【18-07】―元中国駐箚特命全権大使 丹羽宇一郎氏に聞く―「民が官を動かす」日中の民間交流をより強く

2018年 7月25日 孫秀蓮(アジア太平洋観光社 取材・構成)

 会社の業績不振を見事に回復させた敏腕経営者、元伊藤忠商事会長の丹羽宇一郎氏が、2010年、71歳で初の民間出身中国大使となった。「尖閣に始まり尖閣で終わった」丹羽氏は、日 中関係の荒波にもまれながら、それを乗り越えてきた。大使在任中の思いと今後の日中関係についてお話を伺った。

先生は71歳で初の民間出身の中国大使となられましたが、当時はどのようなお気持ちで引き受けられたのでしょうか。その時期を振り返って、現 在どのようなお気持ちですか。

 引き受けたときはすでに地位も名誉もお金も関係ない年齢になっていました。国と国民の役に立つためにやりましょうという気持ちでした。当時の日中関係では大使としての発言は、中 国からも日本からもよく言われず、どちらからも批判される可能性がありました。ですから、自分を信じて発言しよう、人の事は気にしないで発言しようと考えていました。

 当時は毎日が激動の日々で、動きのある時期でした。デモ隊が来て大使館に物を投げつけたり、日本の旗が奪われたりしましたが、それで神経質になったこともありません。そもそもそういうことが怖かったら、引 き受けていないでしょう。

最初に中国に行ったときと現在では、中国の印象はどのように違いますか。

 もともと30~40年ほど前には、伊藤忠の一員として広州交易会に行きました。その頃と比べると中国は大きく変わりましたね。特に2008年以降、中国の人たちの生活は非常に改善しました。ど の省にもそれぞれ特色があって良い印象が多い。「南京にいったら襲われるかも知れない」という日本人もいましたが、そのようなことはなかったですね。南京大虐殺記念館にも2回行きました。そ れぞれの国が自分に有利なことを書くのは当然ですね。そして、中国に行くとよく思いますが、欧米に比べると日本と中国の方が似ていると強く感じます。なぜ日中関係が安定した良い関係にないのか、本当に不思議です。 

近年、中国の新しいビジネスが日本にも進出してきています。その流れに関してどのように思われますか。

 当然の流れだと思います。世界中で5人に1人は中国人です。中国は大きな消費市場であり、物を使う・買うという面が非常に強力です。ただ、この状態がずっと続くかどうか、世 界の信頼が得られるかどうかという点は別問題です。中国が打ち出した「一帯一路」政策については、周りの国とどう一緒に発展していくかが大切だと考えています。中国だけが良くなればいいのではなく、皆 で発展していこうという態度が必要です。価値観が違うことや、お金を儲けるということは決して悪いことではありませんが、その中で自分第一、というだけではだめだということです。

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民間交流の大切さとこれからの日中交流への期待を語ってくれた丹羽氏。

日中両国の若者の交流について、今後どんな取り組みを進める予定ですか。

 日本とアメリカがある程度仲良くしているのは、政経を離れた国民間の野球があるから。日中友好を考える上でも、野球に匹敵するものを探せばよいと思います。私は卓球がそれにあたると考え、双 方向的な卓球大会をしたいと考えています。卓球も中国だけが断トツだと他の国はもうしなくなる。その中で日本人はいい相手になるので、中国と卓球大会をして国民関係を良くしたいものです。

 去年、日中交流のために北京で中学生の卓球大会を開催しました。日本から500名、中国各地から500名集まりました。姉妹都市関係にある都市同士、たとえば長崎県と福建省、上 海と大阪というように日中の混成チームを作りました。私も一緒に行き、同じホテルに泊まり、同じ朝ご飯を食べました。これからも、継続して、もっと盛大にしていきたいと考えています。

日中両国の若者に対して、どのようなことを期待されていますか。

 先ほど話したような卓球大会をさらに広くしていくこともそうです。そして私の本の印税を中国の私費留学生の奨学金としていますが、若者にはどんどん世界に出ていってほしい。「広く知識を世界に求める」と いう言葉は、明治維新の五箇条の御誓文のなかの五つ目にあります。当時、その言葉を受けて多くの日本の若者が世界へ飛び出して行き、日本は良い国になりました。中国の若者にもそうなってほしいと思っています。 

 そして、「嘘をつかない」ことが大切です。嘘をつかず謙虚に振舞い、勉強するべきです。そして、世界を歩くことです。日中両国の若い皆さんは、今後力をつけていくのですから、逆 に謙虚さを忘れないことが大切だと思います。自分さえ良ければよいのではなく、ガリガリ亡者にならない、夜郎自大にならないということです。「世界は広い」ということをよく理解して、世界を歩き、国 のためになることをしてほしい。

今後の日中関係について、何が大切だと思われますか。

「民が官を動かす」ことが大切です。民間交流をしっかり進めていくことが重要です。習近平さんの言葉に「日本と中国は、引っ越すことができない」というものがありますが、や はり喧嘩しないで仲良くするしかないという気持ちでいることが大切だと思います。

 中国は広いので、それに賛成しないという人もいるかも知れません。しかし、全員が賛成するということはどこに行ってもないわけです。これから少しずつ変わっていけばよいでしょう。

 日中関係は政治の交流に頼りすぎて、良いときと悪いときの両方があり、国について批判されると怒ったり争ったりします。しかし、今後は出来るだけ政治だけに頼らず、民間の交流を強くしていくべきです。民 間レベルでもっとお互いに幅広く行き来することが肝要です。

丹羽 宇一郎

丹羽 宇一郎(にわ ういちろう)

略歴

1939年生まれ。現在、公益社団法人日中友好協会会長。1962 年4月伊藤忠商事入社、2004 年同社取締役会長に就任。2010 年6月~ 2012 年12月、民間出身初の中国駐箚特命全権大使。2013 年4月早稲田大学特命教授に就任。主な著書:『死ぬほど読書』(幻冬舎新書刊)、『戦争の大問題』(東洋経済新報社刊)、『日本の未来の大問題』(PHP研究所刊)など

※本稿は『月刊中国ニュース』2018年8月号(Vol.78)より転載したものである。


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