【16-09】急速にバリアフリー化進める中国 北京五輪がばねに

2016年 5月13日 小岩井忠道(中国総合研究交流センター)

 中国で道路や建物のバリアフリー化が急速に進んでいることが、4月19日、東京で行われたセミナーで中国の研究者から詳しく明らかにされた。

 「日本福祉のまちづくり学会」主催の特別セミナー「中国と日本のバリアフリー・ユニバーサルデザイン環境を学ぶ」で中国の実情を紹介したのは、北京理工大学設計芸術学院の宮暁東副教授。北京の地下鉄のバリアフリー規範のほか、昨年できた居住空間のバリアフリーに関する規範の作成にも関わっている。国際交流基金の研究者交流プログラムにより日本に招かれ、3カ月間、東洋大学の高橋儀平ライフデザイン学部教授の研究室で研究生活を送った。

写真1 宮暁東 北京理工大学副教授(国際交流基金提供)

 宮氏によると、障害者、高齢者たちが生活しやすいような街づくりを進めるバリアフリー・ユニバーサルデザインに中国が本格的に取り組み始めたのは、北京五輪・パラリンピック招致が決まった2001年から。7年後、08年の開催に向けて、まず「都市道路および建築物のバリアフリー規範」の修正がなされた。この規範が1988年につくられたきっかけは、その4年前に身体障害者、視覚・聴覚障害者から成る中国身体障害者連合会という組織ができたことによる。鄧樸方 初代理事長は鄧小平の子息で、連合会の発言力は大きかった。連合会は発足直後の翌年(85年)、「北京にバリアフリーデザインを取り入れ、障害者が生活しやすくしよう」と呼び掛け、北京市内に四つのモデル地区を建設するプロジェクトがスタートする。その3年後に作られたのが「都市道路および建築物のバリアフリー規範」だった。

 さらにその翌年89年には、障害者保障法が制定、公布されている。その後2000年までに一部の施設、地域ではバリアフリー化が進んだ。しかし、全面的ではなく人々の関心も一部にとどまっていた。ターニングポイントが、2001年の北京五輪・パラリンピック招致決定。この後の動きは速い。1年後には北京にとどまらず全国12の都市にバリアフリーモデルプロジェクトがスタートした。競技場のトイレや洗面台を低い位置に設け、車いすの観戦席を用意するなど会場内にとどまらず病院、ショッピングセンター、道路、駐車場にもバリアフリーが広がった。五輪・パラリンピック開催までに古い地下鉄路線でも70の駅全てで、少なくとも一つの出口は車いすでも通行できるよう改修された。01年以降に造られた地下鉄4路線は、全てのプラットホームにエスカレーターかエレベーターが少なくとも一つ設置されている。「万里の長城」や北京「故宮」など観光スポットにもバリアフリー対応策が施された。

写真2 特別セミナー会場風景(国際交流基金提供)

 法的な手当てはどうか。北京市は04年に全国ではじめて「バリアフリー建設および管理条例」を制定し、全ての新規建築施設にバリアフリー設備を義務付けた。これが12年には全国全ての新規建築物に義務付ける「中国バリアフリー環境条例2012」につながる。もともと建設業者への整備ガイドラインでしかなかった「都市道路および建築物のバリアフリー規範」も、12年に国家基準に格上げされた。「全国でバリアフリー施設の拡大を図れ」という中央政府の指示も、13年に出ている。

 こうした取り組みを紹介した中で宮氏が強調したのは、バリアフリー・ユニバーサルデザインが高齢化対策上も急がれているという中国の実情だ。「20年末時点で中国国内の障害者は8,500万人。新たに増える障害者の75%は60歳以上の高齢者」という統計を紹介したうえで、急速な高齢化への対応としてもバリアフリー・ユニバーサルデザインが中国にとって大きな課題になっていることを明らかにした。「高齢化の流れは一人っ子政策の緩和によっても変えることは困難」と氏は言っている。

 一方、障害者の一定の力もあったとはいえ、バリアフリー化はトップダウンで進められてきた。こうした中国の実情を認め、バリアフリー・ユニバーサルデザインに対する理解が多くの人々に行き渡っていない現状も、宮氏は明らかにしている。具体的には個々の施設のバリアフリー化は進んでも、施設と施設をつなぐバリアフリールートがない。今後いかに系統的にバリアフリー化を図り、その効果を市民の多くに実感してもらうかが、求められている。そのために必要なのは教育。今回、日本で研究生活を送ったことで、日本では小学校からバリアフリーについて教えていることを知った。日本の経験に学ぶところはある。この分野で日中の交流が豊かになるのを希望している…と宮氏は講演を結んだ。

写真3 高橋儀平 東洋大学教授(国際交流基金提供)

 宮氏に続き高橋儀平東洋大学教授は、中国と日本の取り組みの違いについて詳しく解説し、スタートは日本より遅れたものの、中国のバリアフリー技術は日本とほとんど変わらない、と評価した。それぞれの区域の特徴を生かした対応では、日本より北京の方が進んでいる面もあるとしている。同時に、地区コミュニティの役割の重要性を指摘し、今後、中国が既存の都市施設や道路の改善を進めるに当たっては、バリアフリー法に基づいて日本の各市町村で作成が進む「バリアフリー基本構想」が参考になる、と語った。

関連リンク:日本福祉のまちづくり学会・特別セミナー
中国と日本のバリアフリー・ユニバーサルデザイン環境を学ぶ


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