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【09-009】名古屋大学上海事務所の活動について

宇田川 幸則

宇田川 幸則(うだがわ ゆきのり):
名古屋大学法政国際教育協力研究センター准教授・副センター長、名古屋大学上海事務所長

1969(昭和44)年2月 三重県津市生まれ
1997年北海道大学大学院法学研究科博士後期課程中退、修士(法学)(北海道大学)
関西大学助手、同専任講師、同助教授、名古屋大学法政国際教育協力研究センター助教授を経て、現職
専攻:現代中国法
著書:『現代中国法入門〔第四版〕』(有斐閣、2006年)(木間正道、鈴木賢、高見澤磨各氏と共著)
論文:「中国における精神損害に対する金銭賠償をめぐる法と実務」(1)~(3・完)北大法学論集47巻5号、6号、48巻2号

はじめに

 名古屋大学は2005年11月に、上海の副都心ともいわれる徐家匯の一角に事務所を開設し、以降、中国との交流の窓口として、活動を展開してきました。以下では、まず当事務所の活動の前提となる、名古屋大学の国際交流の現状をごく簡単に触れた後に、当事務所の活動の内容についてご紹介いたします。

名古屋大学の国際交流・留学生の受入の状況

 名古屋大学は他の大学(とくに国立大学)に比して比較的早い段から国際交流に取り組んでおり、1973年に米国のオバーリン大学およびインドのプネー大学との間で初の大学間学術交流協定を締結しています。ちなみに、国立大学の大学間協定に限定すれば、1969年の東京大学=ルーア大学ボッフム校(ドイツ)、1972年の北海道大学=ポートランド州立大学、東京大学=エセックス大学、大分大学=サンフランシスコ州立大学が、本学に先んじて大学間の国際学術交流協定を締結しているようです(文部科学省「大学間等交流協定締結状況調査(平成18年10月1日現在)」〔文部科学省ホームページ所収〕参照)。2009年7月1日現在、本学は84の大学・研究機関と大学間学術交流協定を、また、109の大学・研究機関と部局間学術交流協定を締結しています。そのうち、中国の大学・研究機関とのものは、大学間学術交流協定は14、部局間学術交流協定は28で、1982年に南京大学との間で締結した大学間学術交流協定を嚆矢とします。なお、この協定は、南京大学にとっても海外の大学との学術交流協定第一号であり、それが後にご紹介する南京大学での名古屋大学・北海道大学合同大学デイにつながりました。

 次に、留学生の受入実績をみてみますと、平成12年度にはすでに総数で1,000人を突破しています。平成15年度以前は国立では東大、京大に次ぐ3位(私立大学も含めた全体では5位前後)、平成13年以前では全体でも5位以内という順位でした(文部科学省「留学生受入れの概況(平成15年版)」〔文部科学省ホームページ所収〕参照)。近年では他大学も積極的に留学生を受け入れはじめたため、全体で10位前後の受け入れ実績となっています(JASSO「留学生の受入れの概況(各年度版)」〔JASSOホームページ所収〕参照)。他方、学部学生が約10,000人(科目等履修生、聴講生、研究生等を含む)、大学院生が約6,000人(研究生等を含む)という本学の規模からすると、これは大きな数字であるといえ、学生総数に対する留学生の占める割合は、とくに国立大学の中では突出しているといえます。

 このような本学における受入留学生数の多さ(増加)の背景には、以下の要因が存在します。国際開発協力・国際コミュニケーション分野で活躍する人材育成を目指した国際開発研究科が1991年に設置され、また1998年には日本語言語文化・日本語教育・多元文化等の教育・研究を柱とする国際言語文化研究科が設置されました。これら研究科では、その教育研究の特色からもわかるように、積極的に外国人、とりわけアジアからの留学生を受け入れてきました。また、1996年からは、本学と学術交流協定を締結している大学の在校生(学部・大学院)を対象として、4ヶ月ないし1年の期間で交換留学生として本学に滞在するプログラム(NUPACE〔Nagoya University Program for Academic Exchange〕)を実施しています。定員は65名ですが、好評を得ているため、近年では応募者がこの数倍に達している状況です。さらには、1990年代初頭から、アジアの体制移行国に対する法整備支援に本学法学研究科を中心として取り組んできました。名古屋大学における法整備支援は主にベトナム、カンボジア、ラオス、ウズベキスタン、モンゴル等の東南・中央アジアを対象国としており、かつ、人材育成に力点を置いていることから、これら対象国からの留学生を積極的に受け入れています。なお、このような取り組みから、文部科学省により全国に7つ設置された国際教育協力研究センターのうち2つ(農学および法政)が、名古屋大学に設置されています。これらからもおわかりいただけるように、全国レヴェルで見た場合、留学生数全体に占める中国人留学生の割合は65%程度〔前掲・JASSO「概況」等参照〕で、各大学ともおおむねこの数字に近い状況にありますが、本学の場合、中国人留学生の占める割合は40%台で推移しており、他大学に比して若干低い数字を示しています。

 このような活発な国際交流を背景に、2002年に開催された名古屋大学国際フォーラムにおいて「国際学術コンソーシアム(Academic Consortium 21〔AC21〕)」を設立し、本学が事務局をつとめています。現在、19のメンバー大学と6つのパートナー(企業)から構成されています。詳細はAC21ホームページをご参照ください。

名古屋大学上海事務所の設立

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 名古屋大学上海事務所は、中国の高等教育・研究機関等との学術交流の推進、中国における広報及び海外同窓会の中国における連絡窓口等を目的として、2005年11月11日に開設されました。開設当初は所長(国際交流担当理事が兼務)および事務員1名という体制でしたが、その後小職が副所長として加わることになりました。2008年4月から小職が所長となり、現在は副所長(劉蕾・本学大学院国際開発研究科修士課程修了)および現地スタッフ1名(馮佳妮・本学同窓生である黄潔・東華大学日本語学科教授の教え子)の3名体制です。小職は必要に応じて名古屋=上海を往復し、劉・馮の二名が当事務所に常駐して業務を遂行しています。

また、上海市内所在の、本学と国際交流協定を締結している大学・研究機関に勤務する6名(うち1名を除き本学同窓生)に当事務所の幹事をお願いし、定期的に幹事会を開催し、事務所の運営ならびに活動に対しアドヴァイスをいただくとともに、協力をお願いしています。当事務所は国際交流担当副総長・国際交流推進本部に直属する組織として位置付けられ、国際部、国際企画課および国際学生交流課と連携・協力して業務遂行にあたっています。

名古屋大学上海事務所の活動内容

地図

名古屋大学上海事務所

上海市徐匯区淮海西路55号 申通信息広場27階D座

 当事務所は、名古屋大学として初の全学的海外拠点であり、中国内で学術交流等を展開していく上で重要な役割を担っており、学内外から大きな期待が寄せられております。当事務所は、これまでの交流実績を基盤として、中国の高等教育・研究機関等との交流をさらに推進していくために、主に以下の業務を実施しています。

  • 名古屋大学と中国の大学・研究機関等との国際共同研究および国際学術交流の促進・支援に関する業務
  • 名古屋大学と中国の大学・研究機関等との留学交流, 共同教育プログラムの開発等の促進・支援に関する業務
  • 名古屋大学及び中国の大学・研究機関等を中心とした国際的な産学連携活動の促進・支援に関する業務
  • 中国における名古屋大学の広報に関する業務
  • 名古屋大学の海外同窓会ネットワークの中国における連絡窓口としての業務

 以下ではそれぞれの活動についてご紹介いたします。

①国際共同研究・国際学術交流

 当然のことではありますが、研究という営為の性質上、企画を含め、研究の内容そのものに当事務所が参与できる訳もありません。したがって、既存の共同研究を遂行する上でのサポートと新規の共同研究のスタートアップにかかるお手伝いが、当事務所の業務内容です。規模の大小は問いません。当事務所には20人程度の会議を支障なく開催することができるスペースがありますので、そこを利用して共同研究ないしは研究打合せが実施されたり、研究会が開催されたりしています。

 規模の大きなものとしては、昨年(2008年)11月28~29日に上海交通大学で開催された第2回日中環境シンポジウムがあります。このシンポジウムは、本学のエコトピア科学研究所、環境学研究科、地球水循環研究センターと上海交通大学環境学院、エネルギー学院が連携して、「環境とエネルギー」をテーマとして、二日間にわたり開催されました。ちなみに、2007年に名古屋大学で第1回が開催されています。本学から20数名の参加者がありましたが、当事務所は本シンポジウム開催にかかる実務的な業務全般をサポートしています。

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②留学交流・共同教育プログラム

 日常業務としては、電話や電子メールをつうじて、名古屋大学の各研究科に留学を希望する中国の学生からの個別の問い合わせへの対応ならびに当該部局との連絡、調整があります。正式な現地入学試験はまだ実施されていませんが、当事務所での現地面接やテレビ会議システムを利用した面接試験の実施のサポートも行っています。

 その他に、留学説明会の開催・参加があります。本学および当事務所が独自に開催するもの(たとえば、上記の環境学シンポジウムにあわせて、上海交通大学で実施しました)の他、日本大使館、JSPS北京事務所が主催する日本大学留学説明会への参加があります。

 名古屋大学が積極的に取り組んでいるものとして、中国国家公派留学生プログラム(いわゆる中国国家5000人)があります。ご承知のとおり、当該プログラムは中国が自国の資金で自国の優秀な学生を海外に留学させる(うち半分は学位取得を目指す)という、これまでにない本格的な留学プログラムで、名古屋大学としても当該プログラムに対し正面から対応しています。当該プログラムについては、当事務所は上海にあるためどうしても情報不足に陥りがちであったところ、各大学の中国事務所、希平会、JSPS北京事務所および大使館からも有益な情報を提供していただきました(ここにあらためて記して謝意を表したく存じます)。同時に、当事務所は中国国家留学基金委員会とダイレクトにコンタクトを取り、実務的な問題点のクリアに努めてまいりました。結果的には、初(2007)年度は7名(うち学位取得型は0名)でしたが、2008年度は56名(同36名)を受け入れ、2009年度は47名(同39名)を合格としました。当事務所は、関係資料の作成、留学基金委員会ならびに中国の各大学との連絡・調整、個別の学生への対応(希望部局への取り次ぎ等も含みます)等を行っています。

③産学連携

 日本におけるスキームとは異なるところは多いものの、中国における産学連携は日本のそれよりも積極的で、かつ大きな成果を挙げている例も少なくありません。名古屋大学では現在、産学官連携推進本部を設置し、積極的に産学連携に取り組んでいます。これまでは日本国内もしくは欧米を主なターゲットとしてきました。たとえば、2007年1月には米国ノースカロライナ州にNPO法人名古屋大学テクノロジーパートナーシップを設置し、海外との産学連携活動を開始しました。近時の日中間の経済関係の緊密さや、産業界からの要望といった要因から、2008年には、中国との産学連携を視野に入れた初歩的な調査に着手しました。当事務所は、訪問先のアレンジ、連絡調整、当日の通訳等、当該調査にかかる事務上のサポートを行っています。

④広報

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 日本では、おそらく名古屋という地名をご存じない方はほとんど存在しないと思われます。しかし、残念なことに、中国における名古屋の知名度は、あまり(これはひいき目に見た場合の表現であって、小職の実感としてはほとんど)知られていません。しかも、これは現代漢語の”mingguwu”と発音した場合であって、”Nagoya”と発音した場合は、さらに絶望的な状況です。他方、名古屋市のすぐ東に存在する豊田市に本社を置くトヨタ自動車(株)は、現代漢語の”fengtian”であれ”Toyota”であれ、多くの中国人に理解されています。同社名誉会長の豊田章一郎氏(昭和22年本学工学部卒)に名古屋大学同窓会会長をつとめていただいていることもあり、小職が大学説明会で名古屋大学を紹介する場合、同社を必ず「引用」させていただくのですが、内心ではなかなか複雑なものがあります。

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 中国の大学・研究機関との学術交流や共同研究、産学連携を行う上でも、また、優秀な学生に対する吸引力としても、中国における名古屋ならびに名古屋大学の知名度を向上させることは、今後ますます重要となってきます。昨年、3名の名古屋大学関係者がノーベル賞を受賞し、知名度が飛躍的に向上するやに思われました。中国の大学関係者の多くはご存じのようでしたが、残念ながら、中国の一般社会ではそれほど大々的に報道されなかったため、知名度アップの強力な武器にはならなかったようです。やはり、地道な活動が重要であることが、あらためて思い知らされた次第です。

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 その一環として、本(2009)年3月6日に南京大学において、また同8日には清華大学において、北海道大学との合同大学デイを開催しました。これは、上海に拠点(事務所)をおく名古屋大学と北京に拠点(事務所)をおく北海道大学とが連携し、南京と北京で両大学の研究活動、教育内容等の紹介や卒業生をスピーカーとする座談会を開催することで、イベントの効果を高めることを目的として実施されました。実施にあたっては、南京大学での開催は当事務所が、また清華大学での開催は北海道大学北京オフィスが、それぞれ事務全般を担当することとし、それにより双方の負担の分散をはかりました。この合同デイには、南京大学で210名、清華大学で224名と多くの学生が参加し、また現地メディアにも数多く取り上げられるなど、現地での関心の高さがご理解いただけると思います。

⑤同窓会

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 現在、中国国内には上海と北京に名古屋大学同窓会支部が設置されており、このうち、当事務所には上海名古屋大学同窓会支部(以下、上海同窓会)が設置されています。当事務所の幹事とは別に、上海同窓会にも幹事がおかれています。

 もっとも、本学総長が上海を訪問する際には、そのほとんどで上海同窓会との共同イベントが開催されることもあり、当事務所の幹事会を開催する際には、上海同窓会幹事の方にもご足労を願う場合がほとんどです。当事務所では、上海同窓会の名簿管理(現在、100名弱の会員を擁しています)、新旧同窓生に対する入会の案内、各種出版物の同窓生への送付、イベント開催にかかる案内等の事務連絡等の業務を行っています。上海同窓会の独自の行事としては、毎年の総会、忘年会、旅行(これまでに2回開催されています)等があり、これらの活動に対するサポートも当事務所は行っています。

 

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むすびにかえて

 最後に、今後の当事務所の課題について、簡単に触れて結びとします。

 全般的にいえることですが、交流が単方向に偏りがちというきらいがあります。たとえば、留学交流を例に取れば、現在は中国から日本への留学という流れがほとんどで、その逆は非常に少ないのが現状です。その理由は様々ですが、ひとつには魅力的なプログラムに欠けていることがあります。当事務所にはプログラム開発といった能力は持ち合わせていませんが、今後は当事務所を拠点とした、日本から中国へという流れを作っていく必要があります。

 また、卒業生(同窓会)との関係強化も、今後の中国での活動展開を考える上で非常に重要です。これはあくまで印象論の域を出るのもではありませんが、元留学生の同窓生は母校(これは本学に限りません)の活動にたいして熱心にコミットし、サポートしてくださる傾向にあるようです。これまで日本の国立大学は同窓生(とくに帰国後の留学生)のフォローにあまり熱心でなかったやに思われます。幸いにも当事務所ではこれまで上海同窓会ときわめて良好な関係を構築してくることができましたが、今後は北京同窓会も含め、より強固な関係を構築し、相互にプラスとなるようなかたちに発展させてきたいと考えています。


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