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【16-03】中国の公立高校の内部組織について―当事者に聴く中国教育事情

2016年 6月15日

日本留学信息中心 「当事者に聴く中国教育事情」編集部

馬 慶明:「当事者に聴く中国教育事情」編集長

日本留学信息中心総経理 大連外国語大学名誉教授、1987年大連外国語学院日本語学部卒業

王 燦:「当事者に聴く中国教育事情」主任編集員

日本留学信息中心担当、2015年関西学院大学大学院社会学研究科卒業

はじめに

 現在、日中の教育交流は主に大学間で行われており、日本の大学と中国の高校間の交流は多くありません。日中政府主催の青少年交流プログラムによって日本の大学を見学に行くなど、短期交流プログラムによって教員および生徒の交流が進められています。また協定により中国の高校から日本の大学に生徒を推薦したりしています。その中でも日本語を第1外国語科目として教えている高校の参加が多くあります。

 今回は中国全土にある日本語教育を行っている高校をより理解していただく為に、まず中国の公立高校についてご紹介したいと思います。

中国の公立高校の内部組織について

 中国の義務教育は日本と同じく中学校までですが、多くの高校では「初中部(中学校)」と「高中部(高校)」の両方を設置しています。つまり中学校と高校が一緒にある中高一貫校です。多くの日本語教育を行っている高校も同様であり、生徒は中学校から日本語を勉強し始めます。

 中国には国立高校は無く、公立と私立に分けられます。国の教育部に直属する高校はなく、すべて所在地の地方教育管理部門(省市教育庁、区県教育局)に所属します。

 高校には校長責任制があり、校長が学校の行政と教育を統括管理していることが多いです。運営組織は「政教処」「教務処」「弁公室」「招生処」「外事処」「財務」「総務」から構成されています。

 「党支部」は大学と同じくすべての教育機関に設置されており、党の政策の伝達と監督の役目を果たしています。高校によっては、校長が党支部の書記(トップリーダー)を兼任することがあります。

図

図1 一般的な中国の公立高校の組織図

 中国の公立高校の組織は学校によって各部署の違いは多少あるが、ほとんどがこのような仕組みで運営されています。

政教処:学校によっては徳育処ともいう、生徒の国と党に対する政治的な思想を育てるための部署。

教務処:国の高校教育政策を執行する部署です。学校の中で実力のある部署です。

外事処:日本の国際交流課に相当します。すべての高校が設置しているわけではなく、国際的な交流が行われている学校は外事処を持っているか、国際交流を担当している先生がいるかです。

 日本語教育を行っている高校は普通の高校と組織上は変わりません。唯一の違いは、中国の大学統一試験(高考)で日本語の試験を受けるので、日本語が第1外国語科目になります。第2外国語として英語を選ぶことができますが、英語教育にはあまり力をいれていない学校もあります。

 日本語高校は北京市、上海市以外、東北地方(遼寧省、吉林省、黒龍江省)、山東省、江蘇省、陜西省、湖北省、河南省などにあります。最近では広東地区も日本教育が少し増えています。特に東北地方は旧満州地域に当たり、歴史的な影響で日本語を身につけた人々が多く、また多数の朝鮮族が居住するエリアであり、距離的にも日本に近く、ハングルと日本語の文法が似ているなどの理由からも日本語教育が盛んです。このような背景により、東北地方は日本語教育をしている高校の数が国内で最多となっています。

 私たちは日々の留学広報連絡業務の経験から、日本語高校からの留学は日本の大学との提携において、「学生推薦制度」と「面接入試」が最も適していると考えます。

 理由として、

◆中国行政の規定により中国国内での大学現地入試が出来ない、

◆中国の日本語高校は日本の日本語学校を経由するより、大学と直接協定を結んだ方が学生にとっても費用や時間的な負担が軽減されて、メリットがある、

◆高校からの推薦(成績だけでなく素養も評価される)があるので優秀な学生がほしい日本の大学にとってのニーズも満たしている、

などの点が挙げられます。

 一方、優秀な学生を確保するためには、

①高校の推薦→②事務所のチェック→③大学の面接、という形式が一番合理的であると考えます。

①高校の推薦:学生推薦制度は日本の大学が中国の高校と協定締結後、高校から生徒を推薦します。

②事務所のチェック:各大学の要望により推薦学生に対する成績表の確認、日本語能力、英語成績などのチェック、電話面接などを行います。日本留学信息中心は中国現地事務所のない大学に代わって行います。

③大学の面接:日本留学信息中心(共青団中日青年交流中心傘下)と提携していれば、合法的に日本の大学教員が中国で面接を行うことができます。

まとめ

・日本語教育をしている中国の高校は一部の日本の大学と交流を持っていますが、ほとんどの中国の高校は日本の日本語教育機関(日本語学校)と契約して学生を日本語学校に送ります。

 私達は学生と日本の大学の立場からレベルの高い学生を直接日本の大学に留学出来るように研究しており、実績もあります。中国の高校の組織を解釈し、より早く日本の大学と提携できるように促進したいと思っております。

・諸外国と違い中国行政の規定により、中国の公立高校では外部からの留学宣伝などを一切受けてはいけません。このため、日本の大学が中国の高校に入って留学説明会を開催することは出来ません。日本の大学が自ら中国に来て、試験場を設定し、筆記試験や面接を行うことも違法です。ただし中国の関連機関や企業に頼り、試験を行うことは認められています(「入試」や「入学考試」などの語彙を避けて、「学力検査」と名づけています。)。

 また、高校生の留学は親や親族が決めるという特徴を持っているので、親たちが見て分かりやすい宣伝物と配布ルートが必要と考えます。


※本稿は日本留学信息中心が発行しているメールマガジン「当事者に聴く中国教育事情」2016年4月第1回より許可を得て再編集のうえ転載したものである。

筆者より

 「当事者に聴く中国教育事情」は2010年に中国現地にいる日本留学志望者に資するために設立した大学連合事務所の定期情報として発刊しました。2015年4月に現在の名称・体裁に変更しました。私たちは中国の学生向けに日本の大学について定期的に情報を提供しておりますので、より多くの日本の大学と情報交換したいと思います。ぜひお気軽にご連絡ください。

 E-mail: (王妍)、(馬慶明)