【07-05】今の流れをとらえるビジネスか、それとも自分流のこだわりか~教えてもらった二冊の本~

今井 寛(筑波大学大学院教授、中国総合研究センター特任フェロー)  2007年5月21日

徐向東氏が紹介してくれた二冊の本

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 徐向東さんという中国社会の専門家に、講演を依頼したことがある。彼は中国から来日後、日本の大学で社会学の学位を取得した。日本のシンクタンクや大学を経て、現在は中国へ進出する企業を対象としたコンサルティング業務に従事している。流暢な日本語を駆使した現代中国社会に関する講演は、とても興味深いものだった。

 その後も、私から中国総合研究センターの活動について知らせたり、彼から中国情報に関するメールが届いたりすることがあった。

 そこで今回は、徐さんから紹介して頂いた二冊の本を読んでの感想について、書くこととした。なお、私の本の解釈は、結果的に著者の意図とは一致しないこともありうることを、予めお断りしておく。

生き馬の目を抜く中国市場とリッチな中国人

 まず、昨年夏に上梓された徐さんの著書から。

「中国で「売れる会社」は世界で売れる!-日本企業はなぜ中国で勝てないのか」
徐向東著 徳間書店

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 中国で売れるものを作るためには、経済と消費の中心となっている「新中間層」の心をつかむべしとの主張である。

 新中間層として、中産階級の生活水準を目指し、中流意識を持っている二十代後半から四十代前半までの層のことで、約1億2千万人いると推定している。その対象としては「 外資系企業や新興産業に勤務する人」「公務員や研究教育従事者など所得が安定した人々」「経営状況の良い大手企業に勤める人々」「個人経営者層」を上げている(p.31)。そして、中 国市場において彼らの心をつかむため、中国新興企業や外資系企業が繰り広げている激烈な競争が、実例をもとに紹介されている。

 私は、特に三つの点が印象に残った。

1.タイミングをうまくつかむことが中国市場での成功の鍵

 この本の中では、ターゲットとなる新中間層のニーズを的確に把握し、それに素早く対応することの重要性が繰り返し強調されている(マーケティングの本だから当然ではあるが)

 一方、日本の市場はどうだろう。ここまで素早い対応が要求されるかどうかだ。

 素人考えだが、日本の消費者は、もう新たに欲しいものがそれ程無いと感じるような成熟し、飽和した社会にいる。だから、彼らに何かを売ろうとすれば、消費者のニーズに対するスピード感というよりも、じ っくりと研究し新しい価値に基づくものを創って、それを提案していくことの方が効果的なように思える。もしそうだとすれば、日中二つの市場に対するアプローチも、自ずと違ったものになるかもしれない。

2.現代中国の若いリーダー達のリッチさ

 本書では、中国の新中間層に属する若きリーダー達のリッチな生活-ハイテク家電、外車、広いマンションなどの所有は当たり前-についてレポートしている。そして、

 中国では、今、「五子登科」、つまり「車子(マイカー)、票子(金)、房子(マイハウス)、児子(男児)、位子(地位)」のすべてがそろうことが「成功のシンボル」とされている

 と、述べる(p.41)。

 ここで興味深いのは、日本における成功の判断の基準との違いである。成功したかどうかを見る場合、獲得した財産の多寡が、どの程度重きを置かれるかだ。

 日本では、社会に対してどんな影響を与え、どんな貢献をしたかの方が、評価されるように思える。一方、中国では、結果としてどれくらい財産を築いたかの方が、ど ちらかと言えば重視されているのでないか(まあこれは濃淡の問題なのかもしれないが)。

 例えば、六本木のヒルズ族にしても、豪華で贅沢な暮らしをしているから「成功者」だと見られる訳ではない。あくまで、傘下の企業やそのIT事業が社会にどんな影響を与えたかの方が、関 心を持たれるのだ。

3.中国市場に対する日本企業の姿勢

 中国市場での勝者として、消費者の動向を十分にとらえ素早く対応している韓国企業の取り組みを上げている。そして日本企業はと言うと、その技術力は高いが自分たちのやり方に対するプライドも高い。そ れが邪魔して 「中国市場や消費者と同じ目の高さから観察しようという姿勢に欠ける」 との専門家のコメントを出している。そして、以下のような日本企業の現場担当者が漏らしたことばを紹介している。

 そうやれば売れると分かっている。でも、そこまでやって売り上げを伸ばすのはイヤだ (p.13)

 日本企業は中国市場でやっていける潜在的な力は十分あるが、もっと中国市場の特徴に基づいたアプローチをとるべきとのアドバイスには、説得力がある。ただ、日 本流の取り組みにこだわる原因はそのプライドの高さにある、という見方については、少し違和感があった。

 そこへ、徐さんから次のメールが送られてきた。

ビジネスの神髄と技術開発

 今度は、ビジネス誌に掲載した新刊の書評(プレジデント2006年12月4日号)である。それは若き日本人経営者の起業体験記だった。

「常識を再発明する!-YAPPAが切り拓くコミュニケーション・テクノロジーの未来」
伊藤 正裕著 ダイヤモンド社

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 本書評においては、17歳で会社を立ち上げて成長させた日本人伊藤氏の「毎日、全力疾走している」様子を、現代中国人が所得向上を目指して頑張っている姿に、だぶらせている。そして、伊藤氏の「 お客様の役に立つという『ソリューション』が大切というビジネスの神髄をズバリと押さえた言葉」を高く評価する。 

 この批評を読んで、私に浮かんだイメージはと言うと、23歳になったビジネスリーダーが、中国市場の勝者である敏腕経営者のように、消費者のニーズを素早く取り込んだ製品を次々開発して、ど んどん売り込んでいく・・・といった様子だ。

 実際「常識を再発明する!」には、企業経営には全くの素人だった筆者が、次々と迫りくる課題を、一つ一つ体当たりしながら乗り越えていく姿が、活き活きと描かれている。読んでいてワクワクしてくる。

 でも、もっと共感を覚えたのは、人間の生活を豊かで楽しくすると信じる自分達の技術(3D技術)の開発に、信念をもって粘り強く取り組む、その姿勢だ。改めて本書の構成を見ると、技 術開発の進捗に最も力点が置かれていることが分かる。

  • 第1章 フィロソフィ - 普遍的に社会貢献ができる会社をつくる
  • 第2章 ミッション - 人間の能力を活かしたインターフェイスを開発する
  • 第3章 テクノロジー - OSやハードに依存しない独自のウェブ3D技術
  • 第4章 物づくり - いかにアナログと技術を融合させるか
  • 第5章 常識を再発明する - 人間の生活を豊かにするアナログ技術

 どちらかと言えば、社会の発展に貢献する技術者達の人間ドラマ「プロジェクトX」の世界に近い。

 伊藤氏は日本の自動車工場の例を出して、次のように語る。

・・・働いている人々が工場で決められたルール以上に自主的にクオリティチェックをして、職人と呼ばれるほどの完璧性を求める。これは日本の強みであり、良き習慣である(p.132)

 やはり日本人は、高品質のものづくりや新しい独自の技術開発を、追求していく国民である。「そこまでやって売り上げを伸ばすのはイヤ」という駐在員氏の言葉にしても、独 自のものづくりにこだわった競争をしたい・・・という気持ちも含まれていたのではないかと、後で勝手に想像した次第である。

感想のまとめ

 二つのテキストを参考にして、日本と中国のビジネスや技術について述べてきた。

 実際には、両国とも色んな会社があって色んな人がいる。日本でも、流通業では消費者のニーズを如何に素早く取り入れるか、しのぎを削っている。また、中 国には人類の生活レベルを飛躍的に向上させた四大発明(製紙・羅針盤・火薬・活字)もあった。

 ここで大切なのは、お互いの特徴を知り、良いところは素直に学んでいくという姿勢なのだと思う。

 別にどっちが先生で、どっちが生徒という訳ではない。どっちも生徒で、そして、どっちも先生なのである。


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