【12-08】中国の「剰女」現象の背景と今後の行方

柯 隆(富士通総研経済研究所 主席研究員)     2012年 8月27日

 日本では、文筆家の間で、30歳代超・子供を持たない未婚の女性は「負け犬」、と皮肉る言い方があるようだ。

中国でも似たような表現があり、「剰女」(ションニュイ、英訳はshelved ladies)という。その定義は、30歳超で高学歴、高収入、容姿もそこそこよくて、独身の女性ということのようだ。しかし、「剰女」という言葉は残った女、誰ももらってくれない女というマイナスの表現である。

 しかし、「負け犬」だろうが、「剰女」だろうが、いずれも理想的な結婚相手が見つからず、理想的とは思えない相手に妥協せず、あえて独身の道を歩む女性のグループである。そもそも昔の中国社会では、自由恋愛などはありえなかった。伝統的には、男女の結婚は自由恋愛ではなく、お見合いによるものが多かった。

 社会主義中国が誕生してから、男女平等が推進された。毛沢東自ら「女性が天の半分を支える」として女権運動を推し進めた。それをきっかけに、女性の社会進出が活発化し、自らの社会的価値を実現するようになった。「剰女」現象は、女性の社会進出と無関係ではない。

1.「剰女」現象と男性の頼りなさ

 社会学的には、人間はなぜ結婚しないといけないのか、という最も難しい命題がある。相手が好きだから結婚する、との答えにはそれほど説得力がない。好きと結婚にはそれほど関連性はあるように思わない。

子供がほしいから結婚する、と答える者もいるかもしれない。しかし、結婚しなくても、子供は産める。

他の動物の場合、恋愛(求愛)をし、子供も産むが、ただ結婚だけする、という話は聞いたことがない。こう考えれば、確かに人間は結婚しなくても、人生は十分に成り立つといえるのかもしれない。

 無論、人間の社会は、他の動物の世界とまったく同じではない。そもそも近代化以前の時代は、男女が結婚してからの夫婦の役割分担は、はっきりしていた。狩猟民族においては、男は獲物を射止める役割であり、女は家を守る役割である。農耕民族は、男が畑を耕し、女は家で織物など家事を担当する。こうした家庭内の分業は、家庭を成り立たせるためである。

 個人的には、女性の社会進出を否定するつもりはないが、中国で進められた表層的な男女平等は、半ば女性の虐待であり、「剰女」を作り出す原因の一つになっている、と思われる。毛沢東の時代、行き過ぎた男女平等が推進された結果、女性はトラックの運転手や鉱山の労働者にもなった。女性は社会進出するにつれ、男性を頼りにしなくても、自分たちで何でもできるようになった。

 半面、男性をみると、男性は急速に軟弱化している。女性からみると、男性はますます頼りなくなっているのかもしれない。確かに、「剰女」は高学歴、高収入かつ容姿も悪くないグループであるため、わざわざ頼りのない男性と結婚しなくても独身生活のほうがよほど楽しいはずだ。

2.男女バランスの崩れと「剰女」現象の矛盾

 「剰女」が社会現象と化しつつあるなかで、別の問題が起きている。それは「剰女」と同じ30歳前後の世代で、中国の男女の人口バランスが大きく崩れていることである。全国の未婚人口をみると、27歳の男女比は、199:100とびっくりするほど違う。33歳の男女比はさらに差が大きく、293:100に達している。

すなわち、この世代では、女性よりも男性のほうが大量に「余っている」ということである。こうしてみると、「剰女」現象より、もっと恐ろしいのは「剰男」(ションナン)の存在である。インドの経済学者アマルティア・センの推計によれば、中国は2020年に、3000万~4000万人の男性は、結婚相手が見つからず、独身を余儀なくされる、といわれている。

 このまま、「剰女」と「剰男」の現象を放置すれば、社会不安がいっそう助長される。なぜなら、世界銀行の推計では、2015~2020年に、中国総人口は減少に転ずるといわれているからだ。

また、中国社会は2006年にすでに高齢化社会に突入(65歳人口の割合が7%突破)しており、その進行は加速している。中国政府は一人っ子政策の緩和を検討している、といわれているが、踏ん切りがつかない。

このままいくと、少子高齢化がさらに進行し、人口ピラミッドが逆三角形になる可能性が高い。そうなれば、社会保障制度はまったく機能しなくなり、想像を絶するほどの社会不安に見舞われることになるだろう。

 では、なぜ結婚できない男女が、これだけ増えているのだろうか。

 昔に比べれば、今の中国では、恋愛は完全に自由になっている。筆者の高校時代(1970年代後半)は、男女の学生が互いに会話すらできない時代だった。言い換えれば、あの時代は、思春期の男女が性的に抑圧された時代だった。

大学時代(80年代前半)、中国社会は徐々に開放に向かっていたが、それでも、大学生の恋愛が学校側に見つかれば、退学処分を受けるような時代だった。

 それに比べて、今の中国社会は、性的にほぼ完全に開放されている、といわれている(中国社会科学院元研究員の李銀河氏)。このような文脈から推察すれば、今の中国で結婚相手が見つからないのは、恋愛するチャンスが少ないためではない、と思われる。

一つには、上で述べたように、高学歴・高収入の女性は、男性を頼りにしなくなったことがある。もう一つは、中国社会の風潮として、女性が相手の男性に対して、家(マンション)と車の保有を結婚の条件として求める傾向が強まっていることが指摘できる。

しかし、20代から30代の一般の若者にとって、マイホームとマイカーは、宝くじにでも当たらなければ、単なる夢のはずである。一部の富裕層は、親の援助でマイホームとマイカーを手に入れることができるが、大半の中国人男性にとって、これは無理な注文である。

さらに、社会の発展スピードがあまりにも速くなった結果、若者の間では、愛情を軽視する傾向が強まっている、といわれている。北京の名門大学を卒業し、公務員になったある若者の場合、フィアンセは同級生だが、なかなか結婚に発展しない。先日の出張で、彼に会ったとき、「今の若者の間で、愛情によって結婚する人の割合はどれぐらいいますか」と聞いたら、ショッキングなことに、「ほとんどいないと思います」との答えが帰ってきた。

 経済発展と社会の「進歩」は、ほんとうにいいことかどうか、とあらためて考えさせられている。


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