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【09-003】Osaka U. Days in SJTU 上海交通大学における阪大留学フェア

2008年12月16-17日、於上海交通大学ミンハン・キャンパス

高部 英明

高部 英明(たかべ ひであき):
大阪大学レーザーエネルギー学研究センター教授

大阪大学理学研究科物理学専攻および宇宙地球科学専攻協力講座・教授。
専門はプラズマ物理学、計算科学、宇宙物理学。現在は実験室と宇宙のプラズマ物理を統合することに関心をもつ。自ら提唱した新学術分野「実験室宇宙物理学」の推進のため英国、仏国、中国、韓国、米国との国際共同実験を推進している。
2000年、フェローの称号(米国物理学会)、03年、エドワード・テラー・メダル受賞(米国原子力学会)、06年、名誉教授の称号(中国国家天文台)。08年、客員教授の称号(上海交通大学
著書に『さまざまなプラズマ』(岩波書店/2004)などがある。
現在、アジア太平洋物理学会連合理事(http://www.aapps.org/)、SSH(スーパー・サイエンス・スクール:JST)運営指導委員長(岡山県立玉島高校)、地球シミュレータ計画推進委員・課題選定委員(http://www.jamstec.go.jp/esc )など

概要

 大阪大学と上海交通大学(SJTU: Shanghai Jiao Tong University)は姉妹校的関係にある。08年12月16-17日の2日間、大阪大学から37名の教員達が参加して第1回の「Osaka U. Days in SJTU」(阪大留学フェア)を開催した。物理、数学、環境・エネルギーの大部隊を含む8分野のグループで、16日は主に全体行事。17日は各グループに分かれてのSJTUの同じ分野の研究者・学生との交流プログラムを実施した。SJTUに知り合いがいない先生には、SJTU側責任者の印傑(Yin Jie)副学長(教育担当)を通して同じ専門分野の教授を事前に紹介していただいた。
阪大の教員とSJTUの学生、教員が顔と顔をつきあわせ、人間的なつながりを通して交流を深めることが両校の今後の関係に極めて重要である。主に、阪大への留学案内や阪大教員による模擬講義、研究紹介など英語で行うことで、SJTUの学生が多数、阪大に留学希望してくることを期待している。同時に、まだSJTUを知らない阪大の先生達にSJTUの阪大以上に優れたキャンパスや研究施設も見ていただいて、逆に、阪大生をSJTUに送り出す可能性も考えてほしかった。
今回のように8分野の人たちが2日間、食事を共にしたりしたことで、学内に横のつながりが出来た。「国際化」のための留学フェアで阪大職員、院生の「学際化」も小さいながら同時に実施できた。中には、この機会に知り合った人同士でこれから共同研究しょう、というケースもあった。これも重要な成果と考えている。

1.留学フェア開催経緯

大阪大学ー上海交通大学学術交流セミナー

 大阪大学が中国で最初に協力協定を結んだ大学がSJTUで、1994年のこと。その後、毎年、交互に学術セミナーの交流を行ってきた。08年10月8-9の両日、阪大がホストで新たに物理分野を含む6セッションの学術交流を行った(写真)。その際に阪大を公式訪問したSJTUの張傑(Zhang Jie)学長が、鷲田総長との面談で「過去13回のセミナーを主とした交流による成熟した両大学の関係を受け、新たな関係構築に進むべきである」と発言し、鷲田総長も「両大学に有益なことは全て歓迎である」と返答した。

 学術セミナーの期間にSJTUの国際交流部・許主任から辻副学長(国際交流担当)へ、SJTUで阪大説明会を行うなら受け入れる用意がある、との意思表示がった。張学長の意向でもある。歓迎会の席で辻先生から本件で相談を受けた高部が実施の可能性を検討することになった。結果として12月16-17日の2日間、表題の行事を実施することとなった。実施したい旨、6年来の共同研究者で親友の張学長に伝え、冒頭の印副学長がSJTU側の責任者に指名された。そこで彼とのやりとりが始まった。

2.SJTUについて

2.1  SJTU概要

 SJTUは中国で2番目に歴史のある大学。第2次世界大戦後、新政府の方針で交通大学は西安交通大学など他の都市にも設立された。台湾の新竹には国立交通大学がある。1952年、SJTUの理学部は復旦大学に移った。だから、SJTUの理学部は中国内で10位程度と低い水準(自然科学総合は中国では3位)。3年前に上海第2医科大学を吸収し医学部が設立された。

  • 教員2000名 (内700名の教授)
  • 学生総数27,000名(学部生18,000名、大学院生9,000)
  • 分野:工学50%、生命・生物・医学:30%、理学:5%
ミンハン・キャンパス

 理学の割合が極端に低いのは理学部が数学と物理だけだからである。交通大学では理学部は日本の旧教養部に相当すると考えると理解しやすい。物理、数学は工学や生物、医学の基礎であり、研究より教育の役割が大きい。教育もSJTUの学生の数学・物理教育だけでなく、上海近辺の小さい大学の数学・物理教育も担当する仕組みになっているため、教員の数は多くいそうでも、研究力では中国では10位程度になるようだ。

2.2  国費留学生制度(CSC Program)

 07年2月に中国政府が打ち出した「中国政府奨学金による毎年5千人の大学院生海外留学支援制度」。これはChinese Scholarship CouncilのProgramであることから略称「CSC Program」と呼ばれている。上海交通大学は毎年300名の博士、修士課程学生を送り出す権利を有する。この内、半分が3年間でPhDを取得するプログラム。後の半分は、「サンドイッチ方式」と言い、例えばSJTUの大学院の2年目を海外の大学で勉学・研究し、帰国してSJTUで学位を取る方式。
2008年度のSJTUの実績は3年留学の院生を152名送り出し、そのうち、米国が62名、日本はわずかに5名であった。CSC Programについては米国、英国、ドイツから「SJTUから何名を受け入れたい」と人数の提案を受けている。(CSC Programによる留学勧誘の行事も受け入れている。08年は10月に米国の10近い大学が団体で大学説明会を開催した。日本も個別の大学でなく10程度の大学が同時に説明会をSJTUで開催してくれると、復旦大学南京大学浙江大学など近隣の国家重点大学にも案内を出し留学説明会を開催できる。時期的には10月末から11月初めが良い。CSCの申請締め切りが年末。CSC Program以外にもSJTU独自の留学生派遣programがある(130名)。

CRC Pogramの概要

  • 海外の大学に博士課程3年間の滞在を奨学金付きで支援する(日本の場合月額13万円程度、授業料免除が原則、例外有り)
  • 中国の国家重点大学約40校がそれぞれに派遣の人数を指定されている。
  • 希望する学生は受け入れ教官の証明書をつけて12月31日まで国家留学基金に書類を提出する必要有り。
  • この段階で大学はSJTUの場合300人の指定枠に対し、1.5倍の450人を推薦する。後は中央で書類審査し300名に絞る。
  • 採否の結果は3月に通知される。
  • 留学生は8-9月に出発し、新学期から入学する。

2.3 SJTUにおけるその他の大学間協力の現状

  • 世界150大学と協力協定を結んでいる。
  • 中には「中国10最高学府」と「カリフォルニア大学10校」との協定のような包括的な協定もある。
  • Joint Institute with U Michigan
    2年前にミシガン大学とのJoint InstituteをSJTUに設立した。2000年から交流を始めており、学部生・大学院生の累計900名が参加した。その内、100名が両大学の学位を取得した。Joint Instituteでは常時、海外の著名な教授を招待し、英語で講義を行っている。UMの学生とSJTUの学生が一緒に同じ教室で講義を受ける。Joint Institute Programには現在600人が参加。SJTUからは現在学部生72名が2年間、UMで勉強しており、両校の卒業証書(学位)を受け取ることになる。
  • Summer School with George Tech. Univ.
    上記プログラムを最近始めた。1セメスター(9週間)でGTから多数の先生が来て集中的に授業を行う。期間は5月から8月の内の9週間。分野は工学分野であるが、工学の学位とMBAの学位の両方を取得できる。08年は50名の学生が参加。中国の文化・伝統などに関する英語での講義もある。
  • 早稲田大学との交流
    早稲田大学と学生の長期留学生交換制度、Double Degrees制度など実施している。例えば、SJTUで最初の2年間学び、大学3,4年と早稲田で学ぶことでSJTUと早稲田の両方の卒業証書をもらえる。教育と研究もリンクしたプログラムがあり、12/16日は同じ建物で、早稲田大学から教官含む30名が来ていて、生命分野の研究報告会をSJTUの先生学生と共同で行っていた。
  • その他
    • SJTUの学部生の17%が留学プログラムに参加している。
    • 千葉大学から2年間の留学受け入れの案内が来るが、希望者がいない。

3.大阪大学説明会の開催

 16日の午後は、「陳瑞球楼」の建物の2階の講義室を利用した。1階では早稲田大学が研究報告会を開催していた。このような行事のアナウンスはHPに掲載され、興味ある学生が参加する。時間が来ても印副学長が現れないので、私が前座を務めて、学生達に簡単な挨拶をした(写真)。印副学長の挨拶の後、高部が阪大を代表して「Brief Review of Osaka University」と題して、PPT-fileを用いて大学紹介をした。

 高部が大学の概要説明をするため、国際交流課から留学生への説明用の大学紹介のPPT-fileをいただいた。しかし、その中身を見て「これでは学生が寝てしまう。文章や数字や統計など、阪大のデータベースとしては価値があっても、とうてい、大学の魅力的な紹介にはなっていない」と判断した。

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 そこで、15分の説明のアウトラインを決め、週末を利用してGoogleでいろいろな写真など見つけながら「日本の大阪大学はイメージとして魅力的で、興味を持った」と、中国人の修士の学生レベルが感じるようなPPT-fileを作成し直した。

 中国の若者が一番影響を受けている日本の文化はマンガである。マンガという言葉ではなく、米国で日本のストーリー性のあるマンガに使われている言葉、「Graphic Novel」という造語の方が実態を良く表現している。「絵を主体にした小説」である。2人の子供の影響で、私も数種類のマンガの長編を読んできた。「マンガ」と馬鹿にしてはいけない。中には極めて完成度の高いストーリーのマンガがある。そして、日本のマンガは世界中で翻訳され販売されている。

 そこで、まず出だしは阪大が誇る世界の超有名人、手塚治虫先輩に登場していただくことに決めた。大学院生が「鉄腕アトム」を知っているか気になったので、北京の国家天文台の友人に、周りの院生がよく知っているかメールで聞いた。すると、「Death-Note」など、沢山の日本製マンガの写真を添付して「こんなマンガの方が有名よ」と返事が来た。博士後期1年の息子が、指導教授の中国との共同研究の一環として清華大学に07年9月-12月と滞在した。その時、研究室の13名の大学院生達と共に和やかに過ごした経験があるので、息子に「アトムのことは皆、知っているか、聞いてくれ」と頼んだら、「もちろん、有名」とのこと。また、滞在中には「名探偵コナン」や「ドラゴンボール」などの話で盛り上がったと聞いたので、まずは、「コナン君」と「悟空」に登場していただくことにした。

 「君たちは、コナンやドラゴンボールは当然知っているよね。日本のこのようなGraphic Novel の創始者は鉄腕アトムの作者、手塚治虫だ。彼は大阪大学医学部の先輩で、阪大卒業生で最も有名な方だと思う。君たち、この少年の名前知っているよね。名前は何かな?」と、会場の学生に質問する。すると小さいが声が上がる、が、聞こえにくいので「もっと大きい声で」と言うと、皆「アトム」と大声が返ってきた。この時、後ろで聞いていた印副学長(年齢は40代の半ばと思う)が立ち上がり、「アトムは中国では俺たちの世代のヒーローだ」と大きな声で応えてくれた。

 大阪の歴史にも触れた。中国の急速な進歩は日本の戦後の焼け野原からの復興に似ている。特に、先の世界大戦による米軍のB29重爆撃機により完全な焦土と化した大阪駅近辺の航空写真を示し、そこからの復興の歴史を説明した。そのために次に、同じアングルで撮った現在の大阪駅周辺の航空写真を示した。

 大阪市と上海市は姉妹都市である。この際だからと、姉妹都市提携の式典の写真を見せようとGoogleで探したが、無かった。その過程で、大阪市博物館に有りそうだとわかり、メールした。すると、日中国交回復(1972年9月)間もない1974年4月18日、上海市政府大講堂で、大阪から船で式典のために来た400名と上海市の1800名が参加して、姉妹都市締結の式典を行った記事が送られてきた。白黒の写真もあったので、使わせていただいた。当日は大阪市上海事務所所長の今中國雄氏が特別参加してくださった。

 戦後の急速な経済復興の過程で生じた70年代の「公害」問題を説明した。そのために、スモッグで霞んでしまっている当時の大阪湾臨海地帯の航空写真をGoogleからさがしてきた。約10年程度かけて大阪市の「Blue Sky Project」が公害撲滅に取り組んだ話など紹介した。そして、次のページで、同じ辺りの今日のきれいな夜景を見せた。中国の若者に「やれば中国も公害を撲滅できる」と知ってほしかった。

 最後の方では、NASAの気象衛星が撮影した中国本土と日本を含む気象写真を見せた。写真を見ると恐ろしくなる。中国の海岸線が見えないほどの巨大な黄色いスモッグが偏西風で九州、山陰にまで達していることがわかる。ここで「We are in the same ship」と言い、中国の環境問題は日本の問題でもある。日中が協力して中国の公害問題を解決しなければいけない。そのためにも日中の連携は不可欠である、と結んだ。

 同時に、中国とは1500年の長い交流の歴史があることも学生達に説明した。中国の高僧、鑑真和尚が3度苦難の航海の末、視力を失いながらも日本に来てくださり仏教という文化の普及に生涯を捧げてくださったこと。その寺が「唐招提寺」で、胡錦涛主席が来日した際、唐招提寺にお参りした写真を見せながら説明した。胡錦涛主席は当時の福田総理との日中首脳会議(08年5月)のための来日であった。その際、新しく「日中の戦略的互恵関係」が結ばれ、日中関係が08年に新時代を迎えたことも説明した。胡錦涛氏は帰路、奈良に寄り唐招提寺を雨の中訪ねた。

 後は、大阪大学の概要説明。大阪大学の原点である「適塾」については緒方洪庵より適塾が生んだ偉人の1人、福沢諭吉の方がわかりやすいので、一万円札の写真を示して、当時の話をした。私は福沢諭吉の「福翁自伝」(角川文庫、新装版、2008年)が大好きで、学生などに「是非読みなさい」と薦めている。同時に、私は、過去4回は読み返し、そのたびに新たに感動している。中国語の訳本も出版されていたので、その本を是非買って読んでみてくださいと話した。この本を読むと「学問をするとは何か」という原点が書かれており、同時に当時の適塾の自由奔放さと厳しさがわかりやすく書かれている。皆さんも是非一度、読んでみてください。このような15分の私の概要説明に引き続き、留学生センターの西口先生、黒田先生が留学に関する説明を行った。

4. 物理グループの交流会

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 17日の午後は、物理、数学、環境・エネルギー、溶接、化学、医学などそれぞれのグループに分かれて、交通大学との交流を行った。

 物理からは小川、久野、岸本の3教授と保坂、森川の2准教授、佐藤、田中助教、3名の博士後期院生が参加している。朝の別件の用事を済ませ、着いたら、久野教授が模擬講義をしているところだった。素粒子物理学を大変わかりやすく、ビジュアルに講義していた。講義の中で、項目ごとに質問を入れ、聴講している交通大学の学生で手を挙げて答えた正解者に、昨夜、ホテル横のコンビニで買ったキャンデーをあげていた。

 途中で、数学のグループの交流会の様子を見てきた。こちらの方は高級な会議室で、革張りの椅子にゆったり腰掛けて参加者が発表を聞いていた(写真)。数学も物理と同程度の人数の阪大参加者があった。

 その後、小川教授と私に「上海交通大学客員教授」称号授与式が執り行われた。客員教授の証書と「交通大学」と書いた胸バッジを物理の専攻長Hang Zheng教授から授与された。久野、岸本両教授にも後日、称号授与がされる予定であり、4教授は毎年、交通大学で集中講義を行う予定になっている。高部の場合は6月19日から交通大学に滞在し、集中講義を行うことで、プラズマ物理学が専門のZ. M. Sheng教授と現在調整中である。

5.今後の課題

 17日の夕食の席で印副学長達と今後のことについて話し合った。検討課題として以下が挙がった。

  1. 09年の学術セミナーはSJTU開催の年なので、留学生フェアと合同で開催してはどうか。
  2. 「留学フェア」を毎年開催する場合、11月初めがCSC Programや進路決定と関連して時期的には最適。
  3. 米国がやっているように、阪大だけでなく10くらいの大学を阪大がとりまとめて連合で「留学フェア」をしてはどうか。その場合、場所はSJTUが提供するし、SJTUだけでなく復旦大学浙江大学南京大学東南大学など近隣の国家重点大学の学生も参加できるようにSJTU側で手配する。そうすれば、両者にとって有益ではないか。(高部意見:CSC Programなど、留学生獲得競争の相手は米国である。だから、日本の大学は競争よりまずは協力していかに米国と競争するか工夫すべき。阪大とSJTUが幹事を務める)。
  4. 阪大もミシガン大学のようにJoint InstituteをSJTUに設立してはどうか。そして、このJoint Instituteをただ阪大だけが使うのではなく、他の大学の先生の講義などの機会を与えることは両校に有益である。そして、SJTU+OUのDouble Degreesが取れるようにしていくと、学生のインセンティブが大きくなる。

 以上、4点が今後の大きな検討課題であることで認識が一致した。これについては阪大に持ち帰り、辻副学長(国際交流担当)や関係者と議論を重ねていく予定である。その過程で、国際部の皆さんの理解や協力体制などについても話し合って行きたいと考えている。


さらに詳しい報告が沢山の写真や情報の付録付きで下記のURLからPDFでダウンロードできます。興味のある方は読んでみてください。

Osaka U. Days in SJTU 上海交通大学における阪大留学フェア