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【16-01】現代溌墨画技法の第一人者 馬驍氏インタビュー

2016年 5月16日

 中国人の父と日本人の母との間に生まれる水墨画家の馬驍氏は、シュールリアリスティックで斬新な手法で水墨画の新境地を開拓し、現代溌墨画技法の第一人者として日本と中国、そ して世界を舞台に活躍してきました。馬驍水墨画会の発足35周年という記念すべき節に、35年間日中両国で水墨芸術を通して文化交流を続ける馬驍氏の物語を伺いました。

馬驍:水墨画家

1940年、北京生まれ。1979年、帰国者として日本に定住。日本において「馬驍水墨画展覧館」「馬驍水墨画会館」を設立し、「馬驍芸術大賞展」を開き、馬驍水墨画教室などを主宰する。中国、アメリカ、イ ギリス、フランス、韓国、インド、オーストリア、スペイン、メキシコなどの国で個展の開催や展覧会への出品を行う。
17年間NHKラジオ「中国語講座」月刊表紙絵制作を手がける。日本外務大臣賞、全国精選現代水墨画大賞、中国駐日本大使賞、日中美術交流功労者賞(米国中国美術家協会)、メ キシコ政府より特級画家栄誉賞などを受賞。
著書に『水墨画画法』『山水画法』『花鳥画法』『人物画法』『馬驍水墨画集』など多数(日貿出版社)。中国文字改革出版社編集員、中国美術家協会機関誌『美術』編集員、静 岡常葉大学美術科講師

馬先生が、水墨画の道へと歩み出したきっかけは何でしょうか。

馬驍(以下、馬):私は1940年に中国の北京で、中国人の父と日本人の母との間に生まれました。幼い頃より絵を描くことが好きで、母からの励ましを受けながら絵を描き続けていました。私 が画家になる志を立てたのは13歳の時、中国水墨画界の重鎮、93歳の斉白石先生を訪ねたのがきっか けでした。斉先生が自ら筆を執って私のために 描いてくださった「ぶどう」の絵の「お手本」を、ま るで宝物のようにして持ち帰り、家で繰り返し模写しました。そして、まるでこの絵に導かれたように、私は水墨画への道へと歩み出しました。

写真1

写真1 「海神」制作中の馬驍氏

芸術を追求する道は決して簡単ではないと思います。これまでに、特に記憶に残る大きな出来事は何でしょうか

馬:1979年、私は日本へ帰国し、芸術で生計を立てるために色々苦労を味わった後、本籍の静岡市のある文房具店で「馬驍水墨画教室」を開き、その翌年、上京しました。偶然に、三 越百貨店に出展中の数点の作品「山水花鳥」が、来場したNHK月刊誌の編集長の目に留まりました。その後、月刊誌の毎号の表紙絵の創作を依頼され、さらにNHK「中国語講座」の 表紙絵を17年間も続けて担当していました。おかげで、画家としてようやく日本で認められ、有名出版社からも雑誌表紙の掲載、水墨画画集の出版などの依頼が来るようになりました。

 1982年5月、東京新宿の伊勢丹画廊で最初の個展を成功し、その後は日本各地で個展を開きました。さらに、1987年にフランス、1988年にアメリカで展覧会、1990年には、東 京で行われた世界最大のアートエキスポで『馬驍展』を開きました。1993年からは、国内外で「日中水墨画交流展」の活動も始めました。水墨画教室や交流展などを通して、多 くの日本人に中国水墨画のことを知っていただいた上で、日本人生徒も育て、中国との交流を深めました。私は日中文化交流の中で橋渡しの役割を努めながら、同時に、自 分の芸術をより高い境地に引き上げることができました。

写真2

写真2 馬驍氏の実演の様子

先生は作品を創作すると同時に、目指しているものあるいは心がけているのは何でしょうか。

馬:一人一人の画家が目指すものはいろいろだと思います。私の場合自分の作品が、東洋人か西洋人か、専門家かそうでないかにかかわらず、老若男女の皆さんに理解され喜んでいただける、ということが目標です。私自身の喜怒哀楽の感情や、願い、祈りなどを、作品によって見る人に伝え、共感を呼ぶことができればと思うのです。そのため、先人や他人の模倣ではない真実の自分を、作 品の中に表現するよう心がけています。/ た とえサインがなくても、見た人が私の絵だとすぐわかるような作品を描くことが理想です。もちろん自分の能力には限りがあり、すべてを実現するのは難しいことですが、こ ういった目標を、私 はこれまで長年に渡って追求してまいりました。

先生はこれからの芸術人生をどのように歩んでいきたいと考えていらっしゃいますか。

馬:私が日本に帰国して、今年で36年になります。すでに人生の終盤を迎え、病に取りつかれたこの身は夕暮れのたそがれの中にあります。しかし、これからも私は見る人の想像を刺激するような、新 しい水墨画の創造に努め、たとえサインがなくても、見た人が私の絵だとすぐにわかるような作品を理想として、この理想のあり方をつかみ取るために努力を続けていきたいと思います。

 日中両国の人々が将来戦うことなく、何世代にもわたって友好を維持し、中国の水墨画を一衣帯水の隣国で永遠に伝えてゆくために、私の尊敬する先輩芸術家たちが歩んだ道に倣って、乏しい力を尽くし、悔 いることのない自分の人生を歩んでいきたいと望んでいます。


現代溌墨画技法:水墨画の重要な技法。墨をはね散らして自然に形象を表現するもので、筆を使わず墨だけで形全体を決定する。中国,中 唐頃の王墨が創始した溌墨法はかなり風変わりなものであったが、のち次第に温和化し、中国絵画の主要な描写形式となり、山水・人物画などに応用された。