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【12-006】中国医学理論のイノベーション、肝線維化を治療 ―上海中医薬大学副校長、劉平教授を訪ねて

科学技術日報     2012年 4月23日

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 上海中医薬大学の副校長である劉平教授は、中国国家傑出青年科学基金の獲得者であり、長きにわたり漢方薬による抗肝線維化、肝硬変予防の臨床研究と基礎研究を行っている。

 劉教授は「肝線維化と早期肝硬変の逆転は可能」と主張し、抗肝線維化の新漢方薬「扶正化瘀カプセル」を開発。発明特許3件を取得し、科技成果移転が3件に達した。劉教授は同漢方薬の発明者として、中 国国家科技進歩二等賞、上海市科技進歩一等賞、部・市級科技進歩二等賞(13件)を獲得し、2003年に中国国家人事部「百千万人材プロジェクト」の第1段階に入選した。

 劉教授は中国初の「優秀な貢献を成し遂げた中国博士課程修了者」であり、また中国医学界で「中国国家傑出青年科学基金」による奨学金を受け、さらに中国医学肝臓病学科で初めて「中国国家科技進歩二等賞」を 獲得したプロジェクトの責任者となった。劉教授は20数年間に渡り、「肝線維化」という世界的な難題の研究を続けており、8件の中国国家級重大科学研究プロジェクトを担当し、12件の特許を申請し、1 300万元( 約1億6900万円)余りの科技成果移転を実現した。劉教授は2006年、中国国家973計画の「中国医学病原・病因理論の継承とイノベーション」プロジェクトの主席科学者の重責を担った。 

 劉教授は漢方薬事業の長く険しい道のりを経て、これらの栄光を手にすることができた。

伝統的な中国医学で世界の難題に挑戦

 1977年、当時24歳だった劉教授は、人民解放軍から南京中医学院に転勤し、中国医学に携わる人生をスタートさせた。劉教授は1980年、著名な漢方医の劉樹農教授に師事し修士課程を修了し、1 983年になると上海中医学院院長を務めていた名漢方医の王玉潤教授に師事し、博士課程を修了した。

 劉教授はベテラン医師の卓越した医術と崇高な徳を学び、また中国医学を振興する責任と使命を継承した。当時の劣悪な条件下、劉教授はさまざまな困難を克服し、全 国に先駆けてコラゲナーゼの測定方法を開発し、肝線維化の研究水準を全国トップ水準とした。劉教授はこれにより中国漢方医学界初の博士課程修了者となり、優秀な成績で同学院最高の栄誉「李月卿賞」を獲得した。 

 劉教授は卒業後も同校に残り、肝臓病の研究と臨床業務に従事し、博士課程後期修了者・客員研究員として、2回に渡り日本で研究を行った。劉教授は日本で毎日12時間以上働き、1 年間で国内外の重要刊行物に、一定の影響力を持つ6篇の論文を発表した。劉教授は学習と研究による努力を積み重ね、その後の漢方薬科学研究に向け堅固な基礎を築いた。

 80年代、肝線維化は逆転が不可能とされていた。博士課程終了後、劉教授は肝線維化の逆転が可能かという世界的な難題に挑戦し、中国で最も早く肝線維化研究に携わった研究者の一人となった。劉教授は「 伝統的な漢方の特長を、現代科学研究と結びつける」という科学研究の道を歩み続け、現代医学の先進技術、伝統的な漢方理論、臨床実験を緊密に結びつけることで、漢方薬「活血化淤」が 肝線維化を逆転させることを証明し、かつそのメカニズムを明らかにした。この重大発見は、中国国内の肝臓病研究に衝撃をもたらした。

扶正化瘀カプセル、米国で試験許可を獲得

 劉教授は長年の努力により、「肝線維化と早期の肝硬変は逆転が可能」と主張し、「正虚血瘀」は漢方による肝線維化の病因の基礎をなす理論であるとした。この認識と長年の実験研究に基づき、劉 教授と研究チームは抗肝線維化の新漢方薬「扶正化瘀カプセル」を2003年に発売した。同新薬は幅広く利用され、各種の慢性肝臓病による肝線維化・肝硬変に悩む数万人の患者に希望をもたらした。

 厳格な比較実験を行い、肝組織の繊維化を治療前後の2回に渡り生検したことで、同新薬が慢性B型肝炎による肝線維化を効果的に改善し、逆転率が52%に達することを証明した。西 洋医学では今日も抗肝線維化の薬がないが、劉教授らは漢方薬が臨床運用において肝線維化を効果的に逆転させることを発見し、「2000年上海市ハイテク成果移転プロジェクト」に入選し、かつ2003年に「 中国国家科技進歩二等賞」を獲得した。「扶正化瘀カプセル」は現在、抗C型肝炎繊維化の新薬の臨床試験を許可された。

漢方の新理論を構築

 冷蔵庫、光度計、ウォーターバス、ミクロトーム、天秤等は、劉教授の所属する肝硬変研究室が20数年前に設立した当時、非常に貴重な設備であった。劉教授の努力により、同研究室は拡大を続け、1 998年に上海中医薬大学肝臓病研究所となった。4−5名の研究者のみの研究室は20年にも満たない期間で、20数名の臨床・研究スタッフが所属する、肝臓・肝硬変研究を一体化した研究チームとなった。同 研究所が所属する上海中医薬大学中医肝臓病学科は、中国の肝臓病研究会で名が知られており、上海市教育委員会重点学科、上海市医学トップ専門、中国国家中医薬管理局重点研究室・三級実験室、中 国国家教育部重点学科・重点実験室等に選ばれ、73件のプロジェクトが助成金を獲得した。うち8件の国家級重大課題(973プロジェクト、863プロジェクト、中国国家傑出青年科学基金、中 国国家自然科学基金重大計画重点課題、国家科技攻関等)がある。

 劉教授は1992年に日本から帰国すると、漢方薬による抗肝線維化の研究を巡り、研究チームを率いて二つの業務を開始した。一つ目は、漢方薬の処方によるB型肝炎慢性繊維化の治療に関する研究で、「 中国国家八五科技攻関」のプロジェクトに入選した。二つ目は、漢方薬の丹参に抗肝線維化の成分が含まれることを発見(日本での研究期間中)したことに基づく研究だ。劉教授はその後10数年間、こ の二つのテーマを巡り努力とイノベーションを続け、最終的に輝かしい成果を獲得した。

 劉教授が担当した「扶正化瘀による抗慢性B型肝炎繊維化の研究」プロジェクトに関する一連の研究は、世界先進技術とイノベーション技術を活用し、基礎から臨床に到るまで全面的・系統的な研究を進めた。そ の理論と技術は世界トップ水準に達し、漢方の医学応用研究の模範となった。

 劉教授が担当し、中国科学院薬物所と共同推進した「丹参フェノール酸塩による抗肝線維化研究」プロジェクトも、「中国国家自然科学基金」、「中国国家九五・十五科技攻関」、「863プロジェクト」に 入選し、現時点で2期臨床試験を完了している。

 劉教授は近年、中国医学の特長をより良く活用するため、中国医学の理論を科学的に説明する研究に取り組んでいる。システムバイオロジーの発展と結びつけ、「 肝硬変漢方治療基本処方による生物情報プロテオーム解析の探索的研究」を実施したところ、2004年に「中国国家自然科学基金重大計画」重点プロジェクトの奨学金を獲得し、その一部の成果が2007年度の「 中華医学賞」および「上海市科技進歩二等賞」を獲得した。

肝硬変の治療に尽力

 還暦を目前に控えた劉教授は、数多くの成果を手にしながらも努力を続け、再度研究チームを率いて漢方科学の最高峰への挑戦を開始した。

 劉教授は2006年に主席科学者として、9校の全国科技研究大学9校および9組の課題チームによる、中国国家973計画「中国医学病原・病因理論の継承とイノベーション」プロジェクトの研究を行った。劉 教授は同研究を通じて、肝炎に伴う肝硬変に関する新理論を打ち立て、早期肝硬変の効果的な治療に関する新方法を開発し、治療に効果的な物質の基礎を明確化した。こ れにより漢方による肝硬変の系統的な治療法が生まれ、米国、カナダ、日本、韓国、東南アジア、香港、台湾等から多くの患者を集めた。