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【07-02】科学から見ると日本は近くて遠い国、中国に顔を向けない日本の研究者

2007年2月20日

有意義な意見が続出した日中科学交流の意見交換会

 日中の研究者による最新の研究発表が終わったあと、今後の研究交流などについて日中間で率直な意見を交換した。中国の研究者はいずれも日本に留学したり日本の大学で学位を取得した知日家であり、日 本の社会も研究現場の事情も熟知している。それだけに率直な意見は、今後の日中交流に非常に参考になるものばかりだった。

司会:馬場錬成・中国総合研究センター長

まず中国と日本の研究者間の交流の現状について、ご意見を伺いたいと思います。

藤嶋教授
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 今日の発表からわかるように、本日出席した中国の研究者は世界先端の研究成果をあげており、超一流の学術雑誌に論文がどんどん掲載されています。し かし日中の研究交流はちょっと物足りない気がします。たとえば、先ごろ吉林大学で開催された化学会には、米国や英国のトップの研究者が来たのに、日本からは私ども2名のみだった。欧 米は中国の重要性を認識していますが、日本は関心が薄いと感じます。

劉教授

 日中の研究現場に友好関係をつくらないと、良い共同研究は行えません。私は世代の差、時代のずれを感じています。日本でいま活躍している研究者は50代の先生が多く、我 々は40代が多いということも世代間の開きがあり交流の阻害要因となっている可能性があります。文化大革命の影響で、今、中国の科学者で中心になっているのは、40代の若い人が80%をしめています。我 々が若くして教授になれたのも、こういう背景があります。

60代の日本人は中国に対して熱心だが、50代、40代の先生はあまり熱心ではないという印象です。これでは研究パートナーが少なくなってきてしまいます。もっと若い人たちを連れてきて、友 好関係のトランスファーが必要です。これができれば良い共同研究もできると思います。

寺岡・中国総合研究センターシニアフェロー
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 確かに理研でもマネジメント層は中国に熱心ですが、若手研究者はそうでもない面があります。まずは中国に1回来てもらうことが重要です。

司会:中国と日本とさらに研究交流を促進するためには何が一番重要でしょうか。

姚教授

 中日両国の研究者の研究に対する考え方とやり方は、両国の文化上の差異に多少影響されるかもしれませんが、全体的に大きな違いはないと個人的に思います。だ からやり方しだいで中日の学術交流はよくなると思います。

只教授
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 日本は中国での科学研究の発展現状を再認識し、平等的な態度をとることが重要です。もちろん、日本の研究者と中国の研究者の幅広い領域での交流も重要と思います。現状では、" 中国の研究者は日本と積極的に交流を図ろうとしても、日本の研究者はあまり中国へ顔を向けません。中国の研究現状にはあまり興味がないので、このような一方交通の交流になるのは、本当の交流とは言えないでしょう。

劉教授

 我々は日本に親近感を持っていますし、中国の研究の激しい変化をも経験しました。我々の実感としては、中国の研究レベルは確実に高くなっています。しかし、日 本の多くの研究者は中国では優れた研究があまり行われていないと考えているようです。  日本と大きくかかわっていない我々以外の先生方の雰囲気としては、何となく、大部分の中国人は、日 本を欧米と同じくくりにしていて、日本は科学技術分野では遠い国という印象を持っています。科学者の目からみて日本は近くて遠い国なのです。これは何故でしょうか。  日本がこれまで、欧 米ほど中国に対して力を入れていないのからではないかと思います。例えば、姚先生は化学会の秘書長、私は副秘書長ですが、日本と緊密に交流している感じがありません。一方、ド イツをはじめとする欧米諸国は積極的に中国へアプローチしています。雰囲気として、日本は依然として中国の科学技術レベルを発展途上国と見なしているように感じます。

藤嶋教授

 今日の発表からわかるように、中国では超一流雑誌に論文がどんどん掲載されています。レベルが非常に高くなっている。中国では、育 てた学生のうち優秀な学生のほとんどがアメリカに行ってしまうようです。それでも最近は、中国に残る学生もでてきたようですが、日本には来てくれないのが課題と思います。

劉教授

 日本は良い研究を行っているのに、北京大学の学生は欧米を好み、ほとんど日本へ行きません。アメリカに行き、そ こで研究活動を軌道に乗せて自分の研究室を持つ卒業生も10名以上います。もちろん、(英語はできるが日本語はできない)言葉の問題は一つの要因と考えられますが、そ れにしても日本はもう少し優秀な若手研究者の獲得を積極的にしたらよいのではないかと思います。我々の指導した学生たちの日本との交流促進が重要です。

昔の交流は、日本へ留学して研究するという一方交通の交流に過ぎませんでした。今は日中双方向の交流を目指して、日 本の学生が中国での研究を経験するよう奨学資金のサポートがあっても良いのではないかと思います。

姚教授

 中国と日本はアジアないし世界での大国で、近隣でもあります。歴史上から見て、両国は相互に留学生を派遣し、互いに学び合う伝統を持っています。現状を生かし、さ らに中日両国間の研究交流を促進することが極めて重要ではないでしょうか。研究交流の本質は研究者間の交流と有効的な協力なので、このような交流と協力の促進が非常に重要です。

顧教授

 皆さんの意見に全体的に賛成です。何といっても信頼関係構築が大事です。定期的なコンファレンス開催が重要ではないでしょうか。

姚教授

 日中でできるだけ研究会などを行った方が良いという思いがあります。ただし、具体的にどの分野でどのように協力するかはより詳細な検討が必要でしょう。

司会:これから中国で発展する学問領域は何でしょうか。

只教授

 エネルギーと環境領域だと思います。

孟教授

 私もエネルギー、環境といった分野が日中両国にとって緊密な交流促進を行う上で大事だと思います。

司会:将来、中国人と日本人が共同でノーベル賞を受賞する機会があると思いますか。 もしあるとすれば、その研究領域は何だと思いますか。

姚教授

 中日両国の研究者が共同でノーベル賞を獲得する可能性はあると思います。私は中日両国の化学研究者が共に努力し、この目標の実現のため一緒にかんばってほしいと考えています。

只教授

 私も化学もしくは医学研究領域では、中国人と日本人が共同でノーベル賞を受賞する機会があると思います。

司会:これから日本と中国との科学技術交流に対してのアドバイスと今後の予定される交流計画をお願いいたします。

只教授

 交流について思うことは、日本の機関は北京事務所が多く出ているのに、宣伝が足りないと感じます。JST北京事務所の存在も今回初めて知りました。

永野JST理事
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 日本の機関の北京事務所がバラバラに動いていると効率が悪いので、日中科学技術研究交流促進センターを設立し、JSTや理研、希望があれば他の機関と一つのオフィスを作り、" 中国政府の理解と協力を得て中国での活動を行っていきたいと考えています。  CRCは中国語のWebサイトもつくったので参照していただくと同時に、JSTで国際交流も行っているので、ご 活用いただきたいと思っています。

寺岡シニアフェロー

 日本の大学事務所も中国に27ほどあります。時々説明会も行っている。希望があれば、どこへでも説明をしにいくと言っています。

藤嶋教授

 神奈川科学技術アカデミー、横浜市立大学、中国科学院理化技術研究所、中国科学院化学研究所、東南大学の共同研究プロジェクトがあります。「 環境にやさしい水質浄化技術の研究開発」ですが、科学技術振興調整費の「アジア科学技術協力の戦略的推進・地域共通課題解決型国際共同研究」プログラムに採用されました。

 「環境にやさしい水質浄化技術の研究開発」は、太陽電池とダイヤモンド電極による電気分解反応と光触媒による浄化とを組み合わせることによって、水処理の研究を行っています。

 また、2007年11月に顧先生の所属する東南大学で、日中ワークショップ(光材料)を開催しますが、これは劉先生が北京大学に戻ったので応援するために13年前(1993年10月末)に 第1回を開催して以来、毎年欠かさず行っています。

 藤嶋研出身者が皆、学生をつれてやってきます。毎年だいたい100人弱が参加し、先生ではなく学生も発表と質問をします。中国の学生は優秀で活発であるのに対し、日 本の学生がおとなしいのが対照的です。

司会:オブザーバーで出席された元新華社日本特派員で現在、新華社世界問題研究センターの研究員である張可喜さんの感想をお聞きしたい

張研究員
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 中国国内で、これだけ一流の研究者が集まっている研究会は初めて見ました。大変素晴らしい成果発表と交流会でした。今後に、このような日中共同研究は大変重要だと思います。こ れからも積極的な学術交流を期待したいと思います。

交流会と意見交換会に出席して(馬場錬成CRCセンター長)

 出席された中国の研究者6人のうち5人は、日本語で研究発表を行った。日本語が堪能だけでなく日本の文化、社会、大学、研究現場などをよく知っている知日家である。藤嶋教授の研究室で学位を取得し、「 Nature」など一流学術誌に論文を掲載するなど研究者としても一流の方ばかりだ。

 その研究者が異口同音に語ったことは、日本から中国への研究交流のアクセスが非常に乏しいという「不満」であった。「中国をまだ研究レベルの低い途上国と見ているようだ」「 科学者の目からみて日本は近くて遠い国」と語った劉忠範教授、「日本の研究者は中国に顔を向けていない」と語った只金芳教授の言葉は、非常に残念に思った。

 多くの日本人が中国の発展と変革をまだ実感していないように研究者の間でも、急速に進展している中国の科学技術の研究実態を正確にとらえていないのではないか。日 本の事情に詳しく日本語に堪能な一流研究者の「不満」は非常に重みがある。日中間の研究交流の重要性を深く感じた交換会だった。