【13-11】中国の日本語学習者増加 韓国は減少―国際交流基金調査(暫定値)で判明

2013年 8月27日 小岩井忠道(中国総合研究交流センター)

 日本語を学習している中国人はこの3年間で26.5%増加したことが、国際交流基金の調査で明らかになった。インドネシアも21.8%増えている。一方、3年前には最も学習者が多かった韓国は12.8%減少し、人数も中国、インドネシアに次ぐ3位に後退した。こうした違いを生んだ理由としてどのようなことが考えられるのか? 詳しい調査結果も併せ、同基金日本語事業グループ日本語教育支援部の大野徹次長、大久保和正主任、縄田佳子さんに聞いた。

図1

 ―この調査は、どのような目的でいつから始まったのでしょうか。

 かつては、日本語は日本研究のツールと位置づけられており、日本の文学や歴史に関する研究をする人が、文献を読むなどの研究目的で学ぶもの、という側面が強い時代がありました。国際交流基金も当初は、日本研究を支援する事業を担う日本研究部の中に日本語課という担当部署を置いて、日本語教育を支援していたのです。

 しかし、その後、日本語は単に日本研究者を目指す専門家だけでなく、一般の人々もまた学びたいと思うような言葉になりました。日本とのビジネスのために必要、日本の企業に勤めたい、といった動機や、日本の文化に興味がある、日本に観光で行ってみたい、といった人たちです。現在では国際交流基金でも、文化芸術交流、日本研究・知的交流と並んで、日本語教育を一つの独立した柱に据えています。

 基金の設立は1972年で、日中国交正常化など対外的に大きな変化のあった年です。調査は74年から始め、当初2年あるいは5年ごとでしたが、2003年から3年ごとに実施することになっています。学習者数は調査のたびに増え、現行の調査結果と比較可能な形で調査が初めて実施された1979年から数えると、この33年で31.3倍になりました。これは一つには日本の経済力の高まりに応じた結果でもあり、また近年の日本の文化に対して世界的にも関心が高まっているためではないか、と考えております。

図2

 ―今回の調査結果は、これまでに比べてどのような特徴がありますか。

 今回の調査は昨年7月から今年3月にかけて行いました。対象は、全世界203カ国・地域で日本語教育を実施している機関と、日本国内で海外の公的機関が主体となって日本語教育を実施している機関です。今回、発表した数字はいずれも今後10月に予定している報告書発行までの暫定値ですが、学習者の総数は、136カ国・地域で約398万人に達し、3年前の調査結果に比べ9.1%増えました。教師の数も約50,000人から約64,000人、教育機関も約15,000から約16,000に増えています。

 学習者数が一番多かったのは中国で、約105万人。3年前の約83万人に比べ26.5%の増加です。教師の数も約15,600人から約16,800人に、機関数も1,708から1,800に増えました。大学・大学院で学ぶ学生が最も多く約679,000人で、高校生が約89,000人、小学生が約3,000人、加えて学校教育以外の学習者が約275,000人となっています。大学生・大学院生を主に着実に伸びていることが分かります。

図3

 ―中国国内の地域的な差というものは読み取れるのでしょうか。

 北京と北京周辺の沿岸省・都市である山東省、天津市の増加が顕著です。山東省は3年間で約59,000人と136%も増えていますし、北京市も約43,000人、天津市も約40,000人と山東省に次ぐ増加です。これら3つの省市は、大学生・大学院生の学習者の増加が多いという共通の現象があります。内陸部では成都を省都に持つ四川省の増加が目立ちます。

 一方、上海のように学習者が約36,000人(約41%)減少しているところもあります。全体としてみると、増えているところはすごい勢いで増えており、微増あるいは減少した地域は、上海を除くと調査上のぶれの範囲にあるかもしれないというところでしょうか。

 ―中国全体の伸び率が、全世界の調査対象国・地域の平均値である9,1%をはるかに上回る26.5%だったことに、意外な感じを持った日本人も多いのではないかと想像します。最近の日中関係などから見て…。どのような理由が考えられますか。

 確かに、そういった印象を持たれる向きもあると思います。実際、この調査は、昨年2012年10月の時点での日本語学習者の状況を調査したものなので、その後の日中関係の推移が、どのような影響を与えたか、また、今後の日本語学習者の動向にどのような影響を与えるかまでは、予測できるものではありません。中国においても今後、学習される第2外国語が多様化するかもしれませんし、これからも日本語を学ぶ人が増え続けるかは予断を許さないと思われます。

 それはともかくとして、もともと中国では外国語として日本語を第一に選ぶ大学生・大学院生が多い、という特別の状況はありました。10年ほど前に大学に第2外国語教育が導入され、そのころから英語を第1外国語、日本語を第2外国語として履修する学生が増えてきた、と考えられます。そして、ここにきて中国における大学生の数は、2003年に約1,500万人だったのが2011年には約3,100万人と急増しました。増加した大学生がみな日本語を学ぶようになっているというわけではありませんが、大学生が明らかに増えている分、日本語の学習者もそれによって確実に増えたと考えられます。

図4

 調査では「学習目的」も調べています。個々の調査対象者ではなく日本語教育機関に答えてもらったので大まかな傾向しか分かりませんが、上位に「アニメ・マンガ」(63.6%)、「将来の就職」(58.1%)、「言語そのものへの興味」(57.2%)が並んでいます。中国以外の国・地域も含めた全体の結果で一番だったのは「言語そのものへの興味」で60%を超しています。「将来の就職」は40%をわずか超える程度しかありません。「アニメ・マンガ」は、全体でも50数%と上位にありますが、60%を超す中国ほどではありません。

 これらの数字から言えるのは、中国における日本語の学習動機は現実にはきわめて多様だということです。政治的な関係がどうであれ、ビジネスで日本語を使えたら有利ではないかと考えて学ぶ人もいれば、アニメやマンガを見て勉強したいと考える人もいるということでしょう。両国の政治的な関係だけで説明できないのでは、ということです。ことに、文化的な関心というのは学習動機の上で重要な位置を占めるものですから、国際交流基金もアニメやマンガなどポップカルチャーをテーマにした事業や、日本の名匠の映画を紹介するなどの文化芸術交流にも力を入れているというわけです。

 ―前回調査で、国別で一番、学習者が多かった韓国が12.8%も減って第3位に落ちてしまっています。この結果についてはどのような理由が考えられるでしょうか。

 韓国はつい最近まで高校教育で第2外国語が必須でした。第1外国語は英語、しかし第2外国語は日本語という高校生が多かったのです。ところが、教育課程が変わり昨年から第2外国語は選択科目、それも「生活・教養」科目の一部になってしまいました。「技術・家庭」、「漢文」、「教養」などと一緒の選択科目になってしまったのです。7つの外国語の中では日本語が一番、学ばれていたのですが、選択科目の中の選択科目になってしまった結果、第2外国語以外の科目を選択するケースが増え、日本語を学ぶ高校生が減ってしまったのです。

 ―中国を含め他の国の日本語教育の見通しはいかがでしょう。

 東南アジアで中等教育(高校)に日本語教育を導入してくれるところが出てきています。その効果は、今回の調査結果にも表れています。10万人単位で増えますから、その影響は大きいですね。

 中国に関しては、高校で第2外国語を選択科目にしているところは79校しかありません。先ほど申しましたように、高校教育レベルでは、韓国の今の状況とは大きく異なるということです。中国においても英語教育重視は変わりようがないでしょう。ただし、高校で第2外国語を選択科目にしてくれるようになると、日本語を学んでくれる人はさらに増えると期待できるのですが…。

国際交流基金プレスリリース「2012年 海外日本語教育機関調査 速報値



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