【08-02】ニッポンの中国人研究者part2~「日本における中国人科学技術人材の活動状況調査」より~

今井 寛(筑波大学大学院教授・中国総合研究センター特任フェロー)   2008年2月20日

  前回のpart1に引き続いて「日本における中国科学技術人材の活躍状況調査報告」の 結果について紹介したい。なお、中国人研究者の回答者の割合は、小数第一位を四捨五入した数字(%)を用いる。 

日本での研究活動で良かった点

 中国から来日した後、実際に日本で研究活動をしてみて良かったと感じられる点(複数回答可)については、「研究施設や研究設備が充実している」が78%で 最も高い。以 前材料分野の中国人研究者にインタビューしたことがあったが、高性能の電子顕微鏡が自由に使える点に満足していたことが思い起こされる。次い で「研究費が潤沢にあり、研究に専念できる」71%がくる。

 私にとっては意外だったのだが、生活面として「治安が良い」が68%と比較的高い評価を得ていることだ。特に、家族帯同で来日する研究者にとっては重要なのであろう。 

 また「最新の研究情報が得られること」が47%、「研究レベルが高い」は41%となっている。part1で紹介したように、日 本行きを選択した理由として研究レベルの高さが比較的多く上げられていたことに対応している。

来日前と比較した場合の日本に対する認識の変化

 前項の「日本での研究活動で良かった点」は、来日後に感じた日本の印象である。来日の前後で日本に対するイメージはどのように変化したのだろうか。

 まず研究環境について見ると、前項で高評価を得た「研究施設や研究設備の充実度」は「期待通り」が68%、「期待以上」も27%にのぼる。また、「研究費 が潤沢にあり、研究に専念できる環境」は、各 項目中「期待以上」とした回答が最多で32%である。同じく「期待通り」57%と合わせて、9割の研究者が来 日前に期待していたかそれ以上の水準と考えている。 

 「治安の良さ」については「期待以上」が58%、「期待通り」が43%となっている。これは嬉しい驚きということか。中国社会が発展をとげた現在、中国 人は住む場所の安全性について敏感になっているのだと思うし、研究者に人気のある米国は言わずもがなである。依然として我が国の治安が比較的良いことは、 優秀な研究人材を引き寄せるためにアピールできる要素だろう。

 また、海外で快適に過ごすためには、その国の人達と良好な人間関係を維持することが大切であるが、「日本の知人、友人等人間関係」については「期待通り」が68%、「期待以上」が16%となっている。& amp; amp; amp; #160;

 一方、活動している研究機関や大学において研究者としてどのように評価されているかだが、「自分の望むポスト(職や地位)」の獲得は「期待どおり」が 64%だが、「期待以下」も29%にのぼる。「 能力に応じて昇進できるシステム(制度)」については「期待通り」48%に対して「期待以下」44%、「公 平な人事評価」は「期待通り」61%に対して「期待以下」30%となっており、そ れぞれ否定的な回答が目立つ。

 全体的に「期待通り」が上回るものの、一定の割合で「期待以下」が存在している。ただ、その「期待通り」も、そもそも来日前からそれ程期待していなかったことも考えられる。次は、来 日してからのマイナス面について見てみよう。

日本での研究活動について負担に感じられる点

 我が国での研究活動を行うことは良いことばかりではない。中国人研究者はどんな点を負担に感じているのだろうか(複数回答可)

 最も多いのが「日本人と比較し、外国人の場合、昇進し難いと感じる」と「雇用契約が任期付きのため、将来の進路に不安がある」であり、各々49%と半数の 中国人研究者が負担に感じている。前 者は外国人特有のことかもしれないが、後者は任期付きの研究者であれば国籍に関係無く覚えることだろう。 

 その他の研究活動に直接関係するマイナス面としては、「活動全般にわたり、日本語を使わなければならない場面が多い」38%、「自分の希望するポストになかなか就くことができない」37%がある。& amp; amp; lt; /p>

 一方、治安が良いと評価された生活面であるが、「日本での生活は、子供の教育面で不安がある」40%、「配偶者の就業場所が、なかなか見つからない」 34%が目につく。親 が知的レベルの高い職業のこともあり、中国の小中学校の勉強はとてもハードであるのに対して、日本の「ゆとり教育」は不安であるとの 声が、以前行ったインタビューで耳にした。 

 また中国では共稼ぎが一般的であるため、たとえ夫(または妻)が魅力的な研究ポストを得ても、妻(または夫)の仕事が見つからなければ、渡航を断念する か、単身赴任するかの選択を迫られることになる。私 の知り合いの中国人でも単身赴任を余儀なくされている人が多々いるが、家族が離れて生活することが負担 なのは言うまでもない。

日本での研究活動を継続する可能性

 以上日本での研究活動のプラス面、マイナス面を見てきたが、日本で活動する中国人研究者達は、将来的にも日本で活動したいのか、中国に帰国したいのか、はたまた別の国へ移住したいのだろうか。

 「3年〜5年後を想定した場合、自分自身の研究活動の場をどこに確保したいか」という質問に対しては、「日本で引き続き活動したい」が42%、「帰国した い」が39%と拮抗している。また「 欧米に移動したい」は16%となっている。また、その理由は以下のとおり(複数回答可) 

 「日本で引き続き活動したい」とした理由としては、「日本において満足する研究ポストが獲得できた(あるいは、獲得する見込みがある)ため」が47%と 半数近くを占める。や はり良いポストを得られることが、研究活動の充実から見ても将来設計を考えていくうえでも重要なポイントなのである。 

 他方「帰国したい」と答えた理由としては、「子供の教育や家族の問題などの個人的事情を考慮すると、自国での研究活動が最も適切であると判断されるた め」が69%と断然のトップだ。や はり研究者と言えどもまずは生活者。生活面で安心できてこそ落ち着いて研究活動に打ち込めるというのは自然である。

中国人研究者・日本人研究者を問わず目を向けるべきこと

 中国人研究者が引き続き日本で研究活動を続けるかどうかの判断材料としては、研究環境要因と生活環境要因とがある。 

 来日したくなる研究環境の決め手としては研究資金や設備の充実等があるが、将来にわたって日本で継続して活動するためには、研 究者本人が納得できる評価がなされることなど研究制度やシステムが合理的でかつ明快であることが必要である。 

 同様に注意を払わなければならないのが、生活環境要因である。住宅の充実の必要性は以前から知られているが、長期的に見た時の生活安定性や、共働き夫婦 のための配偶者の仕事の確保、更 には子供の教育も含めて、外国人研究者の生活面について考えていくことが不可欠である。最終的に彼らをサポートするか否か の判断はあるが、いずれにせよ生活者としての面にもっと目を向けていかないと、今 後とも優秀な研究人材を確保し続けることは難しいのではなかろうか。 

 現行の科学技術基本計画においても「優れた外国人研究者の招へい・登用を促進するため、国は、研究環境のみならず住宅確保、子弟教育等の生活環境にも配 慮した組織的な受け入れ体制の構築を支援する」と の方針が示されている。このような考え方は、外国人のみならず優秀な日本人研究者を確保するためにも重要 である。

 従来より我が国の政策立案はいわゆる「ハコモノ行政」との批判を受けてきた。目に見え易いもの、分かり易くて直接関係があるものには予算が付き易く進み やすい。例えば「 研究者を競わせて力を発揮させるために競争的研究環境を醸成する」といった目標である。無論このことが大切なのは言うまでもない。ただ加 えて、研究者の生活環境のように重要なのに表には出てこないことや、一 見研究活動とは直接的な関係が薄いように見えることに対しても目配りすることが求め られる。 

 このように、中国人など外国人研究者に対する総合的なサポート策は、優秀な中国人研究者が日本の研究機関で活躍することを実現することのみならず、今 後我が国の政策立案とその実行の幅を拡げていくための試金石となるものである。


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