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【15-18】華人教授会議が「21世紀における中国のイノベーションと中国経済の行方」をテーマにシンポジウムを開催

2015年10月13日 中国総合研究交流センター編集部

 日本で活躍する中国人の大学教員、研究者で創る日本華人教授会議は10月12日、東京大学本郷キャンパスにある山上会館で、「21世紀における中国のイノベーションと中国経済の行方」をテーマに、国際シンポジウムを開催した。日本華人教授会議は日本の60大学・研究機関に所属する100人を越える研究者を会員として擁する。

 まず第三代代表である李春利愛知大学教授が開催を宣言したあと、元東大総長でJST特別顧問、AIST最高顧問の吉川弘之氏が「基礎研究とイノベーション」をテーマに基調講演を行った。この中で吉川氏は、目指すべき国の姿として「将来にわたり持続的な成長を遂げる国」をあげ、持続的な成長を遂げるための基本的なループを示した。その上で科学者は「社会的な期待を把握し、多くの行動者(アクター)と協力して、持続的進化のためのループに加わらなければならない」と強調した。また新しい発見や発明が、現実に市場で受け入れられるためには15年以上の時間がかかることから、その間の「悪夢」や「忘却」を超えて、イノベーションを生み出すための「本格研究」への道を確立しなければならないと強調した。

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写真1 基調講演を行う吉川JST特別顧問

 経済セッションは「21世紀における中国のイノベーションと"世界の工場"の過去と現実」をテーマに、中国でのイノベーションの概念の変遷について講演と討論が行われた。まず東京大学教授の丸川和雄氏は「何のためのイノベーションなのか?」との問いかけから、中国が進めている「中国制造2025」について、「国民の福祉向上という視点に欠けている」と批判した。その上で中国での「大衆資本主義と草の根イノベーション」について触れ、ドローンや格安携帯、それにウェアラブルの分野で独自のイノベーションが生まれつつあると、具体例をあげて紹介した。

 一方、北京大学教授の周建波氏は「経済史の視点から見た中国の工業化と産業高度化の諸課題」をテーマに、中国のイノベーションをめぐる歴史的な意義を明らかにした。またドイツの「インダストリー4.0」と「中国制造2025」の類似性について指摘した上で、中国は2025年までに「世界工業強国」、2035年までに「全面工業化」、建国100年にあたる2049年までに世界をリードする技術体系と産業体系を確立するとの目標を明確にした。

 討論では同志社大学教授の厳善平氏、富士通総研主席研究員の金堅敏氏、富山大学教授の馬駿氏らが、もうひとつの中国の国策である「インターネット+」との関係などについて論じた。

 第二部は「21世紀における理工系教育の新しい課題~イノベーション創出型教育、知的製造への挑戦」とのテーマで講演とパネルディスカッションが行われた。重慶交通大学副学長の易志堅氏は「イノベーション能力の育成および"インターネット+"に向けた挑戦と対策」をテーマに、重慶交通大学で行われているイノベーション教育について、世界観の確立、多様なモデル、理論と実践、管理強化、リベラルアーツのカリキュラム改革などについて紹介した。パネルディスカッションでは埼玉工業大学副学長の巨東英氏、早稲田大学教授の金群氏、東北大学教授の陳迎氏、東京大学准教授の陳昱氏が討論を行った。

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写真2 会場

 中国では今年3月の政府活動報告で李克強首相が、「大衆による起業と万人によるイノベーション」を提唱した。まもなく開かれる中央委員会総会では2016年に始まる第3次5カ年計画が発表される予定で、科学技術や産業分野で改めてイノベーションの重要性が強調されると見られている。