【08-01】人類の危機を救う科学技術の積極推進、有馬委員長が語った日中科学技術交流、協力のあり方

角南 篤(中国総合研究センター副センター長)   2008年1月20日

 2008 年は北京オリンピックの年であり、経済・社会・科学技術研究分野で急成長を続ける中国の年にもなると言われている。一方、人類は、今大変な危機に直面して いる。エネルギー資源の枯渇の問題や、地球温暖化の問題、環境汚染、食糧不足、水不足、感染症などといったさまざまな問題を抱えている。これらの問題をど う解決したらよいか、そして、今後の日中科学技術協力をどのように推進したらよいか、有馬朗人・(財)日本科学技術振興財団会長、(独)科学技術振興機構 中国総合研究センターアドバイザリー委員会委員長、元文部大臣にお話をうかがった。


− 昨年末、渡海文部大臣は福田総理訪中に同行されました。有馬先生は日中の科学技術交流・協力で極めて大きな貢献をされています。最近、中国を訪問された時のお話を聞かせてください。
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 私が文部大臣を務めていた98、99年頃は、いろいろな審議会や委員会があり、もちろん予算委員会もあるが、必ず大臣が居なければならないので、なかなか 海外に行かしてもらえなかった。大臣時代に海外に行かしてもらったのは2度だけだった。1回目はイギリスのサリー大学が私に名誉博士号を授与するというの で、サルズベリー・科学担当大臣と会合する公務も兼ねて、イギリスを訪問した。2回目は小渕総理大臣に命じられて、ユネスコの事務局長に立候補する松浦さ んを応援するために行かしてもらった。残念なのは、大臣時代に中国に行けなかったことだ。

 私は、いつも中国と仲良くすることが大事だといっている。私はこれまで中国には何度も訪問している。一番最近は、昨年8月末から9月にかけて、1週間くら い上海交通大学を訪問した。原子核物理学の若手学者、大学院の学生のサマースクールがあった。中国はいま原子力発電所を作る必要があるため、原子力関係の 研究が盛んになっている。原子力関係の技術を進めるために、基礎になる原子核とか量子力学とか、そういう勉強をしようということで、私は9時間講義をして きた。若い学生たちは非常に熱心だった。

 その合間を縫って、南京大学に名誉教授の称号をいただきにいってきた。その時にも講演を頼まれたので、対称性を中心に、芸術、文学、自然科学の三つの分野で、中国、日本の文化とヨーロッパの文化の違い、人々の見方がどういうふうに違うかということについて講演した。

 古来、日本は中国の文化の影響を受けているから、中国と共通点の方が多いが、それでも日本が一方の極端だとすると、ヨーロッパはもう一方の極端にあり、中 国はちょうど中間だという話しをした。例えば、お寺なんかの作り方はヨーロッパ、中国は非常に東西対称、或いは、東西でなくても対称的だ。中国の寺は東に 鐘楼があれば、西に鼓楼がある。北京の故宮は天安門に南から北に向かって一本中心線があって、その中心線に対して、東側と西側は必ず対称的になっている。 ヨーロッパも例えばケルンの塔とか、或いはギリシャのアクロポリスとか、必ず対称的に建っている。ところが日本に来ると、お寺の本堂とその後ろの講堂と金 堂くらいは対称になっていても、鐘楼があっても鼓楼があるお寺というのはほとんどない。太鼓堂のあるお寺というのはほんの僅かしかない。ほとんどのお寺で 高い塔が一本建てば終わりだ。五重の塔がふたつ建っているのは、せいぜい新薬師寺くらいしかない。京都の東寺を見ても塔は一本だ。太鼓堂なんてないよね。 この辺のお寺だって皆鐘楼があっても太鼓の堂はない。ところが庭を見ると、ギリシャにしても、イタリーにしても、ドイツにしてもフランスのベルサイユにし ても、ロンドンの庭にしても、左側に花園や池があれば、右側にも同じのがあり、必ず対称的だ。中国になると、そういった庭がないわけじゃないけれども、だ いたい蘇州の庭にしても池があちこちにばらばらにある。お寺は対称的だけれども、庭になると対称性は全くない。日本に来ると、どうだろう。お寺に対称性が ないことは既にいったが、庭だって、例えば、修学院の離宮、桂離宮、竜安寺の石庭にしても、対称性は全くない。というわけで、中国は真ん中だという話をし た。

 現代科学は本来ヨーロッパが出発点だから、保存則とか対称性のことを徹底的に信じるのがヨーロッパ人だ。ところが、中国の偉大な物理学者、パリティーの非 保存に関する研究でノーベル物理学賞を受賞した楊振寧と李政道という2人の先生が1956年、ベータ崩壊でパリティーが破れている可能性があると指摘、そ れは実験で調べればよいと予言し、後にコロンビア大学の中国人科学者マダム・ウによって見事に証明されたので、ヨーロッパ人には青天の霹靂だった。

 日本と中国の伝統的な詩は、自然対象が中心であるのに対し、ヨーロッパの詩は哲学的、思想的、神学的であることを紹介した。そういうところに、文化や科学の上でのヨーロッパと中国、そして日本の文化の違いが現れているという話しを南京でしてきた。

 中国と日本の文化には共通点も多いが、ちょっとした違いもあるので、そういうことを中国総合研究センターがちゃんと理解して、両方の文化、科学、技術を比較しながら協力していくことが非常に重要だと思う。

− 今年は地球環境に関するサミットが洞爺湖で開催されるということで、中国は重要なプレーヤーとして注目されています。もう一つは、今年は北京オリンピッ クが開催される年で、多分中国の年にもなると言われています。先生も長年中国の発展を見てこられました。中国が発展のモデルを探すとき、欧米そして日本も 含めて、過去に経験をしてきた国の中で、恐らくどれも全て答えを提示しているわけではないと思いますが、やはり中国独自で将来の発展のあり方、科学技術政 策のあり方ということを考えないといけないと思いますがいかがでしょうか。

 それは、日本型モデルがいろんな面で役に立つと思うよ。

  先ず、ブレーンドレーンということを考える時に、日本も1970年くらいまでブレーンドレーンだった。いまでも頭脳流出を騒いでいる人が居る。特にイン ターネット、情報関係者の中に、そういう人が多い。利根川進さんもブレーンドレーンの1人だ。今も帰ってくるように、理化学研究所が利根川さんに呼びかけ ている。要するにブレーンドレーンだった人が戻ってくる。大勢の人が戻ってくる。それが起るのが1970年から80年にかけてだ。中国は今ちょうどそれが 起っている。中国の中では、ノーベル賞クラスの人々、例えば、楊さんは戻っている。李さんはまだニューヨークにいるが、李・楊さんをはじめとして、ブレー ンドレーンで行った人のかなりの人が今戻りつつある。中国の経済が伸びたことはちょうど日本が1960年に伸びたことと同じである。60年くらいまで、ア メリカでもらった私なんかの給料は日本とくらべて30倍違っていたからね。大学紛争のときに、もう一回ブレーンドレーンでアメリカに行っていたが、その時 でも3倍給料が違っていた。そして、アメリカの方が研究しやすかった。その意味で70年まで、アメリカの方に魅力があった。ただ、70年の後半になると、 ややアメリカの経済が悪くなるが、その後90年になってアメリカの経済が回復するわけだ。ブレーンドレーンが戻ってくるためには、経済が強くないと駄目で あり、一方、経済や科学技術を強くするために、ブレーンドレーンを戻さなくてはならなくなるのだ。中国が今ちょうどその時期だ。これがひとつ。これは日本 の経験したことを教えなくても、中国は既に本能的に呼び戻しをやっている。

 もう一つは公害問題だ。率直に言って、公害の問題の解決は日本が一番成功している。一例を挙げると、1960年から70年にかけて、私はよく九州大学に 講演に行ったものだ。列車で関門トンネルを越えると、途端に煙がもうもうと汽車から見えた。67、68年頃は、北九州市の人は新日鉄などが活躍している重 工業を誇りに思っていた。それが70年代から80年代にかけて公害問題が現れてきた。公害問題が改善された理由の一つは、新日鉄がかなり部分を千葉の方に 移したことが挙げられるが、それ以上に北九州市が連続して市を綺麗にする、公害を除く努力した結果、北九州市本当に綺麗になった。というわけで、今でもモ デルの市として、いろんな国の人が北九州市を見に来ている。

  東京を見ても、1970年の空に比べると、空気がずいぶん綺麗になっている。昔、環状7号線の周りは喘息が多くて、「環7喘息」が大変なものだったが、こ れもかなり良くなった。日本は今でもいろいろな問題があるとは言うけれども、空気が綺麗になった。それは自動車、特にディーゼル車を制御した所為もあった が、特に褒めるべきことは日本の産業界が大変努力したということだ。電力会社が石油などを燃やす際に硫黄を殆ど取り除く努力をした。硫黄を取り除くことに よって、硫黄公害をなくした。中国はまだそれをやっていない。残念ながら、まだ窒素を取り除くということは難しいが、それでも日本は硫黄を取り除いたこと によって、昔のように夏になると、目が痛くなるなんてことがないだろう。これは産業界が努力したからだ。30年前頃ヘドロ公害というものがあった。製紙会 社はそれを見事に解決して、黒液は新エネルギーの優等生になっている。

 それから水俣病というのがあるが、これは産業界が速やかに対処して成功したとは決して言えないが、国が一所懸命対策を講じて、まだ理想的な対策ではなかっ たが、とにかく水俣病が止まった。それはもっと早く手を打つべきだったが、そういう苦い経験をしたことによって、水俣病をおかさないようになった。まだ、 起こし得る可能性がないわけではないが、もう水俣病がどこも起っていない。有機水銀が怖いということがみんな知っているわけだからね。イタイイタイ病も一 応おさまったね。あれは、全く知らない時に起ってきて、ビックリ仰天したわけで、ああいう経験を日本はした。それも、理想的な解決策ではなかったけれど も、ともかく新しい水俣病、新しいイタイイタイ病が発生するようなことはなくなった。

 私は、中国に或いはインドに、そういう事実をもっと積極的に知らせて、そういう経験の生んだ苦さを、我々はもっと率直に中国に言って、中国の公害問題を何 とか初めに止めた方がいい、結局はそれの方が得だということをいうべきだ。水俣病を例に取ると、水俣病がはっきり分ってから、日本窒素も、国も随分の賠償 金を出した。あれは、発生した直後にパッと止める努力をしていれば、遥かに安く済んだと思う。有機水銀によるものかどうか、はっきり分るまで、解決策を遅 らしたことがかえって損害を大きくした。だから、中国がそれを起こす前に手を打っとけば、同じお金であっても、公害も起らない、病人も出ない、なおかつ 起った時にも補償金が遥かに少なくて済むわけだ。ところが、今、中国のいろんな新聞がいろいろ報道しているのをみていると、私はこれは大変なことになるな という気がする。炭鉱、或いは重工業、その周辺の汚染。これは、産総研の吉川弘之さんたちが一所懸命努力して、中国科学院と協力しながら、その問題をいろ いろ議論している。報告を聞いていると、随分中国も率直にその問題を、科学院あたりは認識していて、何とかしないといかんと思っていると思う。それで、一 昨年だったかも、雲南省に行って、湖が汚れていたのを見せてもらった。こういうのは、もっと日本が協力して解決していくべきだと思っている。ですから、硫 黄公害を取り除く努力とか、空気汚染を取り除く努力、水俣病のような水汚染とか、そういう苦い経験を日本はいっぱい持っているから、そういうものを素直に お伝えして、インドや中国では二の舞を踏まないように言ってあげることはいいことではないか。これは、結局中国のためにもなるし、インドのためにもなるの みならず、広く人間社会のためになると思う。

 こういう技術、即ち地球環境問題に密着する技術をもっと協力して、日本の場合も未解決の問題があるから、それを一緒に解決していく。日本の場合でも、重大 問題はごみ処理をどうするか。みんな燃やしちゃうより、もっと理想的な解決策があるかも知れないね。これは、中国も、フィリッピンも、インドネシアも、イ ンドも、いろいろなところで、みんな共通に抱えている問題だよね。

 さらに、もっと積極的に、今われわれはどういう努力をしているか、それこそ、京都プロトコルでどういうことを考えているかというと、二酸化炭素を出さない ように、エネルギーをなるべく使わないようにしようとしている。その点で、ハイブリッドカーだとか、非常に日本が優れている。そういうノーハウを中国と協 力して開発すべきだと思う。或いは、こちらから教えるべきものを教えるべきだと思う。エネルギー消費をどうやって少なくしていくか、そういう努力をしてい るし、日常生活で、子供たちに対しても、国民に対しても、「もったいない」運動だとか、リデュース、リユース、リサイクルを言っているよね。これはこれで 十分やらなきゃならないし、先進諸国、特にアメリカ、ヨーロッパ、日本は全部やらなきゃならない。 ただ、それで中国に対して、当てはまるかというと、全く当てはまらないだろう。中国の人達は、1人あたりアメリカの8分の1、日本の4分の1くらいしかエ ネルギーを使ってないね。中国の人にしてみたら、日本人の半分くらいまで使いたいと、こう思うじゃない。現に自動車の数は今40人1台くらいになっている が、もうちょっとすると、日本人と同じように2人で1台、1家族で1台くらいになるじゃない。日本1億3000万人に対して、中国は13億人いるわけだ。 10倍の車になるわけだ。日本人が1人あたりのエネルギー消費、食糧消費を半分にしたって、中国の2倍の量を使っている。中国人が2倍になることは、もう 明々白々じゃないか。そうしたら、10倍消費するじゃないか。日本に比べて10倍ということは、要するに、先進国は、日本が1億、アメリカが2億、ヨー ロッパが2億、合わせて5億ぐらいだろう。それに周辺諸国を入れても、6、7億だよね。そこでいくら消費を押さえたって、中国1国が2倍にしたら、パー じゃない?そこへきて、インドのエネルギー消費量は1人あたり今の日本の8分の1だよね。インドも日本並みにといったら、日本人が今の半分の消費量にして も、4倍でしかも人口が8億だろう。そのうち、アフリカが言い出すよね、パキスタンも言う、インドネシアも言うであろう。

 そうなるとね、何を言いたいかというと、もったいないとか、3R運動をしようとする抑制主義だけでは駄目だということだ。結局はね、極端に言えば、どんどん エネルギーをお使いくださいと。食べるだけ食べなさいと。だけども、科学技術でもって、二酸化炭素を出さない、新しいエネルギー源を探そうではないか。そ して、二酸化炭素をどんどん吸収してしまおうと努力すべきだ。夢みたいだけどね、そこまで行かないまでも、ハイブリッドカーでもっとガソリンを使わない自 動車にしようよ、電気自動車にしようよ。二酸化炭素を出さないようにしようよ、安全な原子力にしようよ、核融合発電に成功しようよと。そういう積極論を一 方で展開していかなければ、人類が救えない。というのが私の説である。「もったいない」はもちろんやらなきゃならない。無駄は抑えなきゃいけない。先進諸 国は無駄遣いしないようにしなきゃならないけど、それをそのまま、同じ哲学を発展途上国の人達にすることは無理だよね。発展途上国の人達は、日本人が 「もったいない」運動をして節約した程度までは当然伸びてくるだろう、いくら抑えろと言ってもね。そういう時、何をすべきかというと、中国とか、インドと か、日本は協力して、先進諸国みんな協力して、単に消極論的な地球環境論ではなくて、サステーナブルデヴェロップメントということは、積極的に行かなきゃ ならない。二酸化炭素を制限する、エネルギー消費量を少なくする、そういう技術を発展させる。一方で、同時にあまり心配しないで、どうぞエネルギーをお使 いなさいよ、そのために、こういう新しいエネルギー源を作ったよと、核融合だとか、原子力だとか、或いは現在よりもっと効率のよい太陽の利用だとか、バイ オエネルギーとか。食糧も、もっとどんどん技術を進めていくことによって、今まで作れなかったところを畑にすることができるとか、農業には向かないような ところでも、上手く太陽熱でやれるとか、そういう技術を発展させる。或いは、アルコールなんかになるようなもの、お米だとか、高粱だとか、トウモロコシと か、砂糖きびとか、それはもう食べ物用に使いなさい。だけど、今まで食べ物で使えないような、砂糖きびだったら、砂糖を絞った後の黍のところを燃料にす る。いまは、言わば酒になるところを燃料にするから、高く付くし、飲む人は困るわけだよ。高粱とか、トウモロコシとか、みな燃料に使われてしまえば、動物 は困るわけだろう。それはやめよう。使ってはいけない。だけれども、今使えないような、捨てているようなものをなんかの方法で燃料化していく、エネルギー 化していく、そういう技術は当然人間が考えれば出てくると思う。石炭を液化することができるのだから、石炭の液化と同じように植物の液化ができないだろう か。そのために、高圧をかけてやるとかね、高圧高温でやるとかね。そういう意味で、私は、もっと科学と技術を徹底的に進めるべきだと思う。これは、日本人 だけじゃなくて、アメリカ人だけじゃなくて、ヨーロッパ人だけじゃなくて、中国人の知恵、インド人の知恵を集約してやる、中国には天才がたくさんいる。日 本の10倍いるよ。

− やはり、昨年末の渡海大臣の訪中の際に、核融合分野で研究協力に向けた日中の合同作業部会を設置することで中国側と合意されました。このことについて、先生はどう思われますでしょうか。

 結構なことだね。実は、私は、ITERを日本に持って来たかった。その理由は簡単なのだ。日本は随分科学技術が進んだよね。だけど、本当の意味での世界のセンターがまだない。小規模なものに、KEKだとか、理研だとか、地球シミュレータセンターとか、或いはスプリング8だとか、文部科学省の元に、幾つか世界一流のものがある。だけども、国際的に協力して建設し、どの国の人も平等に使える、ヨーロッパのセルンの ような国際機関が日本にあるかというと、ないよね。私は、極端に言えば、なにも核融合だけじゃなくていいと言っている。台風を制御する研究所でもいいの だ。日本に防災研があるよね、防災研をインターナショナルにすればいいのだ。KEKだって、本当の意味での世界センターになればいいと。所長は外国人に やってもらう、そのくらいのものをどこか日本に作りたかった。そのために、核融合はいいなと思った。残念ながら、フランスに行ってしまった。まあ、それで も、ブローダーアプローチで一つのセンターが六ヶ所にできたから、私は、喜んでいるけどね。だから、中国と日本が協力していく上でも、中国に世界の公害研 究所を作ったらいい。新エネルギー研究所を作ったらいいと思う。それが大きな儲けになると、また国益の問題に絡んでくるが、基礎的な部分、例えばごみ公害 をどうやったら防げるかというようなことを、徹底的に研究するセンターを北九州でもいいし、上海でもいいから、作ったらいいのではないか。そういう協力を 日本と中国がすべきだと思う。日本と中国の英知を集めたら、必ずや世界のセンターを作れると思う。それが世界センターにできれば一番いいし、できないまで も、二国間で本当に協力をしてやっていけば、日本人の英知と中国人の英知を重ねれば、必ずや素晴らしいものが出てくると思う。

 その意味で、私は、中国総合研究センターの役割は大きいと思うよ。そういうノーハウをお互いに結びつける。産業界と研究者を結びつけるだけではなくて、中 国の産業界と日本の研究者、日本の産業界と中国の研究者を結びつける。国益があるから、儲けに関係するところは難しいけども、基本的なところは、国を越え て研究できると思う。

− 数年前、第1回物理チャレンジを岡山で開催した時に、有馬 先生に講演に来ていただきまして、子供たちに凄く刺激になりました。もう一つ、同じ岡山県で光量子科学研究所が立ち上げられた際も、次世代の人材を輩出す るということが大きなテーマのひとつでした。日本の次の科学を担っていく次世代の子供たちに大きな差が出てきています。アジアの次世代の研究者といつも接 していらっしゃる先生のご意見をうかがわせてください。

 一番根本的なネックは言葉だ。残念ながら、中国語もまだインターナ ショナルランゲージになっていない、日本語もインターナショナルランゲージではない。ひと昔前は、1980年代、90年代初めは、日本の経済力が非常に強 かったので、その頃は、中国人が喜んで日本語を勉強した。残念のことに、今の日本の経済力では、国力では、中国の人に日本語を勉強しろって無理だ。勿論現 在もやっている人々がいる。決して人気がないわけじゃないけども。それよりは英語の勉強ということ、そしてアメリカに行こうという気持ちの方が強い。これ は何も中国だけでなくて、インドはもちろんはじめからそうだが、シンガポールにしたって、フィリッピンにしたって、インドネシアにしても、タイランドにし てもそうだ。そこの問題があるね。じゃあ、逆に日本人が中国語をもっとどんどん勉強して、中国語でぺらぺらやれるか、とても無理だよね。ところで、中国の 方は、小学校から英語の勉強をしている。だから、夏の学校なんかでも、英語でどんどんやってかまわない。ブロークンイングリッシュで結構ちゃんと聞いてい る。さて、合弁研究所みたいなものをやっていく、一緒にサマースクールや研究会をやっていこうとなる時、どうしても英語を媒体としてやるよりしようがな い。今のネックは、そこで日本の小学校、中学校、高等学校、大学生ですら、中国の人と一緒にやろうと思っても、言葉でひっかかってしまう。だから、せめて 大学生くらいになったら、英語でもって国際協力やワークショップをやれるくらいまでにもっていかなきゃいけない。さすがに、大学院の学生、特に理系は、昔 に比べて、遥かに上手くなった。あれをもうちょっと強くして、高等学校くらいまでそこの線を延ばしたい。タイランドは英語が上手い、シンガポールはぺらぺ らだ。中国も相当上手くなった。韓国も良くなっているね。小学校からやっているからね。だが、日本人の英語をよくしなきゃならない。何故日本では小学校か ら英語教育がやれないのだろう。中学校までとは言わないけど、せめて高等学校になった時は、相当英語で国際的に一緒にやれるまでに持っていかないといけな いと思う。私が見ていて、できると思う。私が勤めいている武蔵学園の高校生たちを3−4週間外国に出している。彼らの報告を読むと、凄いよ。中国にいった ら、中国語、韓国に行くと韓国語、皆第2外国語で勉強したものが行くわけだ。イギリスに行った生徒たちとか、フランスに行った生徒たちは立派なレポートを 英語で書いていたし、フランス語で書いていた。武蔵学園は相当優秀な学校だと思うが、それでもね、志のある子供たちだったら、高等学校くらいに行ったら、 そのくらいできると思うね。中国人だって、みんな英語が上手いわけではないよ。やはりある種の志のある人だけだ。だから、何とかして言葉のバリアーを越え て、今は英語を使わざるをえないから。英語でもって1月くらいのインタナショナルサマースクールを実行するとか、そういうところで双方が一緒にやるという ことは非常にいいことだ。中国人の今の熱烈たる意欲、貪欲さを日本人が学ばなきゃいけない。極端に言えば、儲けようという気持、勉強しようという気持、そ ういう直向きな気持、貪欲なまでの気持を、日本人がもたなきゃいけない。1960年、70年前後には、日本人に、我々がその仲間に入るけど、そういう気持 があったと思う。それが今失われている。残念なことに。それは、日本が随分豊かになったからであろう。でもね、中学生の夏の学校に参加してくる生徒諸君 や、物理オリンピックとか、生物オリンピックなどオリンピックに参加する数少ない生徒たちはやはり大変な意欲があって頼もしい。そういう機会をもう少し規 模を拡大していくとよい。JSTでもやっているが、そういう機関でもっとやって欲しい。サイエンスキャンプとか、科学の祭典とか、ああいうものにも日本人 だけでなく、もっと積極的に外国人が来たり、こちらから同じような企画があれば、日本の生徒ももっと積極的に外国に行ったりすることができればいい。その 時、韓国の人だとか、中国の人達も来てくれるが、やはり言葉の問題で、必ず誰か通訳がいたりする。だから、基本的に英語でもって勉強ができる、授業を受け たりすることができる、発言ができる、そこまで持っていく必要がある。中国は多分もうすでにできつつある。日本がそこまでいくということが必要だろう。そ ういう意欲のある人たちを集めて、夏の学校でもやっていく、こんなことをJSTあたりがやってくれると有難い。これは、科学だけでない、技術だけではな い。もっと広く行うべきである。去年夏の学校に台湾から学生4人を呼んだ。幸い日本語ができるわけだ。今年やる時に、中国から呼ぼうと思っている。残念な がら日本側の生徒が英語ではまだだめだから、日本語ができる学生だといいけどね。でもこの頃、サマースクールの一部を英語でやろうって話しまでやってい る。そろそろそういう時代がきた。英語でやるサマースクールを日本でオーガナイズする必要が出てきたね。中国の方が早く国際化していくのではないか。

インタビューを終えて

 インタビューの最後に有馬先生は笑い話をしようと、次のエピソードを披露してくださいました。

 10年前に、台湾で物理学の国際会議があって、喜んで行った。講演する前にスピーカーが集まるところに行ったら、アメリカ人が1人と私が1人を除いて、そ こにいたのは全部中国人なんだよ。それで、講演会場に行って、どうして中国人ばかりかと聞いたら、よく見てみろといわれ、見ると、「インターナショナル  コンファレンス オン フィジックス バイ オーバーシーズ チャイニーズ」と書いてあった。中国から来る、台湾もちろん、アメリカからくる、ヨーロッパ からくる、ロシアからくる、全部英語でやる。

  終わってから、昼食をとろうとしたら、隣に来たのがチューという男だ。よくできる若い人、30歳くらいでね。
「貴兄、こんなに凄い仕事、何でやったんだ。いったいどこで生まれたの」と聞いた。その日初めて会ったから。 
「いやー、アメリカで生まれました」 
「あ、そうか、2世か」 
「2世です」

 数年たったら、その人がノーベル賞をとった。あーっ、「あの男だよ。よくできる人だと思った通りだった」と独り言を言った。

 だから、中国が伸びるよ、先に英語化するよ、と思った。この話もそういう意味で言っている。オーバーシーズチャイニーズを全部呼んでご覧なさいよ。それだ けで物理学の国際会議ができちまう。だから、日本もそのくらいのファイトをもたなきゃね。通訳を入れてやるのもいいけれども、ブロークンイングリッシュで いいから、お互い英語でやるんだね。それで英語でサマースクールをやる。環境の問題をやるとかね。そういうことからはじめて、それも教育に及ぼしていった ら、有難いね。JSTに期待しているよ。

有馬 朗人

有馬 朗人(ありま あきと) :
(財)日本科学技術振興財団会長・JST中国総合研究センターアドバイザリー委員会委員長

略歴

東京大学理学部物理学科卒業、理学博士。
東京大学総長、文部大臣兼科学技術庁長官を経て、現在(財)日本科学技術振興財団会長、科学技術館長、武蔵学園長、JST中国総合研究センターアドバイザリー委員会委員長。
仁科記念賞、フランクリン・インスティテュート・ウェザリル・メダル(米国)、アメリカ物理学会ボナー賞、日本学士院賞、レジヨン・ドヌール勲章・オフィシエ(仏国)、名 誉大英勲章、文化功労者、旭日大綬章等受賞。


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