【10-07】元気の中国と元気のない日本

柯 隆(富士通総研経済研究所 主席研究員)     2010年 7月26日

 日本から中国に行くには、わずか3時間ほどのフライトだが、二つの社会で元気がぜんぜん違うということに気がつく。なぜこんなに違うのだろうか。22年前、留学のために、はじめて来日した筆者にとり、当時の日本の印象は整然としてスピードの速い国だった。実は、日本の社会インフラは全般的に当時とあまり変わっていないはずである。はじめて日本を訪問する中国人旅行者に尋ねると、日本に関する印象は筆者が22年前に感じたこととほとんど同じ好印象である。

 おそらく大きく変わったのは日本ではなく、中国である。振り返れば、22年前の中国は完全に開放されておらず、交通システムなどの社会インフラも前近代的だった。それから20年経過し、交通システムなどのハードウェアも大都市を中心に近代化するようになったうえ、サービスなどのソフトウェアも大幅に改善されている。

 こうしたなかで、メディアの報道でも中国を途上国扱いしているため、日本人は飛行機に乗って途上国に行くつもりだったが、上海空港を降り立つと、途上国どころか、先進国の日本を遥かに上回るハイレベルの国になっている。

1.後発の優位性

 経済開発には後発の優位性がある。すなわち、先発組は四苦八苦して模索するプロセスを経ていかなければならないが、後発組は先発組の教訓を踏まえ、同じミスを犯すことなく、前に進むことができる。北京や上海などの大都市の開発をみると、まさに、ニューヨークや東京など世界の大都市の開発を見習って、中国の実状にあったやり方で進められている。

 中国の元気の象徴の一つは至るところで都市開発が行われていることにある。そのうえ、中国人の国民性からせっかく作るものなら、細かいところの追求よりも何でも大きく作りたがる。今回の上海万博の敷地の広さあるいは2年前の北京五輪の開幕式のいずれも他の国では考えられないスケールだった。人間の社会では、「大=力」という等式は未だに成立するようだ。

 中国のもう一つの元気の源はアグレッシブなメンタリティである。日本人の場合、他人にどのように見られるかについて、予想以上に気にしてしまう。普段はおとなしく礼儀正しい日本人は酒を飲むと、「豹変」する者が多い。夜の居酒屋で酒の力を借りて上司や同僚の悪口をいうサラリーマンが非常に多い。しかし、翌朝になると、すべて元通りに戻り、再スタートする。

 中国人は酒を飲む場で上司や同僚の悪口をいうという非生産的な行為はほとんどしない。酒飲む相手は決まってビジネスなどを頼む者である。とにかく相手に酒をとことんまで、気持ちよく(?)飲んでもらうのが目的のようだ。したがって、中国人の酒飲む場を覗くと、何かの宣誓式のようにみえる。

2.目に見えないルールとフレキシビリティ

 2週間前に、あるミッションに招待され、中国に出張した。飛行機を降りてすぐに、その省の経済委員会に案内された。こちらの心の準備として投資環境を視察するためだったが、会議室に入ると、びっくりした。壁に「日中○○商談会」と書いてある。確かにミッションのメンバーの多くは中小企業の経営者だが、実際に投資に来たわけではない。

 もっとびっくりしたのは翌日当地の主要新聞の朝刊に前日の「商談会」の内容が大きく掲載された。全体的にポジティブに書いてあるため、大きな問題にはならなかった。

 いつも考えることの一つは中国社会にいったいルールがあるのか、ないのかである。上で述べた商談会のように、新聞記者を会場に入れるならば、事前に相手に通告すべきである。また、新聞に載せる場合も了解を取るのは礼儀であろう。

 しかし、中国側からみれば、宣伝してあげるのだから、了解を取る暇なんかないと思っているかもしれない。すなわち、相手にとりいいことならば、事前通告しなくてもいいと思われているようだ。

 往々にして、日本人との付き合いの経験をもつ中国人は「日本人が固い」という印象をもつ者が多い。すなわち、日本人は何事も手続きやルールに照らしてから進める。中国人はフレキシブルに対応してしまう。

 シンクタンクにいる筆者は、国際会議を開催する際の最大の苦労は事務局の日本人が開会の数週間前から発表資料の提出を求めるのに対して、中国人は来日の直前にまで資料は送ってこないことだ。中国人が送ってくるパワーポイントの文字の大きさ(フォント)がまちまちである。日本人はオーディエンスの視力を心配して、文字を大きめのフォントに統一し、色もあまり強烈な原色だと、刺激的過ぎるため、淡い色に改める。

3.日中最大の違い-若者の逞しさ

 上で述べたミッションのもう一つのエピソードだが、その省のある大学の大学生との意見交換会に参加した。相手は同大学の日本語学科の3年生の10人と引率の先生。使用言語は日本語だったため、通訳は必要なかった。

 ミッションのメンバーの一人から中国人の大学生に一ヶ月親からの仕送りはいくらぐらいか、どのように使われているか、と質問した。ある女子大生は「毎月800元の仕送りを受けている。食費は400-500元、書籍購入に100-200元、残りは貯金している」と答えた。それを聞いた日本側のメンバーから思わず拍手が沸き起こった。みんなの心には「偉い」と思っているに違いない。

 質問した者は「化粧はしないのか」と追加した。女子大生は「きれいになりたいが、今のところ化粧していない」と答えた。育ちのよい女の子だった。

 大学生との意見交換会が終わってから、大学のキャンパスを視察した。ちょうど新入生は軍事訓練の最中だった。迷彩服を着たぴかぴかの一年生は整列して行進していた。夏の炎天下で「モヤシ」のような一人っ子たちは3週間にわたる軍事訓練を経て大きく成長するだろうとみんなが考えた。

 筆者はとなりの日本人に「日本でも大学で軍事訓練を実施したら」とジョークのつもりで言ってみた。彼は「左翼が軍国主義教育と批判するだろう」と答えた。この会話はそれ以上続かなかった。

 キャンパス視察が終了したあと、先ほど交流した大学生を夕食に招待した。大学生はこうした正式な宴会に出る機会は多くはなかったはずだが、しかも一人っ子なのに、一生懸命こちらのミッションのメンバーに酒やお茶を注いでまわった。その礼儀とマナーはどこで学んだのだろう。

 振り返れば、中国の元気と日本の元気のなさは、都市の摩天楼の数の違いになく、若者の逞しさと礼儀とマナーの違いによるものだった。


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