【15-01】AIIB狂想曲

2015年 4月 3日

川島真

川島 真:東京大学大学院総合文化研究科 教授

略歴

1968年生まれ
1997年 東京大学大学院人文社会系研究科アジア文化研究専攻(東洋史学)博士課程単位取得退学、博士(文学)
1998年 北海道大学法学部政治学講座助教授
2006年 東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻(国際関係史)准教授
2015年 同教授(現職)

AIIBをめぐる議論

 昨今、アジアインフラ投資銀行(AIIB)をめぐる議論がかまびすしい、と言ったら言いすぎであろうか。参加期限前に欧州諸国が参加を表明し、さらにロシアや台湾まで参加を表明したが、日米は参加しないまま時が過ぎた。筆者は、「外交懸案長期の視野で」(『日本経済新聞』、〈経済教室〉、2015年1月8日)などといった小論で、AIIB参加などについて無碍に断るのでは無く、参加の可能性を模索するべきだと言う主張をおこなってきた。しかし、それはAIIBという組織に必ず参加すべきということではなくて、中国が主導する国際組織なり秩序が今後ともさまざまなかたちで展開されるので、それに対して全て距離をとったり、敵対したりすることはない、という意味である。

ADBとAIIB

 日本とアメリカはアジア開発銀行(ADB)の主要な出資国であり、その運営にも深く関与してきた。そのADB自身が、アジアには広汎なインフラ投資需要があることを認めているし、ADBだけではそれを担えないことを自覚しているだろう。そうした意味で、ADBとAIIBは重なりをもちつつも、質を重んじるか、量を重んじるのかということなど、さまざまな意味での棲み分けは可能だろう。

 AIIBをめぐっては、国際政治やガバナンス論を重視する立場からすると、そこに参加して中国を牽制しつつも、既存の秩序と敵対させないようにしていくべきだという見解が目立つ。新興の勢力が現れた場合に、その勢力が既存の秩序に対して融和的であるか否かが、パワー・シフトがどのように生じるのかの大きな焦点になるからだ。イギリスに挑戦しつつも既存の秩序を受け入れたアメリカになるのか、イギリス・アメリカに挑戦し世界大戦を二度も戦ったドイツになるのかによって、中国に対するイメージは大きく変わってくるし、世界政治も大きく変化する。国際政治、世界政治からすれば、今後の変容が平和裏に進むことが望まれるので、AIIBのように中国が新たな枠組みを形成しようとした場合には、それに寄り添うのが筋だということになろう。

 それに対して、国際金融の立場に立てば、ことはそれほど単純ではないらしい。出資比率の問題や、融資決定に至るプロセスなどをはじめ、あくまでも「銀行」であるAIIBの内部で、最大の出資国である中国を“牽制”するということは決して簡単なことではない、というのである。それだけの出資を確保し、さらに手続き面で相当に踏み込まないと意味が無い、というのがその主張である。ADBとの役割分担もしばしば話題に上るがそれだけが問題では無いようである。

中国内部の議論

 中国内部に目を向けると事態は相当に複雑だ。中国では、「大国」に相応しい外交をいかに展開するのかと言うことが課題になっており、とりわけ「周辺」と呼ばれる地域において、いかに国際公共材を提供するのかということが課題になってきていた。また、経済の面でも、だぶつく外貨をどこに投資するのかということが問題になっていた。そこに合致したのが、このインフラ投資銀行である。空間的にも、昨今習近平政権が掲げているシルクロード戦略に合致する、対ユーラシア・インフラ投資が基軸になっている。こうした枠組みは、シルクロード基金、BRICS銀行など、多々計画されている。

 しかし、中国内部の議論は日本から見るとやや新鮮、あるいはなじみ深いものかもしれない。新鮮というのは、日本と見方が異なるからであるし、なじみ深いというのは、かつて日本国内でも似たような議論があったからである。つまり、この巨額の外貨を諸外国のインフラに投資するという点について、中国内部から国内における貧困や経済問題に使うべきだという批判論が出ているのである。また、今年中国の財政が相当に厳しい事態に直面しており、こうした投資を積極的におこなうことへの異論もあるようである。

日本の立場

 今回、AIIBへの参加を見合わせた日本だが、何もそこまで「出遅れた」感を持つ必要もなかろう。AIIBについては様子を見守り、むしろADB改革などをおこなうことが先決だ。また、AIIBへの不参加を前例とするよりも、今後、中国なり、新興国が形成する新たな枠組みについては、ひとつひとつ国益に照らして状況を見て判断し、適宜その外側に立ち、また時には内側に入るという、多様な距離感をもって接することが肝要では無いかと考える。

 船や電車に乗り遅れたと思うと焦燥感もあろうが、船も電車も、当面は多数目の前を通るであろうから、その都度乗るか乗らないか考えることが大切だろう。


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