【16-05】着物を通じて日本文化を中国次世代に発信―日本文化継承アートプロデューサー・着物スタイリスト冨田伸明氏

2016年10月13日 孫 秀蓮(『和華』編集部)編

八木信人

冨田 伸明:
株式会社京香織 代表取締役社長

 1963年生まれ。芸能界で活躍される女優、俳優への着物衣装提供、デザイン、着付け師として活躍。欧米やアジアなど世界各国で個展、着物ショーを開催し、日本文化を発信する。
2012年から中国の次世代に向け大学で講義を50回以上開講、その功績により2015年上海総領事より表彰を受賞。

 着物は中国三国時代の呉服から伝来され、日本の気候に合わせた独自のスタイルに変化させる事で、日本文化を代表する伝統衣装となった。「文化に国境はない」と 掲げる日本文化継承アートプロデューサーの冨田伸明さんは、日中関係が最悪と言われた2012年に、中国の次世代に日本文化を発信するため単身中国に飛び込んだ。今 回は着物を通して中国次世代に日本文化を発信する冨田さんの話をご紹介する。

 1930年代、映画好きだった父は、日本から中国の旧満州(現在中国の東北地方)に渡り、「満映」に勤務するようになりました。

親孝行のため着物の世界へ

 「京都の着倒れ」という言葉のように、京都には古くから美しい街並みと共に伝わる着物文化がある。冨田さんは着物文化が色濃く残る京都に生まれたが、父親が公務員だった為、商 売には無縁の家庭で育てられた。大切な母が他界した事で、着物が大好きだった母への親孝行になるかと思い、着物の世界に足を踏み入れた。

 ところが、ついた着物の仕事はセールスの仕事だった。自分が思っていた着物で女性を綺麗にするという仕事では無かった為、30歳になったら独立しようと決めていたが、27歳のときに転機が訪れ、現 金30万円だけで独立し、和服関連企業「京香織」を設立した。

芸能界で大活躍

 会社は設立したが、単に販売するだけでは自分の着物の信用度はまだ高くないと思い、冨田さんは仕事のやり方を見直そうとしていた時、たまたまテレビで「衣装提供」、「着物スタイリスト」と いう名前があるのを見て閃いた。

 自分の手がけた着物をテレビで着てもらおうと。早速、京都の二大大手映画会社、松竹と東映に飛び込んだが、最初は全く相手にされなかった。それでも根気よく頑張り続けた結果、女優、山 本陽子さんに使ってもらえることになった。それがきっかけで芸能界のネットワークがどんどん広がり、テレビ・映画・雑誌・舞台・CMと幅広い分野における名だたる女優陣、森光子さん(故人)、高島礼子さん、仲 間由紀恵さん、常盤貴子さんなどの着物デザインやコーディネートを手掛ける事になった。やがて新聞の番組欄に乗っている番組の8割ほどの着物を冨田さんが担当するようになり、今 では衣装提供回数が合計2000本を超えている。

 着物のデザインをやっているうちに、冨田さんは京都府、群馬県、佐賀県嬉野市、富山県氷見市などたくさんの都道府県からも依頼を受け、観光大使として地域の文化発信にも力を入れている。松 阪牛に振袖を着せたりするとか、着物で水着を作ったりとか、チョコレートで着物を染めたりとか、地方の素晴らしい衣食住文化を着物に結びつけ、新しい形で伝統文化を発信し続けている。最 近では西陣織で小物入れなども作っている。

中国への恩返し

 名だたる女優陣の着物デザインやコーディネートを手掛け、冨田さんは日本を代表する着物プロデューサーに上りつめた。活躍は海外にも広がり、これまでニューヨーク、ロサンゼルス、サ ンフランシスコなどにて個人、着物ショーを開催し日本文化を発信してきた。中国に目線を向けたきっかけは2012年、尖閣諸島の領有権をめぐって日中関係が冷え込んだときだった。

 当時、冨田さんはアメリカ・ロサンゼルスのテレビで日中関係悪化のニュースが連日伝えられているのを見て痛みを感じていた。着物(呉服)は、中国、呉の国から日本に伝わった織り方によって作られた。着 物に携わるものとして文化を伝えてくれた中国に恩返しをしようと思った。日本文化を学んでいる次世代の中国人に、本物の着物をただ見せるだけではなく、日 中両国には切っても切れない歴史とつながりがあるという事を伝えたい。日中両国の人々、特に次世代の人々がお互いのことをもっと好きになっていただきたい。中国と日本は、両 国でアジアをリードする国として世界に発信していきたいと考えた。

 そんな思いで2012年中国・上海に行き、各方面の責任者を説得し、2013年に上海で着物ショーの開催をこぎつけた。その後、上海や大連の大学、北京の日本大使館などで学生や一般の中国人に向け、3 年半の間に約50回以上の無償講義を開催し、合計一万人近くの中国人の若者が受講した。日中関係悪化の影響で、交 流活動が次々と中止された2012年から2015年の間にこれだけ多くの日中交流活動を続けてきた日本人は多くはいない。その功績により、2015年上海総領事より冨田さんは表彰された。

写真1 中国で着付けを披露した時の様子

中国に恋する

 冨田さんはいつも講義で、中国人の学生にこう言う。「まず恋愛をしましょう。相手を好きにならないと何も始まらない。日本人が日本で売れないものを中国で売ろうと考えるのは大間違い。好 きな人には特別なものを、一番大事なものを届けなければならない。」

 冨田さんは博物館で展示する貴重な着物作品を大学の授業に持ってきて、中国人の学生たちに本物の着物をただ見せるだけではなく、身近に感じてもらう為、学生たちに着せている。

写真2 着物を着せている中国の学生と一緒に

 中国に恋する冨田さんは、上海の地下鉄を歩き回るのも大好きで、地下鉄の地図を着物の帯のガラにもした。冨田さんが自分でデザインをし、日本の生地を使い、中国の職人が手を加えて仕上げた着物「 蘇州刺繍源氏物語」の製作は二年がかりで、中国伝統技術と着物コラボレーションの傑作だ。このように、冨田さんは日本文化を紹介するだけではなく、自 分が恋する中国の素晴らしいものをつなげて世の中に発信している。


※出典:「着物を通じて日本文化を中国次世代に発信―日本文化継承アートプロデューサー・着物スタイリスト冨田伸明氏」『和華』第9号(2016年1月),pp.90-93,アジア太平洋観光社。


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