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【11-005】2020年にかけての中国版グリーン・ニューデイール

範 雲涛(亜細亜大学アジア・国際経営戦略研究科 教授)     2011年 8月 8日

一.地球温暖化防止対策面では中国はただ乗り者か?それとも「優等生」か?

 筆者は、日本人ビジネスマンやマスコミ関係者等から筆者がよく聞かれる質問として、「京都議定書締結国には、中国が入っているでしょうか?」とか、「中国は、改革開放30年にわたり、高 い経済成長を遂げている裏には、環境エネルギー問題を無視してがむしゃらに成長一辺倒の産業政策運営を行ってきた結果、いわゆる環境問題のデパートという負の課題を重く残しているから、気 候変動対策もまったく手を付けていないのではないでしょうか?」等といった素朴な質疑をセミナーや各種研究会の席で度々聞かれたりして唖然としてしまう場面に出くわす。

もちろん、実態的には、中国が1997年には、もっとも早く京都議定書に調印した主要国の一つであり、現時点までのCOP16国際気候変動枠組みをめぐる交渉では、京都議定書メカニズムを次期約束期間( 2013年−2020年)にいたっても守ろうとするスタンスで積極的に関与しているので、京 都議定書に定められた絶対的な排出削減目標たるノルマ約束国アネックスワンを除く発展途上国に過ぎないことを認識してもらえれば、かかる疑問や疑惑めいた質問が自ずと解けるかと思われる。

二、中国版グリーン・ニューデイール政策幕開け

 今年3月末に公表された第12次五カ年計画案要綱の全体像を受けて、低炭素社会構築に向けた政策実施プロセスも7月初旬から8月初旬にかけて次第に鮮明になってきた。

 今回の第12次五カ年計画案の公表により、今後の中国経済社会の成長シナリオを低炭素クリーンエネルギー主導型の持続可能な経済社会として確立できるか否かの正念場を迎えることになる。

 その着実な政策実現を約束できる政策手段やオプションとして以下の通り、10項目にわたる総合的な施策がこのほどついに打ち出されている。

  1. 気候変動対応のスペシャル企画を制定すること
  2. 低炭素エコノミー実験作業を全面的に展開させること
  3. 市場経済メカニズムおよび経済手段を積極的に利用し温室効果ガスを抑制すること
  4. 低炭素製品や低炭素産業に対する認証制度を制定すること
  5. 低炭素認証のテスティングを行うこと
  6. 温室効果ガスの削減一覧表作成能力を高めること
  7. 気候変動対策関連立法および基礎インフラ整備力の強化を図ること
  8. PR広報能力を高め、低炭素消費行動を誘発させる世論作りを提唱すること
  9. 気候変動対策をめぐる国際協力を引き続き推進させること
  10. 積極的な気候変動対策と措置を実行させること

 これまでの中国は、2006年段階からすでに地球温暖化防止対策を第11次五カ年計画枠組みに編入されており、国家戦略の重要な一環として積極的に取組んで来た。事実、2 006年から2010年までの間に、単位当たりGDP生産に要するエネルギー消費量が19.1%も下落した。標準石炭に換算すれば、6.3億トンにのぼる計算である。二 酸化炭素排出量を15億トンも削減できた計算になっており、これが2009年度日本全体のCO2排出総量を上回る数字だ。

 2011年3月末に公表された中国の第12次五カ年計画プランの中にも引き続き気候変動対策プログラムが盛り込まれており、C O2排出量の削減目標を2012年から2017年までの五カ年を通して17%削減し、主要な汚染物(COD、CDQ等)の排出削減目標を2010年度基準値に2015年には8%−10%に 設定しようとする野心的な数字目標が掲げられた。

 2011年8月初めの現時点では、すでに発展改革委員会は、二酸化炭素排出強度の拘束性ある指標ノルマを各地方都市や町村、各エネルギ—産業業者に至るまで細かく指令を公布している。あ くまでも第12次五カ年計画要綱に対応した形で気候変動対応政策の実施を確実ならしめる統計システムを作り上げようとしている。この実施は、各 地方の自治体や末端行政機関の業績と人事評価までリンケージさせる考課制度にも導入して、今後は、地方行政官、公務員たちの人事評価と問責制と連動させて政策実施の確実性を高めようとする狙いがある。

三、中国らしい欧州版EU-EST市場作りか?

 7月19日に国務院重要会議を主催した温家宝首相は、以上のような第12次五カ年計画案の実施プランに関する承認を下した。これで脱炭素社会構築に向けたメッセージを力強く発することになった。

 国家発展改革委員会のイニシアティブにより、2011年度以内に、6つの主要地方の省と8箇所の主要都市をそれぞれ低炭素成長重点エリアと低炭素ライフスタイル導入都市に指定し、資 源エネルギー循環再生を図った持続的な安定成長モデル都市を創出しようとする計画プランである。ゆくゆくは、欧州各国で実施されている気候変更取引市場(EU-ETS)を 見習った中国らしい特徴を持つ国内排出権取引制度の導入を試みる壮大な構想にまで膨らむ可能性はある。

 いずれにせよ、この度の第12次五カ年計画案が、今までの五カ年計画と比較すれば、極めて目立つポイントが「脱炭素社会への転換」を力強く宣言している強烈な印象を与えるものとなっていることは、誰 の目にも鮮やかに映るであろう。

 まずは、今回の計画の根幹をなす国内総生産(GDP)の年平均成長率が、第11次五カ年計画よりも0.5ポイント低い7.0%が目標値として設定されたことは、特筆できよう。従 来のような化石燃料エネルギー(主には石炭資源をふんだんに使用する)を効率の悪い発電設備で燃やしたりして大気汚染や水質汚染やさまざまな公害問題を垂れ流す「粗放」型成長パターンからの決別を宣言している。 

 化石燃料を除く新エネルギー/グリーンエネルギーの一次エネルギー消費構造における比重を11.4%まで引き上げようとする目標や、森林の備蓄量の新規増加分も6億立方メートルと設定していること、森 林カバー率を21.66%とすることも国内約束ノルマ指標として打ち出している。

 総じて言えば、中国は高い排出と大量な汚染を伴うエネルギー消費効率や温暖化問題を顧みない高度成長路線から180度のパラダイム転換を図って環境保全と経済成長の両立を可能とする「和諧(調和)社会」の 建設に向けてダイナミックなまでに構造改革を目指している姿勢が明確に打ち出されている。

表 第11次五ヵ年計画実績と第12次五カ年計画目標

表

 添付の第1表は、第11次五カ年計画実績と第12次五か年計画目標との並列を示しているため、表の真ん中に掲載された資源エネルギーと農地の耕地保有量や二酸化硫黄、メ タンガス等の削減目標はいずれも法的な拘束性を持つ強制的な数値目標となっていることは、確認できよう。

 まもなく第12次五カ年国民経済計画要綱に対応した形の『環境省エネ総合対策方案』が国務院より発令される見通しである。

 環境保護省が7月中旬に公布した『環境保護第12次五カ年計画向け科学技術発展計画』によれば、公的資金の思い切った導入およびモデル都市エリアのいずれに関しても排出削減対策には、目 覚ましい進展が見られた。中でも220億元人民幣(約2860億円相当)をかけて水質汚染、大気汚染、固体廃棄物3R処理と土壌汚染、ダイオキシンや環境ホルモン退治といった環境問題に当てている。財政部、D NAは第一回目モデル実験都市として北京、重慶、深圳、杭州、長沙、貴陽、吉林、新余等8箇所を選んだ。それぞれの主要都市で工業産業部門から輸送部門、民間部門、建築等幅広い部門にわたる環境・省 エネ対策のガバナンス能力を高めようとするのが目的である。

 第11次五カ年計画期間中に対応したCO2排出削減、省エネ対策アプローチは、主に産業セクターに限定していたが、第12次五カ年計画では、発電所や製鉄所、石 油コンビナート等のようなエネルギー生産部門だけには止まらず、住宅、建築、運輸・物流部門、行政機関、自治体等すべての社会のエネルギー使用セクターをカバーしているところが特徴である。政 府が財政出動を持ってESCO事業に全面的に関与する積極政策を起動し始めたのが2010年であった。そ れ以外に課税制度の上でもクリーンエネルギーやグリーンプロダクツ環境保全産業を奨励する優遇税制の導入も近い将来見込まれている。「省エネ環境保護産業発展計画ビジョン」および「 環境サービス業第12次五カ年計画」や、環境税の導入といった一連の梃入れニューデイール政策もそれほど遠くない将来には、「緑色中国文明」とのキャッチフレーズで登場してくるに違いない。


PROFILE

範雲涛

範雲涛(はん・うんとう):
亜細亜大学アジア・国際経営戦略研究科教授/弁護士

1963年、上海市生まれ。84年、上海 復旦大学外国語学部日本文学科卒業。85年、文部省招聘国費留学生として京都大学法学部に留学。9 2年、同大学大学院博士課程修了。その後、助手を経て同大学法学部より法学博士号を取得。東京あさひ法律事務所、ベーカー&マッケンジー東京青山法律事務所に国際弁護士として勤務後、上海に帰国、日 系企業の「駆け込み寺」となり、日中関係や日中経済論、国際ビジネス法務について、理論と現場の両方に精通した第一人者。著書に、『中国ビジネスの法務戦略』(2004年7月日本評論社)、『やっぱり危ない!中 国ビジネスの罠』(2008年3月講談社)、『中国ビジネス とんでも事件簿』(2008年9月 PHPビジネス新書)など。


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