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【12-003】陳彦雲氏の研究人生、中国産VRソフト開発に貢献

科学技術日報     2012年 4月 3日

 10年前に陳彦雲氏が中国科学院ソフト研究所を離れた時、指導教官の呉恩華氏は失望した。

 「当時、私はきっと戻ってくると言いました」――。そして現在、陳彦雲氏はその言葉の通り、中国科学院ソフト研究所に戻ってきた。

 若かりし頃の陳氏がソフト研究所を離れた理由は「最前線で最高の研究をしたい」であった。そして、現在戻ってきた理由は「中国独自のソフト開発に貢献したい」である。

 陳氏はそのため、ソフト研究所の研究員として働く他にもう一つの身分を選択した。目標を同じくする中視典数字科技有限公司(以下「中視典」)で技術総監に就任したのだ。

なぜ「論文は書けるのに、製品は作れない」と言われるのか

 工業での実用化と研究の差は大きい。実用化は安定性を求め、研究はイノベーションを求める。これこそが、中国のソフト企業に不足している点である。陳 氏は2000年に中国科学院ソフト研究所の博士課程を卒業すると、マイクロソフトの研究院でCG関連の研究を行った。陳氏は米国の特許を約10件取得し、かつ世界で最も権威のある、米 国で開催されるコンピュータグラフィック関連の世界最大級イベント「シーグラフ」で、論文を5篇発表した。

 シーグラフは世界のCG関連業界のアカデミー賞と称される。シーグラフは現在、毎年論文を100篇受け付けているが、過去の論文数はさらに少なかった。

 同業者が羨む成績を手にしたが、陳氏はその時、今後の進路について考え始めていた。

 「マイクロソフトは当時、一部の技術を企業に授権し産業化開発を行っていました。しかし私は純粋な研究者であり、プロジェクトから遠い位置にいました。私は当時、自分が研究しているこれらの技術が、ど のようにプロジェクトと結びつくのかを見に行きたかったのです。また、中国人は学術的には外国の論文と競争できるのに、中国のCGソフト産業はなぜ遅れているのか。そう思ったことも大きかったです」陳 氏はこのような考えに基づき、企業で勤める考えを持った。

 陳氏はその後、CADソフトウェア開発の世界大手、オートデスクに入社した。「研究院の技術がどのようにプロジェクトの中で運用されているか、同社ソフトのどの点が先進的であるのかを見たかった」& amp; amp; amp; amp; amp; amp; lt; /p>

 陳氏は3年後、理解するに至った。「工業での実用化と研究の差は大きく、実用化は安定性を求め、研究はイノベーションを求めます。Maya(3Dグラフィックソフト)が これほど大きな市場を持っている主な理由は、ソフトの開発からテストに到るまで、十分に取り組みを行っているためです。これはまさに、中国のソフト開発企業に欠けている点なのです」

 答えを見つけると、陳氏は再び中国科学院ソフト研究所に戻ってきた。

技術とプロジェクトの結合点を見つける

 企業は需要に応じて海外のソフトを簡単に購入でき、中国の同業者は顧客を見つけることができない。しかし今や同市場が拡大中で、中国ソフト開発企業が規模化のチャンスを迎えている。

 ソフト研究所に戻ってきた陳氏は、研究に没頭するつもりはなかった。「システムに関する研究により、企業に対して成熟した考え方と製品を提供したかった。短 期的にCAD等のソフトで海外企業に追いつくことは困難ですが、VR(バーチャルリアリティ)は新たな産業です。海外のソフトと技術は中国より先進的ですが、中 国のVR業界は世界トップ水準に追いつき追い越す可能性を秘めています」

 陳氏はこのような信念と考えを持ち、中国のVR産業に対して調査を行った。こうして陳氏は、中国人によるソフト開発という夢を持つ中視典と巡り会った。

 同社は2002年に設立されたVR技術ソリューションのサプライヤーで、独自の知的財産権を有するVRプラットフォームソフトを提供している。中国科学院リモートコントロール研究所との提携により、中 国初となるデジタル・アースシステムを開発し、オンラインでインタラクティブ な操作を実現できるWEB3Dを開発し、さらに北京オリンピックのVR技術のプロバイダーとなった。同 社製品は中国市場でトップシェアを誇り、長年に渡る海外の技術独占の局面を打破した。同社の製品価格は海外の同類製品の数十分の一のみで、フ ランスの某企業は同社のソフトを使用するため中国語を学習しているほどだ。同社は世界的なCG大会に参加する唯一の中国企業であり、陳氏の興味を引いた。

 VRは総合集成技術であり、コンピュータ図形、人と機械の相互作用、センサー、人工知能等の分野に関連している。VRはコンピュータを使用し、リアルな3Dの視覚、嗅覚、聴 覚等の感覚を作り出すことができる。人間は参加者として、適切な装置を使用することにより、バーチャルの世界を体験し交流することができる。

 3D動画や映画と異なり、VRの最大の特徴はインタラクティブ性であり、人とバーチャル環境の相互作用を実現する。陳氏は、「一度も銃を持ったことのない兵士も、バ ーチャル環境の中では現実のように銃を撃つことができます」と説明した。

 米国の某有名誌が、未来の科学技術水準に影響を与える10大要素を選出した際に、VR技術がネット技術に次ぐ2位となった。VR技術は海外ですでに、医療、科学研究、軍事、航空工業、工 業シミュレーション等の各分野で実用化されている。

 中国のVR技術はスタートが遅れた。陳氏は、「同技術は少数派の分野であるため、これまで重視されて来ませんでした。企業は需要に応じて海外のソフトを簡単に購入でき、中 国の同業者は顧客を見つけることができませんでした。しかし現在、同市場は拡大中で、中国のソフト開発企業は規模化を達成するチャンスを手にしています」と語った。

 中国国家自然科学基金会、中国国家ハイテク研究発展計画、863計画(ハイテク研究発展計画)等は現在、VR技術を研究プロジェクトに組み込んでいる。中関村バーチャルリアリティ産業協会も、今 年正式に設立された。

中国は少しずつ努力している

写真

 中視典の技術研究開発の代表者である陳氏は、「当社の開発グループは安定的で、技術者のレベルが高いため、私が心配する必要はありません。比較的気楽なポストと言えます」と述べた。

 自社のVRプラットフォームソフトをユーザーの需要にいかに合致させ、ユーザーにより良いサービスを提供するか。陳氏は現在このことについて考えている。これは海外で勤務していた時と同じ考え方だ。陳 氏は、中国のソフトは海外と比較して機能が劣り、細かい点での差が大きいと指摘した。

 「私たちの取り組みの方向性は、『細やかさ』です。VR業界では共通のソフトウェアプラットフォームの開発が主流となっています。このようなソフトのメリットは、ユ ーザーがさまざまなサービスを設定できる点にありますが、それは同時に、ユーザー自身が自ら手を加えなければならないという欠点にもなり得ます。当社は現在、業界別に製品をオーダーメイドしようとしています。こ れにより、その業界のユーザーが製品を手にすれば、手を加えることなくそのまま使用できるようになるのです。企業の要望以上のソフトを開発し、企業が思いつかない問題にまで考えが及ぶようになりたいです」& amp; amp; amp; amp; amp; amp; lt; /p>

 中視典は中国国内で他社に先駆けて、物理エンジンVRソフト「VPR-INDUSIM」(工業シミュレーションプラットフォーム)を発売しており、宝鋼集団、中聯重工、徐 工集団等の各社にサービスを提供している。そのため業界別のオーダーメイドは、工業シミュレーション分野から開始される。

 陳氏は、「当社は先進的技術の研究を継続しており、優秀な技術チームを結成しました。AR (拡張現実)技術も当社の研究分野です」と述べた。

 ユーザーはVRソフトを使用し、バーチャル環境と相互作用を実現することができるが、ARでは実在する物体が使用される。陳氏は窓の外の空き地を指さし、「例えば、こ の空き地にビルを建てるとどのようになるか知りたいとします。まず現在の空き地を動画として記録し、動画データの中に建設予定のビルの模型を入れます。空き地は現実に存在しますが、模型はバーチャルです。リ アルとバーチャルの共存、これがARです」と説明した。

 同技術の実用化はこれのみにとどまらない。自動車の構造を全く理解しない人が、野外で運転中にラジエーターの冷却水がなくなり、エンコした場合はどうすればよいか。「 センサーの付いた特殊眼鏡をかけてボンネットを開けば、ラジエーターの位置、操作手順、必要な道具を教えてくれます」。

 陳氏は技術とプロジェクトの最良の結合点を見出したようだ。「高品質のVR技術とサービスを提供し、世界で確固たる地位を占めたい」―これは中視典の理想であり、陳氏の目標でもある。

 「中国は近い将来、必ず世界トップ水準に追いつけると信じています。中国は少しずつ努力している」――。志を一つにする仲間たちと同じ目標に向かい奮闘する、陳氏は充実した研究生活を送っている。 

略歴

 陳彦雲、中国科学院ソフト研究所研究院、コンピュータ科学国家重点実験室博士指導員。主な研究内容は、現実感を用いた図形の作成、CG、非現実感を用いた図形の作成、バーチャルリアリティ。中 国科学院院長奨学金を獲得、中国科学院華為奨学金一等賞を受賞、全国百篇優秀博士論文に入選。国内外の有名な年会や誌上で多数の論文を発表、中国図形学年会(Chinagraph'98、C hinagraph'2000、Chinagraph'2002)で最優秀論文賞を受賞。


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