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【11-003】中国の大学「緑色」化への取り組み実例

邢 嘉驊(中国総合研究センター フェロー)     2011年 4月12日

はじめに

 この3月に中国では第12次五カ年計画が採択された。エネルギー問題、環境問題の解決が主要な社会的課題となっているなかで「緑色発展(Green Development)」と いう単語が公式に用いられることになった。筆者が所属する科学技術振興機構中国総合研究センターでは第12次五カ年計画における中国版グリーンイノベーションについての調査研究を行っている。このほど、本 調査に関連して、中国で有識者へのインタビューを行い、中国における「グリーン」の考え方、包括する範囲、また、どれほど中国社会に浸透し、実際に社会でどのような取り組みがされているか北京、上 海周辺で現地調査をしてきた。インタビュー内容や調査結果については後日報告書でご報告するとして、今回見学させてもらった北京市にある対外経済貿易大学で実施されている「節約型」キ ャンパス作りについてここで取り上げたい。1つの大学としてはかなり大規模な造改築をして大学のグリーン化を進めており、中国においても先駆的な試みであると評価されている。

「節約型キャンパス」に向けた大学キャンパスの改造

 対外経済貿易大学は北京市の中心部、朝陽区に位置する国立大学である。1951年に創立、教育研究レベルが高いことから1997年には中国政府から「211工程」大学に指定され、国 家から重点的に注力されている。キャンパス面積は約344,000 m2。2004年からこのキャンパスを「節約型キャンパス(節約型校園)」にする改造が始まった。主な「節約」の対象は、水、天然ガス、エ ネルギー、電力、及び、排出物の削減である。中国の第11次五カ年計画で示された「節能減排(エネルギー節約と排出削減)」の合言葉にまさしく合致した試みだ。これらを実施するため、大 学では2004年に22の節能減排のための詳細項目が設定された。2006年頃から本格的に施設が稼動をはじめ、現時点では既に21の詳細項目が完了し、節約の成果も数字になってはっきりわかっている。エ ネルギー・資源節約の面だけでなく、コストの面でも大きな効果を上げているという。見学中に見聞きしたことを中心に、また大学の「節約型キャンパス」のパンフレットも参照しながら、以下、キャンパス内の「 節能減排」実施方法について述べたい。

写真

キャンパス内の街灯。太陽光発電

電力

 キャンパスを歩いていてまず目に付くのは、街灯に太陽光パネルが設置されているところだ。このような街灯は計420本設置されており、晴れの日は基本的に太陽光充電だけで一晩の点灯に足りるそうだ。改 造計画により、キャンパス内の電力は中央コントロールされるようになり、配電室、配電システム、変圧器等も省エネ型に変更された。キャンパス内スマートグリッドが導入され、共通部分には人感センサーが設置され、無 駄な電力消費を細かく削減でいるようにしている。また、部屋の照明も全て省エネ灯に交換されたという。これらの対策により、年間消費電力量は導入前(2006年)1313万キロワット時だったものが、2007-0 9の3年間の年平均で896万キロワット時まで縮小でき、年間電気代は919万元から628万元となり約32%の節約になったという。

 節約型キャンパス実践のための主要施設が集まっているエリア内を案内してもらった。

図1
写真

施設内部にはスローガンが掲げられている

 キャンパスマップの赤丸内にそれらの施設が集まっている。

 そのひとつが水処理施設である。キャンパス全体で年間63万トンの水が消費されている。日本の大学に比べると一桁多い、かなり大量の水を消費しているように思われるが、中 国の大学では学生のほとんどが学内の寮で生活する。そのため、住居棟で使用する生活用水、特に入浴用水は膨大な量となる。対外経済貿易大学では約15000人の学生と教員がキャンパス内に居住している。そこで、大 学は入浴排水と雨水を回収し、再利用することを決めた。キャンパス地下に雨水回収の配管と、住宅棟からの入浴排水回収のための配管がされ、排水がマップ赤丸内にある浄水施設へ集まるシステムを整えた。また、浄 化後の水が中水として再利用できるように、施設から中水を送り出す配管も新たに配備された。中水はトイレ用水や芝生等のスプリンクラー水、暖房循環水などに利用される。こ こで使われている浄化装置は毎日1000トンの処理能力を持ち、メーカーはドイツHuber社のものだ。浄化水の浄化度も高く、施設屋上にある最終過程直前の水溜めでは鯉が元気に泳いでいた。「 ここまできれいな水にできるんだよ」と水浄化施設の所長が誇らしげに説明してくれた。既に3年以上稼動しており、平均で年間41万トンの排水を処理している実績を挙げている。つまり、約70%の 排水が再利用されていることになる。

 また、所長は、資金面でも大きく節約できていると説明してくれた。北京市内の上水道水費が5元/トンに対し、キャンパス内の浄化コストは2元/トン、よって年間節約額は123万元になる。施 設建設や配管に合計で400万元の費用がかかっているが、2006年に始動して既に初期設備投資費も回収できている。配管の交換や維持費を考えても、今後は水の再利用が大学の経費節約になるという。

写真

水浄化施設の入口/水浄化施設の屋上/鯉が泳げるほどきれいな水になる

天然ガス

 北京市では一般に天然ガスによる給湯・暖房が用いられている。この背景には、大気環境の面から、北京オリンピック開催に伴って政府が市内の石炭から天然ガスへの代替が強く推し進めたこともある。キ ャンパス内の温水、暖房も天然ガスボイラーで供給されていたが、ここで使う天然ガスを如何に削減し節約するかが課題であったそうだ。

方法として、まず、キャンパス内の全ての建物(後述の「新図書館」除く)の空調管理をきめ細かく、時間分割、階分割して中央管理するシステムを導入し、無駄な熱供給を削減した。システムは中国企業の「 益可来」と大学担当者が共同で開発したそうだ。次に、ボイラー、熱源の方の対策では、天然ガスの利用効率を高めるため、余熱回収できるボイラーに改造した。先に紹介した中水も使うため、こ のボイラー室は水処理施設のすぐ隣にある。

 また、太陽熱温水供給システムとの併用も行っている。二つの住居棟やボイラー施設の屋根には太陽光パネルが設置されており、現在、寮 の入浴用水と学生食堂の食器洗浄用の水は主に太陽温水で賄われているそうだ。なるべく天然ガスを使用しないように、温水曹の温度を管理し、異なる温度の複数の温水曹の水を混合して供給法なども導入している。ボ イラー室には70~160℃までの蒸気温度を調整可能なボイラーが4台常設されているが、現在は需要が多くてもボイラーの稼動は2台で十分だそうだ。コスト面では、設備費は最初の2年で回収が終わっており、現 在年間約30万m3の天然ガスの節約により、約60万元の節約ができているという。

 また、建物の外壁に断熱材や二重窓を導入するリフォームが順次進められている。これにより、冷暖房の効率化がはかられ54%のエネルギー節約になるという計算だ。

写真

余熱利用ボイラーを説明しているボイラー室室長/ボイラー室横にある全キャンパスの空調管理システム/学生寮の屋上に給湯用の太陽光パネル

地下水利用冷暖房

 2006年に新設された新図書館には、比較的新しい技術である地下水利用の冷暖房システムが導入されている。図書館横に穴を掘り地下約150mの深さから地下水を組み上げ、地 下1階にあるポンプ室で循環させている。館内の室温を常時モニターし、室温変化に応じてポンプスピードを自動調整するシステムが組み込まれている。天 然ガスボイラーを用いる冷暖房を使うより電気代を3分の2節約できるそうだ。ただし、ポンプ室の管理人によると、地下水循環による土壌水質汚染が懸念されているため、近 々北京市の条例によりこの地下水利用冷暖房は利用できなくなるということだ。今後、地熱エネルギー利用システムに移行する予定だという。既 にキャンパスの別の場所では毛細管建材を使用し地熱冷暖房システムを取り入れた研究棟の建設が始まっている。

 余談だが、この新図書館は蔵書は110万冊。閲覧、学習スペースのほか、PCルーム、会議室や貴賓室、講堂なども含まれている。学生が気分転換に外気と緑を楽しめるようにと館内に屋上庭園もある。入 口付近には新聞見開き大のタッチパネル式の電子新聞閲覧機が数台設置されており、学内に住む学生の情報元となっている。約50紙と契約しているそうだ。私の目的が大学の節約型キャンパス見学であると聞いて、館 内を案内してくれた副館長は「これも資源の節約だよ。紙媒体の新聞を毎日購入するとものすごい量になる。それに、たくさん読まれると新聞も汚くなる。こうすれば、後のアーカイブも楽だし、欲 しい記事だけプリンタに送信すればいい」と説明してくれた。もちろん、入館記録の本の貸出と返却も無人化されている。おそらく中国においては最新鋭の設備が備わった図書館であり、外部からの見学者も多いらしく、館 内限定で図書館紹介ウェブサイトも作られていた。

写真

新図書館/地下水ポンプの制御装置

建物リフォーム

 全てのエネルギー消費の節約に繋がることとして、建物外壁に断熱材を使用し、二重窓を導入するリフォームも段階的に進められている。これにより、冷暖房の効率化がはかられ54%の エネルギー節約になるという計算だ。

おわりに

 ひとつの大学でここまで真面目に低炭素化に取り組んでいるのは、日本でもほとんど例がないと思われる。見学を終えて感心しきっていた私に、見 学の手配をしてくださった同大学学長補佐兼国際経済貿易学院長の趙忠秀教授は「計画から10年かけて徐々に徐々にやっとここまでの形となった。我々はこうして低炭素経済の研究とともに、実 践して見本を示しているのだ」と語ってくれた。

 中国には低炭素技術を扱う企業も多くあるし、オリンピックや万博等では低炭素や緑色に対する中国の姿勢の宣伝も多く発表している。やや宣伝過大の印象を受けることもあるが、そ れは低炭素に取り組んでいる現場があまり日本に紹介されていないからだろう。大々的に発表される自治政府レベルの低炭素やエコプロジェクトに比べると大学プロジェクトは規模が小さいかもしれないが、対 外経済貿易大学が率先して行ったエコキャンパス改造は現在他の中国の大学にも広まっている。


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