【10-10】反日デモと無関係の中国社会の底流

柯 隆(富士通総研経済研究所 主席研究員)     2010年10月22日

 さる10月16日(土)、中国出張を終え、青島から日本に戻ってきた。約一週間の出張だったが、上海と青島で中国の病院や研究機関、それに家電メイカーを訪問し、至るところで、「熱烈歓迎富士通総研一行」を受け、いい気持ちだった。しかし、成田に戻りiPhoneでニュースをチェックしたら、「中国で反日デモが多発」とのニュースを目にしてびっくりした。

 なぜなら、同日の午前中、青島にある日系スーパーのジャスコに買い物に行ったばかりだった。警察車両もなく土曜日なので普段以上のにぎわいだった。ちなみに、店側の説明では、青島のジャスコは単店舗では世界一の売り上げを誇っている。

1.なぜ今から反日デモ?

 尖閣事件以降、日中関係は確かに悪化している。何よりも政治・外交関係の悪化以上に、国民感情が悪化し、互いに嫌悪感が増幅しているように思われる。しかし、日本政府はすでに中国人船長を釈放し、中国も拘束したフジタの4人目の社員を解放した。そうした雰囲気のなかで日中関係は元には戻っていないが、徐々に修復されるのではないかと期待されていた。

 すなわち、中国国内の格差の拡大と大学生の就職難が主因といわれている。デモの原因が単純なものではないのは確かなことである。しかし、なぜデモが反日のものなのか、に関する説明がほとんどなかった。

 香港のある小さなプレスは、今回のデモは各大学の学生会が組織したものであるゆえ、官制デモの可能性があると指摘する。その報道自体は何の根拠も示されていないため、世界のメディアはそれをほとんど相手にしなかった。不思議なことに日本のほぼすべてのメディアはその報道を大きく取り上げた。筆者からみれば、日本のメディアの多くは今回のデモが官制デモであってほしい思いがあるように感じている。

 実は、日本に留学する前に、筆者も中国の大学で学生会の会長を務めたことがある。その経験からして今回のデモは官制の可能性がほとんどない。何よりも今回のデモが今後大きく発展した場合、もっとも迷惑なのは中国政府ではなかろうか。論点を整理すれば、デモの背景に格差などに起因する不満があるとすれば、政府はデモをやらせること自体、自殺行為である。

 無論、大学生の怒りが溜まっていることも事実である。日本の大学生と違って、中国の大学生のコンプライアンス、社会責任感が強い。日本の大学生に反中デモをやってほしくないが、領土・領海の問題が起きても、日本の大学生が自分と無関係のような姿勢は何か不思議な感じがする。

 では、今回、中国の大学生はなぜデモを起こしたのだろうか。

 間違いなく引き金を引いたのは日本の一部の政治家の発言と中国大使館の包囲のデモを呼び掛ける日本国内の動きだった。インターネットを通じて日本での動きを知った中国の大学生は学生会というネットワークを通じて全国的にデモを呼びかけた。

2.メンツと相手国に対する配慮

 尖閣の事件が起きてから、中国の首脳がテレビの前で怒りを表したのはただ一回だけで国連総会に出席した温家宝首相の発言だった。客観的な立場に立ってコメントすれば、日本の政治家の発言は二転三転にして軽率だったといわざるを得ない。

 尖閣諸島の領有権について双方はそれぞれの立場があり、すぐにここで結論を出すことは難しい。中国政府も尖閣諸島の領有権こそ主張しているが、それを取り戻す行動に出るのはまずない。今回の対立は船長の拿捕とその後処理を巡るものである。

 少なくとも、10月16日までに、中国政府は事件に関して報道させない、デモをやらせない、という抑制の姿勢が明明白白である。外交部のスポークスマンの談話も一回は日本に謝罪と賠償を求める発言をしたが、その後、この発言を撤回こそしていないが、二度と同じような発言はしていない。同時に、解放された船長は帰宅したが、船長による外部との接触が遮断されているままである。中国政府は過剰なメディアの報道によるナショナリズムの高騰を懸念している。

 常識的に言論の自由と報道の自由が尊重されるべきであるが、今回のようなデリケートな事態に対処するために、中国政府の自己コントロールのやり方がある程度評価されたい。

 一つ重要なポイントは日本人による反中デモも中国人による反日デモもそれぞれの国の法律によって保護される権利であるはずである。こうしたデモが暴徒化してはいけないということは確認するまでもない。

3.今後の日中関係と日中両政府の反省点

 日中両政府はそれぞれの隣国と領土問題を抱えている。それを解決することはそれほど簡単なことではない。そのなかで、日中は国交回復当初、こうした領土問題を棚上げした事実がある。今も、ここで白黒をつけることは依然できないだろう。今回のデモを通じて、日中関係の難しさが見えてきた。すなわち、過去100年の日中関係史はこの一点に凝縮されているように思われる。かつて、周恩来の時代、冷戦構造のなかで西側陣営との融和を図るために、日本と国交を回復した際、国内でまったく議論されないまま、戦争賠償を放棄した。

 しかし、中国の国際戦略において日中関係の位置づけが今となって大きく変化している。かつて、中国にとりソ連の脅威に対抗するため、日本およびアメリカとの関係改善が必要だった。それを実現するために、中国政府は国内世論を抑え、かなり妥協した。

 現在となって、中国は世界二番目の経済となり、世界経済をけん引するエンジンの一つになっている。この点について、中国に出張するたびに、専門家とのインタビューでも一般の中国人との会話でも彼らは自信が溢れている。見方を変えれば、中国人のナショナリズムは大きく台頭しているといえる。

 中国政府は中国経済が発展しても覇権を求めないと繰り返して強調しているが、覇権を求めなくても、サミットなど国際の場での発言権が強くなるうえ、アジア域内でのリーダーシップも強化される。この点は日中が対立する背景といえる。東アジアで日中による「集団指導体制」がまだできないかもしれない。

 それに加え、30年前に加え、現在、両政府は対話のチャネルが著しく減少した。若い民主党議員は中国の膨張に対抗する意識が強いが、党内で問題を解決する長老議員は実質的に存在しない。今回の尖閣事件のような問題は自民党の時代なら中国とパイプを持つ長老議員が中国との対話で大きく発展する前に、解決したはずである。

 最後に、日中両政府の反省点を確認しておこう。

 9月18日、上海に向かう機内で朝刊各紙を確認したら、中国企業の訪日団1万人の訪日がドタキャンされた。この行為は中国国内で愛国行為と称賛されたようだ。その後、事態の悪化に伴い、政府と民間の交流は相次いでキャンセルとなった。しかし、仮に、日中関係は今後も重視しなければならないとすれば、こうした民間交流まで停止したというのは明らかに中国にとり失策といえる。その結果、日本国内の世論調査では、8割の日本人は中国について嫌悪感を抱いているといわれている。すなわち、政治や外交面の対立があっても、民間の芸術や文化などの交流を止めてはいけない。

 それに対して、日本の政治家、とりわけ現役の大臣はその発言の重みを改めて認識しておくべきである。自国の利益を守る前提で相手国の国民感情に対する配慮も必要不可欠である。自らの考えを堂々と主張することは重要なことだが、その仕方については、いつも直球を投げるのではなく、ときには変角球を投げることも重要かもしれない。


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