【10-01】世界平和実現における異文化間相互交流と相互認識の必要性

2010年 6月 3日

張海英

張海英: 北京航空航天大学高等教育研究所副所長

1958年生まれ、女、教授。1999年に立命館大学東洋史専攻にて文学博士号取得。2008年より工学院大学孔子学院副院長に就任。北京航空航天大学高等教育研究所副所長兼任。主 に教育と社会の発展を取り囲む問題に関する研究事業を展開。国内外において発表された著作および論文40編以上。国や地域の科学研究プロジェクトを数多く主宰・担当。

 中国経済改革・開放から30年、中国社会経済は急速な発展を遂げ、工業化への歩みは絶えずスピードを増している。国の経済的実力が増強されるとともに、国 際社会における注目度および重要度は日増しに高まるばかりである。こういった経済的発展と同時に、中国は如何にして文化を築いていくか、ま た如何にして世界平和および持続可能な発展に貢献していくかといった重要な課題に直面している。

 冷戦終結後、世界全体は日々、国際化・情報化および知識経済強化に向け発展を続けてきた。国の大きさ、強さに関わらず、異なる国や民族間において、互いを習い、相 互利益を目指すという多文化共生のための国際的環境作りは、既に世界的な発展の方向性となっている。ある特定の1カ国が自国の価値観を他国に強制し、1つの価値観により全世界の統一を図ることは不可能である。世 界は多様な文化や価値観の共存により、彩り豊かで、生命の活力に満ちたものとなっているのである。それぞれの国や民族が自らの優秀な文化を積極的に対外へ広め、同時に優れた外来文化を多く取り入れることは、自 らの発展を促進し、また世界の安定と平和を追求していく上でなくてはならない姿勢である。残念なことに、文化や伝統、価値観や理念、信仰や宗教等の違いから、国または民族・地域間における摩擦・対立・衝 突が絶えず発生し、世界の安定と平和を深刻に脅かしている。

 このような背景のもと、中国は国際関係の中でも、政治および経済関係を重視すると同時に、文化構築の分野において積極的に国際社会との連携および交流に努めている。全 世界に設立されている孔子学院もこれらの重要な活動の1つである。孔子学院は中国の国家発展戦略の角度から、国の言語文化政策の一環として、国際社会に中国語および中国文化を普及させる同時に、積 極的に海外の先進的な思想・文化および科学技術を学習・参考とし、文化的分野から世界の調和と発展に努める具体的活動である。

 この程、召集された第十一回駐外使節会議において、胡錦涛中国共産党総書記は次のとおり見解を示した。科学的発展観の貫徹実施に努め、平和・発展・協力の旗印を大きく掲げ、国内・国 際の2大局面に関する総合的計画を堅持することで、外交業務の能力および水準を向上させなければならない。中国の政治的影響力、経済的競争力、イメージ的求心力、道徳・正 義のもとにあるカリスマ的指導力を更に高め、ゆとりある社会の全面的建設と社会主義現代化にとって優れた国際環境および外的条件を整える。確かに中国にとって、国内の安定・調和の実現と平和な国際環境の整備、特 にアジアの国や地域との友好関係の設立は持続可能な発展を実現するための必須条件である。文化交流を通じ相互理解を深め、友好関係の設立を促進し世界平和を維持することもまた、持 続的経済成長を保ち続けている中国が行うべき国際貢献である。

 以上の認識に基づき、中国は、ドイツ・フランス・イギリス・アメリカ・韓国等の国々が文化学院等の機関を設立し、これらを文化交流を行う場としていることを参考に、異 なる国や地域の大学や民間団体と相互提携を行い、孔子学院および孔子学堂を設立している。孔子学院というこの非営利文化機関は、中国語の普及、中国文化の紹介、異文化相互交流活動の展開、相互学習、相 互参考等の機能を1つに集めたものである。国際社会における新しい中国の姿を示す重要な場となっている。

一、孔子学院の設置概況

 孔子学院の設立業務は2004年にスタートした。中国国家漢語国際推広領導弁公室(略称「漢弁」)・孔子学院本部が実際の業務を担当している。孔 子学院は中国と各国の提携により設立された非営利教育機関であり、現在全世界に282校の孔子学院と272校の孔子学堂が設置されており、これらは84の国と地域に分布している。(表1を参照)日 本には孔子学院12校、孔子学堂5校が設置されており(表2を参照)、提携を実施している日本側の大学は全て私立大学である。

表1 孔子学院・学堂の分布情況
地  域 孔子学院 設置国数 孔子学堂 設置国数
アジア 70 27 27 10
アフリカ 21 15 4 4
ヨーロッパ 94 29 34 7
南北アメリカ 87 11 205 6
オセアニア 10 2 2 1
表2 日本に設立されている孔子学院・学堂
  孔子学院・学堂 中国側提携学校・機関 設立時期
1 立命館大学孔子学院 北京大学 2005年10月
2 桜美林大学孔子学院 同済大学 2006年
3 北陸大学 北京言語大学 2006年
4 愛知大学孔子学院 南開大学 2006年4月
5 札幌大学孔子学院 広東外語外貿大学 2006年11月
6 立命館アジア太平洋大学孔子学院 浙江大学 2007年4月
7 早稲田大学 北京大学 2007年4月
8 岡山商科大学孔子学院 大連外国語大学 2007年6月
9 大阪産業大学孔子学院 上海外国語大学 2007年8月
10 福山大学孔子学院 北京対外経済貿易大学と上海師範大学 2007年11月
11 工学院大学 北京航空航天大学 2008年5月
12 関西外国語大学孔子学院 北京言語大学 2009年
13 立命館孔子学院東京孔子課堂   2006年6月
14 桜美林大学孔子学院高島孔子課堂   2006年11月
15 長野県日中友好協会ラジオ孔子課堂 中国国際放送局 2007年11月
16 神戸東洋医療学院孔子課堂 天津中医薬大学 2007年11月
17 立命館孔子学院大阪孔子課堂 同済大学 2008年3月

 漢弁・孔子学院本部は、多くの人材・物資・財力を投入し学院の建設を行っている。同時に各国の文化や習慣を尊重し、各孔子学院がそれぞれ特色をもった発展を遂げることを奨励している。孔子学院は漢弁・孔 子学院本部の強力なサポートのもと、提携請負大学の特徴(研究型総合大学、教育型単科大学等)の違いに基づき、運営方式(大学の構成部分として独立法人としての地位を有する等)や学校創設の目標( 学校の人材育成目標へ取り組む、継続的教育を基本とする等)等の面において、それぞれ独自の特徴を持っている。近年、孔子学院の発展とその影響力は世の中の人々から注目されるようになり、そ の意義と価値は徐々に具体化されつつある。

 まず、孔子学院は言語文化交流における架け橋・仲立ちとなっている。国際関係の上では、往々にして政治・経済交流が重要視されがちである。しかし実際は、文化的な相互交流、相 互理解および相互認識がなければ、政治・経済関係においても確固たる基礎が欠けてしまう。近年、孔子学院というプラットフォームを通じ、中国語教育の国際普及は大きな進展を遂げ、中 国文化の精髄と魅力は世界各地へと伝えられている。同時に孔子学院という窓口を通じ、中国が世界を知る機会をより多く得ることで、各国の優れた部分を学ぶことができる。中国と世界の距離は絶えず縮まっており、世 界の中国に対する理解と認識は徐々に深まっている。孔子学院の意義と価値は決して文化的分野だけに限られたものではなく、中国と他国や他地域との間で行われる経済貿易や科学技術、製造プロジェクト、医 療衛生等の分野における交流・提携に対し、より多くの機会や可能性を提供していると言える。何故なら、孔子学院は交流窓口やプラットフォームとして、各 分野において交流のためのツールや中国を理解するにあたっての手段、提携の機会等の提供を行うことができるからである。

 次に、孔子学院は大学の国際化推進に貢献している。21世紀における大学は、人材育成・科学的研究・社会奉仕の3つの基本的機能を備えているほか、国際貢献という機能・役 割も果たしていかなければならない。孔子学院は主に中国と各国の大学の共同建設の形式により設立されており、双方は提携の過程で、人材育成、教育の研究、学校管理の理念、制度、組 織構築等の面において相互理解を促進し、双方の大学に更に多くの国際化の機会と可能性を提供している。孔子学院は大学の国際化における具体的表れの1つと言えるであろう。

 国際化の意義については、哲学的分野および実践的分野から理解することができる。その哲学的分野における意義とは、人々に平和と調和を1つの概念として、1つの追求の対象として理解することである。ま た実践的分野における意義とは、異なる文化間との交流やそれを理解し受け入れること、多種多様な文化との共生に適応し、これを日頃から繰り返し行い、通常の行為モデルにすることである。哲 学的あるいは実践的分野における意義に関わらず、いずれも言語を通じて実現されるものである。言語のもつ記号としての機能や文化伝達機能、社会構築機能は、2 1世紀に入り広報ツールとしての価値や意義がますます高まってきている。

 現在、全世界に設置されている孔子学院のほとんどは、中国語教育事業の実施と普及を核心的内容として考えられている。孔子学院の創立以来、中国政府は政策制定・制度構築・具体的運営等の面から、中 国語の国際普及の分野で多くの業務を行ってきた。HSK漢語水平考試(中国語レベルテスト)システムの構築や毎年1回の「漢語橋」中国語コンテスト、国 内外の中国語教師育成や中国語学習を奨励サポートするための奨学金制度の設置等がこれにあたる。これらにより中国語の国際的普及業務は大きな進展を遂げ、多くの業績を残し、豊富な経験を蓄積することとなった。当 然、中国語普及に関する科学的政策と時代に適応した運営のレベルを更に向上させるため、過去との比較と未来への発展の角度から、これまでの過程と現状についての総括・整理を行い、こ れらについて十分な検討を行った上で次のステップへ進むことはとても重要なことである。

二、工学院大学孔子学院の設立

 工学院大学孔子学院は2008年に設立した。弁漢を通じ業務委託を受けた北京航空航天大学(略称「北航」)および工学院大学の提携により設立された非営利文化機関である。

写真1

 工学院大学孔子学院は日本で唯一、世界においても数少ない工学技術系の背景をもつ大学との共同建設による学院である。

 工学技術系の背景を有する2つの大学の提携によるこの文化事業の実施には、次のような動機と願望がもとになっている。

 第一、両校は長年にわたる交流の歴史を有し、更に進んだ提携を実施する基礎を整えている。時代の進歩および需要に適応し、提携の範囲と分野を積極的に広め、両校の国際化に向ける整備や学校の全面的発展、そ して社会的影響力の向上には実践的に重要な意義を有する。

 第二、一定レベルに達したエンジニア・技術者を社会に送りだすことは、両大学の人材育成における共通目標である。21世紀における経済のグローバル化の背景のもと、日 中両国間の経済貿易は更なる発展を遂げようとしており、特に製造業の分野に関する交流および提携は日増しに密接となっている。しかし、人類共通のエネルギー・環境・食品安全等の深刻な問題を前に、単 に経済効果または利益の追求だけを目的とした交流を避けることも大変重要な課題である。そのため、両国の言語に精通し、両国の文化・知識を身につけ、理解や尊重とは何かということを知り、日 中両国のエンジニアリング分野における意思疎通と提携のために貢献する国際的人材の育成は、両国いずれの社会にも共通して必要とされている。自身の長所および知識や知力といった資源を利用し、こ のような需要に応じて貢献を果すことは両校大学の社会的責任である。

 工学院大学孔子学院は設立以来、制度の確立、教育者人材の開発、カリキュラム設置、生徒募集広告、文化的活動等において、初歩的試みと模索を実施してきている。主として以下の活動が挙げられる。

 1、中国語の成人教育。入門、初級、中級、早朝講座等のクラスを設置し、特に多忙な業務の中、余暇の時間が制限されている企業の人々の学習したいという要望に応えるため、交 通の中枢である新宿に位置するという有利な条件を利用し、少人数制の早朝講座という形式により教育活動を展開している。これは、早朝出勤前の時間(7時半から8時半まで)を利用し、企 業スタッフに語学および中国経済や文化の発展の歴史および現状を知らせる場となるクラスを開設するというものである。このクラスは中国関連の業務に従事する企業の人々から大変好評を得ている。

写真2

さくらサイエンスプランウェブサイト

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