【14-08】「中国人」と「日本人」という言い方の問題

2014年 9月24日

柯 隆

柯 隆:富士通総研経済研究所 主席研究員

略歴

1963年 中国南京市生まれ、1988年来日
1994年 名古屋大学大学院経済学修士
1994年 長銀総合研究所国際調査部研究員
1998年 富士通総研経済研究所主任研究員
2005年 同上席主任研究員
2007年 同主席研究員

プロフィール詳細

 ある日、テレビのチャンネルを変えるとき、偶然に一瞬だけあるバラエティ番組で中国出身のゲストの若い女性は、「中国人(女性)は結婚するとき、相手のルックスなどまったく気にせず、カネさえあればいい。お金がすべて」と笑いながら言った。正直に言うと品がないと感じた。その発言のなかで「中国人」という表現は明らかに間違っていると思われる。おそらく彼女の回りは金目当ての人が多いだろう。しかし、中国人のほとんどは金目当てというのは言い過ぎと思われる。

 考えてみれば、兵庫県議だった野々村氏が政治活動費の不正流用が指摘され、テレビカメラの前で号泣しながら記者会見をしたのをみた外国人は、彼のことを日本人と言い換えることはできない。なぜならば彼は日本人を代表することができないからである。「日本人の野々村氏は」、という言い方のほうが正しいが、「日本人は」というと、あたかもこれは日本人の多くが行うことと誤解されてしまう。

 無論、一人の中国人としての言動は常に中国人の代表としてみられがちであり、それを念頭に言動を慎重に行わなければならない。中国社会を見渡せば分かる通り、自己中心的な人が多いのは事実である。何よりも自己中心なのは共産党幹部である。中国高速道路を車で走るとき、警察車両や救急車などの特殊車両が走るエマージェンシーレーンを特殊車両でない高級車が平然と通過する。権力があってお金もある勝ち組にとり社会のルールは、負け組を縛り付けるための道具に過ぎない。仕事柄から中国で国際会議に参加することがあるが、その際、地方政府は好意でパトカーを先導させ交通信号をその都度すべて青にしてくれる。正直にいえば、そこまでする必要はない。海外からの賓客を優待する気持ちはありがたいが、赤信号できちんと停車し、ほかの車両と同じように交通ルールを守ることこそ外国の賓客に中国が法治国家であることを示すチャンスではないか。

1.中国人と中国人の代表

 日本の政治家もよく口にすることだが、「国民を代表するわたしは、」という。それを聞くと、彼はほんとうに国民を代表できるのかと聞きたい。正しくは「私に投票してくれた人たちを代表して」という言い方である。彼に投票していない人にとって彼に代表されるのはたまったものではないはずだ。以前、胡錦濤国家主席はAPECに参加したとき、横浜中華街に近い小学校を視察し、その際、小学生の一人は「胡主席、あなたはどうして国家主席になろうとしたの」と中国語で尋ねた。それに対して、胡錦濤国家主席は「わたしは国家主席になろうとしたわけではない。人民に選ばれたから国家主席になった」と答えた。

 民主主義の選挙を実施していない中国では、国家主席は明らかに人民によって選ばれたものではない。しかし、胡錦濤国家主席の答えは完全に間違っているわけではない。中国では、国家主席の直接選挙こそ行われていないが、3000人あまりの全国人民代表によって承認(選出)されている。その代表は理論上それぞれの選挙区で選出されているため、国家主席は間接的に全国人民に選ばれているということになる。問題は、人民の代表がほんとうに選挙で選ばれているものかどうかだ。答えは明らかにノーである。人民の代表は共産党と政府によってトップダウンで指名されたものである。その際の基準は、代表になる者はその業界の模範人物でなければならない。具体的には、共産党に忠誠的な人物である必要がある。そして、模範的な人物というのは人民の間で人望があるものである。問題は、共産党はいかにしてこうした人物の忠誠心を確かめるかにある。共産党中央委員会常務委員だった周永康氏は党に対する忠誠が確かなはずだが、気がついたら腐敗分子になっている。そして、彼は人民の間で人望があるとみられていたが、巨額の賄賂をもらい公金を横領したのも事実である。まったく模範的な人物ではない。

 結局のところ、共産党の党員に対する評価は恣意的だったのである。権力の座についたときは、自分は人民の代表と豪語するが、人民を凌駕する存在である。このような人たちは、若いとき、党員になろうとする狙いは将来、巨額の賄賂をもらうとは思っていなかったかもしれない。自分はどこまで出世できるか、明らかでないからである。その権力が拡大するにつれ、欲望も増大する。世界で比較的優れた政治システムはその権力者の欲望を抑制できるものである。

 中国社会科学院アメリカ研究所元所長の資中筠氏はその著書のなかで、あるアメリカの大物議員との親交を振り返った。1970年代、その議員が中国を訪問したとき、通訳を務めたのは資氏だった。80年代、資氏はvisit scholarとしてワシントンに滞在していた。その情報はどこかのルートを通じて件の議員の耳に入った。かつてお世話になったお礼として、資氏を会食に誘った。中国では、外国人を招待するとなれば、アワビやフカヒレ―など豪華な宴会が一般的だが、ワシントンのディナーの前日の午後、議員の秘書から電話がかかり、「明日のディナーには、チーズハムサンド、エッグサンド、野菜サンド...どれにしますか」と尋ねられた。これがアメリカ人のいうディナーであり、しかも、昔、お世話になった人への恩返しである。ちなみに、筆者もよくアメリカへ出張するが、インタビューするアメリカ人とのディナーはほとんど経験していない。なんという清廉潔白な政治だろう。

2.中国人と中国人の代表

 中国の公式統計によれば、中国の総人口は13億4000万人いるといわれている。中国人、すなわち、13億4000万人を代表することができる者は現実的に存在しない。にもかかわらず、共産党幹部は人民を勝手に代表したがる。

 海外のスポーツ選手は試合で優勝したとき、カメラの前でまずは家族、そして監督・コーチなどに感謝すると述べる。それに対して、中国のスポーツ選手はいつも共産党、国家と人民に感謝する。なんという親不孝な人だろうといつも思う。何年か前に、あるスポーツ選手はカメラの前で共産党と国家と人民に感謝せず、親に感謝した。その後、想像以上のバッシングを受けた。しかし、この事件を通じて筆者は経験したことのない感動を覚えた。中国にはようやく心の温かい自然な人間が現れたということである。中国の古典文化では、最大の不幸は親不孝だといわれている。社会主義の中国では、政治指導者は親以上の存在になっている。

 2年前に、「中国が普通の大国になる日」という本を書いたが、中国が普通の大国になるには、まずこのように歪んだ社会の価値観を元通りに戻す必要がある。2011年、中国の経済学者茅于軾氏は「毛沢東を神の座から引きおろし普通の人間に還元する」という記事を書いて発表した。国内で予想以上の反響が沸き起こった。とくに毛沢東を擁護する保守的な左派分子は茅于軾氏を猛烈に批判した。しかし、毛沢東を普通の人間に還元させなければ、中国は普通の大国になれない。毛沢東が神様であり続ければ、中国はいつまで経っても社会主義にも資本主義にもなれず、王様を中心とする封建社会である。毛沢東が死ぬまでの共産党の公式文書では、「毛沢東を核心とする中国共産党」という表現は必ず最初のところに記されていた。今は少し進歩したので、「習近平を総書記とする中国共産党」という表現に代わった。すなわち、現在の政治指導者は神様でなくなった。しかし、依然としてことあるたびに、彼らは人民を代表したがる。

 往々にして人民を代表したがる政治家は人民から信頼されていない。また、こういう政治家こそ独立した人格がなく、自信もない。中国は独立した人格を持ち自信を持って政治をやれる政治指導者の誕生を待望している。


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