【07-02】日本へ行って良かったこと、苦労したこと~日本留学経験者へのインタビュー記録~

2007年2月20日

今井 寛 (中国総合研究センター 特任フェロー)

日本への留学経験のある中国人大学教授

 昨年末、四川省(中国西南部に位置し、三国志で言えば蜀の国)と浙江省(沿海部で上海から比較的近く、伝統的に豊かな土地柄)の大学を訪問した際、日 本に留学した経験のある大学教授にインタビューを行った。今回は彼らの生の声をお伝えしたい。

 インタビューの結果は、性別(専門分野)の他、以下のようにまとめた。

(1) 日本留学の動機や制度
(2) 日本へ行って良かったこと
(3) 日本で苦労したこと
(4) 日本の印象その他

 インタビューした相手の先生方の現在の年齢は、おおむね30代~40代前半くらいである。インタビュー順に紹介する。

 なお、文責は全て筆者にある。

1.男性(化学)

(1) 日本留学の動機や制度

・中国で修士を取った後、大学の教師になりたいと思い、米国への留学を希望した(このような希望はよくあること)

・けれども当時(90年代前半)は、中国から海外へ出る留学生の数はまだ多くはなく、特に米国枠は空きがなかった。日本については、文部省の奨学制度が有り留学できた。指導教官の勧めもあり、「 じゃあ行くか」と日本の大学院へ入ることにした。

(2) 日本へ行って良かったこと

・自分なりに日中の文化的違いについて、いつも比較し研究していたので、日本人の良いところを学ぶことができた。

・例えば「知る」と「分かる」という言葉がある。中国語では特に違いはないが、日本語では意味が違う。その例をあげると、日本人は論文を読んでも、直ぐに鵜呑みにしない。「本当か?で も実際にやってみないと分からない」と、いつもその内容が正しいかどうか、じっくり吟味する(そこがすごい)。この点、中国人は「これは正しい」「これは間違っている」という風に、あっさり判断してしまう。< /p>

・日本人は仕事に対する意識が高い。「これは仕事だから」という言葉は、とても重かった。

(3) 日本で苦労したこと

・30歳で留学して、半年間研究生をやった後博士課程に入ったが、外国人向けの国際大学院コースではなく、日本人が入る通常のコースだったので、当初は日本語で苦労した。

(4) 日本の印象その他

・電車はとても混んでいるが、ケンカが起きない。とても不思議だった。

2.男性(水力)

(1) 日本留学の動機や制度

・留学の動機は2.と大体同じ。

・8年間日本に滞在した。指導教官の紹介を受けて大学院へ入り、次にJSPSの制度を利用して、筑波の研究所で研究を続けた。

(2) 日本へ行って良かったこと

・研究と生活の両面において、日本に対する印象は良い。生活は便利だし、日本での仕事は国際化している。

(3) 日本で苦労したこと

・日本語で苦労した。

・地震がいやだった。日本に到着したその日の夜に地震があったのは、ショックだった。

(4) 日本の印象その他

・日本人の環境を守ろうとする意識の高さには、驚かされた。

・日本は中国と比較して、社会にいる研究者の割合が高い(或る鉄鋼メーカーの研究所は、職員の3分の2が研究者!・・・との他のインタビュー参加者の声あり)

photo1

3.女性(生命科学)

(1) 日本留学の動機や制度

・米国はTOEFLやGREなどの英語の試験があるが、日本はなかった。

・中国の大学を卒業して文部省奨学金を得て、日本の大学院へ入学。その後カナダへ留学した。

(2) 日本へ行って良かったこと

・日本人はとても努力する。日本の研究室では、夜中の12時前に帰宅する人はいなかった。カナダでは、夜の7時を過ぎると誰もいなくなる。研究室は自分一人になり怖かった。

(3) 日本の印象その他

・自分の専門からすると、毎日12時間以上働くのは、本当に人間の体にとって良いのか疑問がある。人間の精力には限界があるのではないか(日本は先進発展途上国型。仕事では努力するし福祉も良いが、一 方で過労死の問題もある。人間関係が冷たくなっているのでは・・・との他のインタビュー参加者の声あり)

・できるだけ自分の学生も留学できるよう努力している。

・自分の研究は、基礎研究なので予算がない。中国では、基礎研究にお金がまわらない。日本では、企業が基礎研究に資金を提供するが、中国企業は出さない。

4.男性(生命科学)

(1) 日本留学の動機や制度

・もともと米国への留学を希望していたが、試験に落ちた。そんな時、中国で国際学会があり、日本の大学の学部長と知り合った。家族も既に日本に留学していたし、知り合いもいたので、日 本の大学院へ行くことに決めた。

(2) 日本へ行って良かったこと

・自分の研究能力は、日本へ行って成長した。

(3) 日本で苦労したこと

・まず苦労したことについて話したい。日本への留学時代を思い出す時、9割方複雑な気持ちになる。最初の頃、できるのは英語だけで、日本語が話せずいじめられた。先生からは、な かなか名前で呼んでもらえなかった(後で知ったことだが、自分の前に在籍していた中国人留学生の能力が高くなかったことも影響していたらしい)

・でも我慢して2年経ち、同級生に先駆けて英語の論文を発表してから、先生の態度は変わった。自分を認めてくれるようになり、今ではお互いに良い友人として付き合っている。

(4) 日本の印象その他

・文部省の奨学金に応募し続けたが通らず、最後まで私費の留学だった。自分は発表した英語の論文数は断然多かったが、奨学金の審査は、女性や家族持ちが優先される感じだった。も っと学生の業績を評価すべきではないか。

・今の大学では、学生にも書くべき論文数の最低基準があるが、自分の研究室独自のラインは、その2~3倍の論文数としている。それでも自分の将来のためと納得して、やる気のある学生が入ってくる。

5.男性(材料)

(1) 日本留学の動機や制度

・中国で学位をとった時の指導教官と、日本の留学先の教官が知り合いだった。先方の教官が自分の論文を見て、日本へ呼んでくれた。受け入れ先の大学が留学費用を持ち、そこで3年間ポスドクとして研究をした。< /p>

・その後JSPSの外国人特別研究員となり、更に1年半研究を続けた。

(2) 日本へ行って良かったこと

・日本と中国の先生同士が友人だったこともあり、中国人として不愉快な経験をしたことは特になかった。後に、家内も日本で学位をとった。

(4) 日本の印象その他

・自分は大学から給与を得ていたので特に申請はしなかったが、日本の奨学金制度は、優秀な人に提供されるというより、指導教官に力があるかどうかで決まってしまうとの印象を持った。ただし、J SPSの制度は、研究能力をフェアに評価していたと思う。

・現在いる大学は、たくさん仕事をすると給与が上がるシステム。日本の大学も、このような制度を導入してはどうか。

6.男性(材料)

(1) 日本留学の動機や制度

・中国の大学を卒業し、大学助手をしてから、日本へ留学した。博士号を取得した後、企業の研究所、JSTのプログラムへの参加、米国でのポスドク勤務など、色んな研究経験を積んだ。日 本滞在は15年にもなる。

(2) 日本へ行って良かったこと

・色んな日本人に会い、様々な人生経験をした。良い友達も沢山得た。アルバイトも、世論調査からガソリンスタンドなど色々やった。一番下の人達にも世話になった。こうした活動を通じて、いつも「何故、日 本は発展し続けるのか?」と考え続けた。

(3) 日本で苦労したこと

・経験したことは、苦労とは思わない。全て良い体験であった。

(4) 日本の印象その他

・現在は、とても厳しい競争環境にいる。とにかくプロジェクトをとってきて、自分の研究室を維持しなければならない。

photo2

7.男性(医学)

(1) 日本留学の動機や制度

・日本の大学院へ留学した。日本を選んだ理由としては、① 日本に興味があった、② 家族が既に日本へ留学していた、③ 地理的にも中国から近い

・学位をとってJSPS特別研究員となり、対ガン撲滅十カ年計画のプロジェクトにも参加した。大学院在学中に一時英国へも留学した。ちなみに、兄と家内もJSPS特別研究員だった。

(2) 日本へ行って良かったこと

・学問的能力を身につけることができた。

・たくさんの良い友人ができた。

(3) 日本で苦労したこと

・当初は日本語で苦労した。上達した後は特に無い。

8.男性(医学)

(1) 日本留学の動機や制度

・日本の大学へ研修医として1年勤務した後、一度帰国して、その後再度訪日した。大学病院でポスドクとして経験を積んだ。日本は、自分の専門分野の研究が進んでいる。

(2) 日本へ行って良かったこと

・よく勉強し、研究能力が向上した。学長の紹介で、厚労省の研究会も傍聴できた。

(3) 日本で苦労したこと

・日本語は全く勉強しないで日本へ行ったので、苦労した。

(4) 日本の印象その他

・日本社会についての勉強もした。日本人はとてもよく頑張る。富士山を登山した経験があるが、高齢者でも長い距離を歩いて登っていくのには、感心させられた。また、日本人は、学術の面でも人生の面でも、学 ぶ能力がとても高い。

9.男性(医学)

(1) 日本留学の動機や制度

・中国の医科大学を卒業後、規模が大きくない公立病院で2年間勤務してから、日本への留学を決意した。もっと研究をしたかった。

・卒業した大学の指導教官が、北海道の大学の先生と知り合いだったので、そこへ留学することにした。私費で博士課程に在籍した。

(2) 日本へ行って良かったこと

・一般に北海道の人は、外国人に対して親切である。日中友好協会もあり、中国に対して親しい感情をもっていた。美しい景色や自然も気に入った。

・大学の施設も充実していた。中国の大学の施設もだんだんと充実しているが、基礎医学は日本の方がリードしていると思う。

(3) 日本で苦労したこと

・日本語は、中国で3ヶ月間自習しただけだった。訪日後は、日本人の英語の先生が、ボランティアで毎週1時間だけ教えてくれた。ただし会話だけで、文法の授業は無かった。

(4) 日本の印象その他

・日本社会の規則類は、よく整備されていると思う。

・日本に於いて、もっと中国に関する教育をしっかりやった方が良い。自分の感じを言うと、日本人の内1割くらい人は中国に好意を持っていて、また1割くらいは中国のことが嫌いである。ただ、こ れらの人達は中国について良く知っている。

・重要なのは残りの8割であり、中国についての知識が乏しいので、メディアの報道に左右されやすい。中国の良い面、悪い面どちらについても、より深く伝えることが大切と考える。

インタビューを終えた感想

 今回インタビューした教授の方々は、中国へ帰ってきて、やり手の大学教授としてバリバリ仕事をし、活躍している人ばかりである。日本で様々な体験をしながらも、このことをポジティブにとらえ、自 分の糧としようとする姿勢が印象的である。

 参考までに書くと、中国からの海外留学の条件としては、90年代初めまでは「現地に華僑など直系の親戚がいる」「4年分の大学の授業料を国に支払う」「まず働く」等の条件があったが、9 4年頃これらが緩和されたとのこと。

 「辛かったこと」としては、やはり日本語の問題が大きい。対策としては「日本の研究環境を英語化する」というのが正論でかつ王道であるが、併せて「中国国内で日本語の勉強を受け易くする」こ とも必要である。

 全体的に知的で興味深いコメントが多く、今後の日本と中国の交流を考えていく上で、参考になる。


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