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【10-001】上海世界博覧会便り

寺岡 伸章(独立行政法人理化学研究所 中国事務所 準備室長)     2010年 7月27日

 7月上旬、上海世界博覧会を観に行ってきた。僕は北京に住んでいるが、知り合いの中国人や日本人に「行く、行かない?」「どうだった、面白かった?」と訊いてみた。そこで分かったことは、国籍に関わらず、30歳以下の若い人は「行きたい」「面白かった」と言い、30歳代以上は「興味がない」「疲れた」「並ぶのはこりごり」と言っていた。

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 世界博は夢を売る場なのだ。若者は自己の夢実現の未来像を世界博の雰囲気の中に投影している。人生の厳しさを味わった者(おじさんやおばさん)には世界博は過ぎ去ってしまった青春でしかなく、疲れるだけの死の行進にしか映らないのだろう。

 実際世界博にでかけてみると、その通りだった。夏休みに突入していることもあり、家族連れと若者のグループが大半である。中年の男女は疲れて日陰のベンチで横になっている。自分の人生の真実をあますところなく露呈している。老人なんて見かけやしない。おそらく、権力のある老人たちはずるくも混んだパビリオンに裏口から入り、「こんなもんか」と思い、感激することもなく帰って行くのであろう。

 若者は5時間待とうが、3時間立ちっぱなしであろうが、疲れないのだ。なぜならば、彼らには将来の明るい夢があるからだ。オリンピックが若者の祭典と呼ばれるように、世界博覧会も若者の祭典なのだ。上海博覧会で得たイメージは彼らの心の中に生涯残るであろう。後世畏るべし。そういう意味では、中国政府は若者に夢を与えることに大成功したのである。

 大阪万博の際には日本人は将来に明るい夢を抱いていた。そのころ日本人は元気があって、まだ若かった。でも、バブル経済という頂点に酔い、それが弾けるとずっと二日酔いに悩まされるようになった。中国人は今高度経済成長と明るい未来に期待を膨らませている。将来日本のような停滞社会を経験することになるのか。歴史は繰り返すのか。

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 僕が行った日は午後1時30分で入場者数が40万人に達する寸前だった。こんなに大勢のひとが入場していても広大な敷地に広がっているため、人気のあるパビリオンに並ばない限り不愉快には感じない。

 僕はパビリオンに並ぶと時間の無駄になると思い、端から端まで物見遊山の気持ちでぶらりぶらりと歩いてみた。お陰で日頃の運動不足が少し解消された。疲れるとベンチで休んだり、人気のないパビリオン(バングラディシュ、モンゴル、イラン、アルゼンチン、チュニジアなど)に入館して、クーラーの恩恵に預かったりした。ほっと一息。生き返った。

 全体を歩いてみて感じたことを書き残しておこう。

 まず、世界各国のパビリオンの配置である。逆三角形の中国政府パビリオンを中心に世界地図のように各国のパビリオンが配置されている。中国パビリオンのすぐ近くに当然のように台湾パビリオンがある。中国に国境を接している北朝鮮、韓国、ベトナム、インド、ネパール、中央アジア諸国はやはり中国パビリオンにほど近い。日本は韓国パビリオンよりも遠い極東に配置されている。

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でも、日本パビリオンは人気があるのだ。日本産業パビリオンも中国人の若者の心を捉えていた。5年前中国全土を駆け抜けた反日デモはどこに行ったのだろうか。日本に対するイメージは格段によくなっている。日本人は中国人に尊敬されていることを忘れずに。

 中国周辺国のパビリオンよりも遠いところには東南アジアと中東のパビリオンが配置され、それよりも遠いところに、ヨーロッパ諸国のパビリオン、アフリカ諸国のパビリオン、そしてアメリカ大陸のパビリオンが一番遠くにある。地球儀を太平洋の中央でハサミを入れて、広げたと思えばいい。日本とアメリカは両端にあるのだ。お互いに一番遠い。これは決して、中国政府が日米同盟を切り裂こうとしている意図を表したものではない。もしそう考える者がいたら勘違いにもほどがあると言える。

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 パビリオンの建物のデザインは見ているだけで楽しい。写真をほとんど撮らない僕は面白い造形美を発見しては、盛んにシャッターを切っていた。特に、ヨーロッパ諸国のデザインは洗練されている。上海世界博覧会でどこに行こうか迷っているひとには、まずヨーロッパのパビリオンが固まっているC区に行くことをお勧めする。夜になるとライトアップするので、夢のような世界に変貌する。若い女の子を連れていけば喜ばれることまちがいない。僕は残念ながらそうできなかったけれども。なお、閉館は午後12時だそうだ。

 今年10月末まで上海世界博覧会はやっている。機会があればまた行ってみたいと思っている。入場券は入口で並ばずに買える。大人160元(約2200円)。午後5時以降入場数すると90元になる。飲料水の持ち込みは禁止だが、どこでも売っている。レストランは街よりも少し高いが、これもどこにでもあるのは嬉しい。味は少し落ちるのは仕方ない。それに上海のホテルの宿泊費は5割も跳ね上がっている。これも仕方ない。夢を見るには困難なことも我慢しなければならない。

 上海世界博覧会で夢と希望を見た中国の若者ははたしてどのような未来を築いていくのであろうか。興味津々である。(2010年7月13日)


PROFILE

寺岡 伸章

寺岡 伸章(てらおか のぶあき):
独立行政法人理化学研究所 中国事務所 準備室長

1956年10月生まれ。東京工業大学総合理工学研究科電子化学専攻、修士学位。

職 歴:

1982年 科学技術庁入省
1993年 動力炉・核燃料開発事業団北京事務所次長
1994年 科学技術庁研究情報ネットワーク企画官
1996年 科学技術庁大型放射光施設推進室長兼基礎研究企画官
1997年 郵政省国際協力課企画官
2000年 タイ王国国立科学技術開発庁長官顧問
2001年 国立極地研究所事業部長
2005年 独立行政法人理化学研究所総務部主幹
2006年 独立行政法人理化学研究所中国事務所準備室長
2007年 独立行政法人科学技術振興機構中国総合研究センター・フェロー(兼)


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