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【13-002】中国の草の根NGO(上)―NGOの台頭

2013年 8月28日

麻生晴一郎

麻生 晴一郎(あそう・せいいちろう):ノンフィクション作家

略歴

1966年福岡県生まれ。東京大学国文科在学中、中国ハルビン市の格安宿でアルバイト生活を体験し、出稼ぎ労働者たちと交流。現在はルポライターとして中国の草の根の最前線を伝える。また、東 アジアの市民交流のためのNPO「AsiaCommons亜洲市民之道」を運営している。主な著書に『北京芸術村:抵抗と自由の日々』(社会評論社)、『旅の指さし会話帳:中国』(情報センター出版局)、『 こころ熱く武骨でうざったい中国』(情報センター出版局)、『反日、暴動、バブル:新聞・テレビが報じない中国』(光文社新書)、『中国人は日本人を本当はどう見ているのか?』(宝島社新書)など。

草の根NGOとは

 NGO(Non Governmental Organizations)は非政府組織の意味。日本ではNPO(Not-for-Profit Organization、「非営利組織」の意味)の 呼称が一般的になりつつあるが、NGOもNPOもともに非政府・非営利組織であり、重きを置くのが非営利ならばNPO、非政府ならNGOになる。中国ではNPOという言い方はほとんどされない。つまり、中 国では非政府であることが重視されていると言える。

 現体制の中国では政府から独立した民間の担い手が政治・社会に関わることは厳しく制限されるが、それでもNGOは年々増えている。民政部(部は日本の省に相当)の統計によれば、1 989年に4446社だったNGOの数は、2003年年末には26. 66万社に増え、さらに08年末には41. 4万社、10年末には44.6万社に達している。

表1 中国のNGOの内訳(2010年末)
出典:中国社会科学院『2012年民間組織藍皮書』
認定NGO 未登記NGO
全体 内訳 社会団体 基金会 民営非企業単位  
44.6万社 (24.5万社) (2200社) (19.8万社) 300万社?

 しかもこの数は政府の認定を受けたNGOの数で、認定を受けていないNGOの方がはるかに多い。10年末時点で認定を受けたNGOの数は44.6万社だが、北 京大学中国政府創新センターの俞可平( ユークーピン)主任は未登記のNGOが少なくとも300万社あり、NGOの9割近くが未登記で活動しているとする(『京華時報』11年7月11日ネット版記事より)。

 本稿で紹介するNGOの多くもNGOとしての登記をせず、税制などで不利な一般会社として運営している。登記をしないのは民間団体を管轄する民政部門に加え業務管轄部門の認可が必要だからだ。たとえば、医 療ミスの被害者や不当逮捕者の支援をする団体がNGOとして認定されるためには、それぞれ医療管轄部門や公安の認可が必要であり、認可がおりる可能性はゼロに等しい。

 中国のNGO活動は、その多くがNGO登録をせず、資金難や規制の圧力を受けながら草の根の支持を受けて台頭してきた。中国には政府関係者が運営する政府系NGO(GONGO)が多数存在し、正 式に認可された意味では本物のNGOだが、NGOの本来の意味を考えれば登記上は有限会社である団体の方が正真正銘のNGOであると言える。NGOが草の根であることは当たり前だが、以上の事情により、中 国では純粋な民間のNGOを草の根NGOと呼ぶ。

NGOが増えた95、03、08年

 中国でNGOが増えたきっかけとして1995年に北京で開かれた世界女性会議、2008年の四川大地震が挙げられる。世界女性会議には世界中からNGOが参加、中 国でNGOという目新しい概念への関心を生み、フェミニズム、環境、貧困地域の教育を中心にNGO急増のきっかけになった。08年5月の四川大地震は市民活動が一般に広まるきっかけとなった。全 国的に寄付やボランティアが増え、四川大地震を機に市民活動に関心を持ち始めたと話す人は多い。

 NGOに関する中国の紹介記事を読むと、多くが以上の2つの年を急増のきっかけに挙げるが、同様に重要な年として03年も挙げることができる。

写真1

図1 「北京益仁平中心」は毎年、全国の大学生を集めて市民活動実践のサマーキャンプを開く。
有名なNGOだが、正 式には有限会社であり民間組織としては登録していない。

 03年春、孫志剛(スンチーガン)という青年が警官から暴行を受けて亡くなった事件に対し、法律学者の滕彪(タンビャオ)、許志永(シューチーヨン)、俞江(ユージャン)が 全国人民代表大会に提出した抗議要求が受け入れられた [1] 。この事件を契機に権利・人権に対する意識が高まる。折から中国では北京五輪の開催決定やWTO加盟で国際社会との連携強化とともに外国の監視の眼が厳しくなり、地 方では解決しえない政府絡みの案件が北京で解決することが起き始めていた。03年春はSARSの猛威が振るった時期でもあり、政府が実情を隠そうとした中で、市民が政府を監視しようとする機運も生じた。

 筆者がよく知る北京益仁平(イーレンピン)中心、公盟(コンモン)などのNGOは03年創立であり、特に人権問題に取り組むNGOや未登記の草の根NGOが03年を機に増えた。95年頃とは異なり、知識人だけでなく、市 民の担い手が増え始めた時期でもある。

けっして歓迎はされないNGO活動

 NGOは増えたが、現在の体制下で特定のNGOがあまりに勢力を伸ばすことは脅威とされる。特に古い体質が残る地方では、NGO活動が歓迎されづらく、いつ潰されるかわからない。最近の葉海燕(イエハイイエン)の拘束もそうしたケースだ。

 葉海燕は1975年生まれ。「流氓燕」(リュウマンイエン)のペンネームで著名ブロガーであり、05年にNGO「中国民間女権工作室」を設立。当初は湖北省武漢市、10年からは広西チワン族自治区博白(ボーバイ)県に事務所を構え、売春婦の健康、HIV感染予防、売春婦の人権擁護などの活動を行なってきた。

写真2

図2 内陸部でHIV感染者の支援などを行なうNGO「郷村紅糸帯」。中列左から2人目は葉海燕。

 13年5月30日、博白県公安局は葉海燕を拘束した。警察の発表によると、葉海燕は彼女のブログ記事に抗議した女性3人に背中を刺すなどして軽傷を負わせ、通 報を受けて駆け付けた警官に現行犯逮捕されたという。ただし、この事件は警察によるでっちあげの疑いが囁かれていた。と言うのも事件発生当時、彼女は自身の中国版twitter「新浪微博」(シンランウェイボー)に リアルタイムでコメントを残しており、それによれば、11人が彼女の事務所に押し掛け、彼女は殴打されて警察に通報したとあり、警察発表とまるで食い違うからだ。[2]

 しかも拘束される2日前に彼女は海南省万寧(ワンニン)市で、同市の小学校校長による教え子淫行事件に抗議するデモ活動を行なっていた。デモ活動は同事件を現地政府の不祥事として広く知らしめる働きをしたので、拘 束された本当の理由はデモ活動にあったのではないかとの疑問が彼女の関係者たちから上がった。

 結局彼女は6月12日まで拘束され、釈放されてからも事務所のあるアパートの階下で数十人が罵声を浴びせるなどの嫌がらせを受け [3] 、彼女のブログ記事によれば7月上旬に博白を追い出され、N GO活動は事実上ストップした。

 NGO「鄭州和而不同(フーアルプートン)」の責任者としてHIV感染者の支援などに取り組む常坤(チャンクン)は「彼女は地方政府に仕組まれた罠にはまってしまった」と筆者に語った。常坤自身、故 郷の安徽省の農村で高校生向けの教育施設を営み、その活動が地元政府の圧力で中止に追い込まれた経験を持つ [4]

写真3

図3 安徽省臨泉県の教育施設「常坤の家」の前に立つ常坤

 彼が罠と言うのは、葉海燕の拘束が地元の巧妙な手だということ。彼女の拘束の理由は警察発表では傷害事件からで、関係者たちは海南省でのデモ活動を挙げるが、実際にはどちらも本当の理由ではなかろう。辺 境の博白県にとり、海南省で起きた事件などはどうでもいいはずだ。拘束の本当の理由はただ彼女を博白県から追い出したいからであり、その絶好の機会として、海 南省でのデモ活動を口実として利用したのが真相であろう。

 地方政府や警察は、いざとなればNGOをいとも簡単に潰すことができる。NGOの多くは見逃された中で活動できているにすぎない。では、いったいどのような人が何のためにNGOの担い手になるのか。そ の点は次回に述べる。



[1] 麻生晴一郎『反日、暴動、バブル 新聞・テレビが報じない中国』光文社新書,2009年,p.162

[2] 葉海燕の拘束および次の段落の海南省での事件については「中国女性・ジェンダーニュース+」の中の「海南万寧の女子小学生の性侵害事件と女性運動」に詳細が書かれている(Last Accessed 26 August 2013)

[3] BBC中文網『女權工作者葉海燕獲釋後遭到騷擾』:(Last Accessed 26 August 2013)

[4] 南方都市报2011年4月8日《公益书屋“常坤的家”被摘牌》。転載記事(Last Accessed 26 August 2013)


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