合的に判断して、問題のローンの実態を明らかにするよう要求しているからです。そして、犯罪行為に該当すると合理的な疑いをもつに至り、代理人が案件の事実について説明できない場合は、当事者本人を出廷させて事実確認を行なうようにしなさい、とさえ指示しています。

 第2に、訴訟詐欺にあたる場合は、その訴えを裁定により取り消すだけで終わりにするのではなく、提出された資料などを公安機関または検察機関へ移送するように求めていることです。ここには犯罪者による違法行為や非法行為(法的根拠のない行為)を合法化することを防ぐとともに、訴訟詐欺による被害者財産を可能な限り発生させたくないという人民法院の意識を見て取れます。さらに、仮に訴訟詐欺を見過ごしてしまって判決を出したとしても、審判監督手続きを通じて速やかに誤りを正しなさいと指示している点に至っては、本当に巧妙なまでの訴訟詐欺行為が横行しているのかもしれないとの印象を受けます。

 第3に、法に基づいた法定利息を厳守することです。実は、別の司法解釈[1]によって人民法院として法定利息の算定の仕方が確立しています。が、法廷に持ち込まれる紛争では依然として「各種の利息」「違約金」「サービス費用」「仲介費用」「保証金」「遅延費用」などの名目で、実質的には法定利息を超える金額を賃借人に対して請求しているようです。本司法解釈ではこのような欺罔行為を支持しないと改めて言明しました。また、賃借人が高額の利息を含めた現金払いを求める場合には、その主張の裏付けとなる証書などの証拠を審査し、元本と高額の利息に基づくものであると言えるだけの事実を認定しておくようにしなさいとの念の押しようです。

 以上が本司法解釈から意識すべき概要なのですが、ざっと見たところ、当たり前の事を確認しているだけのように感じられるかもしれません。しかし、この問題は過去の指導性裁判例72事件においてすでに各地に向けて公表していたもので、当該裁判例が公表された当時のある研究会(裁判事例研究会)において議論した中では、現代中国においてローン業やその業界で商いをしようとする人々が委縮したり、減少したりするのではないかとの展望がでていました。

 指導性裁判例72事件は2017年1月に第15回目となる指導性裁判例群の1つとして公表されました。判決自体はそれ以前のものです。1年と少しという短い期間なのでまだ分からないという評価もできないことは無いでしょう。しかし、この指導性裁判例72事件が用いた法的論理であれば、まだ生き延びられるという希望を抱かせたのではないかという評価もできないこともないのではないでしょうか。

指導性裁判例72事件について

 まずは当時の私たちの展望が誤った(かもしれない)原因を探ってみるところから始めましょう。指導性裁判例72事件は次のような案件でした。

 まずAら4人がそれぞれB不動産会社とローン契約を締結し、「雪だるま式借金貸し」によって、Aら4人に対して巨額の債務を負っていることをBに確認させました。そのうえで、返済できないならばBが建設する不動産家屋を引き渡すように要求しました。Bがこれに応じ、Aら4人とBとの間のローン契約が不動産売買契約に切り替えられました。しかしその後Bが翻意して、この不動産売買契約は実質的にはローン契約であり、そうすると担保法や物権法において違法とされている行為そのものを行なっているのだから無効であると反発。さらにBは、この不動産売買契約は明らかに公平性を欠き、他人の足元を見る状況で締結したものであって、Aらの引き渡し要求に応じられないと主張して裁判になりました。

 この案件に対して、一審はAら4人に対してBが違約金と弁護士費用の支払いを命じる判決を下しました。Bの主張を一切支持しなかったわけですね。そこで、Bがこの不動産売買契約がローン契約を基としたものであって契約当事者双方の真実の意思表示を示していないし、欠損額には「高い利息」が含まれていることを理由に上告するに至ります。この高い利息という点が潮目を変えることになります。

 最高人民法院は、不動産売買契約の有効性すなわち合法性を承認しながらも、Aら4人が不動産の引き渡しを要求するだけの債務を履行していないと認定します。曰く、ローンの元本と利息を調べたところ「ローン利息の計算方法において既に民間のローン利率の上限を超えている」ことがわかったとして、その部分については認めないと解釈しました。つまり、法定利息に基づく利息分とローンの元本については不動産売買契約の購入代金に充当するけれども、法定利息を超えた高い利息の残部については違法な部分として認定し、不動産に対する支払い金額には充当しないとしたわけです。ちなみに、この判決文の中でも「当事者が不動産売買契約の締結などの方式を通じて違法な高額利息を合法化することを避け」なければならないことを言明していました。

 したがって、指導性裁判例72事件は、Aら4人とBの間における不動産売買契約の成立を認めたうえで、不動産の売買代金を完納していない不完全履行の状態にあるAら4人が不動産の引き渡しを要求することは支持できないと結論。それ故に、契約上で定める引渡し期日が到来したとしてもBが引き渡さないことを違約行為と見ることはできないと解釈し、一審判決を取り消しました。

 以上が指導性裁判例72事件の概要となります。ある勉強会でこの裁判例を分析していた時に出た意見の中には、「雪だるま式借金貸し」の方法で財を成すカラクリが使えなくなることでお金の動きが別のところへ移っていくのではないか。民間ローン業者の中には廃業に追い込まれる者も多数出るのではないかといったものがありました。私もその勉強会の記録コメントで同様の感想をもっていましたが、実際にはしぶとく生き残っていたわけですね。この法的論理を前にして、彼らに対してどんな希望を抱かせられたのでしょうか。

人間の権利観と中国的権利論

 とりあえず手前味噌の感もありますが、上記の指導性裁判例において示された法的論理を見ても「中国的権利論」が依然として通用していると言えます。公平原則に反するとか、公序良俗に反するといった理由でぶった切り、Aら4人とBの間のローン契約であろうが不動産売買契約であろうが無効であるとしてしまった方が、結果としてスッキリしたはずです。しかしながら、最高人民法院は単純な決着の付け方を望まず、合法と認められる部分は合法であるとして丁寧に残す面倒な決着の付け方を選んでいました。

 ここでAら4人のような民間ローン業者?の立場から考えてみたいと思います。彼らは合法という名の傘の下に入らなければ実益を得られないことが身に染みていたはずです。そうすると、彼らが活動する空間(取引する相手)をどう選ぶかによって彼らの戦術を適応させる必要が出てきたことを理解したのではないでしょうか。すなわち、活動する空間が合法という傘の下であれば、その傘の下で可能な戦術だけで戦う。その一方で、活動する空間が合法という傘の下でなければ、お互いのカードを出し合ってどちらが先に足元を見られてしまうかの戦術で戦うということでしょう。後者については、国家権力に対して救済を求めても無駄であることは中国的権利論が証明していますから、合法という傘の下に逃げ込ませないようにすれば有利になるかもしれません。

 問題は前者の場合でいかに生き延びるか。指導性裁判例72事件は合法という傘の下に逃げ込まれてしまった場合についての授業料だったはずです。そうすると、採るべき戦術は合法という傘の下でどうやって合法性を勝ち取るかということになりますね。本司法解釈で最高人民法院が各裁判所、裁判官へ警戒を示した点を今一度確認いたしましょう。それは(1)ローンの事実と証拠についての徹底した審理、(2)訴訟詐欺の疑いのある案件の移管、(3)法定利息の厳守でしたね。

 このうち(1)についてはお金の出所や取引習慣、当事者の経済力や財産の変化情況なども把握してローン契約の実態を明らかにしなさいということでした。その一方で、(2)は法的根拠のない行為を合法化させないということですから、それぞれの行為の法的根拠を照合し、照合できないものが出て来たらアウトということですね。ということは、法的利息を厳守しつつ、手を変え品を変えてローン契約の実態を合法的なものであると見せることができれば、合法性を満たすので「雪だるま式借金貸し」が成立し得ると言えます。

 なるほど、本司法解釈においても例えば「各種の利息」「違約金」「サービス費用」「仲介費用」「保証金」「遅延費用」などは怪しいとうたっていますが、違法であるとは言明していません。これらの費目の中には当然に合法的なものも存在するのですから、最高人民法院側がもっと一刀両断的に合法性を否定する法的論理でなかった分、希望が残ったのかもしれません。例えば、「合法なところに違法なものが混ざってしまうと不利になるけれども、合法なところに合法なものをいくら混ぜても不利にはならない」という希望が。

 人間の権利観という視点で見ると、この希望は中国的権利論に対して鋭い要求を突き付けています。結果として違法と判断せざるを得ない帰結にならないようにせいぜい慎重に立法しなさいよ、と。

 実はこのような状況に似た経験を、私たち日本社会は既に得ています。以前、一部の貸金融業者が不当な取り立てなどを行なったことによって、社会問題化したことがありました。そのとき、元・某大手の貸金融業者も悪者扱いされて多くの訴訟沙汰に巻き込まれましたが、負けなかったのです。法的保護を受けることのできる証拠を丁寧に確保していたからだと言われています。これって、今回のコラムで取り上げた「雪だるま式借金貸し」現象の中で彼らの希望を確信に近づけさせる教材になるかもしれません。否、彼らが「人間の権利観」も中国的権利論も、より高次に引き上げてくれようとしているのかもしれませんね。


[1] 「最高人民法院关于审理民间借贷案件适用法律若干问题的规定」2015年8月6日法釈〔2015〕18号のこと。

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