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【10-005】北京大学工学院との共同研究

2010年 7月20日

月橋 文孝

月橋 文孝:
東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻教授

学歴:

昭和57年3月 東京大学大学院工学系研究科金属工学専門課程博士課程修了、工学博士

職歴:

昭和57年 4月 東京大学工学部金属工学科助手
昭和59年 8月~昭和61年8月  米国Carnegie Mellon 大学 Research Associate
昭和61年10月 東京大学工学部金属工学科講師
昭和63年 1月 東京大学工学部金属工学科助教授
平成 7年 4月 東京大学大学院工学系研究科金属工学専攻助教授
平成11年 4月 東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻教授

 

現職:

東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻教授

柏キャンパスについて

 私の研究室は千葉県柏市にある東京大学の柏キャンパスにあり、大学院新領域創成科学研究科に所属しています。柏キャンパスについてはあまりご存じない方が多いと思われますので、少し、キャンパスおよび新領域創成科学研究科の紹介をさせていただきます。

 新領域創成科学研究科は学部のない大学院のみの組織であり、1998年に設置され、1999年から大学院学生の受け入れを始めました。未来を切り開く教育研究の新たな拠点として、領域横断的な教育と研究、すなわち「知の冒険」を追求し、「学融合」を目指した新しい学問領域を創造しています。基盤科学研究系、生命科学研究系、環境学研究系の三つの系があり、その中に12の専攻が設置されています。私は基盤科学研究系物質系専攻に所属しており、マテリアル・機能設計学講座で非平衡プロセス学分野を担当しています。柏キャンパス内に私の居る研究棟が2002年に完成し、本郷キャンパスから研究室を移転し、現在は、柏キャンパスの研究室で職員、大学院生との研究、大学院の講義を行っています。

写真1 

写真1. 柏キャンパスの写真

研究内容

 私は、1999年に新領域創成科学研究科物質系専攻に異動する前は、工学系研究科マテリアル工学専攻で研究・教育を行ってきており、一貫して、鉄鋼製錬プロセス、非鉄金属の製錬プロセスの物理化学に関する研究を続けています。柏キャンパスの物質系専攻に移ってからも、「新しいマテリアルプロセッシングの創成」をテーマに、マテリアルの高純度化・精製、マテリアルプロセッシングの開発・創成を目指した研究を行ってきました。高温における固体-液体-気体間の反応によるマテリアルプロセッシングの物理化学的基礎研究と、それを応用し高機能を持ったマテリアルのプロセス開発、金属および酸化物融体を対象とした非平衡状態でのマテリアルの高純度化プロセス、および環境・物質循環を考慮したマテリアルプロセッシングが主な研究対象です。

 私の研究室では以下のような研究テーマで実験的研究を行っており、鉄鋼・金属のプロセッシング技術に関連した研究です。

高純度化・高機能化マテリアルプロセッシング

鉄鋼材料の高機能化:酸化物固液界面でのミクロ反応機構解析

 鉄鋼製錬における不純物除去は主に溶鉄-酸化物融体間の界面反応により進行します。環境調和型の製錬プロセスを開発するために溶鉄-酸化物融体間および酸化物融体内の固体-液体間での微視的な界面反応機構の解明が必要です。固液共存での酸化物融体をマルチフェーズフラックスと名づけ、固体CaOを含むフラックスによる高効率の製錬プロセスの開発を行っています。

鉄鋼原料の高機能化:酸化物の融液生成挙動・反応機構の解析 

 共焦点レーザー高温顕微鏡を用いて種々の環境条件での鉄鉱石の融液発生を直接観察し、複雑な塊成鉱生成反応プロセスの解析を行っています。

鉄鋼材料の高機能化:鋼中介在物の生成機構と組織制御

 鋼材中には介在物と呼ばれる、製錬プロセスに由来する非金属酸化物微粒子が含まれており、介在物は鉄鋼品質に極めて大きな影響を及ぼすためにその形態、大きさの制御が重要です。介在物の生成機構を明らかにすることにより、鉄鋼組織の高度化を図っています。

液体金属の界面物性測定 (袁章福教授との共同研究)

 すず-銀-銅系合金は鉛フリーはんだとして有望な材料であり、今後実用化を進める上で本合金と銅などの基板との濡れ性は重要な物性です。銅やアルミナ基板を用いてすず-銀-銅合金の濡れ性の評価、および実用化の際に重要な指標となる傾斜基板表面での液滴のスライディング挙動について測定を行っています。

写真2

写真2. 銅-はんだ界面の様子

同位体交換反応による溶融酸化物―気体間反応の速度論

 高温でのガスと溶融金属/溶融酸化物の反応は各種金属製錬やリサイクルプロセスにおける重要な反応であり、「同位体交換反応」と呼ばれる特殊な方法を用いて反応速度を測定しています。この方法を用いると気体-液体間の反応の速さを正確に測定できます。

金属材料の高機能化:電子機器用金属・化合物超微粒子の生成プロセス開発

 携帯電話やパソコンなどの電子機器は小型化・軽量化が進んでおり、金属・化合物超微粒子の作製はこれら電子デバイスの性能に大きく影響するため、より小さな粒子を安価に作製するプロセスが必須となっています。金属・化合物超微粒子を塩化物還元法により製造するプロセスを開発し、10~100nmオーダーの微粒子を作製しています。

環境調和型マテリアルプロセス開発

有価金属の選択的塩化揮発反応の物理化学

 電気炉から発生する製錬ダストには亜鉛や鉛などの有価金属が高濃度で含まれており、このような有価金属を選択的塩化揮発反応により高効率でリサイクルするための物理化学的研究を行っています。

海洋環境改善のための酸化物リサイクル材料の創成

 鉄鋼製錬プロセスで大量に排出される副産物である酸化物の有効なリサイクル利用が必要となっています。酸化物として酸化鉄を含むために、海洋における埋め立て土壌材料として用いると、鉄イオンの溶出により海洋植物の成長が促進されることが確認されています。鉄イオンの溶出の機構、有効な溶出条件を検討し、リサイクル利用を促進するための研究を行っています。

鉄鋼スクラップリサイクルにおける銅の除去

 スクラップのリサイクル利用による、鉄鋼中に含まれる銅濃度の増加は鉄鋼の品質に大きな影響があるため、除去することが必要となっています。溶融硫化物を用いた溶融鉄鋼からの銅の除去プロセスの研究を行っています。

 以上のような鉄鋼・金属のプロセッシングに関連する研究は、我が国だけでなく、現在、鉄鋼業が大きく発展し、鉄鋼生産量が年間約5億トンと世界一の鉄鋼生産を行っている中国における大学、鉄鋼会社などでも重要な課題となっており、中国の鉄鋼会社、大学からのコンタクトも多数あります。

中国の研究者との交流

 私の研究室メンバーに中国からの学生、研究者が加わり始めたのは、新領域創成科学研究科へ異動した1999年からで、当時、中国東北大学(遼寧省沈陽市)副教授であった李宝寛先生(現・中国東北大学教授)、李光強先生(現・武漢科技大学教授)をはじめとして、これまでに15名が客員教授、研究員、博士課程学生として滞在し、現在も2名の博士課程の学生と1名の中国企業からの研究員が鉄鋼製錬の研究を行ってきています。

 このような中国からの研究者のお一人である北京大学工学院教授の袁章福先生は、2007年3月から1年間、客員教授として私の研究室に滞在されました。袁章福先生は北京科技大学冶金学院で博士課程を修了し、北京科技大学副教授、中国科学院過程工程研究所教授を経て北京大学教授になられています。専門分野は、鉄鋼、金属の製錬プロセス開発とその物理化学および溶融金属の物性であり、私と同じ専門分野です。

 特に袁章福先生は、高温での液体金属、合金、酸化物等の化合物融体の表面張力をはじめとする界面物性、および、マテリアル製造プロセス分野の研究者として世界的によく知られており、種々の条件下における高温での界面物性を測定して界面での反応機構を明らかにし、その成果を高温での金属製造プロセスや薄膜製造プロセスへ応用するなどマテリアルプロセッシング分野で多くの成果を挙げています。また、高さ約50mの自由落下塔を研究所に設置して、微小重力下における融体の物性値測定や凝固組織の組織形成に及ぼす微小重力の影響などを明らかにしており、微小重力利用の研究の第一人者としても著名な研究者です。

 袁章福先生は以前に九州工業大学に約3年間滞在しておられたので、先生の研究業績についてはよく存じ上げていました。袁章福先生の専門分野である溶融金属の界面物性は、高温マテリアルプロセッシングでは非常に重要な研究領域ですが、私の研究室ではこの分野の専門家がいないため、袁章福先生を物質系専攻にお招きして高温マテリアルプロセッシング分野の界面物性の研究活動を行っていただくことは、私の研究室の研究発展に意義が大きいことから、2007年から一年間、客員教授として招聘しました。

 一年間の短い滞在でしたが、溶融金属の表面張力などの界面物性の実験・研究のご指導をいただき、私の研究室での新しい研究分野を発展していただいた功績は非常に大きいものがあります。また、大学院生の講義として、融体の界面物性とマテリアルプロセッシングの講義を担当していただき、大学院教育での貢献もしていただきました。

 中国へ帰国後、北京大学の教授として活躍されており、一年に数回、相互に訪問して、研究上のディスカッションをするなど、私との共同研究交流を引き続き行っており、研究成果は共著の論文として専門誌に掲載されています。また、文部科学省、JSTなどの日中間の共同研究プロジェクトへの提案をするなど、連携して研究を行っています。

 また、とくに私たちの研究分野で今後の大きな課題として人材育成、とくに若い技術者・研究者の育成と人材交流があります。この点についても、袁章福先生との交流では大きな成果をあげています。袁章福先生の研究室からすでに2名の大学院学生を受け入れており、1名は博士の学位を取得後、専門性を生かして中国の鉄鋼会社へ就職し研究活動に従事しています。1名は現在在学中であり、熱心に研究を行っています。また、私の研究室の大学院生数名が袁章福先生の研究室を訪問して、相互の研究のディスカッションを行うなどの交流を行っています。若い大学院生が他国の同世代の研究者・院生と知り合って切磋琢磨することは、将来にとってお互いの発展に重要なことであり、今後も継続していくことを望んでいます。

写真3

写真3. 袁章福先生の研究室でのディスカッション

 現在、袁章福先生は北京大学で環境問題に関連して、環境調和型のマテリアルプロセッシングについての研究に重点を置いて研究を進めており、私の研究の目指すところと同じ方向です。今後の協力連携体制をますます緊密にすることにより、相互の研究を発展させることができると思います。

今後の研究の連携

 これまでに私の研究室に滞在された中国の先生方とは、帰国後も引き続き共同研究を進めており、北京大学教授 袁章福先生、中国東北大学教授 李宝寛先生、武漢科技大学教授 李光強先生、北京科技大学副教授 胡暁軍先生とは共著論文を発表するなど共同研究を継続しています。

 今後の中国の工業、特に私の研究分野に密接に関連している鉄鋼・金属産業の発展に伴う研究状況・環境の進展と、資源・人材の豊富さから、ますます本分野での中国との研究交流は増え、その価値は重要となるでしょうから、現在の密接な研究の連携を今後とも継続していきたいと考えています。


さくらサイエンスプランウェブサイト

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