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【07-11】男女の付き合いと似てる!?~日中共同研究成功の鍵は何か~

今井 寛(筑波大学大学院教授・中国総合研究センター特任フェロー)  2007年11月20日

日中の共同研究をうまく進めるためには

 中国総合研究センターは、今年度より日本と中国の共同研究やR&D連携の実態に関する調査に着手した。私も参加して、日中の大学や研究機関を訪問して、こ のような研究協力に関わっている研究者やマネージャーにインタビューを行っている。

調査結果は来春報告書としてまとめられる予定であるが、話を聴いてみて改めて感じるのは、やはり研究協力とは人間の営みであるということだ。ロボット同士の協力という訳ではない。様 々な思考や感情を持つ生身の人間がなすものなのだ。

 確かに私がインタビューした相手は限られている。もしかしたら、クールな感覚で

「この学会誌に載っているのは素晴らしい研究論文だ。よし、共同研究を申し込もう」

というようなアプローチがあるかもしれない。欧米先進国との協力は、それが一般的なケースなのかもしれない。でも、対象は日中間の共同研究。そんな風に半自動的に仕事が進むという事例は少ないだろう。& lt; /p>

 日本は先進国であり、色んな課題を抱えている。中国は伸び盛りの発展途上国であり、日本とは違うがやはり色んな課題を抱えている。そしてどちらも近所の国。何かとごたごたするのは、むしろ自然なこと。共 同研究というものは、良きパートナーと巡り会い、色々ありながらもお互いに理解し、長く付き合い、協力して有意義な成果を出そうとする努力の過程であ る。これはもうほとんど男女の付き合い、カレシ、カ ノジョみたいな関係と変わらない。我慢があっても、信頼し続けられるかどうかにかかってくる。そのためには、相手に誠実に接することもあるし、コミュニケーションを十分にとることも大切だ。

 では、十分なコミュニケーションをとるためには、どうすれば良いのか。もちろん言語(日本語、中国語、英語など)のことは重要だ。加えて、「今この瞬間に、ともに地球上に住んでいる人間」と しての感覚を共有できるかどうかが鍵になる。

現地に研究協力の拠点がある。

 コミュニケーションスキルの話は既に昨年11月と12月のコラムで紹介したので、ここでは省略するが、一連のインタビューを通じて思ったのは、共 同研究を行う相手先に自分が良く知っている人間がいるかどうかで状況が違ってくるということだ。

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  中国西部、シルクロードの入り口に、寧夏回族自治区の中心銀川がある。島根大学はこの黄河のほとりの町に、2004年に寧夏大学と共同で研究所を設置し て、環境や経済・社会・文 化など過疎地域を中心として幅広い研究を進めている。現在、研究所には島根大学の研究者2名が、昨年から長期に滞在している。

 島根大学は研究所を設置した以前にも、既に約二十年間にわたり寧夏大学と研究交流を続けてきた。ところが、そんな長期にわたる交流があっても、実際に研 究現場で意思疎通を図ることは、色 々と難儀な面があるとのこと。島根大から寧夏大に「こんなデータが欲しい」とメールや電話で伝えても、その必要性や具体 的なスペックについてなかなか十分には理解されにくい。

 この点現地に日本人がいれば、日本側からのリクエストは、離れていても理解しやすい。後は中国側とフェイス・トゥ・フェイスで、念入りに話していけば良 い(それはそれで大変なのだが・・・)。他方、島 根大は寧夏大からの留学生や教員の研修生を受け入れるなど、中国側の要望も日本側へ伝えやすい状況だ。

日本への留学生が中国に帰国した

 ただし、日本人が中国に長期に 滞在するのは、いつでもできることではない。むしろ日本側の希望や事情を熟知している中国人がいると、連絡をとりやすいし、こちらの考えも誤解なく伝えや すい。自 分自身のインタビューのアポイントをとった経験でも、紹介者の有無で相手の対応がかなり違ってくるので理解できる。

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 最も頼みになるのは、自分の研究室の卒業生が中国にいるというケースである。同じ釜の飯を食いながら研究室にこもって研究し学位指導したお弟子さんが中国の有力な研究機関や大学にいれば、そ れだけで共同研究の提案をスムーズに伝えることが可能だ。

 或る日本の大学の先生の話は、特に「すごい!」と感じた。その方は、初めて自分の研究室を持った時、将来の発展を考えて、中国の知人から中国人の大学院 生を受け入れることにした。当 時はまだ研究室にお金が無く、国費留学生としての受け入れも決まっていなかった。そのためこの先生は、中国人留学生の身分も 色々と知恵を絞り、何とか生活できるようにした。入管にも何度も通った。そ この担当官とも仲良くなった。それでも生活費が不足して、個人的にサポートもし た。それでもお金がなくなって、いよいよダメか・・・と思った矢先に、国費留学生としての受け入れ許可が下りたそうだ。

 「自分ならここまで頑張り通せるだろうか?」と、思わず私は自問自答してしまった。

 中国やその留学生の将来性にかけるということだけで、果たしてプライベートなお金まで投じることができるか。それとも、そこには、日本と中国を越えた人と人とのぶつかり合いが有ったのか。当 事者ではない私には、本当のところは知る由もない。

 ただ結果としては、その中国人留学生は極めて優秀だった。現在は中国の超有名大学で有力な教授として活躍している。師匠である日本人の先生を信頼し、深いコミュニケーションがとれるものと、想 像することは容易である。

 日本人と中国人とはお互いに違う面を持っているので、共同研究の現場で「やっぱり中国人は」「やっぱり日本人は」と思いたくなることは、しばしばある。でも、ありきたりな言い方かもしれないが、日 本人も中国人も、人としてそれ程違っている訳ではないことを、忘れてはいけないだろう。