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【17-005】一台あればどこでも行ける! 中国で広まる携帯電話の多様な応用

2017年 5月11日

楊保志

楊保志(風生水起);広東省科技庁科技交流合作処副調研員

河南省潢川県出身。入学試験に合格し軍事学校に入学。26年間、軍務に就き大江南北を転戦し、その足跡は祖国の大好河山に広くおよび、新彊、甘粛、広東、広西、海南などの地域で銃を操作し弾を投擲した。メディア、組織、宣伝、人事などに関する業務に長年従事し、2013年末、広東省の業務に転じた。発表した作品は『人民日報』『光明日報』『中国青年報』『検査日報』『紀検監察報』『法制日報』『解放軍報』『中国民航報』などの中央メディアの文芸・学術欄に、また各地方紙、各軍関連紙軍兵種報紙にも掲載され、『新華文摘』『西部文学』『朔方』などの雑誌や、ラジオ、文学雑誌にも採用され、“中国新聞賞”文芸・学術欄銀賞、銅賞をそれぞれ受賞し、作品数は500篇に迫る。かつては発表を目的に筆を執っていたが、現在は純粋に「自分の楽しみ」のためとしている。

 中国で今、携帯電話を持たないことは想像できない。携帯電話は今や、油・塩・醤油・酢・茶などと同様、中国人の暮らしに欠かせないものとなっている。

 信じないというなら、携帯電話に一日触らないでみてくれと中国人に頼んでみればいい。二日触らないでくれと言ったらもっといい。一日で、そわそわして居ても立ってもいられなくなる。二日経ったら血を見る騒ぎになるかもしれない。

 中国にはこんな笑い話もある。女房はしばらく留守でもいいが、ケータイだけは手放せない――。

 中国人にとって携帯電話はこれほどに重要なのである。交際やコミュニケーション、連絡、社交のために必要なだけでなく、中国人の衣食住や交通になくてはならない「神器」である。

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携帯電話の使用に興じる人びと

 中国では2006年以降、モバイルインターネットの普及が急速に進み、クライアント端末としての携帯電話はますます中国人に歓迎されるようになっている。水道・電気・通信・通話代金など各種の支払いではすでに銀行窓口に取って代わり、緊急・リアルタイム・細切れの消費を支えるツールとなっている。

 2012年に中国政府が「インターネット+」戦略を実施して以来はとりわけ、中国人の生活モデルや消費モデルをひっくり返すほどの変化が現れている。人びとは、社会保険や積立金、信用度などの自分の情報を携帯電話で閲覧できるだけでなく、出国許可や営業許可、運転免許の手続きも携帯電話でできる。

 衣食住・交通での消費を携帯電話で済ますことはここ数年で現実となっただけでなく、主要な消費方式としてますます発展しつつある。スマートフォンに少なくとも1枚のお金が十分に入った銀行カードと結びつけておき、適宜アプリをダウンロードしておけば、中国のどこに行っても困らない。

 レストランでご馳走を食べたら、携帯電話を取り出して、店の提示する2次元コードに「サッ!サッ!サッ!」とかざす。そのまま店を出て行っても、引き止める人は誰もいない。

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何を食べたの? いくら使った?

 デリバリーを頼んだら、オンラインで先払いしておくか、配達にやって来た彼女に「サッ」と携帯を差し出す。彼女は不満を言うどころか、笑顔を返してくれるだろう。

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デリバリーを頼みましたか? いいえ、こちらは「海底撈」。
「蒸功夫」ではありません。間違いですよ。

 故郷に帰って家族に会う急な用事ができて、飛行機や列車のチケットが必要になった?でも慌てることはない。携帯電話を開き、航空券販売サイトか「12306.cn」(鉄道旅客サービスセンター)を開いて、予約したい日付と列車(便)を選び、「支付宝」(アリペイ)または「微信」(WeChat)で支払えばいい。

 夜に散歩に出て、財布を忘れたが、スイカを食べたい。そんな時でも大丈夫!携帯電話があれば、スイカを食べて、店のコードをスキャンすれば万事オーケー。スイカを食べたら歩いて帰りたくなくなった?配車アプリの「滴滴打車」を使えばいい!よほど辺鄙な所にいるか、通勤ラッシュの時間でなければ、オーダーを出して数分で車は着く。高級車でも中級車でも、懐次第で消費ができる。いったん予約が済めば、頼んだあなたが王様だ。ドライバーがルートや乗客を勝手に変えることはできず、さもなければ減点や運営資格取り消しの処罰がある。

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2次元コードを読み込めばスイカはあなたのもの

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寧夏名産のクコに2次元コードの「身分証」ができた

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配車アプリ「滴滴専車」

 今ではネット販売や「淘宝」(タオバオ)の利用が盛んだが、郵便局や銀行での送金や振込などはもう古く、そんなまどろっこしい手段を使う人はいない。何か買いたくなったら、携帯電話を開き、品物を選び、確認・注文するだけ。支払いはオンラインで、相互の信用に基づいて行われる。気前のいい店舗なら着払いも選べる。

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デパートで。さてどのコードをスキャンしよう?

 こうした場面ではすべて、携帯電話で支払いがなされる。どんな時にもでき、現金の動きはまったくないのに、願望が一つひとつかなえられていく。こうした消費の仕方は、消費モデルを変えているだけでなく、人びとの行動方式や思考方式、人間関係の構造も変化させている。

 携帯電話でスイカが買えるなら、サツマイモだって醤油だって、輪ゴムだって、携帯電話のスキャンで買える。こうした消費モデルは、北京や上海、広州、深センなどの一線都市から三・四線都市へと浸透しているだけでなく、中国の広大な農村地区でも広く現れつつある。私がじかに見たものでは、農村では春節、携帯電話の「微信」(WeChat)アプリでお年玉合戦を繰り広げてお祝いを示す光景が当たり前になっている。近所でのお金の貸し借りや振込も、多くは微信アカウントを通じて行われる。今年は一部の結婚披露宴で、お祝儀の真紅の袋が姿を消した。包みたい金額を記入し、花嫁の首にかけられた2次元コードスキャンするだけ。その後は式場に入って大いに飲み食いすればよい。

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ほかほかの焼餅だよ。お金は無用。コードをさっとスキャンして!

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花嫁を連れ去りたければまずはドアの上のコードをスキャンして!

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コードを読み込んで私を連れて行って!

 携帯電話は中国では今や、あってもなくてもよい交際ツールではなく、中国人の日常生活に欠かせない道具となっている。中国政府の工業・情報化部の2012年のデータによると、中国の携帯電話ユーザーは2011年に9億人を超え、一年後の2012年には初めて10億人を突破した。そうなった原因の一つは、固定電話を使わずに携帯電話を使う人がますます増えているということがある。固定電話は2012年の1月から2月までで82万8千戸減り、2億8428万7千戸を残すだけとなった。固定電話があれば基本料がかかる場合もあるため、高齢者がいない多くの家庭はもう固定電話を使わなくなっている。

 台湾の『電子時報』が2015年に引用している中国工業・情報化部のデータによると、2015年5月末までに中国の携帯電話ユーザーは12億5600万人に達し、同4月から0.36%、2014年同月から7.82%増えた。中国の90.8%の人が携帯電話を使っている計算となる。

 携帯電話のユーザーのうち、3Gネットワークを使っている人は4億6400万人(36.94%)。インターネットを利用している人は8億5700万人で、総量の68.24%を占めた。中国の携帯電話ユーザーは2015年の時点で13億人。2017年の現在、14億人には達しているだろう。

 中国の総人口は14億人で、老人や子どもなどを除くとすれば、ユーザーが14億人というのはおかしいのではないかという人もいるだろう。中国では今、経済的に独立した人であれば間違いなく携帯を持っており、2つ以上の携帯を持つ人もいる。ある人は、特定の仕事仲間との間で別の番号を持つ。ある人はプライベートのため、一部の人のために番号を作る。ある人は流行を追って、必要もないのに新しい携帯を買い、古いのは捨てられないまま、新しいのをみせびらかして歩いている。4つも5つも持って、電話する時にどれでかけていいかわからなくなってしまう人もいる。

 携帯電話の保有数が比較的少ないのはやはり農村で、老齢の夫婦が1台の携帯電話を共有しているというのは普通だ。小学3年生以下の子どもには、学校が、携帯電話を持つことをすすめていない。もっとも子どもたちの多くはもう使い方をちゃんと知っている。

 携帯電話が現在の中国でいかに普及し、使われているかは、観光業を見るとよくわかる。筆者が「中国政府網」(www.gov.cn)から得た情報によると、2017年の春節(旧正月)で、中国各地の国内観光客は延べ3億4400万人に達し、観光総収入は4233億元にのぼった。「携程」(シートリップ)のデータによると、今年の観光市場の最大の注目点は「アップグレード」にある。行先は国内から海外に、宿泊はホテルから民宿に、予約はオフラインからオンラインへなどと、サービスは全面的にアップグレード。宿泊から交通、ガイド、入場券に至るまで、過去には想像もつかなかった事が、今では携帯電話を開くだけで全部済んでしまう。

 これほど大きな消費者層は、強大なモバイルインターネットがなければ支えられないし、多くの携帯ユーザーが行動しなければ実現できなかっただろう。

 昔の町並みが残る(雲南省の)麗江古城のある担当者によると、古城と周辺の宿屋は2014年には1000軒余りだったが、この数字は今では既に1200軒を超えている。今年の春節はどの宿もほぼ満員だった。利用客へのサービスを便利にするため、宿の経営者は皆、微信でグループを作り、自分の民宿が満員になったら、客をほかの宿に紹介するようにした。

 また広州で仕事をする梁さんは、「春節には海南へ旅行に行った。自分で車を借りて回ったが、レンタカーの手続きは携帯電話のアプリで済ませた。とても便利だ」と語る。発展を始めたばかりの各種の交通アプリは、便利で効率的な方式を外出に提供している。「インターネット+交通」は、人びとが生活の中ですぐに感じられる体験となっている。

 昨年からは、「摩拜単車」「小鳴」「小黄」「小藍」などのレンタサイクルが次々と一線都市に上陸し、一部の二・三線都市でも普及し始めている。利用には料金は要らない。ほとんどの場合は無料だ。携帯電話でアプリをダウンロードし、一定の保証金を入金するだけ。コードを読み込めば、「カチャッ」という音で電子錠が開く。そうすればもう、水滸伝の戴宗(たいそう)のようにさっそうと町を走り回ることができる。

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2次元コードでレンタサイクル。便利で安く、使いやすい

 携帯電話の普及が金融業にもたらした変化は中でも際立っている。業界関係者の最近の話によると、従来型の銀行は現在、急速に消失しつつある。中国の15銀行の窓口外業務の比率は90%を超え、窓口外の取引数は通年で1777億回に達し、前年から63.68%も急増した。中国の4大銀行(工商銀行、農業銀行、建設銀行、中国銀行)は今年、5万人を超える人員削減をするという。

 この現象が発生した原因は、携帯電話の普及と使用が広がったことにある。支付宝や微信などの複数のプラットフォームでは、インターネットを通じた携帯での支払いができるようになり、携帯電話はモバイル銀行に変わり、人びとの消費方式を完全に変え、中国人の消費水準も大きく引き上げ、量と質の上での画期的なブレークスルーを実現した。

 中国のモバイル決済の規模が日本のGDPを超えたと日本人が驚き、中国のモバイル決済は米国の50倍近くだと米国人が驚くのも不思議ではない。アップルのティム・クックCEOは、中国のお婆さんがモバイル決済でスイカを売っているのを知って、中国への見方を徹底的に改めたという。

 人民銀行(中央銀行)のデータによると、2016年、中国のモバイル決済業務金額は157兆5500億元に達した。非銀行決済機関で生じたオンライン決済金額は合計99兆2700億元で、前年から100.65%伸びた。中国は世界第2の経済国だが、2016年の通年GDPは74兆4千億元にすぎない。銀行カードによる現金の引き出し業務は10.46%減り、銀行カードやクレジットカードの発行量にもブレーキがかかり、6.25%減った。

 中国の一・二線都市では80%の場面で現金が必要なくなっている。三・四線都市やさらに小さな県城(県政府所在地)へもますます広まっている。携帯電話だけ持って外出するのは今ではおかしくはなく、携帯電話だけ持って外国に行くことさえも現実となっている。

 最近はネットでこんなコメントを見かけた。「米国が誇っていたクレジットカード時代を中国が飛び越えてしまうと誰が予想しただろう。世界で最も人口の多いこの国で、現金消滅を知らせる最初の鐘が鳴り響くと誰が考えただろうか。馬という姓の二人の普通の中国人(アリババの馬雲とテンセントの馬化騰)の作った携帯ソフトが、一年の取引量で日本のGDPを超えることになると誰が考えただろうか」。これもすべて携帯電話によるもの。すべてはインターネット・情報化時代の到来の産物である。

 こうした事実は、中国政府が近年実施している「インターネット+」という国を挙げた戦略が、賢明で正しく、遠い未来を見据えたものであったことを示している。中国は後発でありながら、他国を一気に抜いてその分野でリードするポジションにのぼりつめた。この道は広大な道であると同時に、世界各地へとまっすぐにつながる道でもある。

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2次元コードが幕地に現れる日も遠くはない?

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「微信」を使ったフォトプリンター