日中交流の過去・現在・未来
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【15-01】中国人留学生との関わりを通して

2015年 6月29日

宮崎計実

宮崎 計実(ミヤザキ カズミ):
国際交流団体 グローバルコミュニティー

私立天理高等学校卒業
Kensington School of Business ビジネスコース修了 システム開発、海外ウエディング、広告企画、外国人財企業で新規事業の立ち上げに事業責任者あるいはそれに準ずるレベルで参画。 2009年独立。多言語媒体『Globalcommunity』を発行し、国際人財の採用代行、インターンシップの企画運営、国際イベントの運営に携わる。

 私は、長年の留学生向けのインターンシップや採用面談を通して、普段から中国人留学生との接点が多い。また観光庁や外務省の後援で『国際紅白歌合戦』というイベントも5年前から毎年運営しているため、そこでも多くのボランテイアスタッフの中国人留学生、社会人との関わりも多いので、その観点から感じることをお伝えしたい。

 留学生のインターンンシップなどは、6年前からはじめたが、その当時と比べると中国人留学生もかなり変化してきたように思う。

 6年前のある学生(A君)とのエピソードをご紹介したい。

 A君は、当時大学の2年生で第1回目の不動産業界でのインターンシップに応募してきた。

 「将来やりたいことは何ですか」という私の質問に対して、彼は次のように答えた。

 「私は今、コンビニでアルバイトをしていますが、多くの食品が毎日廃棄されるのを見て心を痛めています。私は決して裕福な家庭の出身ではありませんので、まだまだ食べることが出来る食べ物をゴミのように捨てることがつらいです。将来は、このような問題を解決できるようにしたいです。食べることにも困っている人が中国には、まだまだ大勢いますからね。」

 私は、18歳の時に彼とまったく同じ想いをホテルのレストランでアルバイトした時に感じたことを思い出した。その当時、問題になっていたアフリカ難民の子供たちに無駄にする食料を送れないものかと考えたものだ。

 そんなこともあり、私も19歳の中国人の若者がそんなことを考えながら、コンビニでアルバイトし、苦学していることを知り、彼らのサポートにももっと力を入れていこうと誓った。

 A君が応募してきたのは、6年前から不動産業界の人たちが行っているインターンシップだが、このインターンシップの目的は業界の国際化だ。簡単に言えば、日本に来る外国人のひとたちが、住居のサービスの面で困らない環境を作ること。このインターンシップを主催しているのは、業界最大規模の公益財団法人の日本賃貸管理協会で、業界への影響力もかなり大きい。

 日本で暮らす外国の人たちが抱える住居の問題は、業界の人たちの努力で、今でこそ改善されてきているが、まだまだ外国の人たちが日本で賃貸住宅を借りることは簡単だとはいえない。

 私は留学生インターンシップの募集時に大学で説明会なども開催しているが、その際、留学生たちに、『これから日本に来る皆さんの後輩のためにも、日本人の有志の人たちと一緒になってこの問題を解決しよう』と留学生に訴え続けている。数年前までは、そのことに感銘を受け、インターンシップに応募する学生さんも少なからずいた。

 しかし、最近は中国も6年前と比べると裕福になって、留学生の意識もかなり変わってきたように思う。正直いうとA君のように、大変な状況で生活をしている同胞の人たちのために何かやりたい、日本の社会で困っている外国の人たちのサポートをしたいと考える学生が減っていると感じている。

 また、日本に来る動機も多様化しているようだ。以前は、豊かな日本の生活にあこがれて留学したという学生さんがほとんどだったが、最近では、日本の若者文化に興味を持って留学している学生が増えていると思う。この傾向は特に女子学生に顕著だ。フランスでも注目される日本の女子高生、女子大生のファションなどをコピーして、日本人女性と変わらない格好でキャンパスを歩いている中国人留学生も増えてきた。

写真1

写真1 留学生インターンシップの修了報告会での記念写真

 ファッションや漫画、アニメなどもいいが、私としては、日本の優れた環境技術、また日本人の美意識や公共意識、その背後にある思想を学び、それを中国に住む人たちに伝えてほしいと思う。また、以前の学生のように、社会に対して、ひいては、国家に貢献する自分を描いてもらいたい。

 一方で、日本の社会、特に、早急な国際化が叫ばれる大学の留学生への対応は、相変わらず十分とはいえない。色々な方法で、留学生を暖かく歓迎し、日本人学生との交流を促す必要性があると思うが、学校側からの対応では限界があるのも確かだろう。

 そのこともあり、お互いの文化に尊敬の念を持って、交流を進めようと2011年からはじまった『国際紅白歌合戦』では、日本人は外国語で、外国人は日本語で歌うことになっている。外国語が出来る日本人は総じて、留学生や日本で暮らす外国人にも理解がある。それは、彼らが大変な思いをして日本語を習得しようとがんばっていることが理解できるからだ。そんな日本人が増えれば、おのずと、大晦日に行っているNHKの『紅白歌合戦』も、将来的には『国際紅白歌合戦』のようになっているかも知れない(笑)。そういう思いも込めて、日本人は敢えて外国語で歌うことと決めている。

写真2

写真2 『国際紅白歌合戦 2012―歌おう世界の仲間と』の様子

 このイベントは今では、大阪でも東京でも開催している。最近は、中国語で歌う日本人も増えてきた。もちろん、中国人の観客も大喜びだ。

 2014年は、日本で暮らす中国人の子供たちが、日本語、英語、韓国語、中国語で、『let it go~ありのままで~』を歌って、観光庁長官賞を受賞した。20カ国以上の大使及び大使館関係者の前で歌い、日本の社会で認められたことが、彼らが日本の社会で生きていく上で何かの自信となってくれればうれしく思う。

 

 また、このイベントのもうひとつの特徴は、多くの日本人学生、留学生のボランテイアの力で支えられていることだ。初めて参加した学生は、慣れないイベント運営で大変だが、留学生も日本人と一緒にひとつのものを作り上げていく楽しさを共に味わうことが出来る。

 このイベントを通して、留学生と日本人の交流が生まれたという話を聞くことが主催者側としては何よりうれしいことだ。

 このようなイベントをやろうと思った元々のきっかけは、ある中国人留学生との就職面談での会話だ。10年ほど前の話だが、彼は、大変流暢な日本語を話したが、就職活動に疲れて大学院に行こうか、帰国しようか悩んでいた。28歳という年齢がネックになって、当時はいくら日本語がうまくても就職は難しかった。親身になって話を聞いていたので、彼も日本での生活の不満点を私にぶつけてきた。そして彼が言った。「日本に住んで6年になりますが、日本人に自分の本音をここまで話したのは初めてです」と、そして、心から相談できる日本人の友人も彼には居なかったことを聞かされ愕然とした。

 こんなに日本語が上手で、日本のことが好きなのに。6年間の長い間、ひとりも本当の友人と呼べる日本人が居なかったとは。

 これは、日本人として大変寂しい気がした。その後、面談で、他の学生にも日本人との友人関係について尋ねることにした。しかし、多くのアジアの留学生には、日本人の友達を作ることが何年住んでいても難しいということがわかった。

 私は、オーストラリア、イギリス、韓国に1年以上滞在をしたことがあるが、どこの国でもとてもいい現地の友人に恵まれたので、6年もの間、外国に住んで、現地の仲のいい友人が居ない生活は想像しづらかった。もし、そんなことがあれば、その国を好きになることは難しいと思う。それ以来、このことに対する問題意識をいつも持ち続けている。結果として、その想いが、観光庁が後援する『国際紅白歌合戦』『留学生と日本人学生のペアインターンシップ』の開催へと繋がっていったと思う。

 最近の日中の交流で感じることは、中国人留学生や日本人学生の中にも英語の出来る学生がかなり増え、オープンであまり国籍や文化の違いなどを意識しない彼らが、日中の学生交流でも活動の中心になっていい雰囲気をつくりつつあることだ。私も学生時代はイギリスで過ごしたが、英語のコミュニケーションを通して、多くのアジアの友人も出来た。お互い外国語であるということと、イギリス社会ではどちらもマイノリティーだという共通点があることも影響していると思うが、英語は自分の気持ちをストレートに表現しやすい言語なので、ある意味コミュニケーションもしやすくかったように思う。

 日本語は、婉曲的な表現も多く、あいまいで、また繊細だ。外国人が日本語を本当の意味で日本人のように使えるようになるにはハードルが高すぎると思う。

 理想的であるが、日本人と中国人が仲良くなるには、どちらにも外国語である英語でコミュニケーションする機会をキャンパスでどんどん作ることが、長い目で見れば「日中友好」にも繋がるのではないかと思っている。

 真の「日中友好」とは、多くの日本人、中国人がそれぞれ、「世界に繋がる日本」、「世界に繋がる中国」を意識し、誰にとっても住みやすい世界を一緒に作ろうと努力するところにうまれると思う。国家としての利害関係が生まれるのは仕方がないことだと思うが、大切なことは、日本人、中国人それぞれの個々の姿勢であり、その民間の力こそ、新しい日本と中国の関係を切り開いていく原動力となると信じている。