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【11-005】元在日留学生‐胡建英教授のインタビュー

中国科技日報     2011年 5月16日

胡建英

胡建英(Hu JianYing):

1965年浙江省慈渓市生まれ。1985年、華東化工学院(現華東理工大学)環境工学科本科卒業。1988年、同大学院修士課程卒業。1992年、広島大学にて工学博士号取得。1992~1999年、通産省財団法人造水促進センター、厚生労働省国立保健医療科学院に勤務。1999年10月に帰国し、現在、北京大学都市・環境学院教授。主な研究は、環境毒理とリスク評価。複雑な環境媒質中の微量有害化学物質の検出測定方法開発、化学物質の環境化学行動と汚染源解析、化学物質の生態影響・健康影響についての研究がある。

 2011年1月、第7回「中国青年女性科学者賞」表彰式が行われ、北京大学都市・環境学院の胡建英教授が今回受賞した10名の中国青年女性科学者の一人となった。

 インタビューを望んでいた記者に対し、胡建英教授は、今回の受賞は大したことではない、私はただ自分の研究分野でやるべきことをやってきただけ、インタビューなんてとんでもないと繰り返した。記者が胡建英教授の研究室に「押しかけ」たとき、教授はちょうど学生の一人とディスカッションをしていた。すでに旧正月も間近だったが、胡建英教授の研究室は相変わらず忙しそうな様子であった。

サンプル研究とリスク評価の苦しみ

 2009年、胡建英教授は米国科学アカデミー紀要に、我が国のⅠ級保護動物、稀少絶滅危惧種である野生カラチョウザメの稚魚に出現している深刻な奇形現象が、船舶塗料、木材防腐に広く応用されている含スズ化合物――トリフェニルスズと関連していることを証明する論文を発表した。この論文は発表後、瞬く間に学術界の広い関心を呼んだ。

 胡建英教授は次のように語った。「長年にわたり、葛州ダムと三峡ダムの建設が引き起こした産卵場の破壊は、カラチョウザメの種群減少の主な原因である考えられてきた。だが、我々の研究は、環境濃度レベル以下のトリフェニルスズでも稚魚の奇形を引き起こすことがあり、しかも魚類の産卵力と繁殖力の低下をもたらすということを証明した。したがって、環境汚染のカラチョウザメに対する影響も軽視することはできない。」トリフェニルスズの英語名はTriphenyltin, TPTといい、この化合物は水系中の含有量はきわめて低いが、食物連鎖を通じて拡大し、魚の体内で非常に高い濃度に濃縮され、母子伝達過程を通じて魚卵に入り込み、魚類胚の発育過程で毒性を生じ、奇形を引き起こすことになる。ただし、奇形がカラチョウザメの種群減少にいったいどの程度影響しているのかについては、さらに一歩進んだ研究が必要である。

 2000年から、胡建英教授の課題チームは渤海地区において多くの野外調査を繰り広げ、環境中の各種微量有機汚染物質の食物連鎖における伝達行動について系統的に研究し、環境汚染の生態系破壊に対する痕跡を探し出そうと試みた。これは、時間、労力、そして資金を要する作業であったが、課題チームは最後までやり抜き、研究成果を上げ、カラチョウザメの奇形成因解析のための科学的基礎を築いた。トリフェニルスズの影響の確たる証拠を得るために、課題チームは一連の検証実験を設計し、たとえば、カラチョウザメと血縁関係にあるシベリアチョウザメの受精卵を利用し、トリフェニルスズの顕微注射を行うことによって、奇形発生過程を繰り返した。この実験は1回に3週間を要し、その都度、数千個に上る魚卵にそれぞれ注射を行い、一つひとつの魚卵の発育状況を記録しなければならなかった。この間、課題チームは幾多の失敗という試練を経験した。

 「環境科学は一つの学際性の強い学問分野であり、対象は極めて複雑な、かつ変化して止まない現実環境であり、絶えず他の分野の最新の成果を吸収することが必要である。多年にわたる模索と蓄積により、我々は難題に挑戦する一定の実力を身につけた。だが時には、我々もいくつかの難関を前にして、なすすべがないと感じることがある。」

生態影響信仰と大きすぎる期待値の苦しみ

 「私は1988年に出国し、1999年に帰国した。だが、真の意味で環境汚染と健康の研究分野に足を踏み入れたのは、やはり日本の厚生労働省国立保健医療科学院に入った後のことである。」

 環境汚染の生態影響・健康影響について研究することは、環境科学分野の一つの研究の最先端であり、また環境管理の一つの需要な基礎でもある。化学物質の生態影響・健康影響を定量的に説明することによって、初めて化学物質に対する環境管理をより科学的、合理的なものにすることができる。だが、このような研究にはきちんとした研究構想が必要であるだけでなく、豊かな基盤、先進的機器設備、果敢に探索する研究チーム、十分な研究資金が必要となる。幸いなことに、彼女は北京大学を選択し、北京大学は彼女に最高の機器条件と研究チームを与えてくれたのである。

 帰国した年、胡建英教授は幸運にも国家自然基金委員会傑出青年基金を獲得し、さらに2001~2003年には、日本国際協力事業団(JICA)の支援を得ることができた。この二つのプロジェクトは彼女にとって極めて重要であり、そのおかげで彼女は環境科学分野において自由な探究を行うことができ、また彼女のその後の学術の発展のために重要な基盤が築かれた。第7回中国青年女性科学者賞選考会の選評は、胡建英は典型的内分泌かく乱物質の検出測定方法の開発、環境行動及び低用量長期曝露下における生態影響の研究の方面で重要な研究成果を収め、環境地理学の発展のために傑出した貢献をした、というものだった。「私は一貫して、環境研究は絶対に実際の環境問題に向き合わなければならないと思ってきた。」問題意識を持って考えること、それがまさしく胡建英教授の前進の原動力なのである。

環境汚染調査と探索の楽しみ

 胡建英教授は長年にわたり、内分泌かく乱物質(俗に、環境ホルモンといわれる)の汚染レベル、環境行動及びその生態影響の研究を続けてきた。「環境の内分泌かく乱物質とは、簡単に言えば、環境中に存在する、生物体内分泌系統の各部分をかく乱し、異常な効果を引き起こす物質を指している。我々の生活の中でよく目にする一部の農薬、除草剤、殺菌剤、塗料、さらにプラスチック凝固剤などは、すべて内分泌かく乱物質を持っている。内分泌かく乱物質は一般にホルモンに類似した構造を具え、人体内の受容体と結合することによって、生物体の正常な生理機能をかく乱する。」

 胡建英教授は次のように述べた。「我々の遼東湾魚類の雌雄同体現象に関する最近の研究は、国家自然科学基金委員会の一つの重点プロジェクトだが、この数年間、我々はずっと、このような現象を引き起こす最も直接的な物質を見つけ出していない。あり得る原因はあまりにも多いが、しかし現有の科学的手段には結局のところ限りがある。」環境中の多くの物質はすべて内分泌かく乱物質を持っている可能性があり、魚類の雌雄同体現象の発生を引き起こす原因物質を探し出そうとすると、確かに難度は非常に大きい。「だが、最近のある話し合いの中で、我々がずっと疑いを抱いてきた問題に転機が現れた。消去法によって、我々は遼東湾魚類の雌雄同体に影響している可能性のある物質を見つけたのだ。そう遠くない日に、我々は確認が得られるかもしれない。科学研究の最大の喜びは、問題を発見し、止むことなく挑戦すれば、ついにはそれが解決できるということだ。」

 研究をするというのは一種の割の合わない仕事だが、それを割の合わない仕事だとみなしているだけでは、その研究は決してうまくいかない。1999年に帰国した後、胡建英教授は環境汚染の生態影響の研究において一連の研究成果を上げ、しだいに学界から認められるようになった。「人に認められるのは、とても幸せなことだ。主宰者は今回の中国青年女性科学者賞の選考活動をまじめに組織してくれた。だが私は、私の仕事は自分の研究をきちんと行い、様々な困難や障害を克服し、最終的にいくつかの環境問題を発見し、これに答え出すことであり、そのプロセスが自分を興奮させるのだ、ということをよく知っている。」

教うるは学ぶの半ば―暗黙の了解の中で前進する楽しみ

 記者はインタビューに先立ち、インターネットで、胡建英教授の教え子が彼女のために立ち上げた個人サイトを見た。そこには胡建英教授の研究内容、研究基金、学生募集状況、開設カリキュラムなどや、さらに胡建英研究グループが一緒に撮った数枚のごく親密な写真があった。「先生は感情豊かな率直な人柄で、性格は控えめ。会合をあまり好まず、いくつかの学術会議・交流を選んでそれにだけ参加している。先生は一人ひとりの学生の研究の進み具合をとても気にかけ、定期的にグループ会議を開いて、研究室の様々な研究内容の学生に相互交流・促進のプラットフォームを提供し、日頃、我々とよくディスカッションもする。我々の研究室には現在、客員学生を含む十数名の学生がおり、博士課程も修士課程も、基本的に各人が単独で一つの研究内容を担当し、しかも全員が一定の成果を上げている。」胡建英教授の修士課程院生呉世閩はこう語る。

 インタビュー時、記者は子弟間のこのような暗黙の了解と友情を感じた。胡建英教授は語った。「私は学生たちにとても感謝している。彼らはみんな、自分の考え方をきちんと持っている人たちだ。私は自分の経験を彼らに与え、彼らを新生の力へと成長させたいと願っている。我々はしょっちゅう、活動、会食、グループ会議を組織し、和やかに楽しむだけでなく、私はいつも彼らから啓発を受けている。」

 呉世閩は主に遼東湾の雌性ホルモン活性物質の汚染状況と環境行動について研究しており、遼東湾魚類の雌雄同体原因物質の研究の重要なメンバーの一人である。「我々は毎年2回以上、遼東湾地域でサンプリングを行っている。2009年の大規模サンプリングで、1か月近くの時間をかけて、この地域の海洋と陸地を含む100以上のサンプリング地点の地表水と堆積物サンプルを採集したときは、非常につらかったと言わねばならない。我々の研究室は近いうちに、主として次のいくつかの研究を行う。その一つはやはりカラチョウザメの種群減少の問題についてで、カラチョウザメの種群数減少に対する環境汚染の影響を評価する試みだ。二つ目はトノサマガエルの奇形問題に関する研究で、現在一般に研究されている農薬と寄生虫以外に、トノサマガエルの奇形を引き起こす他の環境汚染物質があるかどうかを調べることだが、現在すでに面白い結果を得ている。三つ目は、引き続き遼東湾魚類の雌雄同体の原因物質を確認すること。最後が、飲用水等の曝露ルートにおけるいくつかの汚染物質に関する人体健康リスクの評価である。」

 学生を指導する過程で、胡建英教授は学問研究と社会が必要とする最先端知識を、奥深い内容を平明にという形で、研究室の研究活動の中に溶け込ませることに注意を払い、学生の思考の道筋を切り開き、彼らの分析、研究、問題解決の能力を養成している。「胡先生は現在、本科生のために“微量有毒物質のリスク分析”という科目を開設している。国内によい教材がないため、今年度、胡先生は自身の数年来の授業教案と関連の研究業務を整理し、『化学物質のリスク評価』という1冊の教材を編纂した。先生が院生のために開設した科目“環境汚染化学”は唯一の専門必修科目で、この授業は胡先生の実際の研究業務を大筋として、いくつかの関連知識と結びつけたもので、情報量が非常に多く、しかも毎年新鮮な内容があり、いつもみんなの思考を刺激し、院生に非常に人気がある。」呉世閩はこう語った。


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