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【19-004】2018年の中国における重要立法を振り返る(下)~金融(外資参入規制緩和)・環境を中心に~

2019年2月28日

野村高志

野村 高志:西村あさひ法律事務所 上海事務所
パートナー弁護士 上海事務所代表

略歴

1998年弁護士登録。2001年より西村総合法律事務所に勤務。2004年より北京の対外経済貿易大学に留学。2005年よりフレッシュフィールズ法律事務所(上海)に勤務。2010年に現事務所復帰。2 012-2014年 東京理科大学大学院客員教授(中国知財戦略担当)。2014年より再び上海に駐在。
専門は中国内外のM&A、契約交渉、知的財産権、訴訟・紛争、独占禁止法等。ネイティブレベルの中国語で、多国籍クロスボーダー型案件を多数手掛ける。
主要著作に「中国でのM&Aをいかに成功させるか」(M&A Review 2011年1月)、「模倣対策マニュアル(中国編)」(JETRO 2012年3月)、「 中国現地法人の再編・撤退に関する最新実務」(「ジュリスト」(有斐閣)2016年6月号(No.1494))、「アジア進出・撤退の労務」(中央経済社 2017年6月)等多数。

早川一平

早川 一平:西村あさひ法律事務所 アソシエイト 弁護士

略歴

2011年弁護士登録、西村あさひ法律事務所に勤務。2013年北京語言大学卒業(語学研修課程)。
専門は日本国内の会社法務全般、中国内外のM&A、中国現地法人の会社法務等。

福王広貴

福王 広貴:西村あさひ法律事務所 アソシエイト 弁護士

略歴

2012年慶應義塾大学法学部卒業。2014年早稲田大学法科大学院修了。2015年第二東京弁護士会登録。西村あさひ法律事務所に勤務。
専門はプロジェクトファイナンス、日本法における金融規制、中国法におけるジェネラルコーポレート等。

陳致遠

陳 致遠:西村あさひ法律事務所 フォーリンアトーニー

略歴

2011年華東政法大学外国語学部卒業(B.A.)、華東政法大学法学部卒業(副専攻)、2017年東京大学大学院法学政治学研究科修了。2011-2014年三菱商事(上海)有限公司に勤務、2017年4月より現職。
専門は中国における外商投資、M&A、会社法務等。

 前回に引き続き、今回は、金融(外資参入規制緩和)、環境に関連する重要立法を取り上げます。いずれも、当該分野において実務的に重要な影響を生じる立法といえます。

1. 金融(外資参入規制緩和)

○ 外商投資参入特別管理措置(国家発展改革委員会商務部令2018年第18号、2018年6月28日公布、2018年7月28日施行)

 2017年10月に開催された中国共産党第19回全国人民代表大会及び同年11月に北京で行われた米中首脳会談において、外国投資家に対する参入障壁の縮小を推進すると表明した中国政府は、早速2018年に、商業銀行をはじめ、証券会社、保険会社及び先物取引会社に対する外国投資家参入規制の緩和策を打ち出しました。

 従来、外資の参入規制が強かった金融分野で、外資参入規制の緩和がどの程度進展するかに、関心が持たれます。現時点(2019年2月20日)までに公表された情報によれば、UBS証券が、瑞銀証券有限責任公司の持分51%を買収により取得して支配株主となり(2018年11月)、また、野村証券やJ.P.Morgan(Hong Kong)が、中国証券監督管理委員会に、外資が支配株主となる合弁証券会社(51%出資)の設立を申請しました(いずれも2018年5月)。また、ドイツのAllianz保険会社は、上海における外資独資の保険会社の設立について、中国銀行保険監督管理委員会の承認を受けました(2018年11月)。

 具体的には、2018年6月28日に公布され、同年7月28日より実施された「外商投資参入特別管理措置」(以下「ネガティブリスト」といいます。)に基づき、金融分野の外国投資家参入規制について以下の表の通り改正しております。

    生命保険事業者以外の保険会社に対する外国投資家による出資比率規制は以前から規定されておりません。
改正前 改正後
銀行
・単一の外国金融機関による出資は20%を超えてはならない。
・複数の外国金融機関による出資は合計で25%超えてはならない。
出資比率制限を撤廃
保険会社(生命保険事業者)
外国投資家の出資比率は49%を超えてはならない。 外国投資家の出資比率は51%を超えてはならない。(2021年に外資の出資比率制限を撤廃予定)
証券会社、証券投資ファンド管理会社
非上場証券会社 外国投資家の出資比率は49%を超えてはならない。 外国投資家の出資比率は51%を超えてはならない。(2021年に外国投資家の出資比率制限を撤廃予定)
上場証券会社 ・単一の外国投資家による出資は20%を越えてはならない。
・複数の外国投資家による出資は合計で25%を超えてはならない。
先物取引会社
外国投資家の出資比率は49%を超えてはならない。 外国投資家の出資比率は51%を超えてはならない。(2021年に外国投資家の出資比率制限を撤廃予定)

 本稿は、上記のうち、主として銀行及び証券会社に関する外国投資家参入規制の改正についてその概要を紹介致します。

(1) 銀行について

 ネガティブリストの改正に伴い、中国銀行保険監督管理委員会が2018年8月23日に公布した「中国銀行保険監督管理委員会による一部規制の廃止及び改正に関する決定」[1](以下「改正決定」といいます。)は、従来の「国外金融機関の中国資本金融機関への投資・出資管理弁法」[2](以下「外資銀行管理弁法」といいます。)を廃止し、これにより内資又は外資に関わりなく、同一の出資比率ルールが適用されることになりました。

 まず、従来の外資銀行管理弁法第8条においては、「単独の外国金融機関による中国資本金融機関に対する投資・出資比率は20%を超えてはならない」と規定されておりましたが、改正決定により、当該出資比率に対する規制は、撤廃されております。

 また、外資銀行管理弁法第9条においては、複数の外国金融機関による非上場の中国資本金融機関に対する投資・出資比率の合計が25%に達し、又は超える場合、当該非上場の中国資本金融機関に関しては外国資本金融機関として監督・管理が実施されると規定されておりましたが[3]、当該規定も今回の改正により廃止され、新しく「中国資本商業銀行行政許可事項実施弁法」第11条により、外国資本金融機関が投資又は出資した中国資本商業銀行については、当該出資が行われた際の当該中国資本商業銀行の機関類型に基づき引き続き中国資本金融機関として監督・管理を実施すると規定されております。

 その背景には、現行法上、中国資本商業銀行には、政府支配大型商業銀行[4]、郵政貯蓄銀行、株式制商業銀行、都市商業銀行、農村商業銀行等の複数の類型があるのに対し、外国資本商業銀行には、外商独資銀行及び中外合弁銀行の二種類しか存在しておらず、必ずしも対応関係になかったことにあります。そのような中国資本及び外国資本に対する出資比率ルールの統一化により、今まで上記類型の変更に伴う市場参入、業務内容及び経営地域に対する規制をそれぞれの類型に応じて変更する必要がなくなり、変更による規制内容の不明確さを払拭することができるとの効果も期待できると考えられます。

(2) 証券会社について

 ネガティブリストの改正に先立って、中国証券監督管理委員会は2018年4月28日に「外商投資証券会社管理弁法」[5](以下「証券会社管理弁法」といいます。)を公布し、従来の「外資参入証券会社設立規則」[6]を廃止しました。また、証券会社管理弁法第7条第2項によれば、外資の出資比率は国家による証券業の対外開放に関する計画に適合しなければならないとされていますが、現状、上記ネガティブリストの通りに51%となっており、こちらについては、2021年において、完全撤廃が予定されています。

 一方、外国投資家の資格要件も改正されました。従来、外国投資家のうち少なくとも一名の株主は金融機関であることが要件として規定されておりましたが、今回の改正により、外国投資家はいずれも金融機関に変更され、その要件が加重されております。また、従来においては良好な国際的名声及び経営業績を有することが条件として規定されていましたが、今回の改正により「直近3年の業務規模、収入、利益が国際的に上位に入り、直近3年の長期信用が高い水準を保持している」とその要件が具体化されております。なお、「証券業務を5年以上継続して経営しており、直近3年に所在国・地区の監督管理機関又は行政・司法機関から重大な処罰を受けていないこと」に加えて、「重大な法律違反の嫌疑について当局から調査を受けていないこと」も要件として追加されております。

2. 環境関連

 環境分野では、2018年も更なる規制強化の方向での立法が見られました。

① 土壌汚染防止法(中華人民共和国主席令第8号、2018年8月31日公布、2019年1月1日施行)

 2018年8月31日、審議を重ねてきた「土壌汚染防止法」は、中華人民共和国第十三回全国人民代表大会常務委員会第五次会議において可決かつ公布され、2019年1月1日に施行されました。同法は、中国の土壌汚染防止に関する初めての法律であり、法律根拠が確立したことで中国政府が土壌汚染防止につき本格的に取り組みを進めるものと思われます。

 土壌汚染防止法は、全7章99か条で構成されています。本稿では、主に原則、義務、罰則について概説します。なお、現時点(2019年2月20日)で、本法に基づく処罰事例の公表情報は見当たりません。

(1) 土壌汚染防止の原則

 本法は、土壌汚染防止の原則(予防中心、保護優先、分類管理、リスク管理、汚染責任負担、一般市民の参加)を定め、全ての企業・個人が土壌保護義務及び土壌汚染防止義務を負い、経営者が土壌汚染を防止・削減する有効措置を実施し、汚染された土壌につき責任を負うことを規定しています(同法第3条、第4条)。

(2) 土壌汚染リスク管理及び修復義務

 土壌汚染責任者は、土壌汚染リスク管理及び修復義務を負うと規定されています(同法第45条)。同法では、13種類の土壌汚染責任者が規定され、土壌汚染リスク管理及び修復として、土壌汚染状況の調査、土壌汚染のリスク評価、リスク管理、修復、リスク管理効果評価、修復効果評価、事後管理等が規定されています(同法第35条)。土地は、農業用地と建設用地に分類されています。農業用地については汚染度に応じて3分類され、管理義務が規定され、建設用地については土壌汚染リスク管理及び修復リストに従う管理義務が規定されています。

(3) 責任者の確定方法

 土壌汚染リスク管理及び修復の実施に関して、土壌汚染責任者、土地使用権者、地方政府の順で、実施責任者が確定するものと規定されています。原則としては、土壌汚染責任者が土壌汚染リスク管理及び修復義務を負いますが、土壌汚染責任者が確定しない場合、土地使用権者が土壌汚染リスク管理及び修復を実施することになります(同法第45条)。地方政府が土地使用権を回収した場合で、かつ土壌汚染責任者が原土地使用権者である場合、地方政府が土壌汚染リスク管理及び修復を実施することになります(同法第68条)。また、土壌汚染責任者が変更された場合、債権債務を承継した者が土壌汚染リスク管理及び修復義務を履行するものと規定されています(同法第47条)。

(4) 土壌有毒有害物質リスト、土壌汚染重点監督管理対象企業のリスト

 生態環境部が土壌有毒有害物質リストを公布し、地方政府の生態環境主管部門が有毒有害物質の排出状況等に基づき、土壌汚染重点監督管理対象企業のリストを制定し公開します(同法第20条、第21条)。後者に記載された企業は、次の義務を負うことになります(同法第21条)。

● 有毒有害物質の排出コントロール及び生態環境主管部門への年度報告

● 土壌汚染の潜在的危険性の検査制度の構築

● 監視測定計画の作成・実施、及び生態環境主管部門へのデータ提出義務等

 なお、土壌汚染重点監督管理対象企業が生産に利用する土地につき、土地使用権者は、その土地の用途の変更又は土地使用権の回収若しくは譲渡の前に、土壌汚染状況の調査を行い、調査報告を不動産登記機関に提出し、生態環境主管部門に届出する必要があります(同法第67条)。そのため、対象となった企業についは、撤退しようとする際に上記の手続がなされる結果として、土壌汚染が解消されるまで撤退が事実上認められない結果となる可能性もあると思われます。

(5) 管理制度、情報公開制度及び管理監督の強化

 基本管理制度、情報公開制度、管理監督の強化については、下表の通り規定されています。

基本管理制度 ① 土壌汚染防止目標責任・評価制度(同法第5条)
政府は、土壌汚染防止目標の達成状況を、地方政府及び関連部門の責任者の業績評価の対象とする。
② 土壌環境情報共有制度(同法第8条)
生態環境部は、他部門と共同で、土壌環境データベース及び全国土壌環境情報プラットフォームを設立し、データのアップデート及び情報共有を行う。
③ 土壌汚染防止計画制度(同法第11条)
県以上の政府は土壌汚染防止業務を経済社会発展計画、環境保護計画の中に入れ、市以上の生態環境主管部門は土壌汚染防止計画を作成し、人民政府の承認を経て実施する。
④ 土壌汚染リスク管理標準制度(同法第12条)
生態環境部は、国家土壌汚染リスク管理標準を制定し、省政府は地方の土壌汚染リスク管理標準を制定できる。
⑤ 全国土壌汚染状況調査制度(同法第14条)
生態環境主管部門は、他部門と共同で少なくとも10年に1回、全国土壌汚染状況の全面調査を実施する。
⑥ 土壌環境監視測定制度(同法第15条、第16条、第17条)
生態環境部は、他部門と共同で、監視測定地点を設置し、地方政府は農用地及び建設用地の汚染物質を重点的に監視測定する。
情報公開制度 ●省以上の政府の生態環境主管部門は、土壌汚染の調査、リスク評価、リスク管理、修復等を実施する企業や個人の業務状況につき、それらの違法情報を全国信用情報共有プラットフォーム及び国家企業信用情報公示システムを通じて公開する(同法第80条)。
●生態環境主管部門は、土壌汚染状況及び防止情報を公開する(同法第81条)。
監督管理強化 ●生態環境主管部門は、土壌汚染を生じさせた疑いのある企業に、現場検査等を実施する権限を有し、当該企業は資料提供や説明要求に対して協力しなければならない(同法第77条)。
●生態環境主管部門は、施設、設備及び物品を封印及び差押えする権限を有する(同法第78条)。
●マスコミによる監督(同法第83条)、一般市民からの告発(同法第84条)も規定されている。

(6) 罰則等

 同法に規定されている義務を履行しない場合、最高200万元の過料が科され、「生産停止・整備」等を命じられる場合もあります(同法第86条)。さらに、場合によっては、企業及び関連責任者の両方に対して処罰を与えることが規定されており(同法第87条、第90条、第91条、第93条、第94条)、関連責任者に対しては、過料以外に、身柄を拘束される「行政拘留」(同法第87条、第94条)、「犯罪を構成した場合に関連業務への従事を終身禁止する」(同法第90条)等の厳罰を適用する状況についても規定されています。

② 生態環境損害賠償制度改革方案(中国共産党中央委員会及び国務院、2017年12月17日公布、2018年1月1日施行)

 中国共産党中央委員会及び国務院は、2018年1月1日より、全国範囲で、生態環境損害賠償制度を導入することとしました(2015年12月から7つの省で同制度が試行されていましたが、今回全国に拡大されることになりました。)。同方案の施行により、生態環境損害賠償制度の賠償範囲、賠償義務主体・賠償請求主体・損害賠償解決手法等が明確になりました。以下では、生態環境損害賠償制度の概要を説明しつつ、近年の裁判例も紹介します。

(1) 生態環境損害賠償制度の概要

 生態環境損害賠償制度とは、地方政府が、環境汚染者に対して環境汚染に伴う汚染除去・環境修復費用等の関連する損害を賠償請求する制度です(同方案第4条)。生態環境損害賠償制度の適用範囲、賠償範囲、賠償義務主体、賠償請求主体、解決順序、修復方法等の内容は下表の通りです。

    省内の複数の市を跨ぐ生態環境損害は省レベルの政府が管轄し、その他の管轄区分については省レベルの政府が実際の状況に応じて決定するものとされている。
1.適用範囲 生態環境損害とは、環境汚染や生態破壊により、環境要素(大気、地上水、地下水、土壌、森等)及び生物要素(植物、動物、微生物等)の悪化が生じること、並びにこれらの要素が構成する生態系機能が退化することを意味する。次の場合に、生態環境損害賠償責任を追求する。①比較的大規模又はそれ以上の突発的環境事件を発生させた場合、②国家及び省レベルの計画に定められた重点生態効能区・開発禁止区で環境汚染及び生態破壊事件を発生させた場合、③その他生態環境に重大な影響を生じさせた場合
2.賠償範囲 生態環境損害賠償制度の賠償すべき損害として、次のものが含まれる。
汚染除去費用、修復費用、修復期間のサービス効能損失、生態環境の永久的損害による損失、損害の調査・鑑定評価等の合理的費用
3.賠償義務主体 賠償義務者は、法律法規に違反して生態環境損害を生じさせた企業等の組織及び個人とされている。
4.賠償請求主体 賠償請求の主体は、省レベルの政府及び市レベルの政府が生態環境損害の原則的な賠償請求者とされている
また、個人、法人又は社会組織から生態損害賠償請求の実施の通報があった場合、賠償請求主体及びその指定機関は、検討の上、回答することとされている。
5.解決順序 生態環境損害が発生した場合、①賠償請求主体が生態環境損害の調査、鑑定評価及び修復計画の作成等を行い、②賠償義務主体と協議を行った上、③当該協議により合意できなかった場合に損害賠償請求訴訟を提起するとされている。
上記の協議により合意に至った場合には、民事訴訟法に基づき、人民法院の司法確認を受け、これにより当該合意に基づく強制執行が可能であることが規定された。
6.修復方法等 賠償義務主体は、損害の調査、鑑定評価及び修復効果の検証等の費用を負担し、自ら又は第三者に委託して、生態環境損害を修復する。当該生態環境損害が修復不能な場合、当該生態環境損害賠償金は全て国庫に帰属し、賠償請求主体等は代替修復を実施する。また、生態環境の適切な修復を担保するために、賠償請求主体等は、生態環境損害賠償金の使用状況・修復効果を、公開し、公衆の監督を受けることになる。

(2) 生態環境損害賠償制度の確立のための規定等

 同方案の目標として、2020年までに全国で有効な生態環境損害賠償制度を確立することが記載されており、方針として、省レベル・市レベルの政府は毎年3月末に当該制度の実施状況を、中央政府及び国務院に報告が要求され、各関連部門に対しても当該制度のための役割・責任が規定されています。また、当該制度では、生態環境損害調査、鑑定評価、賠償内容、裁判書類、修復効果等の情報を公開することとしています。

(3) 生態環境損害賠償制度に基づく訴訟の具体例

 最高人民法院の公表資料によれば2017年6月の時点で3件程度、生態環境損害賠償訴訟が受理されているとのことです。参考として、下表の裁判例[7]を紹介します。

事案 判決
C社は、A市にある電気メッキ工業団地の入居企業に管理サービスを提供し、その廃水処理を担当していた。2013年12月5日、C社は、S社と「運営委託契約」を締結し、S社がC社所有の廃水処理施設を使用して当該工業団地の廃水を処理することになった。その後、A市環境監察組織は、廃水施設にある反応装置が作動せずに廃水が未処理のまま排出されていたり、配管を通じて直接長江に流されていることを発見した。
2016年6月30日、A市環境監察組織は行政処罰を下し、C社に罰金を科した。これに対して、C社は行政不服申立や行政訴訟を提起したが、その主張は支持されなかった。
2016年11月28日に、A市B区人民検察院は公訴を提起し、C社やその総経理らの行為は環境汚染罪を構成するとして、罰金や有期懲役に処せられた。
その後、A市人民政府及びX公益組織は、C社及びS社を相手取り、民事訴訟を提起した。
一審:「生態環境損害賠償制度改革試点方案」によれば、A市人民政府は生態環境損害賠償訴訟を提起する権利を有し、また、X公益組織も適格な環境公益訴訟の原告である。
確定した行政判決及び刑事判決において認定されたC社及びS社による違法な汚水排出という事実について、これを認定する。C社及びS社は共同で汚水排出行為を実施し、深刻な環境汚染をもたらしたため、これは共同侵害であり、連帯責任を負うべきであることから、以下の通り判決を言い渡す。
・C社及びS社は連帯して1,441.6776万人民元の生態環境修復費用を支払うこと。
・C社及びS社は省レベル以上のマスメディアにおいて公開謝罪を行うこと。
・C社及びS社はA市人民政府に5万人民元の鑑定料及び19.8万人民元の弁護士費用を支払うこと。
・C社及びS社はX公益組織に8万人民元の弁護士費用を支払うこと。
また、110,269人民元の案件受理費用は、C社及びS社が連帯して支払うべきである。

3. 終わりに

 本年も中国では様々な重要立法がなされ、日本企業の中国ビジネスにも様々な影響が及ぶことが予想されます。読者の皆様とともにフォローして参りたいと思います。


[1] 中国银保监会关于废止和修改部分规章的决定(银保监会令2018年第5号)

[2] 境外金融机构投资入股中资金融机构管理办法(银监会令2003年第6号)

[3] なお、上場している中国資本金融機関については、同条2項により、外国金融機関による出資の比率が25%に達する若しくは超える場合、当該上場金融機関に関しては、引き続き中国資本金融機関として監督・管理すると規定されております。

[4] 中国語においては「国有控股大型商业银行」といいます。

[5] 外商投资证券公司管理办法(证监会令第140号)。

[6] 外资参股证券公司设立规则(证监会令第8号)。

[7] 重慶市第一中級人民法院 民事判決書(2017)渝01民初773号