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【12-003】「中国経済は投資依存で、消費の割合の低さが問題」は本当か その2

和中 清(㈱インフォーム 代表取締役)     2012年 5月21日

“ごちゃまぜ”の中で中国をとらえても、中国は見えない

 「中国はGDPに占める消費の比率が低く、経済は投資に依存しており、問題だ」という中国経済の読み方には、多くの誤りがあります。

 私は、中国の消費と投資について問題提起をする時、次の6点について考慮しなければならないと考えています。

 一つは、中国経済は13億人の人口を“ごちゃまぜ”にしては、とらえきれないこと

 二つには、中国人の不動産に対する複雑な心理が消費にも影響し、それを理解して問題をとらえねばならないこと

 三つには、中国は発展途上国で、投資は将来の消費の呼び水、持続的成長につながること

 四つには中国経済は裏経済により、消費が隠れ、投資が表に出る経済であること

 五つには、先進国と途上国という二つの側面をもつ国家の性格が消費に影響すること

 六つには、今も“大鍋の飯”(どんぶり勘定の意味)を引きずり、民間消費に影響していること

 まず問題は、豊かな中国も、貧しい中国も、都市も、農村も、“ごちゃまぜ”にして中国経済をとらえようとする問題です。

[グラフ2]

グラフ2

 [グラフ2]は、都市と農村の一人当たり平均消費支出額の推移です。このように、都市と農村の相違はもちろんのこと、都市間、農村間でも、その上位と下位には大きな差がある国です。

 2011年、国務院は、貧困対策の綱領となる中国農村扶貧開発綱要(2011~2020年)を公布し、14の集中連片特困地区を指定しました。一人当たり平均年収2200元が国の貧困基準ですが、その14地区の中には、679の貧困県が存在します。具体的には、湖北省の武陵山区に11県、湖南省に31県、貴州省に15県、重慶市に7県、チベット地域には74の貧困県があります。

 その一方、2011年の深圳市の一人当たり平均可処分所得は36,505元で、その所得の上位3分の1の層に属する市民の平均可処分所得は、74,943元との調査結果が出ています。GDPに占める消費の割合を問題としよう、とする論は、農村も都市も一緒にとらえているのです。農村も都市も、“ごちゃまぜ”にしたデータから計算された数字で、いくつもの側面がある多面体の中国経済を判断しようとするから、誤ります。

 中国の国内格差を論じる時に、都市住民の所得と農村住民の所得の対比だけで格差問題を認識しようとすると、誤るのです。都市とばかり比較せず、農村経済同士を比べ、仔細にとらえれば、違った中国の姿が現れるのです。中国はブランド品や高級車が飛ぶように売れて、世界的に注目を浴びている半面、まだ多くの貧困県を抱えるもう一つの側面をもつ中国。このような中国経済を理解しようとする場合、全体の数字を13億人で割って得られた数字にどんな意味があるというのでしょうか。

 先に紹介した雑誌特集もそうですが、中国問題を米国や日本との単純な比較で論じることにも問題があります。消費の問題点を指摘するうえで、日本や米国のように成熟した国と、年9%以上の成長を続けてきた国を、単純に比較しても、問題の指摘になりません。

 

[表3] 「総理房価」(合理的な住宅価格)の試算結果
出典:南方都市報
都市 1㎡当たりの単価(単位・元)
上海 4830.70
杭州(浙江省) 4493.33
南京(江蘇省) 4293.33
天津 3589.47
佛山(広東省) 3996.00
長沙(湖南省) 3526.80
武漢(湖北省) 3162.67
鄭州(河南省) 2996.80
合肥(安徽省) 2994.52

 最近、中国で“総理房価”という言葉が話題になりました。これは今年3月14日、温家宝首相が全国人民代表大会(全人代)の閉幕記者会見で、合理的な住宅価格は住民の収入に見合っており、原価に合理的な利潤を上乗せした価格だ、と述べたことから広まりました。早速、各地で、首相の発言に基づく「合理的な住宅価格」が計算され、報道されました。[表3]は、南方都市報(広州市)に掲載された“総理房価“です。

 計算方法は地域によってそれぞれですが、南方都市報は、2011年の深圳の一人当たり平均可処分所得36,500元をもとに、家族二人の世帯年収を73,000元とし、6年間の収入438,000元を小住宅の標準面積90㎡で割り、「合理的」な1㎡当たりの単価として、4,866.67元を算出しました。

 2012年2月の深圳市の住宅平均販売価格は、1㎡当たり16,854元ですから、4,866.67元とは大きな差があります。差額の11,987.33元はバブルと指摘され、約70%下げた価格が「合理的」と説明されています。

  深圳市では、17歳の農民工の平均賃金は、月2,000元から3,000元程度。年収にすると、24,000元から36,000元程度になります。ちょうど、深圳市の一人当たり平均可処分所得36,500元に近い数字ですが、合理的住宅価格は、この一人当たり平均可処分所得を基準に算出されています。

  すると、中学を卒業して間もない農民工夫婦が6年間働いても住宅は買えない、だから合理的でない、との論に重なります。もし、そんな計算で算出された「合理的住宅価格」が正論とされるなら、中国はまだまだ社会主義国を抜け出していない、とも思えます。

 資本主義的な競争社会に移行して経済成長を果たしたものの、富の分配では社会主義に立ち返ろうとする。そんな中国が見えます。私は若い農民工が住宅を取得してはいけない、と言っているのではありません。

 改革が動き出して30年余り、人口13億のとてつもない国です。所得分配改革に見られるように、中国が急ごうとすると、大きなリスクがあると言いたいだけです。この問題については、すでにこの欄の第12次5カ年計画の問題で取り上げました。彼らが都市で住宅を取得できるまでには年月がかかりますが、時間の試練に耐えて安定した経済成長路線を進めるべきです。(この項つづく)


[キーワード : 中国 連片特困 貧困 格差 総理房価 住宅価格 可処分所得]

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