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【07-06】着実に積み上げてきた30年間の学術交流~国家自然科学基金委員会朱道本副主任が語った日中間の科学技術交流~

内野秀雄(中国総合研究センター フェロー)  2007年10月20日

 国家自然科学基金委員会(NSFC)は1986年に設立された、自然科学基金を運営・管理する国務院の直轄下にある行政機関である。自然科学基金委員会 は、国の科学技術発展方針、政策、計画に基づき、自然科学基金を運用し、基礎研究と科学技術人材育成プロジェクトに助成金を配分する事業を行っている。自 然科学基金委員会は、国内プロジェクトだけでなく、国際交流・協力事業にも積極的に取組んでいる。

科学技術振興機構(JST)中国総合研究センター(CRC)馬場錬成センター長がこのほど、自然科学基金委員会を訪問し、そのナンバー2の地位にある朱道本副主任と日中科学技術協力・交流の現状及び将来の発展促進などさまざまなテーマについて意見交換をした。

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 馬場センター長はまず朱副主任に、昨年CRC設立記念シンポジウム開催の際、NSFC陳宜瑜主任にご出席の上、素晴らしいご講演を頂いたお礼を述べ、今 年はCRCが2007年11月16日東京で第2回シンポジウムの開催を予定しており、沈文慶副主任にご出席をお願いしに来たと挨拶した。

朱副主任は、「中国総合研究センターが日中の科学者、科学界の交流促進という戦略的な目標・ミッションを持っているので、大変素晴らしいことだ。設立以 来まだそれほど経っていないが、すでに日中科学技術交流促進のために少なからぬ貢献をしていることは実に喜ばしいことだ」と述べ、陳主任がCRCの設立の 意義と重要性を十分に認識したからこそ、昨年のシンポジウムに自ら出席したことを説明した。 

「今年のシンポジウムのプログラムを見ると、ハイアールが3番目の講演を予定しているが、自分が所長を務めている化学研究所とハイアールが冷蔵庫、洗 濯機関連の研究開発協力協定を締結しており、ハイアールの総裁らとも付き合いがあるので、ハイアールがシンポジウムに招待される事を嬉しく思う。ハイアー ルは『中国の松下電器産業』と言われており、洗濯機、冷蔵庫だけでなく、パソコン、テレビなどの製造分野にも本格的に参入しており、ハイアールのような中 国の一流の企業をシンポジウムに招待することは大変素晴らしいアイディアだ。本日、沈副主任はあいにく不在だが、中国総合研究センターのご招待及びシンポ ジウムでの講演テーマを本人に伝える。シンポジウムの成功を祈っている」と述べた。 

朱副主任は77−79年、85−86年の2回にわたって独マックスプランク・インスティチュート・ハイデルベルグ研究所Staab教授実験室の客員研究員 になっていたということから、ドイツとの縁が深い。また、日本の大学や研究機関との共同研究や交流などがあった経過について次のように語った。

「私が最初に日本を訪問したのは、日中国交回復2年後の1974年だった。二人の有機化学分野の先輩のお陰で実現した訪問だ。一人は中国人科学者で、 高分子研究分野の第一人者・中国科学院院士の銭人元教授であり、もう一人は日本人科学者で、分子化学研究所・元所長・名誉教授・中国科学院外国人院士の井 口洋夫先生である」

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 74年の日本訪問の結果は、日中間の有機固体分野の学術交流が始められ、日中の研究者による学術討論会は3年に1回開催され、これまでのところ8回開催 されたが、2007年10月末にも北京で第9回学術討論会を開催する予定だ。3年に1回開催の学術討論会は、比較的大きいイベントだが、「それ以外の小規 模の交流はもう数え切れないほど行っている」と朱副主任は言う。

 10月末の討論会には、日本から53人からなる大訪中団が来る予定であり、うち30才代のポスドク10人は全額NSFCの費用負担で招待されることになっている。若い世代の研究者たちにこの交流を引き継いでもらうためだという。

 「日中間の有機物半導体、高分子材料分野の学術交流は大変成功している。それには3つの特徴がある。1つ目は、この分野は現在世界最重要で、最先端技術分 野のひとつとされているので研究が活発だ。2つ目は、30数年前から始まった日中間の長期的な学術交流であり、長い歴史が引き継がれている。3つ目は、象 徴的な交流ではなく、日中間の実質的な交流だということだ。このような日中間の交流が今後いろいろな分野でどんどん増えてくることを願っている」

馬場センター長は、「このような素晴らしい交流が日中間で行われていることは、恐らく有機化学分野関係者以外の人にあまり知られていないのではないか。 是非、朱副主任に過去30年間の交流の経過を回顧し、将来の展望についてCRCのホームページで紹介してほしい」と依頼すると朱副主任は「10月の討論会 を終えてから検討してみたい」と意欲を示した。

 朱副主任によると、日本化学会設立100周年記念行事の時に、日本の化学会に招待され、天皇陛下にお目にかかり、約5分間天皇陛下とお話しすることが出来たという。

 朱副主任は日本の科学技術界に多くの友人を持っている。野依良治・理化学研究所理事長、藤嶋昭・神奈川科学技術アカデミー理事長、東京大学先端科学技術 研究センター橋本和仁所長とも親交があり、藤嶋さんの研究室に留学した中国人学生が日本の博士号を取り、帰国後に朱副主任の研究所で活躍している人は何人 もいるという。 

 2006年12月、CRCが北京で藤嶋神奈川科学技術アカデミー理事長をはじめ、藤嶋理事長の研究室で研究して帰国後、中国で活躍している何人かの教え 子たちを招いて、日中化学技術交流年末座談会を開催した。座談会に参加された研究者の名前を挙げると、ほとんど朱副主任が知っている研究者ばかりだった。 CRC馬場センター長に同行したのは、CRC内野フェロー、JST北京事務所・渡辺所長、天野副所長である。NSFC側は、国際合作局・常青副局長、アジ アアフリカ国際組織処・張英蘭処長、張永涛副研究員らが会談に同席した。

 意見交換会の話を聞いていると、同じ分野で研究する研究者たちの交流によって日中間の距離がぐんと短くなることを感じ、一衣帯水という言葉が実感として感じられた。

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朱 道本

朱 道本:国家自然科学基金委員会副主任

略歴

中国科学院士。
1942年生まれ。
68年華東化工学院有機学部卒業。
77‐79、85‐86年、独マックスプランク・インスティチュート・ハイデルベルグ研究所Staab教授実験室客員学者。
87年中国科学院化学研究所研究員。88‐92年副所長、92‐2000年所長。
94‐98年中国化学学会理事長。
2000‐03年第4期国家自然科学基金委員会副主任。
現在、国家自然科学基金委員会副主任、中国科技協会委員、国務院学位委員会学科審議チームメンバー、中国化学学会副理事長、中国材料学会副理事長、中国科学院有機固体重点実験室主任、《化学通報》編 集主幹。
専門分野:有機化学、物理化学。
長い間、有機固体分野の研究に従事、有機結晶体電磁特性、C60、有機薄膜及びデバイス等分野の研究においてインパクトのある業績を上げ、国家自然科学 二等賞(2件)及び中国科学院自然科学二等賞( 3件)受賞、中国の有機固体研究を推進する上で大きな貢献をした。