【18-09】民営企業発展の一因は北京との距離 中国人パネリスト指摘

2018年5月22日 小岩井忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 中国の国有企業改革は掛け声どおりに進んでいない。深圳で民営企業が発展したのは北京から遠かったのが一つの理由―。5月19日、東京都内で開かれた日中関係学会主催のシンポジウムで中国人のパネリスト2人から、中国の国有企業改革の現状について、意外な指摘が聞かれた。

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 「中国国有企業改革と“一帯一路”の展望」をテーマに開かれたシンポジウムには日本人の中国研究者に加え、2人の中国人がパネリストとして登壇した。野村資本市場研究所シニアフェローの関志雄氏と北京在住のジャーナリスト、陳言氏。中国国有企業の民営化に関しては、1999年9月の第15期四中全会で国が主導する産業を四つに限定し、それ以外は民営化の対象とした「国有経済の戦略的再編」が打ち出されている。しかし関氏は、「結局、民営化は中小の国有企業にとどまり、大型国有企業には及んでいない」と語った。

 民営化の対象としない四つとは、国防、貨幣鋳造、戦略的貯蓄システムなど「国家の安全にかかわる産業」、郵政、電気通信、電力、鉄道、航空など「独占、寡占産業」、都市部の水道、ガス、公共交通、港、空港、水利施設など「重要な公共財を提供する産業」に加え、「基幹産業とハイテク産業にかかわる中核企業」も含まれている。石油採掘、鉄鋼、自動車、電子の先端部門などだ。

 「これらを除く国有企業は、できるだけ民間に任せたほうがよい」と関氏も民営化戦略への同意を示した上で、青島ビールを例に挙げ「本来、民間に任せてよい企業なのに政府が手放さないのは、中長期的に見てよいことではない。言っていることとやっていることが違うのは問題ではないか」と、厳しい評価を下した。

 関氏は、国有企業の民営化が遅れている不利益を裏付けるデータとして、国内総生産(GDP)への貢献度でも、民営化された国有企業や、最初から民営企業だった企業の方が高く、さらに国有企業が多い地域ほど経済が停滞し、民営企業が多い領域ほど元気がよい現実を指摘した。「東北振興」政策が一向に成果をあげていないのは、東北地域に国有企業が多いためだとし、反対の例として深圳を挙げて「南の地域が元気がよいのは、北京から遠いから」と、ユニークな見方を披瀝した。

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シンポジウムで報告する陳言氏(パネリスト席左から3人目)と関志雄氏(同2人目)

 陳言氏も、深圳の急激な発展について、興味深い見方を示した。陳氏は、これまで深圳を取材でたびたび訪れているほか、深圳のテレビ局員と一緒に日本のものづくり現場を取材した経験も持つ。「米シリコンバレーで、アイデアが出ると翌週、深圳で実際のものづくりが始まる」。こうした比ゆ的表現で、深圳の企業の積極的な活動ぶりを紹介した。氏によると深圳の活況、発展をもたらした人材には、北京大学卒が少なくない。戸籍制度のせいで、北京以外の出身者は、北京大学の学部卒だけでなく博士課程修了者であっても北京戸籍の取得は困難。北京で活躍の場を得られなかった有能な人材が、どんどん深圳にやってくる、というわけだ。

 一帯一路についても、陳氏は民営企業の役割の大きさを強調した。陳氏によると、中国は改革開放政策を始めてから40年、日本と米国、つまり東から資金と技術を導入し、東を中心に製品を輸出して成長を支えてきた。しかし、このシステムはかなり変わってきている。米国市場のこれ以上の拡大は無理。日本との関係は回復しつつあるが、かつてのような高い貿易量に戻るのはかなり難しい。米国が望むような市場経済に中国が移行しない現状に不満を募らせている米国のエリート層ばかりか、労働者の反発も強まり、トランプ政権はこれを利用しようとしている。米中貿易摩擦の激しさと期間は、いずれにおいてもかつての日米貿易摩擦を超えると予想される…と陳氏は、米国との交渉が難航するとの見通しを示した。

 一帯一路は、日米、つまり東へのこれ以上の発展は期待できない結果として、資源のある旧ソ連の国々など西へシフトし、エネルギー導入によって経済発展を図ろうという目的から出てきた。西には資源があるだけでなく、経済発展が遅れているため、市場としても十分開拓可能な地域だ。中国が一帯一路へ傾斜していくことによって、日米との対立は緩和していくと思われる。

 こうした見方を明らかにした上で、ここでも民営企業の役割が大きいことを、陳氏は強調した。昨年、民営企業の輸出入総額は6,200億ドル。このうち43%は、一帯一路沿線国が占める。陸路による比率はまだ小さく、海路による輸出入額が全体の7割強を占めるが、額が大きいのは広東省、浙江省、山東省などからの携帯端末やパソコンなどの電子機器。鉄や衣類ではない。一帯一路で大きな役割を果たすのは国有企業という予想ははずれ、民営企業が外に出て行っている。西との貿易量が今後さらに増えて行く可能性は十分ある、という見方を陳氏は示した。

 関氏も、重厚長大産業に代わり、ユニコーン企業をはじめとする民営企業が元気になっている現状を、「フォーチューン・グローバル500」を例に挙げて説明した。「フォーチューン・グローバル500」は、米ビジネス誌「フォーチューン」が毎年1回、世界中の企業を総収益額によって上位500社をランク付けした企業情報データベース。最新のランキングで中国企業は105社が入っている。このうち81社は国有企業だが、24社は10年前には1社もなかった民営企業。50社前後が入っている日本を、最初から民営企業としてスタートした中国の企業が上回る時期がいずれ来るのではないか、と関氏は語った。ただし、「民営化の動きを中国政府が邪魔しなければ」という前置きをつけている。

関志雄(かん しゆう)氏:

略歴

1979年香港中文大学経済学科卒、86 年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了、96 年東京大学経済学博士。86 年香港上海銀行入社、本社経済調査部エコノミスト。87 年野村総合研究所入社、経済調査部主任研究員、アジア調査室室長等歴任。2001 年独立行政法人経済産業研究所上席研究員を経て、04 年から現職。最近の著書に『チャイナ・アズ・ナンバーワン』(東洋経済新報社、2009 年)、『中国「新常態」の経済』(日本経済新聞社、2015 年)など。


陳言(Chen Yan)氏:

略歴

1982 年南京大学卒。82〜89 年経済日報に勤務。89〜2003 年日本留学。2003〜10 年中国に帰国、月刊『経済』主筆。10 年に日本企業(中国)研究院設立、執行院長。週刊東洋経済、J-CAST などの日本メディア、瞭望東方週刊、南風窓などの中国メディアに中日経済を中心にして数多く寄稿。


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