【08-001】知るほどに膨らむ日本への興味

朱 玲莉(湖南師範大学日本語科教師)  2008年4月20日

 私は、2002年秋に来日、06年3月まで文部科学省の国費留学生として相前後して滋賀大学教育学部、滋賀大学大学院修士課程で勉強させていただきまし た。戻って、06年9月に天津南開大学日本研究院大学院博士後期課程に進学した後、在籍のまま07年4月に再び来日し、08年3月まで交換留学生として一 年間国学院大学大学院に留学しました。初めて来日した時のことは記憶になお新しいです。青い空と鮮やかな紅葉が目に飛び込んでくる、穏やかで美しい季節で した。足掛け6年に及んだ日本での留学生活を振り返って、あまりにも速く時が過ぎ去ったことに驚きと戸惑いを感じながら、日本に抱く興味が日ごとに膨らん でくることに胸の高鳴りを覚えています。

曖昧な日本語と日本人

 日本には、伝統文化と現代文明の巧みな融合、生活場面に生かされた芸術、外来文化の受容の中に潜んでいる独特な知恵、人間関係に感じられる「和」 というものがあります。この「和」を維持する日本人の奥ゆかしさ、細かいところにまで手が届く親切さ、人を気遣う優しさなどはいろいろな場面で感じさせら れます。

 ある日、日本人の友達が家に遊びに来てくれました。

 「お茶はどうですか」

 「いいです」

 さて、「いいです」というのはいったいどういう意味でしょうか。いるのか、いらないのか、どちらでしょうか。どうして日本人は物事をはっきりと言わないの だろうかと思いました。後で、友達に尋ねてみたら、「いいです」、「けっこうです」というのはだいたい「いらない」の意味に使われると教えてくれました。 せっかく相手がお茶を出してくれようとしているのに、ストレートに「いらない」と言ったら、相手を傷つけるので、このように婉曲に断るのだそうです。つま り、日本人はよく相手の立場に立って物事を考えているのです。しかし、現在、日本国外では凡そ200万人、日本国内では凡そ10万人の外国人が日本語を 習っていると言われていますが、こうした人たちは私と同じように日本語が曖昧だと感じているのではないでしょうか。

 日本人がお土産やプレゼントを人にあげる時、たとえすごく貴重なものであっても、よく「つまらないものですが、どうぞ、お受け取りくだ さい」と言います。また、日本人の家では、おいしい料理をいっぱい作ってもてなしているのに、「何にもございませんが、どうぞ、お召し上がりください」な どと言います。これも有り触れた言葉ですが、なんと美しい言葉だろうと思います。日本人は恩着せがましいことを好まず、何事も控えめにし、相手を敬い重ん じる国民性を持っています。相手に不愉快な思いをさせないような気配りや工夫は言葉によく現れています。外国人からしてみると、時々日本語が曖昧で分かり にくいものに感じられるのです。

 皆さんはテレビの天気予報を見ていますと、「今日は晴れるでしょう」、「明日は雨でしょう」という言い方をよく耳にしませんか。「で しょう」は中国語の「可能」に当たり、英語の「maybe」に当たります。日本の天気予報はいつも正確であるにもかかわらず、「でしょう」という言葉を使 います。それも、日本語が曖昧だからと言える一例でしょう。

 このように曖昧な日本語を使う日本人も実に曖昧だと感じられることがあります。「京都」ではとくに。これは昔、京都が都だったことに関係があるかも知れません。

 大学院の同じ研究室の学生たちがコンパをしようと思って、料理屋を予約しました。開催一週間前に、料理屋の女将さんから電話がかかってきました。

 「先日はご予約をありがとうございました。実は、大変申し訳ございませんが、近いうちに、店の補修工事を始めることになりました。お客さまのコンパをどういたしましょうか。主に外の工事ですので、部屋は使えますが……」

 「外の工事なら大丈夫ですよ。皆にもう場所と時間も伝えてありますから、予定通りやりたいです」

 「やっぱり工事中、うるさくて、工事の人が出入りしますから、それでもよろしいでしょうか」と女将さんはやわらかく、丁寧に言ってくれました。

 「かまいません。気にしなくて、大丈夫です」

 「そうおっしゃっても、やはり、落ち着かないような気がしますが……」

 ここまできて、やっとやめさせたいという女将さんの気持ちに気づきました。ならば、どうしてその気持ちをはっきりと言ってくれないのでしょう。どうして もお客さんの口から「じゃ、やめましょう」と言わせるのでしょうか。 ストレートに「コンパを他のお店でおやりになってください」と言わず、遠回りに相手 に気付かせるという表現方法はなかなか我々外国人にとって理解しにくいのです。これも、「和」を大切にする日本文化の一つの特徴と言いえるのでしょう。

舞妓さんとの出会い

 日本文化に触れ合うため、いろいろなイベントに参加することにしています。その中の一つが日本の踊りの体験です。踊りというのは、例えば、中国の 京劇の場合、顔の表情で自分の感情を表します。しかし、日本の踊りでは皆無表情のまま踊ります。その訳を究明するために、舞妓さんにインタビューをしまし た。

 大体15歳から22歳までの若い女の子が舞妓さんになるのに憧れて、日本全国から京都にやってきます。修行にはとても厳しいものがあります。毎日朝10時 から午後3時までお稽古します。お稽古では、踊り、お茶、お囃子、お笛、長唄、小唄、清元、常磐津、端唄、三味線などを学びます。お稽古が終わって、午後 3時からお茶屋さんで仕事の手伝いをし、7時に座敷に行きます。大体、夜の1時、2時に1日のお仕事が終わります。舞妓さんの踊りは芝居と違って、台詞が 無いので、体の動きで表現すると言います。舞妓さんが、お稽古は厳しいけれども、将来一人前になり、自分の力で生きていけるために、頑張っていきたいと 言ってくれた言葉はとても印象的でした。

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行列をつくる日本人

 日本は自然に恵まれた美しい国ですが、時間が経つにつれて、この美しいという言葉は単なる自然に留まらず、いろいろな場面で使えるということが分かってきました。日本の文化などを実際に見聞してみようと思って、何回も旅に出ました。

 京都にはたくさんの有名なお寺がありますが、その内の一つが「清水寺」です。「清水寺」といえば、「清水の舞台から飛び降りるつもり」という言い習わしが あります。中国の西安にも「回雁塔から飛び降りるつもり」という日本と同じような言い方があります。そこで、ぜひ一度行って見たいと思い、「清水寺」に出 かけました。百聞は一見如かず。清水寺の坂を登って行くと、断崖に張り出した舞台は組み合わさった巨大な丸太に支えられています。そこに立つと遠くまで一 望の中に収められる眺めはすばらしく、まさに天下の絶景です。観光客がいっぱいで、にぎやかでした。

 帰る途中、人々が一列に並んでいるのが目に飛び込んできました。皆が順番に何かを待っているようです。「賞品の抽選会かな」と思いつつ近づいた ら、抽選道具がなく、外れでした。外国人にとって、日本のことなら何にでも興味をそそられます。「いったい何でしょうね?」と、湧いてきた疑問を解くため に、私も行列の中に入りました。10分が経ちましたが、まだそれほど進んでいません。20分が経ちました。まだ……。私はやめたい気持ちになってしまいま した。でも、やはり疑問を解きたいです。周りの人は皆焦らず、静かに待っています。30分が経って、やっと私の番が回ってきました。「いらっしゃいませ。 今、空いていますから、どうぞ、お上がりください」と、明るく元気な声が耳に入りました。皆は、この店の料理を食べるために、ずっと待っていたのです。本 当にびっくりしました。中国では、店にお客が多かったら、迷わず、ほかの店を探します。静かに並んで待つようなことはしません。同じようなことは、神戸の ルミナリエを見に行った時にも体験しました。全国から大勢の人が集ってきて、どこもかしこも人ごみでごった返していました。しかし、日本人は、そこでもき ちんと並んで、行列が徐々に進むのを静かに楽しんでいるようです。私は、その時も、あらためて感心しました。日本人は、行列をつくることで、皆と一体感を 楽しんでいるのかもしれないと思いました。

 留学中に触れた日本人の優しさ、親切さ、勤勉さを、私は心に深く刻み込みました。日本人以外のさまざまな国の人々とも交流し、異文化と触れ合いな がら、たくさんの知識を学んで、視野が広がってきました。これからの国際化の進展に対応し、広い視野を持ち、異文化を理解し、相手の立場を尊重することは とても大切だと思うと同時に、なかなか大変なことだなと思う今日この頃です。

朱 玲莉

朱 玲莉:湖南師範大学日本語科教師

略歴

96年6月、湖南師範大学本科卒業
96年9月〜98年6月、湖南商学院教師
98年9月〜01年6月、湖南師範大学倫理研究院大学院博士前期課程修了
01年6月〜02年10月、湖南師範大学外国学院日本語科講師
02年10月〜04年3月、滋賀大学教育学部文部科学省国費留学生
04年4月〜06年3月、滋賀大学大学院教育学部修士課程文部科学省国費留学生
06年9月〜07年3月、天津南開大学日本研究院大学院後期課程
07年4月〜08年3月、国学院大学大学院交換留学生
08年4月現在、湖南師範大学日本語科教師、天津南開大学日本研究院大学院博士後期課程在籍


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