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【07-001】酸化チタン光触媒反応を発見した藤嶋昭教授と日中研究交流(上)

2007年 1月19日

 酸化チタン光触媒の反応を世界で最初に発見した藤嶋昭東大特別栄誉教授(現在、財団法人神奈川科学技術アカデミー理事長)は、多くの外国人留学生を受け入れてきた。中でも中国からの留学生が最も多く、約30人いるという。その中でいま最も活発に研究活動に取り組んでいる6人の研究者が、2006年12月29日に北京に集まり、藤嶋教授を囲んで最新の研究成果を発表し討論する交流会を開催した。研究成果発表だけでなく、日中の共同研究や研究交流についての意見交換の場ともなり、懇親会も含めると8時間以上に及ぶ熱烈研究会となった。そのあらましを2回にわたって報告する。

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日中交流研究会出席者(敬称略、順不同)

  • 藤嶋昭(財団法人神奈川科学技術アカデミー理事長、東大特別栄誉教授、日本化学会会長)
  • 姚建年(中国科学院化学研究所副所長、中国科学院院士)
  • 江雷(中国科学院化学研究所教授、国家ナノ科学技術センター首席科学者)
  • 劉忠範(北京大学ナノ科学技術研究センター長、
  • 国家ナノテク・工程研究院副院長、長江学者特別招聘教授)
  • 孟慶波(中国科学院物理学研究所教授、クリーンエネルギーセンター副所長)
  • 顧忠沢(中国東南大学生物科学・医学工程系教授、生物電子学国家重点実験室副室長、長江学者特別招聘教授)
  • 只金芳(中国科学院理化技術研究所教授)
  • 永野博(科学技術振興機構理事)
  • 司会・馬場錬成(中国総合研究センター長)

藤嶋昭教授の講演酸化チタン光触媒の現状と将来展望

研究会の冒頭、藤嶋教授は「日本における光触媒の現状と将来の課題」のタイトルで講演を行った。別項にあるように酸化チタン光触媒の反応は、1967年(昭和42年)に東大工学系大学院の2年生だった藤嶋昭東大特別栄誉教授(以下教授と表記)が、酸化チタンと白金電極による閉回路を作った水槽の中に水銀灯の強い光を当てたところ、両電極から酸素と水素が泡となって沸いてくる現象から始まった。

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 その後、酸化チタン光触媒を応用する研究が広がり、いまでは次の4つの基本分野へと発展した。

① 空気浄化分野(アルデヒドの分解やNOX(酸化窒素)の除去)
② 水浄化分野(有機物の分解や環境ホルモン物質の分解)
③ セルフクリーニング分野(油汚れの分解や超親水性の効果)
④ 抗菌・殺菌分野(大腸菌やMRSAの殺菌、ウイルスの分解)

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 たとえばいつでもクリーンな壁面を保つ光触媒タイルが一般住宅にまで広がっていることや、セルフクリーニングの実例として、横浜みなとみらい21タワー、中部空港、JRつくば駅、元住吉駅、成田空港、東京ビッグサイトなどを写真で示した。

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パリのルーブル美術館の入り口にあるピラミッド型建物のガラスも光触媒でコーティングされている。

 高速道路用の照明ガラスにも光触媒のコーティングをしておくと、汚れてもセルフクリーン作用でいつでも明るい照明を保持できる。道路鏡や道路の遮音壁に使用したり、NOX除去作用にも実用化されてきている。

 新幹線のグリーン車の窓ガラスや喫煙室にも利用されるようになる。窓ガラスの汚れを分解し、雨が降ったときに汚れを自然に洗い流すので、いつでもきれいな窓になる。これは徐々に油汚れになってきても、雨水に触れると親水性の効果で洗い流してくれるからだ。車体への応用も研究を始めている。また、住宅の内装のブラインド、鏡、内装材、蛍光灯などでも使用されるようになっている。白、あるいは透明の酸化チタンに少し色をつけて、可視光でも反応する「可視光化」が注目されている。これは、窒素や硫黄を酸化チタン結晶に入れて対応するもので、カーテンやカーペットに応用が可能だ。

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 経済産業省のプロジェクトでは、いくつかの企業が集まってプロジェクトを進めその結果として製品化が実現した。壁紙などインテリア内装材に活用できるようになった。

抗菌・殺菌・NOX除去など広がる一方の製品開発

 抗菌・殺菌効果を利用して福岡県北九州市の整形外科病院では、手術室の床や壁面タイルに光触媒タイルを利用して効果があった。カテーテルにも利用されている。また光触媒フィルターも開発され、消臭、殺菌、各種有機物の分解にも効果を発揮してきた。空気浄化だけでなく、ダイオキシンの分解もできる。腐食予防の効果を調べるために、沖縄県で行った10年間の実験結果をみると、酸化チタンを塗装した部分は塗装しなかった部分に比べて明らかに腐食が進んでいないことも分かってきた。これによっても鉄をサビさせないためにも、酸化チタンが有用であることがわかった。

 親水性の効果では、自動車のサイドミラーだ。雨が降ると水滴がミラーの表面に水滴を作るので見難くなるが、光触媒をコーティングして置くと親水性を発揮して水滴を作らなくなり、見やすいミラーを保つことができる。

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 藤嶋教授は最後に、日本経済新聞社と三菱総研の共同調査によると、光触媒の市場は2010年には3215億円になり、2015年には4208億円まで成長するとの予想を紹介し、光触媒の実用化がさまざまな分野で今後も広がるとの見通しを述べた。

 JIS規格もどんどん確定している。水処理とセルフクリーニングについても近々確定する。ISO標準化への動きも日中で進めている。日本は可視光光触媒のJIS化も3年のプロジェクトで進めつつある。

 光触媒を小・中学生にも知ってもらいたいと「オモシロ実験室」も開設している。川崎市の小学校でも5,6年生を対象に行った。

江雷教授の講演光触媒の親水性と撥水性を研究する

 1992年に吉林大学から東京大学の藤嶋研に入り、99年に中国に戻った。後半は神奈川科学技術アカデミーの橋本和仁研究室で研究した。光触媒における表面の親水性、撥水性について研究をしている。

江雷教授

 江雷教授 特に2002年から、機能ナノ界面材料技術を紡績、建材などの分野に応用し、超親水・超撥水特性を持つネクタイ、セーター、スーツー、そしてガラス、タイル、塗装材などを開発した。光触媒ネクタイは中国に来訪のブッシュ大統領にも贈呈した。また、光触媒技術は国家オペラ座のガラス面などにも使われた。

 今日はいくつかの研究成果について紹介する。これまでにUV-可視光両方に反応するコーティング剤は2500トン生産した。これを北京のオペラ座にセルフコーティング剤として使用している。オペラ座は、6000平米のガラスの屋根の表面にコートしたものだ。瀋陽市のタワーでも、人が掃除で拭くのが難しいデザインの建物なので利用した。北京オリンピックのバスケットの会場にも利用されている。

 基礎研究は応用研究と異なり、新しい発見が求められる。自然から学ぶことが重要である。例えば、蓮の葉はセルフクリーニング機能がある。

 このテーマを最初に研究したのはドイツの研究者であり、マイクロ構造が重要との結論に達した。しかし、我々がSEM(Scanning Electron Microscope、走査型電子顕微鏡)を使って詳しくみたところ、マイクロ構造の上にナノ構造があることがわかった。結局、蓮の表面にはマイクロ構造の他に50-60ナノスケールの構造もあることがわかった。

 何故、自然はマイクロとナノ構造(1ナノメートルは、1ミリメートルの100万分の1)を使うのか?という問題意識から研究し、蓮と同じようなマイクロ-ナノ構造をつくることとした。この構造は水を流しやすいことがわかった。これは撥水効果につながる。

 近年、超撥水性の論文は非常に件数が増えた。

 蚊の目玉についても、同様な構造があることがわかった。吉林大学のヤン先生と同じ構造を作った。これは、曇り防止効果がある。蚊の目玉に水が一滴もつかないこととなる。アメンボの足も同様に、マイクロの毛の表面にナノの毛がある。マイクロナノ構造の共同効果でアメンボは水の上を走ることができる。

 アメンボの脚には、脂分を含む毛が生えていて、水をはじきやすいので表面張力を張った水面に乗りやすく、それで浮いていると従来は説明されていた。我々の研究では、アメンボの脚1本を水平に固定して水面に押し付けたところ、体の約15倍の重量を支えることができた。しかし模型の脚では、せいぜい体の1.3倍程度しか支えられない。模型の脚では、静止時に体を支えても、水面を自由に動き回る強い推進力を得るのは無理だ。

 そこで脚の微細構造をSEMで調べたところ、毛の表面に幅数ナノメートルの非常に微細な階段状の溝が見つかった。この溝の隙間に空気が入り込むことで水を非常に強くはじく超撥水現象が起きていることを発見した。その成果は、「Nature」に発表した。ハスの葉が水玉をはじく撥水作用も同じ理由によるものだ。

 自然界ではマイクロナノ構造という2つの構造を組み合わせて機能を実現させているので、我々もマイクロナノ構造を研究している。マイクロナノ構造の上に高分子をコーティングすると、光によって超親水から超疎水へのスイッチングができるので、その機能を追求している。

孟慶波教授の講演光触媒を応用して太陽光発電の高効率化に挑戦

 太陽エネルギーの有効利用をする技術の一環として、酸化チタンの光触媒界面特性の応用がある。多くのデバイスが研究されている。孟教授は主として色素増感太陽電池の全固体化について研究を行ってきた。

孟 慶波

 孟慶波教授 この研究では光電変換効率のさらなる向上と電池性能の安定化が当面の課題になっている。酸化チタンの多孔質膜を絶縁体超薄膜で被覆してやると、電池の高効率化がはかれることが分かってきた。

 さらに長時間の擬似太陽光を連続で照射しても電池性能の劣化が抑えられることが分かった。

 シリコンソーラーセルは高価であるので、太陽光発電の低価格化、1高効率化、環境友好化の3大特長を出すようなデバイスの開発に挑戦している。

 これまでの研究では、絶縁体の超薄膜の最適化の一環として絶縁体層導入効果の裏づけになる基礎研究を行っている。種々の測定を行い、均一な超薄膜の製法を開発したい。

 また、ホール輸送材料として用いるヨウ化銅の改質を行い電荷の輸送特性の向上を図っている。色素/ヨウ化銅界面およびヨウ化銅/金対極界面の接触改善を目指している。

 2006年の我々のグループは、25本の論文を書き、12件の中国国内特許を出願し、1件の外国特許出願を行った。他の大学・研究機関との共同研究も盛んであり、国際共同研究ではドイツ、スイスなどと交流している。

只金芳教授の講演酸化チタン光触媒の中国での標準化に取り組む

只 金芳

 2003年に日本から帰国した。中国の国家標準プロジェクトに取り組み、いま中国の光触媒標準化の責任者になっている。 只金芳教授 中国では、現在、光触媒事業に参入している企業はすでに100社以上を超えている。代表的な会社は次の通り。

  • 奥因光触媒有限会社(深圳)
  • 天津宇野環境科学有限会社(天津、日本独資)
  • 広州緑創環保科技有限会社(広州)
  • 上海坤伦光触媒环保产品有限公司(上海北京友田の光科技有限会社(北京) 日本、韓国企業の代理店を含めると、一説には200社近いと見る向きもある。

 中国光触媒市場実態のInternetの調査結果によると、日本からの技術であるため日本語を優先的に使用している。機能としては、空気清浄化、抗菌機能が優勢であり、さらに製品としては塗料と空気清浄機が優勢になっている。

 なぜ中国でいま光触媒ブームになっているのか?2003年に中国でSARSが流行し抗菌の対策としてにわかに"光触媒"という言葉がはやり出し、中国全土に広がったからだ。さらに近年、中国では住宅の新築、リフォーム及び自動車などがブームになり、シックハウス症候群、室内化学物質空気汚染などの問題が顕在化してきたことがある。環境を快適にするための技術開発が大変注目されている。

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 中国で独自開発された光触媒製品としては、光触媒塗料、スプレーや光触媒タイルがある。東南アジアにも商品を輸出している。日本・韓国・台湾企業からの製品も中国市場に出回っている。

 中国市場の問題点としては、光触媒という言葉は知っていても本当の意味が何かという科学的知識に対する認知度が低いことだ。光触媒企業は小さく分散しているのでリーダーになっている企業はなく、偽物も多く出ている。光触媒活性の検定標準もなく、本物と偽物を見分けられるよう製品の標準化が必要である。企業の宣伝は不誠実であり、機能を拡大して宣伝するなどの傾向があるので製品の標準化は必要である。

 2003年3月に中国光触媒製品の標準化制定委員会が発足した。業界標準とあわせて国家標準もつくる動きが認められた。ただし、国家標準は2006年に開始し、2年以内に完成させなければならない。

 抗菌性能については、中国科学院理化技術研究所が担当し、空気浄化については、福州大学が担当する。そのほかにセルフクリーニング機能については、中国科学院化学研究所が、水質浄化性能試験などについては、清華大学中国科学院広州能源研究所が標準化を決める担当になっている。

 先端技術の実用化に際しては、研究開発段階から標準化に取り組むことが有効な場合があると考えて、2003年3月に「中国光触媒製品の標準化制定委員会」が発足しその検討を開始した。

光触媒の標準化への取組状況
規格名称 概要 提案 備考
光触媒材料―空気清浄化(VOC)性能試験 大気汚染物質であるベンゼンの除去性能試験するものである。 福州大学 ガスクロでベンゼンガスの減少を測る。
抗菌性能試験 密着フィルム法 中国科学院理化技術研究所 JIS抗菌性試験参考する。紫外光強度:<0.2
セルフクリーニング性能試験 1)光触媒製品上の水滴に紫外線を照射し、水滴の形状変化を計測することにより、表面における親水性を試験する
2)光触媒製品に附着させて染料の分解について、吸光スペクトルを測定することにより、分解力を試験する。
中国科学院化学研究所 防汚性と親水性両方を試験する方法
水質浄化性能試験 水に染料を入れ、紫外光照射により、染料水溶液の吸光スペクトルを測定することにより、分解力を試験する。 清華大学中国科学院広州能源研究所 反応器の設計などまだ決めてない。

 地球環境に負荷をかけずに環境浄化が可能で、その応用範囲も大変広いものです。日本発の技術であり、環境の悪化に苦しむ21世紀の世界の新技術として期待されている。中国での光触媒市場は今後急速な成長が期待される。

 日本の標準化方式を参考としており、日本の標準をISOに提案している日本ファインセラミックス協会と協力している。

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