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【07-01】ソウル・北京・東京 三都比較~ソウルショートスティ印象記~

2007年1月19日

今井 寛(中国総合研究センター 特任フェロー)

東アジア三大首都

 年末に二泊三日の日程でソウルに滞在した。

 いつも東京で仕事をしている。北京には住んだことがあるし、今も時々出張する。でも東アジア三大首都の一角たるソウルを訪問したのは初めてだった。

 ソウルの街中を歩いているとき、この町を、自然と北京や東京と比べている自分に気づいた。そこで今回は、短い滞在だがソウルで感じたことを、北京・東京と比較しながら紹介してみたい。

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ソウルでの印象1 道を行けば

 羽田から2時間余りのフライトで、昼前にはソウル金浦空港へ降り立った。機内から見る金浦空港は真っ白な雪原状態。2~3日前に降雪があったとのこと。

 

 空港前でタクシーに乗って、市内中心部のホテルへ向かう。ガイドブックによると、ソウルのタクシーには2種類ある。

 『ソウルのタクシーには、模範タクシーと一般タクシーとがある。模範タクシーの料金は高いが、日本語や英語が少しは通じる。一般タクシーは割安だが、英語は通じない。地図もハングル文字のを用意した方が確実。相乗りされる可能性もある・・・』

 韓国語は「コンニチハ」「アリガトウ」くらいしか知らなかった私は、自然と黒い車体に金色のラインの入った模範タクシーに乗り込む。

 運転手さんは、五十代くらいのおじさん。片言だが日本語が話せる。

 さすがに模範タクシーである。乗っていて安心感がある。口数こそ少ないが、時々愛想良く話しかけてくる。初めての国へ入国したばかりの自分にとっては、この安心感は心地良い。

 私は羽田や成田からタクシーに乗ったことはないが、北京の空港では苦い経験がある。昨秋東京から北京へ入り、首都空港から一人タクシーに乗って、市内でも比較的空港に近いホテル(JSTなど外国企業の事務所が多いエリアに在る)へ向かった時のこと。乗車したタクシーの運転手(三十代のお兄さん)は、いきなり

 「おれは空港で4時間も客待ちしてたんだ。とても疲れている。なのに、なんでお前のホテルはこんなに近いんだ」

 などと、ぶつくさ文句を言われた。あとで北京の旅行社に勤めている中国人の知人にたずねたところ、その人も空港から割と近いところに家があるため、タクシーを利用した際にしばしば同様の経験をしていると話していた。

 金浦空港からしばらく高速道路を走ったが、窓の外を眺めていて、とても奇妙な感じがしてきた。と言うのは、ふつう初めての外国に入って街並みを見ていると、

 「なるほど、この点はこうなんだ!」

 みたいな感慨が湧き上がってくるものだ。けれども、ソウルの道路は、ちっとも東京と「違った」感じがしない。余りに違和感が無いことに、かえって違和感を覚える。

 走っているクルマの大半は韓国製のようだが、韓国車と日本車はデザインが似ているせいか、羽田へ向かう時使った首都高湾岸線辺りを走っている気分である。

 また、走っているクルマの外観はきれいだし、それほど乱暴な運転をするクルマも見かけなかった。

 これが北京の道路だと、国産車あり、外車あり、かなり古いのから新しいピカピカのクルマありで、バラエティに富んでいる。運転もハラハラすることも多く、東京とは雰囲気が違うことが直ぐに分かる。とにかくエキサイティングなのである。

 ところが、しばらくすると、やはりソウルはソウルである。北京だけでなく東京とも違っている。目に付く大半のクルマの色が、黒から白までのモノトーン系なのである。

 日本人のクルマのホディカラーの選択は、一般に地味と言われるが、それでも東京には赤や青のクルマが走っている。北京もけっこう色んな色のクルマがあり、それほど統一感はない。

 また東京・北京とも、会社タクシーは目立つよう様々な色に塗られている。ところがソウルの一般タクシーは白系を基調としていて、会社毎の違いはそれ程感じられない。

 ソウル市民のクルマに対する色の嗜好は、かなり統一感があるようだ。ちなみに、後でソウル在住の日本人の方にうかがった話では、車色としては黒がリッチなイメージであり、以前は黒いクルマが多かった。が、段々と白も選ばれるようになってきたとの由。

  なお参考までに、ソウルの一般タクシーに乗車した経験についても一言書いておきたい。滞在中何度か一般タクシーを使ってみた。確かに言葉は通じないが、英語で書いてある地図を見せても問題なく、行き先に到着できた。運転手の接客もふつうだし、クルマもキレイで車内も広かった。

 ホテルで入手した日本人向けガイドマップには、『日本のガイドブックでは模範タクシーを、と書いてあるが、一般タクシーの接客も近年向上している』などとある。現地の人によると、昼間は相乗りもないみたいだし、メーターを倒すのを確認すればそれ程心配はないとのこと。

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ソウルでの印象2 街を歩けば

 

 ソウル大学のキャンパスへ地下鉄で向かうため、昼間、明洞(ミョンドン)という繁華街を歩いた。平日の午後だが、街はクリスマスの買い物客が集まり、とても賑わっていた。

 ここでも同様の体験をした。とにかく自分が外国にいるという実感が湧かない。看板はほとんどがハングル文字なので読めないが、お店のディスプレイや道行く人のファッションや顔などを見ていると、何だか新宿や渋谷の雑踏を歩いているような錯覚に陥る。

 北京の場合、市民の所得も上がりファッションにもずっとお金をかけるようになってきていると思うが、このように

「自分はもしかしたら今東京に居るのかも・・・」

などと感じることはない。

「地方から出てきた人も大勢いるし、色んな人がいるなあ」とか

「こういう服が流行っているのかな」

と思う。

 ところが、更にソウルの街を歩き、地下鉄に乗ったりしたりしていると、段々と東京との違いが目につくようになる。

 一言でいうと、若者のファションが東京よりシック(言葉を換えれば地味め)である。全体的に濃い色が多く、明るい色、派手な色遣いの服を着ている人は目につかなかった。それまで私は、韓国の若い人としては、俳優・女優かサッカー選手くらいしか見たことがなかった。それで何となく茶髪にしている人が多いんだというイメージを持っていたのだが、意外と髪を染めている人は少ない。もし東京で同じ時間帯に地下鉄に乗ったとしたら、もっと多くの茶髪の若者を見かけることだろう。

 オフィス街のビジネスマンも、かなりきっちりとシックに決めている。スーツの色も黒に近いチャコールグレイがほとんどで、明るい色の上着を着ている人は見なかった。

 ソウルでも、芸術系の大学がある学生街などに行けば全く状況は違っていて、個性的な若者が数多く見られることだろう。ただ、東京の(または北京の)同様のシチュエーションと較べると、「ばらつき」が少ないのではないか。

 現在、韓国は文化振興にとても力を入れていて、映画や様々なコンテンツを作って、海外へうって出ようとしている。このことと、本来多様性の有る土壌で育まれるアートとの関係がどうなるのか、興味を覚えた。

町のもつ多様性について

 以前より、日本人はその画一性について

「例えばニューヨークは人種のるつぼ。エネルギーに溢れ、多様な個性が入り交じって、新しい文化を創造している。それに引き替え日本人は画一的で、没個性・・・」

みたいに聞かされて育ってきた。

 個人的には、ニューヨークは「多様な個性が入り交じる」型みたいなものがあるのに較べて、東京にはそのような型がなく、ずっとグニャグニャしているような気もするが、定かではない。いずれにせよ、日本の「多様性」とは、専ら欧米との比較の上で論じられてきた。ところが、今回ソウルを訪問したことにより、東京とソウルと北京とを多様性という視点から比較して見られるようになった。

 町のもつ多様性について、印象1・2に述べたクルマやファッションなどを基にして、現時点での私の印象(独断と偏見とも言える?)をまとめると、以下のようである。

(1) 東京とソウルの街の外観は、北京と比べると、ずっと似通っている。
(2) 中国は広大であり、北京はその首都。自然に色んな人達が集まってきている。
(3) 東京の場合、社会の目標がシンプル(ばりばり働いて豊かになろう!)だった高度成長期を経て、現在は成熟化時代に突入。人々の嗜好はばらけてきており、それぞれの欲求は多様である。
(4) ソウルの人達は、東京と較べると似たものを求める傾向がある。

 ただソウルは短期間滞在して見聞しただけである。今後このテーマについては、自分なりに考えていきたい。

 参考までにいうと、ソウル滞在中JETROや韓国の大学や企業の関係者にインタビューしたのだが、韓国社会の課題の中には、「多様性の確保、集中の是正」が鍵となっているものがあるとのこと。

 例えば、韓国のソウルを中心とした首都圏の人口集中度はとても高い。全人口の半分近くが、ソウルとその周辺に住んでいる。政府は地方の活性化を図るため、176の公共機関を、2012年までに地方移転する計画である。

 また一般に韓国では、「良い大学を出て、大企業に就職して、高収入を得る」ということが、強く人生の目標として認識されているとのこと。子供の時からの競争もとても厳しい。「有名大→大企業→人生の安心」という図式が既に崩壊している日本とは、対照的である。

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その他印象に残ったこと

(1) 物価

 ソウルの物価は全体的に高めに感じた。ホテルの宿泊費や街での食事代など、北京に較べると高く、東京と同程度の印象である(北京もピンからキリまで幅があるが)

 例えば、日本人観光客も入るが客の大半は韓国人という明洞の定食屋で、韓国料理の定食を食べてビールを飲むとだいたい1万ウォンくらいである(1300円くらい)。スタバでコーヒー&クロワッサンの朝食をとったり、韓国のお粥を食べにいったりしても、だいたい5000ウォン(650円)辺りからそれ以上かかる。タクシー料金(一般タクシー)を除けば、ソウルの方が東京より物価は高いというのが、来日経験豊富な韓国の大学の先生のコメント。このことは、昨今為替レートがウォン高円安基調で推移していることとも関係しているとの由(韓国メーカーから日本への輸出は影響を受けている)

 あと印象だけの話ではあるが、ウォンと円との換算レート(現在1ウォン=約0.13円)の数字のせいか、とにかく財布から万札が直ぐに出て行く。私が泊まったホテルは中級だが、1泊「10万」ウォンする(!)コンビニで菓子パンを買っても600~700ウォンくらいかかるし、地下鉄も初乗り運賃が900ウォンである。この点中国は1元=約15円なので、むしろゼロの数は少なくなる。まあ慣れれば済む話ではあるが。

(2) 年長者や客に対する敬意

 東京・北京と較べて、ソウルが断然高い。

 地下鉄でも年長者が、座っている若い人の前に立つと、ほとんどの人は黙って席を譲る(私も譲った)。また年長者の前で、若い人がお酒を飲むときは少し横を向いて飲む・・・というのも何度か見た(真正面を向いて飲むのは失礼とのこと)。韓国ではしばしば年齢を尋ねられるようだが、それはどっちが偉いかをはっきりさせるためらしい。

 この点中国も年長者を敬う伝統はあるが、現在は、文革の影響により社会の中心となっているリーダー層の年齢がとても若い(20代後半~40代前半くらい)。このため、年長者の存在自体がそれ程目立たない。

 ソウルで宿泊したホテルの廊下で、ボーイに会った時のこと。彼らからは、いつも

「こんにちは!」

と、かなり気合いのこもった挨拶をされ、すがすがしかった(ただこういう挨拶に慣れてないせいか、体育会系の合宿所にいるような気もしてきたが)

 これが東京のホテルだと、もっと静かに挨拶する感じである。一方、北京だとこちらから「ニイハオ」と声をかけると、ふわーんとした「ニイハオ」が返ってくる。肩の力が抜けていて、私には割と馴染みがある。

(3) 自分の考えを伝える

 先ほどの韓国の大学の先生と、日中韓の人々のコミュニケーションについて話していたとき、とても興味深いことをおっしゃっていた。彼によると、それぞれの自己主張のやり方に国民性が出ているとのこと。

日本人:相手が誰であれ、自分が思っていることを、はっきりと言わない。

中国人:相手を見て、話すに足る人だと判断した時だけ、自分が頭の中で考えていることを伝える。

韓国人:相手が誰であれ、自分の考えをはっきりと言う。

うーん、そうですねえ・・・(日本人的反応か)

(4) 大気汚染

 東京とソウルは、北京に較べてずっと空気がきれいだと思う。少なくとも天気が晴れの日は、青空が見られる。

 この点、北京は晴れている日でも何となく空にガスがかかっているようで、すっきりしない。現在中国は、環境対策に力を入れようとしてる。北京にも青空が戻ってきて欲しいものだ。

(5) 道路の横断

 東京を歩いていて、良いなあと感じることの一つは、道路を横断しても、それ程危険を感じることが少ないことだ。クルマは歩行者を見ると一応停止する。

 ソウルも同様のようで、道を横断していて、特に危ないと思ったことはなかった。また、大きな交差点はかなり地下道になっているので、安心して渡れる。

 北京だと、こうはいかない。いかに歩行者が横断歩道を渡ろうと、左折車・右折車ともになかなか止まらない。

 私がここ数年間で訪問した中国の各都市の中でも、特に北京は、道を横断しにくい町である。他の都市も必ずしも交通マナーが良いという訳ではないのだが、北京ほど危険は感じない。多分北京はクルマの数が多いせいか、ずっとシビアな状態なんだと思う。是非とももっと道を渡り易くして、街歩きを楽しめるようにして欲しい。

(6) 日中韓でまわるモノとカネ

 JETROでうかがったのだが、韓国は日本に対してだいたい240億ドルくらいの貿易赤字を出しているとのこと。これは、韓国の電気製品などに組み込む部品を日本から購入していることなどに因るもの。一方で、韓国は中国に対して、同程度の貿易黒字を出している。韓国製品は中国国内で人気がある。更に日中間でのモノとカネのやり取りも活発である。すなわち、日中韓三国間で見ると、モノとカネがぐるぐるまわっている状態だ。

 改めて、日中、日韓、中韓など二国間だけ見ていては分からない、東アジアの国境を越えたつながりがあると理解した。

再び金浦空港へ

 到着した時は、空港からホテルまで模範タクシーに乗って、約4万4千ウォンかかった。

 とても高く感じたので、帰国の時は、ホテルから空港まで地下鉄を乗り継いで行った。大きな荷物を持ち歩いて大変だったが、今度は1千ウォン余りで済んだ。