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【16-21】2千人超す中国の医療人材育成 日中笹川医学奨学金制度30周年記念式典開く

2016年10月18日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)

 中国から2,000人を超す研究者を受け入れ、中国の医療分野の人材育成に貢献してきた日中笹川医学奨学金制度の30周年を祝う式典が14日、東京都内で開かれた。式典には、日本で研究生活を送った後、中国で活躍中の元奨学生約300人を含む400人近い参加者が集まり、日中医学協力と日中友好の意義を確認しあった。

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写真1 記念式典・記念講演の様子

 日中笹川医学奨学金制度は、文化大革命の影響で崩壊状態になった中国の医療を再建支援することを目指し、1986年に創立された。以来、現在までに日本の大学や研究機関で1年間、医療を学び、研究する機会を得た中国人研究者は延べ2,226人に上る。欧米を留学先とした人たちと異なり、中国に帰国し、中国の医療分野で活躍している人が多いのが、この奨学金制度の大きな特徴。日本で研究生活を送った奨学生のネットワークを生かした中国国内での人材育成事業にも大きく貢献している。

 記念式典では、制度創立の中心となった日本財団を代表して笹川陽平会長が「来日された皆さんが懸命に勉強し、日本社会を知るために努力されたことをよく覚えている。国民同士がしっかり理解しあい、両国の関係をより健全にすることが大事。これからも両国の架け橋になってほしい」と元奨学生たちに呼びかけた。

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写真2 笹川陽平 日本財団会長

 この制度の中国側の実施機関である中国国家衛生・計画生育委員会の馬暁偉副主任は、「帰国した奨学生たちが医療の担い手となり、医療分野の人材育成と両国の学術・医療協力に果たした役割は大きい」と制度を高く評価し、「今後も大きなルートと位置づけ、大切にしたい」と決意を示した。

 また、来賓として招かれた程永華駐日中国大使も「この制度は、地に着いた重要な中日医学協力事業として、重要な橋渡し役を果たした。今後、さらなる発展を願う」と祝辞を述べた。

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写真3 程永華 駐日中国大使

 日本財団に制度創設を呼びかけ、発足後も中心的役割を担ってきた日中医学協会の小川秀興理事長は、基調講演の中で30年の歩みを振り返るとともに、新しい時代にふさわしい制度に発展させる構想を披歴した。新しい取り組みとして明らかにされたのは、共同研究型と学位取得型への奨学金制度再構築。共同研究型は、原則50歳以下の正教授(研究員)を対象とし、毎年20人前後に対して、半年間、日本を代表する研究者との共同研究を支援する。学位取得型の対象者は、若い教授候補者。約10人に対して、2年間、滞日し、帰国後3年以内に博士号を取得するのを支援する、という。

 小川氏によると、日中医学協会に対する日本財団からの助成金は、30年間で約100億円に上る。このうち奨学金制度への助成が約84億円を占める。特に優秀とみなされた研究者には、再来日の機会が与えられるのもこの制度の特徴だ。これまで招聘(しょうへい)された延べ2,226人のうち256人が、特別研究者として再度、招聘され、日本で研究生活を送っている。日本財団によると、帰国後、日本の学士院会員に相当する中国科学院院士に選ばれた2人をはじめとして、学長、病院長、教授などの要職に就いている研究者が多数いる。

 中国側を代表して基調講演した趙群中国医科大学教授(元奨学生、笹川医学奨学金進修生同学会理事長)も、小川氏が示した将来構想に賛同したのに加え、日中専門家によるフォーラム開催、さまざまな形式の学術交流会開催、末端医療従事者研修の実施という将来展望も示した。

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写真4 岡野栄之 慶應義塾大学医学部長

 式典に先立って記念講演会が行われ、中国科学院院士で四川大学副学長でもある元奨学生の魏于全氏と、岡野栄之慶應義塾大学医学部長がそれぞれ自身の研究内容を紹介する基調講演を行った。岡野氏は、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた臨床研究で世界をリードする研究者として知られる。多くの人が関心を持つ再生医療に加え、iPS細胞が、先制医療分野でも大きな可能性を持つことを講演の中で詳しく紹介した。先制医療というのは、症状がない段階で、将来、発病する可能性の高い病気を見つけ、発病を防ぐか、発病時期を遅らせる医療を指す。

 岡野氏は、高齢社会を迎え、日本をはじめとする世界各国でますます深刻になっているアルツハイマー病を例に、iPS細胞により発病時期を遅らせる先制医療の意義と可能性について分かりやすく説明した。魏、岡野両氏に対し、会場から数多くの質問が飛んだ。特に岡野氏にはiPS細胞の臨床応用の見通しについて質問が相次ぎ、iPS細胞と再生医療や先制医療に対する関心の高さを示していた。