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【15-06】株式バブルの結末

2015年 6月23日

柯 隆

柯 隆:富士通総研経済研究所 主席研究員

略歴

1963年 中国南京市生まれ、1988年来日
1994年 名古屋大学大学院経済学修士
1994年 長銀総合研究所国際調査部研究員
1998年 富士通総研経済研究所主任研究員
2005年 同上席主任研究員
2007年 同主席研究員

プロフィール詳細

 いかなるバブルもその生まれた時からいずれ弾ける運命が待っている。問題はその弾け方である。現在、中国で起きている株式バブルがどのように終わるかは予測不可能であるが、二つの可能性がある。一つはソフトランディングであり、もう一つはハードランディングである。ソフトランディングのシナリオはいわゆるハッピーエンディングであるが、ハードランディングは悲劇となる。

 上海の株式市場の株価は理由もなく高騰している。1年前に比べ、上海の株価総合指数は2.5に上昇。その間、実質GDP伸び率は逆に減速している。そもそも株価の動向はマクロ景気のバロメーターと呼ばれている。株価の上昇は景気の先行きに対する期待があると考えられる。しかし、中国政府共産党はこれからの中国経済について「新常態」と定義し、これまでの高成長について実現不可能であることを認めている。

 振り返れば、2007年、上海の株価総合指数は6170ポイントに達し最高を記録した。その後、株式バブルは崩壊し、約7年の間、株価総合指数は2300ポイントを軸に推移していた。7年ぶりの株価高騰で中国人の記憶力が試されている。

立ち往生する経済政策

 一般的に景気が過熱する局面において政策当局は金融引締政策を実施し、逆に、景気後退局面において金融緩和政策が採られる。しかし、今の中国の景気は確かに減速しているが、金融緩和政策を実施すると、株価はいっそう高騰する恐れがある。一方、株価の高騰を心配して金融引締政策を取れば、景気はいっそう冷え込んでしまう。むろん、政策当局は何もしなければ、景気はさらに減速し、株式バブルも確実に崩壊し、ハードランディングする可能性が高い。

 目下の株式投資ブームにわずかでも合理性があるとすれば、それは改革に対する期待が込められていることだろう。現実的に、投資家は改革に対する期待が実現不可能と認識すれば、手持ちの株式を投げ売りし、株価の暴落を引き起こすことになる。

 むろん、実際に株式投資を行っている個人投資家をみると、彼らは改革に対して期待を込めて株式投資を行っているとは思えない。多くの個人投資家は株価のさらなる上昇を期待して株式投資を行っている。中国の株式市場は機関投資家が存在しないという欠陥を抱えている。個人投資家は株価の値動きをみて、そして、さまざまなうわさやデマを「参考」にしながら、株式を売り買いしている。

 短期的にみれば、株式市場はゼロサムゲームである。すなわち、株式の売り買いで新たな付加価値は生まれてこない。むろん、金融市場の役割は貯蓄主体の家計部門から投資主体の企業部門に金融仲介を行うことであり、株主は上場企業に対するコーポレート・ガバナンスを強化すれば、企業の業績改善に寄与することになることで、長期的にみると、プラスサムゲームになる可能性がある。それを実現するには、投資家は単なるキャピタルゲインを実現するだけでなく、コーポレート・ガバナンスを行う責任のある株主を育成する必要がある。

バブル崩壊に備えがあれば、憂いなし

 中国は貯蓄率の高い国である。現在、家計の貯蓄率は30%に達し、政府と企業セクターを含めれば、国全体の貯蓄率は50%に達する。中国の過剰貯蓄は過剰流動性をもたらす原資である。問題は金融制度改革が遅れているため、金融市場の金融仲介機能は効率的ではないことにある。本来ならば、金融市場は生産性の高い企業に安いコストでより多くの資金を仲介するのに対して、生産性の低い企業には高いコストで少量の資金を仲介する。時間が経つにつれ、産業構造は合理化されていくことが考えられる。

 中国では、国有銀行は主として国有企業にしか融資しない。株式バブルにおいて業績の悪い企業の株価は安かったため、連日ストップ高を記録する。こうした状況が続くかぎり、中国の産業構造は合理化されない。

 一方、中国の家計は金融資産を運用する際、安全性や流動性よりも収益性を重んずる傾向が強い。そのポートフォリオには、株式や「理財商品」(リスクの高い投資信託商品)が多く含まれている。家計の金融資産がリスクに犯されやすい背景には、個人投資家のほとんどが金融知識を持っておらず、コーポレート・ガバナンスについて無関心であることがある。これらの個人投資家は資産運用について、安く買って高く売れば必ず儲かると信奉しており、ギャンブル性が高い。

 現在の株式市場について、国務院発展研究センターの呉敬蓮研究員は「まるで賭博場だ」と批判したことがある。やや極論だが、正しい指摘である。

 株式市場のリスクを大きくしたもう一つの原因は、中国政府の市場介入である。政府は政治の必要性から株式市場を最大限に利用しようとしている。政府による株式市場への介入こそ株式市場のリスクの所在である。

 そもそも、上海と深センの証券取引所が設立された当初、それは国有企業がエクイティ・ファイナンスを行う場として位置づけられていた。どの企業が上場できるかに関する審査は明確な上場基準に則って行われていなかった。証券業監督委員会は地域間バランスを念頭に、企業上場枠を分配していた。そして、国有企業が株式公開の過程で買収されないように、公開できる株式が3割程度と限定されている。その結果、国有企業は株式を公開しファイナンスの道を切り開いたが、それに対するコーポレート・ガバナンスは強化されていない。

 中国では、民営企業は常に資金難の問題を抱えている。民営企業は政府のサポートを得られず、国有銀行に融資を申し込んでもほとんど門前払いされてしまう。民営企業は上場したくても、証券業監督委員会は認めない。近年、民営企業に対するこうした制度面の差別が問題視され、政府に対する批判も高まった。国有企業の上場だけが認められる株式市場は繁栄しない。これに対し中国政府が目指す金融国際化の必要性から、ようやく民営企業の上場も認められるようになった。

 しかし、中国の株式市場は依然未熟な市場である。企業の株式上場を審査するのは市場ではなく、証券監督管理委員会である。政府の役割は市場介入ではなく、取引が適切に行われているかどうかを監督することである。中国では、インサイダー取引や大口投資家による株価操縦が多発している。中国政府としては、投資家からの改革の期待に応えるために構造転換を進め、証券取引が適切に行われるようにそれに対する監督を強化することが重要である。