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【19-10】「天津大学プラン」の新たな工科カリキュラム、初の新入生を迎える

2019年10月7日 陳曦

 工科大学の新入生が一学期から配送車両の設計を行い、デッサンも学ばなければならないとは、読者には想像がつくだろうか。これが、天津大学で初めて設置される新たな工科人材育成校としてのプラットフォーム、すなわち「未来の人工知能・システムに関するプラットフォーム」での学習の日常となる可能性がある。

 最近開催された天津大学の新たなカリキュラムに関する説明会で、司会の教師が新入生に紹介した内容によれば、「設計と建造」は今学期開設された新しい教科で、物流用の追跡車両が実践プロジェクトとなっており、機械学院の教員14名が教員チームとなって授業を行い、建築学院の教員がデッサンを教える。教師の話がまだ終わらないうちに、学生たちの間から驚きと興奮の声が上がった。

 今年4月、天津大学は新たな工科課程の設置に関する「天大方案(天津大学プラン)」(Coherent-Collaborative-Interdisciplinary-Innovation, CCII)を発表し、多学科連合・他方面関与による開放的な人材育成プラットフォームを設計することを示した。今学期、「未来の人工知能・システムに関するプラットフォーム」が初の新入生112名を迎えてスタートしたことは、天津大学で初となる工科設置プランが実現し、正式に実施段階に入ったことを表すものだ。

画期的な教育で新入生を指向的に育成

 天津大学の2019年度新入生である顔暢は、もともとは電気情報専攻を志願していたが、合格証明書を受け取ってから間もなく、WeChat(微信)の新入生グループで新たな工科学生が選抜されるという情報を得て、「人工知能やオートメーション、精密機器といった最先端の分野に興味を持つようになり、すぐに応募した」という。最終的に、顔暢の願いはかなった。

 天津大学求是学部の于倩・副主任によれば、新たな工科課程では文学・歴史・建築以外の各専攻に門戸を開いたところ、1,047名の学生が応募し、英語、数学、設計、建築のほか、学生の興味・関心や総合能力、将来計画や臨機対応能力を問う筆記・面接試験が行われ、最終的に新入生112名が選出され、指向的な教育が行われることになった。

 取材によれば、「未来の人工知能・システムに関するプラットフォーム」は天津大学の機械学院、精儀(精密機器)学院、自動化学院、微電子(マイクロエレクトロニクス)学院、智能与計算(インテリジェント・コンピュータ)学部、数学学院、宣懐学院(HH Institute)等の優れたリソースを集約し、NXPセミコンダクターズやファーウェイ、塔塔信息技術(タタ・グループの情報技術分野の中国子会社)等の中国内外の有名企業と提携し、天津大学求是学部がプラットフォームとなって開設された。

 この新たなカリキュラムと教育モデルは画期的なイノベーションであるため、同校は各教科の講義開始前に学生向けに「新講座説明会」を開き、教師陣と学生の対面を行い、学生に新たな学科の設置や実現のプロセス、カリキュラムの内容と授業方式、将来的な学習の重点等を説明し、カリキュラムで達成すべき項目を発表することにしている。

開放的な学科では大学と企業のマッチングを実現

 多くの大学では教育が産業に追いつかないという課題をかかえているが、新たな工科課程の設置はまさにこの問題の解決に目を向けている。NXPセミコンダクターズのシステムエンジニアリング部の邵鵬マネジャーによれば、「当社にマッチする専攻は電子、オートメーション、コンピュータ・精密機器で、産業構造の変化は速く、人材は大幅に不足している。しかし、現時点では、大学本科の卒業生がそのままプロジェクトを担当するのは不可能だ」。

 天津大学教務処の原続波・副処長の分析では、新たな工科課程の設置には2つのキーワードが関連する。それは「未来志向、産業界志向」であることだ。新たな専攻の計画や伝統的な専攻の改造には、今後10年から20年間の産業発展の傾向を調査・研究する必要があり、カリキュラムの体系や実験の設計もこれに伴って変更しなければならない。また、企業の発展に追いつくだけでなく、産業発展を牽引する必要もある。

「天津大学プラン」の理念において設計されるのは学際的、開放的な人材育成プラットフォームであり、特に産業や企業に対して開放的であることによって、人材育成目標やカリキュラム体系、教育内容、基礎理論と企業での応用が重なる授業内容の設定に企業を関与させることであり、企業からの実践リソースや開放的プロジェクトの提供も必要としている。紹介によれば、新たな工科カリキュラムでは学生は本科1年次の時点で企業実習に赴くことができ、企業も彼らに工場や実験室を開放することとなっている。

 邵鵬マネジャーによれば、「大学教授は理論水準が高いが、企業ニーズの重点を理解せず、どうすれば理論を実用化できるかを知らない。例えば、高等数学の学習においては、学生は問題の解き方しか知らず、人工知能のアルゴリズムに応用するためにはどの知識が必要かの理解に乏しい。そこで、我々のようなエンジニアがカリキュラムに加わり、実際の応用の場面では高等数学教材のどの章のどの節を使うのかを教えることができれば、真の実用化が実現できる」。

モジュール式カリキュラムでリーダー的人材を育成

 来年、天津大学では新たな工科カリキュラムの他の4つのプラットフォームも始動する。また同時に、各工科カリキュラムに大学院レベルのプラットフォームが設置される予定である。新たなカリキュラムの設置やディベート式の教育モデル、プロジェクトの実施のすべてが教員にとっては大きなチャレンジとなる。

 機械学院の副院長である孫涛教授は、「未来の人工知能・システムに関するプラットフォーム」の設計者のひとりだ。彼によれば、新たな工科プラットフォームでは、すべてのカリキュラムが新たに設計されたものだ。陳腐化した知識を取り除き、新たな知識を加え、さまざまな研究のバックグラウンドを持つ教員に加わってもらうことで、知識レベル、発展の傾向、ニーズの面からさまざまな知識のモジュールを集約させた。その最終的なアウトプットはすべて製品となる。このモデルに基づき、「工科数学分析」、「思考とイノベーション」、「設計と建造」、「スマート電子メイカー設計と実践」の4つの新たなカリキュラムがすでに設定されている。

 新たな工科プラットフォームにおける授業方式では、教師による講義と学生による参加・実践・ディスカッションのカリキュラムにおける比率が1対5に調整される。小規模なクラスで講義を行い、その各クラスはさらに小さなグループに分けられ、1~2名の教員が割り当てられ、学生のディスカッションと実践に関与する。取材によれば、新たな工科プラットフォームの学生は、新たに設けられるスマート・クラスルームで講義を受ける。この種の教室では、マルチメディア講義が多用されるほか、最大の変化は教師がひとりでずらりとこちらを向いて座る大量の学生の相手をする旧来の方式を取りやめ、学生たちはグループごとに分かれて小さな円卓に座り、教師は演台から降りて学生たちとともにディスカッションを行い、教師と学生の間の「距離感」を縮めた。この講義形式は学生たちから広く歓迎された。顔暢は、「知識注入型の講義モデルより、こういったプロジェクト実践やディスカッション型の学習方法の方が私は好きだ。思考が活発に働く」と語る。

 また、新たなテクノロジーの導入に伴い、教材も伝統的な紙媒体を改め、電子書籍をより多く採用するようになった。このほか、オンライン式とオフライン式の融合による「ムーク(大規模公開オンライン講座)」(Massive Open Online Course, MOOC)が採用されることも増えた。

 天津大学新工科教育センター主任であり、カナダ工学アカデミー(CAE)研究者、中国教育部・長江学者でもある顧佩華は、新たな工科カリキュラムで初の新入生を迎えるあいさつに寄せて、「新たな工科プラットフォームでは、学生たちの知識習得能力を育成する。それだけでなく、この国家的なモデルチェンジという新たな時代にあたり、学生たちには社会に対する使命感を持ってもらい、未来の国家科学技術イノベーションにおける主力軍となり、リーダー的人材となる気概を持ってもらうことを願う」と語った。


※本稿は、科技日報「"天大方案"落地 新工科平台迎来首批学生」(2019年9月26日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。