【16-32】中国の研究能力向上は本物か

2016年12月19日  中国総合研究交流センター編集部

 論文統計のデータから、中国の急伸、日本の停滞が示されることについては、先日も紹介した。中国の急伸が明らかになった当初は、伸びているのは数だけで質についてはまだまだ、といった指摘も見られた。論文の質・内容については、議論・比較が難しいため、論文の被引用回数が代替指標として用いられることが多い。この被引用回数についてのデータにおいても、近年、中国はその存在感を増している。

 科学の成果について各国比較を行う場合、本来、インパクトの高い成果がどれだけ生み出されたかで競うべきであり、その割合を問う意味は小さい。野球に例えれば、打率ではなくホームラン、それも場外ホームランを競うべき性格のものである。それでも、全論文に占めるトップ10%補正論文数の割合を見た場合、中国では10%であり、日本は8%というデータ(2012年)は、インパクトがある。中国のトップ10%は世界のトップ10%に相当し、日本はトップ8%に位置しなければ、世界のトップ10%にならないからだ。

図表1 主要国の論文数に占めるTop10%補正論文数の度合

写真

(注1)Article, Review を分析対象とし、整数カウントにより分析

(注2)Top10%補正論文数とは、被引用回数が各年各分野で上位10%に入る論文の抽出後、実数で論文数の1/10 となるように補正を加えた論文数を指す。詳細は、本編2-2 (7) Top10%補正論文数の計算方法を参照のこと。

(注3)各年の値は、3 年累積値を用いている。例えば、2012 年値は、2011~2013 年のTop10%補正論文数を2011~2013 年の論文数で除した値である。被引用数は2014 年12 月末時点である。

トムソン・ロイター Web of Science XML (SCIE, 2014 年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計

科学技術・学術政策研究所 調査資料-239
「科学研究のベンチマーキング2015論文分―析でみる世界の研究活動の変化と日本の状況―」
http://data.nistep.go.jp/dspace/bitstream/11035/3072/7/NISTEP-RM239-FullJ.pdf -図表68

 それでもなお中国の論文については、その被引用度の高さの質を疑問視する声もある。中国語でのジャーナルの発表が多く、自国内の引用が多いという理由からだ。

 科学技術・学術政策研究所の調査資料-254「ジャーナルに注目した主要国の論文発表の特徴―オープンアクセス、出版国、使用言語の分析―」に興味深いデータが紹介されている。この報告書は、オープンサイエンスにおいて重要なオープンアクセスのジャーナルの論文の特徴、主要国の論文発表の特徴を分析したものだ。前述の中国の論文に対して被引用度の高さの質を疑問視する観点から、データを拾い出してみる。

 全論文について見た場合、中国の自国ジャーナルの論文数や中国語論文の比率は大きい。しかし、トップ10%論文について見た場合、その多くは、著名ジャーナル掲載の論文となるためか、自国ジャーナルや中国語論文が占める割合は議論の対象にならなくなる。自国論文での引用回数についてはどうだろうか。

図表2 ジャーナル区分別、各国の論文数とその割合(Top10%論文、2010-12 年平均値

写真 写真

(注1)Elsevier Scopus Custom Data (2015 年2 月19 日抽出)を使用し、論文数を整数カウント法により集計した。

(注2)年は論文の出版年を使用している。雑誌の種類はJournal、論文の種類はArticle、Conference Paper、Review である。

(注3)Scopus の27 分野のいずれかでTop10%論文であれば集計対象となるため、
全論文に占めるTop10%論文の割合は必ずしも10%とはならない。

(参照:参考資料1)図表4 ジャーナル区分別、Top10%論文での各国の2 期間における論文数平均値とその割合

科学技術・学術政策研究所 調査資料-254
「ジャーナルに注目した主要国の論文発表の特徴―オープンアクセス、出版国、使用言語の分析―」
http://data.nistep.go.jp/dspace/bitstream/11035/3150/7/NISTEP_RM254_FullJ.pdf -図表22

 ジャーナルに注目した主要国の論文発表の特徴―オープンアクセス、出版国、使用言語の分析―」の図表22の(C)を見れば分かるように、著名ジャーナルの多い米国、英国を除けば、各国ともトップ10%論文は、圧倒的に非オープンアクセスの他国ジャーナルに掲載されているものが多い。中国は、全論文においても、トップ10%論文においても、自国引用が多いということは言えるようである(同報告書図表37、38)。自国引用が多いので、中国のトップ10%論文には問題があるというべきだろうか。

 そもそも本稿で展開した、自国ジャーナルや中国語で書かれていること、自国内での引用をアンフェアであるかのように気にする問題意識自身が、研究の内容ではなく、被引用回数の多少をゲームの点数のように競う問題意識にゆがめられていると言えないだろうか。ハイインパクトな研究成果の比較という観点に立ち戻れば、より適切な方法はトップジャーナル誌における論文の状況について比較することだろう。

 インパクトファクターの高い50誌のうちから22分野の上位3誌計23誌について分析したデータがある。科学技術・学術政策研究所 調査資料-239 「科学研究のベンチマーキング2015-論文分析でみる世界の研究活動の変化と日本の状況―」の図表62~67、参考資料3に詳しい。これを見ると中国は、さすがに世界2位とはいかないが、多くの雑誌において順位が日本と前後するよい競合相手の位置にいる。

図表3 特定ジャーナル分析対象23 誌リスト

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(注1)Article, Review を分析対象とし、整数カウントにより分析

(注2)Top10%補正論文数とは、被引用回数が各年各分野で上位10%に入る論文の抽出後、実数で論文数の1/10 となるように補正を加えた論文数を指す。詳細は、本編2-2 (7) Top10%補正論文数の計算方法を参照のこと。

トムソン・ロイター Web of Science XML (SCIE, 2014 年末バージョン)を基に、科学技術・学術政策研究所が集計

科学技術・学術政策研究所 調査資料-239
科学研究のベンチマーキング2015―論文分析でみる世界の研究活動の変化と日本の状況― 図表62

 また、中国の中国科学技術信息研究所(中国科学技術情報研究所)が2016年10月に発表したところによれば、トップジャーナルにおける中国の伸びも目覚ましいものがある。177学科のインパクトファクターの高いジャーナル152誌について、2015年に発表された中国の論文は8,286編。2014年に比べて2,781編増加し、世界の15.2%を占める。19,188編で35.2%を占める米国に次ぎ、世界第2位だ。

 各分野のトップジャーナルにおける掲載論文数が、5,505編から8,286編へと急増している。1年間で50.5%増えた、ということだ。

 論文統計に見られる中国の研究力の向上に関し、疑問視する声もあると思うが、これらのデータを見る限り、決して過小評価すべきではないことが分かるだろう。広範な分野においてトップレベルの論文産出能力において日本と同等、あるいはそれ以上の国がすぐそばにあるわけだ。しかも、この国は研究者数、研究費においても日本をしのぐ増加傾向にある。

 両国の研究協力の強化を論じる際に、日本にとってのメリットを疑問視する声が上がることがあるが、そのような疑問を呈している時だろうか。中国の優秀な研究者の多くが欧米からの帰国組であることが知られている。日本の研究者の間には、中国の研究能力の向上がまだ強く認識されていない可能性がある。だとすれば、今行うべきことは、より広範な分野で、両国トップレベル研究者の連携強化を促していくことではないだろうか。

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