【12-07】中国の酒文化

柯 隆(富士通総研経済研究所 主席研究員)     2012年 7月13日

 外国のビジネスマンにとって、中国で最も気を付けなければならないことと言えば、中国の酒文化である。気を付けなければならないのはビジネスマンだけではなく、実は、中国を訪れるすべての外国人である。

 かつて田中角栄首相が中国を訪問した際、アルコール度数が60度もある茅台(マオタイ)酒で周恩来首相と乾杯し、飲み過ぎてあわや失態を演じるところだったことは、有名な話である。

 筆者も中国出張時、幾度となく宴会で度数の高い「白酒」(パイチュウ=穀物から作った蒸留酒)を飲まされ、飲み過ぎたことがある。

 一般的に、中国は南方の人よりも北方の人の方が酒に強い、と言われる。気候が乾燥し、冬が寒いからかもしれない。南方の人も酒を飲むが、度数の低い果実酒や米で作った紹興酒が一般的である。北方では、高粱(コーリャン)などの雑穀から作られた度数の高い蒸留酒が多い。

 中国の酒文化の特徴は、酒をゆっくり飲んで楽しむのではなく、一気飲みの乾杯がほとんどである。たとえば、十人一卓で食事する場合、誰かが倒れなければ、会食が終わらない、ということもある。中国の酒文化は、飲酒の競争のようなもの、ともいえる。

 

1、強引に豪飲の結果

 日本人も酒が好きな民族である。田舎に行けば、日本酒で一気飲みする乾杯もあるが、一般的には、会食が始まる時に一度、乾杯するだけ。しかも一気に飲み干すのではない。きわめて文明的な飲み方といえそうだ。

 それに対して、中国では基本的に、酒は相手と乾杯しながら飲むものである。黙って自分だけで飲むのは失礼に当たる。要するに、酒もタバコも、相手に勧めながら、みんなで楽しむものなのである。

 中国のある大学で、午前中に講演し、昼はその大学のレストランでご馳走になったことがある。その時、学長から一つのルールが宣告されて、びっくりした。「皆さんの前に、それぞれ白酒が3杯ずつ用意されています。全部一気飲みしてから、挨拶に入りましょう」と言う。全部飲まないと、言論の自由が与えてもらえない。アルコール度数が60度もある白酒を3杯も一気飲みすれば、結果はご想像の通りである。

 中国は都市部よりも農村部、南方よりも北方、沿海部よりも内陸部の方が酒を強引に飲ませる傾向が強い。もともと北方の人や田舎の人は、南方の人や都会の人に比べ、コミュニケーション能力があまり養われていない、との印象がある。彼らにとって、お酒はいわばコミュニケーションの触媒のようなものである。普段はおとなしい人でも、酒を飲むと、一転陽気になってしまうことがある。

  しかし、いくら酒に強くても、毎日のように白酒で乾杯することは無謀である。改革開放(1978年)以前、国有企業の労働者の給与は、最低限の生活しか賄えないような水準だった。当時は、お酒を飲むといっても、たまにしか飲むことができなかった。

 その後、経済発展とともに、生活水準も向上した。政府の幹部や企業の経営者は毎日のように接待に追われ、時には一晩に3組から4組のビジネスパートナーとの会食をハシゴすることも少なくない。強引に豪飲を重ねることによって、政府の幹部や企業経営者の間では、糖尿病や肝硬変など生活習慣を起因とする病気が多発している。

2、文化というよりも悪習慣

 このように見てくると、現在の中国の酒文化は、文化というよりも、悪習慣といったところである。酒を楽しむことが目的ではなく、酒で相手を倒すことが目的、と言われても仕方がない。このような酒の飲み方は、とても文明的とはいえない。

 一方、中国でビジネスを展開する外国人投資家は、中国人と酒を飲まないわけにはいかない。酒が飲めなければ、中国人の友達を増やすことが難しい、という現実がある。どうすればよいのだろうか。それは、一緒に酒を飲むのはよいが、酔わない方法を心得ておく、ということである。

 今まで出会った日本人ビジネスマンは、おおよそ次のような三つの類型に分けられる。

 まず、最初に「自分は酒が飲めない」と相手に明確に伝え、飲酒を拒否する人。次に、「自分は少ししか飲めない」と断っておいて、お付き合い程度で済ませる人。

 三番目は、「郷に入っては郷に従え」という大胆な日本人である。この場合、たいていは泥酔してしまう。日本人を含む外国のビジネスマンや政治家は、中国を訪問するたびに、強引な乾杯の洗礼を受けるのが常だ。

 中国では毎年、どれほどの白酒が消費されるのか、正確な統計は発表されていない。ある推計では、毎年500万~600万トンの白酒が消費されている、という。

 しかし、恐るべきことは白酒の消費量ではなく、偽物がたくさん出回っていることである。茅台酒をはじめ、中国で人気のあるお酒のメーカーは、必ずといっていいほど、偽物の横行に悩まされている。

 中国酒業協会の推計によると、茅台酒の場合、店頭で販売されている茅台酒のうち、本物は十分の一程度にすぎない、という。10本のうち本物は1本しかない計算だ。

 茅台酒が本物かどうか、を識別する方法はいろいろあるが、茅台酒の工場がある貴州省仁懐市の市長は、次のような知識を紹介している。

 中国の酒は一般に、雑穀から作られるものが多く、酒瓶の蓋を開けた途端、白酒の独特の匂いがあたりに充満する。

 それに対して茅台酒は、主な原料は麦であり、瓶の蓋を開けてもその匂いは発散しない。茅台酒をグラスに注いでも、鼻がその近くまで近づかないと、酒の匂いは感じない。そういうものが本物の茅台酒ということのようだ。

3、中国人との上手な飲み方

 中国人がいくら強引だといっても、酒の飲めない人に対して、度数の高い酒を飲ませることはない。近年、都会では、度数の高い白酒よりも、ワインや紹興酒など度数の低い醸造酒にシフトする傾向がみられる。ただし、ワインでも紹興酒でも、飲み方は依然として、一気飲みの乾杯が多い。

 外国人が真面目に中国人と一気飲みで乾杯すると、たいていの場合は、倒れてしまう。親友同士なら別だが、ビジネスの場合、一気飲みには気を付けなければならない。

 どうしても飲まざるを得ない場合は、商談がすべて終わってからにすべきであろう。仕事が終わっていないうちに酒を飲めば、ほぼ確実に後悔する結果となる。

 酒の弱い人は「自分は飲めない」と言い張った方が間違いない。酒の強い人もで「あまり飲めない」と弱気を見せた方が賢明といえる。

 これまでの中国出張の経験で、我を忘れて中国人と本気で乾杯し、酔いつぶれてしまった日本人は、一人や二人ではなかった。酒を飲みながら商談をして、最後に痛い目に遭った人も少なくない。

 釈迦に説法かもしれないが、酒は勝利を祝うための飲み物である。仕事が終わるまで口にするものではない。


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