【13-08】今年の秋は多事の秋になるか

2013年 8月21日

柯 隆

柯 隆:富士通総研経済研究所 主席研究員

略歴

1963年 中国南京市生まれ、1988年来日
1994年 名古屋大学大学院経済学修士
1994年 長銀総合研究所国際調査部研究員
1998年 富士通総研経済研究所主任研究員
2005年 同上席主任研究員
2007年 同主席研究員

プロフィール詳細

 この夏、欧州、北米と東アジアがいずれも猛暑に見舞われている。中国では、上海市、浙江省と江蘇省を中心とする長江デルタ地域では連日40度を超す猛暑が記録された。日本でも、高知県の四万十市では、観測史上最高の41度の気温が記録された。日中両国で猛暑と水不足により熱中症患者が急増するなど被害が拡大している。一方、良いこともある。それは果物の糖度は例年以上に高い。

 8月に入ってから梨やぶどうがスーパーで売られている。中国語では、「梨」(リー)という漢字の発音はたまたま「離」(リー)と同じである。それゆえ、梨を切り分けてみんなでシェアして食べるのは「分梨」、すなわち、「分離」に聞こえるため、縁起が悪いと思われている。梨はできるだけ自分一人で食べたほうがいいということである。無論、これはあくまでも言葉遊びのような話である。

 同じような事例がもう一つある。中国人は友人などにプレゼントするとき、「鐘」(時計)を送ることはしない。なぜならば、「鐘」は「終」と同じ発音であり、死を意味するものである。40年前、日中国交回復をきっかけに、毎年たくさんの訪中団が中国を訪れるようになった。そのとき、正式な訪中団は往々にして何か記念になるようなプレゼントを送るが、なぜか時計を送る代表団が多かった。無論、今日の日中関係の悪化は日本の訪中団が送った時計のせいではない。でも、一つだけいえることは中国のことが好きな日本人でも中国のことをあまり知らないのではないだろうか。

1.実現できない日中首脳会談

 中国の習近平政権が誕生してから5か月経過した。そして、安倍政権が誕生して半年以上経った。未だに日中首脳会談が実現できないでいる。これは異例なことといえる。振り返れば、この10年来、日中関係はよくなかった。小泉政権のとき、小泉元総理は毎年のように靖国神社を参拝。それに反発して中国は外交上で日本と距離を置くことにした。しかし、靖国神社参拝や歴史認識の問題は国益などに実害をもたらすことはなく、どちらかといえば、両国のメンツの問題である。それゆえ、当時の日中関係は「政冷経熱」と表現されていた。

 日中関係が芯まで冷えるようになったのは野田政権下で尖閣諸島を国有化したことがきっかけだった。実は、尖閣諸島の国有化が問題ではなく、国有化のタイミングとやり方はよくなかった。野田前総理は愚直な性格の持ち主だが、外交について空気を読むのは得意ではなかったようだ。そもそも尖閣諸島を国有化しようとしたのは石原都知事(当時)が東京都の名義で尖閣諸島を購入するのを阻止しようとしたからだった。東京都が尖閣諸島を購入すれば、そこに船着き場などを建設すると予想されていた。そうなれば、中国によって猛烈に反発されることは明らかだった。要するに、野田政権は正しいことをしようとしたのかもしれないが、結果は悪かった。

 振り返れば、民主党政権では、日中関係が改善するだろうと期待されていたが、結果的に悪くなる一方だった。原因は、民主党政権では中国共産党とのパイプが細く実行力も欠けていたためである。

 その後、自民党は3年半ぶりに政権を取り戻したが、中国共産党中央は安倍総理について苦手意識を持っている。否、安倍総理に関する苦手意識を持っているのは中国共産党だけではなく、韓国も同じようだ。中韓からみれば、安倍総理は反中・反韓の保守的な色が強い指導者である。安倍総理自身は反中・反韓の姿勢を否定しているが、自らの信念を曲げるまで中韓の首脳と会談を実現するまでもなかろうと自らの姿勢を貫いている。その結果、日中韓の首脳会談は未だに実現していない。

2.迷走する日中関係の悪影響

 家電量販店などを見て回ると、中国人観光客はピーク時には及ばないが、少しずつ戻ってきている。中国では、2012年9月の反日デモのときに比べれば、日本自動車メーカーの販売は少しずつ回復している。日中双方にとって経済関係の悪化は誰も得しない。

 実は、中国共産党も対日関係の改善を模索している。7月の末、3年前に起きた日本に輸出した毒ギョウザの事件の公判が開かれた。なぜこのタイミングなのかについてその合理性が説明されていないが、裁判では、毒を混入した容疑者はわざわざ日本の消費者に謝罪をした。その言動は強要された演出のように見える。中国政府は対日政治関係を短期的に改善できなければ、草の根のレベルで日中関係をまず改善しようとしているかもしれない。これはかつて毛沢東元国家主席がゲリラ戦のときに展開した農村による都市の包囲戦略とよく似ている。

 しかし、冷え切った日中関係を改善するのは決して簡単なことではない。ある世論調査によれば、両国では相手国民について悪い印象を持っている人の割合はいずれも9割を超えているといわれている。すなわち、日本では、中国人が嫌いな日本人、中国では、日本人が嫌いな中国人、いずれも10人中9人に達している。

 先日、中国で日本語の通訳の仕事をしている知人から手紙が届いたが、「仕事がなくて給料もカットされている」ということだった。

 安倍総理は日中関係について「戦略的な互恵関係」と定義しているが、目下の日中関係はロス・ロスの関係、すなわち、双方とも損する関係になってしまっている。政治家は自らの国の代表として簡単には頭を下げ譲歩することができない。このように考えれば、中国共産党が進めている草の根の日中関係改善の作戦が正しいものといえるかもしれない。

 正直にいえば、この先の日中関係はまったく見通せない状況にある。双方の指導者はいずれも譲歩をする姿勢を見せず、意地を張っている。日中はもう一回戦争に突入し勝負する可能性が低いが、戦後68年経過しても、戦争の負の遺産は未だ処理されていない。まことに悲しいことだ。


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