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【12-011】「中国経済の問題を考える」(その5)

和中 清(㈱インフォーム 代表取締役)     2012年10月29日

昇龍が一転、急降下を始める

 これまで中国の社会風土が経済問題に波及することを述べました。ここで、その論点を整理しておきます。

  1. 中国はこれまで、低賃金、高コスト社会だった。
  2. 体制維持のため多額の行政経費がかかり、構造改革が進まず、財政問題に波及する。
  3. 自己本位の風土は製造業の発展を阻み、その衰退と輸出減少、輸入増加で、中国は恒常的貿易赤字国になるだろう。
  4. 所得改革の下、政策誘導による人件費上昇が企業の海外移転を加速させる。
  5. 国有企業重視、中小企業軽視のつけが、製造業衰退と重なり、中小企業大倒産時代がくる。
  6. 自己本位は、第三次産業の成長も遅らせ、産業構造の転換が進まず、失業が増加する。

 これらは中国の経済成長に急ブレーキをかけ、税収減、土地の使用権収入の減少につながり、財政赤字、また、海外からの投資減少による資本収支の赤字にも波及します。

 さらに、財政難をもたらす特有の問題も控えています。上記の六つの要因による経済停滞と、財政特有の問題が複合的に作用して、昇龍が一点、急降下を始めることになります。

 先に、中国は物を求める大きな極と、こだわりを求める極に分化する、と述べました。これまでは、物を求める大きな塊が、中国の成長を導きました。中国の経済成長率に少し翳りが見えてきたと言われますが、これは、欧州経済の悪化、インフレ対策のための預金準備率引き上げなど、引き締め政策が影響しています。

 例えば、増加を続けたビール生産も、今年上期は前年同期比4.85%増の低い増加率です。しかし、中国にはまだ6億の農村人口、都市にも、これから物を求める大きな塊が存在し、しばらくはその塊が成長を導きます。しかし、経済成長はGDPが米国を超える2020年頃に反転し、成長率が降下に向かう可能性が高まっています。

図1
図2
図3

社会主義の看板費用=養老年金と補助金支給が財政を圧迫する

 その特有の問題とは、財政収入面では、偽発票(偽の領収書)、裏経済社会に見る脱税問題ですが、既にこの欄でも指摘しました。財政支出面では、先に説明した一党体制を維持するためにかかる多額の行政経費が一つ。

 もう一つの体制維持費が、社会福利費です。社会福利費は、国民福祉のための支出であり、一方では社会主義の看板費用、すなわち現体制維持費の意味を持ちます。

 その維持費が財政負担に重くのしかかりながら、拡大を続けることになります。医療保険や養老年金給付、最低生活保障や各種補助金の支出がそれです。

 2011年、国務院は5年計画で政府補助の低価格住宅、低家賃住宅など保障性住宅3600万戸の建設を決定しました。保障性住宅や最低生活保障などへの支出は、中国特有の社会事情がからみ、必要以上に増えるという問題があります。

 その福利費の中でも、養老年金は年々深刻さを増します。

 2010年に60歳以上の人口比率は13.32%、65歳以上が8.92%です。就労適齢人口が減り、高齢者が増え、日本と同じ年金問題を抱えています。現在は財政からの移転支払もあり、基金収入が支出を上回りますが、中国銀行の研究報告によると、2033年には収入不足が68億2000万元に達する、と見られています。定年延長も考えられていますが、それ以上に、中国社会の年金離れ、年金不信が顕著になります。

 2011年9月末時点で、都市養老保険加入者は2億7497万人、2010年末時点の新型農村養老保険加入者は1億277万人です。しかし都市・農村の戸籍の違いによる年金取り扱いの差異、年金の都市間の移動などの問題があります。例えば、大都市勤務期間に高い年金掛け金を払っていても、将来、故郷に戻れば、その地域の低い基準での年金支給額となります。そのため、掛ける意味がない、との理由で、掛け金の計算基礎額を低く申告する企業や従業員が後を立ちません。加えて、インフレにより受取額が目減りすることへの危惧や、いずれ政策が変わって不利な条件になる恐れがある、との政府不信から、加入したくない、と考える人が増えています。

 都市・農村の戸籍の違いの不平等の是正が進み、農村の年金加入者が増えれば、将来の給付は増大します。しかし一方で、年金基金の収入が伸びなければ、基金の赤字が拡大し、財政の移転支払いが増大します。

 さらに、最低生活保障や家賃の低い政府保障性住宅への入居、学校への補助支給など、国の補助金にまつわる施策の裏には、必ずといっていいほど不正受給がつきまとうのも、財政圧迫の要因です。

 普通高校、大学に進学する若者が増え、経営が成り立たずに倒産する職業学校が続出しています。しかし、統計上は職業学校入学者数にそれほど大きな変化は見られません。その背景には、生徒数の水増しによる補助金の不正受給があり、不正が全国的規模で行われていると考えられます。補助金のあるところに大規模な不正がある、と言っても過言ではなく、そこにも財政負担が増加する原因があります。

図4
中国6次人口調査における人口基本状況
出典:中国統計年鑑より作成
1953 1964 1982 1990 2000 2010
総人口(万人) 59,435 69,458 100,818 113,368 126,583 133,972
0~14歳比率(%) 36.28 40.69 33.59 27.69 22.89 16.60
15~64歳比率(%) 59.31 55.75 61.51 66.74 70.15 74.53
65歳以上比率(%) 4.41 3.56 4.91 5.57 6.96 8.87
図5
図6
図7

中国は投資必然経済、さらに面子投資が財政を圧迫する

 一方で、建設投資も財政圧迫の要因です。中国は投資依存経済と言われます。しかし、それは依存ではなく、投資必然経済、投資主体経済と呼ぶべきです。計画経済の下で、世界の発展から取り残され、しかも広い国土に13億人が暮らす中国が世界に追いつくには、道路、鉄道、橋、空港、港を建設して国家の礎をつくることが絶対条件です。13億人の暮らしを支えるためのエネルギーを確保するだけでも大変です。中国は既に、風力発電設備容量で世界一です。2005年には120万kWにすぎなかった設備容量が、2010年には一気に4230万kWになり、2020年には甘粛省酒泉市、内モンゴル自治区東部などに8大風力発電基地が姿を見せます。

  「家電下郷」(農村への家電普及策)でクーラー普及も進み、灌がいや農作物の副産物加工を進めるにも、農村の電力網改善が必要で、2011年国務院発展改革委員会は2000億元(2兆4600億円)の投資を指示しています。

 2010年時点で9万1000キロだった鉄道営業距離を、2015年には12万キロまで延長する計画で、鉄道工事が進みます。2010年の複線化率は41%、電化率も46%と、半分にも届いていません。「四縦四横」の高速鉄道網計画でも、上海-深圳、北京-ハルピン、上海-昆明線の建設が続きます。南の水を北に運ぶ「南水北調」工程は、規模、費やす年月、費用も半端なものではありません。国際都市の上海は、2012年から3年計画で、汚水処理率85%を目指して工事が進んでいます。2011年末の全国の都市人口比率は51.27%ですが、これから20年で、それが75%まで高まります。なによりも13億人の住宅建設と都市化の推進だけを考えても、建設投資の必要性が理解できます。国土が広く、気候条件が厳しく、しかも、農業国だった中国では、投資主体経済が長く続かざるを得ないということです。

 しかし、不要な建設投資で、財政支出が余分に増加するのが問題です。「三公経費」(政府接待費、公用車、海外出張費)に象徴される行政費の膨張とともに、事業投資、面子工事、場当たり的な建設投資が、地方企業債など多額の地方債務の原因となり、2010年末には、省、市、県等の地方債務残高が10兆7175億元(約131兆8200億円)に達しています。地方政府と幹部の業績評価が、GDPや税収に偏りがちな事情もあり、地方の建設投資、事業投資が膨張します。今年上期の累計では、貴州省貴陽市、甘粛省蘭州市、海南省海口市の固定資産投資が、そえぞれ前年同期より40%以上増加し、省都クラスの都市で30%を超えたのは9都市ありました。

 私がいつも散歩する公園で、小さな風力発電の風車が5基設置されました。ほとんど風が吹かないところに、どうして、と思いましたが、案の定、その風車は回ることがほとんどなく、1年ほど後に撤去されました。

 2012年度の財政予算報告では、財政収入は前年比9.5%増、財政支出は14.1%増、財政赤字は8000億元(9兆8400億円)から1兆2000億元(14兆7600億円)にのぼる見通しです。税収と土地使用権収入の減少に加え、これまで述べたように、多くの財政支出の問題が重なり、近いうちに、双子の赤字が話題を呼ぶ可能性が高くなっています。

中国経済問題の論点まとめ

図8

(この項終わり)


[キーワード : 社会主義の看板費用 体制維持費 行政費 社会福利費 投資依存 投資必然経済 投資主体経済]

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