【06-03】「丸く収まる」という中国語はあるか?~日本人と中国人のコミュニケーション(2)~

2006年11月20日

今井 寛(中国総合研究センター 特任フェロー)

 前回に引き続いて、日本人と中国人ができるだけスムーズに意思疎通を図るために大切な点について、自分のインタビュー経験などに基づき紹介する。

ポイント4 はっきり話す、分かりやすく伝える

 以前、中国への出張旅費の支払いについて、事務担当者(日本人)に確認したことがあった。「この費用はこういう理由により支出できるが、その費用はこういう理由から支出できない」みたいなやりとりである。その時に示された支出できない理由に納得するかどうかは別として、一番閉口したのは、その担当者の言いたいことが、なかなか理解できないことだった。

「このお金は出るの?」
「出ます」
「いつ振り込まれるの?」
「振り込みません」
「じゃあ現金なの」
「現金ではありません」
「でも、まだもらっていないよ。やっぱり払えないということ?」
「いえ払います」

・・・みたいなメールのやり取りがいつまでも続き、何だか疲れてしまった(ちなみに、この時の私は中国出張から帰ってきたばかりで、頭は完全に中国モード・・・)。

「要するにこうだ」

と端的に言ってくれれば、労力は半分くらいで済んだだろう。

 でもなぜその担当者は、こんなに分かりにくい曖昧な言い方をしたのだろうか。熱心に仕事をする人なのに、である。

 実はこれは、日本人と中国人との間でやり取りが上手くいかない時にしばしば見られるケースである。

 日本人は中国人と比較して、普段から、はっきりと断定的に言うことを回避する傾向がある(特にトラブった時はそうである)。やんわりと話した方が、お互いに刺激せずにすみ、丸く収まると考えるのが普通である。

 中国人は逆である。「話さざる人、存在無し」みたいな感覚でやっている(特にトラブった時はそうである)。お互いに自分の考えを主張し合って、合意できる案や妥協案を見出そうとするのが普通である。

 思うに、「丸く収まる」という日本語のニュアンスを十分に表わした中国語は無いのではなかろうか。

 もちろん、日中がお互いに対等であることを考慮すれば、どちらのコミュニケーションの方法を採っても良い。実際のところ日本で話す時は、自ずと日本の習慣に従うことになるだろう。  ただここで忘れてはならないのは、我々は、国や文化が違う者同士が意思を通じ合おうとしている点だ。それならば、ユニバーサルデザインみたいに、誰が聞いても分かりやすい明確な話し方を、日本人も中国人も心がけた方が良い。

 このような姿勢は、交渉に限らず、インタビューで質問する時も同じである。枝葉を取り払い、要点を簡潔・明瞭にまとめ、質問したい。丁寧に話すことは大切だが、かと言って余りにも敬語を駆使し過ぎると、かえって何を言いたいのか見えなくなる。

 逆に、真摯な態度で自分の考えを的確に伝えようとするなら、ずばりと端的に質問したからと言って、相手が気分を害することはないだろう。また、自分も同様に質問されたからと言って、不躾に感じるとか、とまどうことがないようにしたい。

 とにかく、外国人同士のコミュニケーションは

「まずは分かってなんぼ」

なのである。

photo1

ポイント5 よくある実のない形式的な説明

 余りにも実のない通り一遍の形式的な説明をすれば、「つまらない話」と受け取られるのは、日中ともに同じである。この点は、私が駐在していた十数年前と比較して、かなり変化している。

 以前は、中国の官庁や研究機関などを訪れると、冒頭

「如何にうちはすごい組織なのか」

というトーンの話をされるのが普通だった。

 ところが、現在は、このような国威発揚的なプレゼンは、かなり減ってきたように思う。どちらかと言えば、事実関係を中心としたデータを提示した上で、冷静に良い点と、課題となっている点について分析する・・・といった姿勢が増えている。これは、ひとえに、中国の各機関の実力が向上していることを示しているに他ならない。自信があるからこそ、無理して力を誇示する必要がないのである。

 昨今の会議などでは、中国人プレゼンテーターがつまらない定型的な話をすると、中国側出席者が退屈そうな表情をするところを、しばしば見かける(もちろん日本側のプレゼンでも同様である)

 とにかく意味のあることを追求し、できめだけ有意義な時間を過ごしたいという姿勢なのである。この点を、我々は心しておかねばならないだろう。

ポイント6 顔を立てる、顔をつぶさない

 良く言われることだが、相手の顔をつぶさないように注意したい。特に厳しい発言をする時は、その仕方はよく考えたい。

 では、実際どのようにするかだが、まずは相手の顔を立てるようにしよう。交渉上のバランスもあるが、自分にとってそれほど重要ではないことや十分妥協できることは、なるべく受け入れた方が良い。そうすれば、

 「あっちは受け入れたのだから、こっちはねぇ」

 みたいなことは言いやすい。

 それと、相手の逃げ道をつくるよう配慮することも重要である。詰め将棋をやっている訳ではないのだから、もし仮にクレームをつける時も、自分にとって大事なことに絞り、併せて相手が受け入れやすい点は何か模索しておくことも必要だ。

 このようなことは、実際にその場に身を置いてみないと、具体的にどのように話せば良いのか分かりにくい。ただ、参考になるのは、

 「同じことを、もし自分が相手に言われたら、どう感じるかな」

 と想像することだ。人間の気持ちは、国が違ってもけっこう似通っているところもある。

 中国人は、日常生活の中での交渉やクレームなどに慣れているのか、文句を言いながらも、実は相手の顔はつぶさないよう注意しながら、うまく自己主張することが多いように思う。このような所作が、自然に身に付いているようである。

photo2

ポイント7 やっばり宴会の話

 食事しながらリラックスして会話すれば、会議だけでは分からない人となりを、お互いに知ることができ、意思疎通を図りやすくなるのは、日本人でも中国人でも同じである。特に、中国は食の文化の国。料理に関する話題も豊富である。また、お酒を飲むと中国語がスムーズに出てくる人も、中にはいるかもしれない。

 けれども、そのような宴会の雰囲気も、自分の駐在員時代とは様変わりしており、アルコールの量がかなり減っている。

 所属していた事務所のカウンターパートには採鉱の専門家が大勢いて、幸か不幸か私も大学での専門が採鉱だった。また若かったので、けっこう白酒を飲まされた記憶がある。

 ところが現在は、北京・上海などの大都市は元より、地方でもお酒は質・量ともに減っているが、これは政府の指導によるものと聞いている。

 先日、清華大で行われた歓迎宴に招待して頂いたが、さすが中国を代表する知的エリートが集まる学校である。出席者のほとんどはノンアルコールで通している。それも別に「今日はお酒は飲まないぞ!」などと(私のように)気合いを入れ誓いを立ててる訳ではなく、自然体で「飲まないよ」みたいな感じなのである。センスの良い料理もさることながら、そのような姿勢に感心させられた。

 でもまあ、食事しながらのコミュニケーションは、やはり楽しい。仕事だけでなく、料理や中国の社会や文化など幅広く話をすれば、朝から会議に出席し意見を交換した者同士、更に連帯感は深まるのである。

 「お互いの意思がちゃんと伝わっているな」と確信できる時の気分は、それが外国人同士のコミュニケーションであるだけに、一層格別だ。日本人と中国人の間のコミュニケーションにおいても、このような快感を覚えることが、年々増えていくことを願っている。


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