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【13-001】「中国経済はこれからどうなるか、日本企業はいかに対応すべきか」(その1)

和中 清(㈱インフォーム 代表取締役)     2013年 1月10日

中国の指導者交代と胡錦濤氏の「思い」

 2012年11月の中国共産党第18期中央委員会第1回全体会議で新指導部が発足した。新指導部については、長老支配、保守強権的統治、権力闘争で江沢民氏が勝利した、といった分析が日本にもある。指導部すなわち政治局常務委員7人の顔ぶれを見れば、長老支配との見方も出てくるだろう。

 しかし、江沢民氏はすでに86歳。長老と呼ばれる人のほとんどが80歳を超えている。これまでの改革路線に抵抗できる力はまずないし、それだけのカリスマ性も威厳も備えてはいない。さらに、5年もすれば、ほとんどの長老は姿を消す。冷静に考えれば、今後数年で表舞台から去る人に心底同調するような人はいないだろう。

 だから、新しい周近平体制も、改革開放路線を外れることはないと思う。当面は経済成長が持続し、胡錦濤政権の政治目標も引き継がれるはずだ。

 中国が政治的、経済的に大きな課題に直面するのは10年後だろう。その時には目に見える形で政治体制改革が必要になり、民主化にも踏み切らねばならない。経済的には成長の歪みがさらに突出し、数十年上昇し続けた経済も沈滞するだろう。

 胡錦濤氏は、中国が多くの問題に直面するであろう10年後を見ているはずだ。胡錦濤時代の10年は、格差、腐敗への対応に進展がなく、政治体制改革が進まなかったとの批判もあるが、これらは10年、20年で解決できるような問題ではない。

 格差は、人口13億の中国が成長過程で必然的に直面する現象であり、成長が大きければ格差も大きくなる。見方を変えれば、格差を認める競争社会になったから、大きな成長もあったとも言える。腐敗は政治だけの問題ではなく、60年に及ぶ共産党支配がつくり上げた社会風土の問題であり、国民の多くが当事者となっている問題である。

 その改革には政治体制の改革だけではなく、社会風土の改革と年月が必要だ。

 だから、胡錦濤氏は、10年で解決できるような問題ではないと見極め、本格的な改革を2020年以降、すなわち周近平後の第6世代の指導者に託そうとしていると思う。

 今回の指導部交代で、常務委員でない政治局委員18人のうち、最も若い人は1963年4月生まれの胡春華氏(広東省書記=省のトップ)、次が63年9月生まれの孫政才氏(重慶市書記)次は57年3月生まれの趙楽際氏(党中央組織部長)で、後は全て55年以前の生まれだ。

 その年齢を見ても、胡錦濤氏が誰に改革を委ねたのかが分かる。黙っていても改革路線が引き継がれ、さらなる成長が続くこれからの10年は、その後に来る10年に比べれば重要さは低い、というわけである。

 90年代よりも2000年に入ってからのかじ取りの難しさを見越して、鄧小平氏は胡錦濤氏を後継者として指名し、当時49歳の胡氏を20年前に政治局常務委員の末席に抜擢した。それと同じ手法を胡錦濤氏は今回採ったと見ることができる。

 胡錦濤氏自身が全ての役職から身を引くことと引き換えに、江沢民氏に事実上の完全引退を迫り、一見、長老にも最後の花を持たせたように装い、2020年以降の本命を勝ち取った、といえるのが今回の指導者交代の本質だろう。

 誰が勝ったか負けたかを論じるよりも、10年後に何を目指しているのかを読み解く方が、本質的だといえる。

 新しい年を迎え、今回は2020年以降を視野に入れながら、日本企業はそんな中国にどう対応すればいいのか、日本企業の課題は何なのか、を考えたい。

品質で勝負できる時代が来る

 この欄で述べてきたように、中国は当分の間、年率8%を超える経済成長を持続するだろう。日本では、中国の成長率が少しでもダウンするとすぐに、翳りあるいは大変調といった見出しが経済誌などに踊るが、中国経済の背景を考えればそれが誤りであることが分かる。どうも日本には中国経済変調への願望があるようだ。現に2012年は成長率がダウンしたが、年末には多くの経済指標が上向きに転じている。

 私は2020年を過ぎると、問題が拡大し、変調の時代に突入すると考えている。その理由は既にこの欄で述べてきた。

 2010年までの20年間は、中国人がひたすら物を求めた時代である。住宅、電化製品、家具、自動車、これまで充たされなかった物への欲求が一気に開花した時代だった。そして多くの消費財の販売数が世界一となった。中身や品質より、数をそろえることに重きが置かれていた。中身や品質に少々不満があっても、「中国だから仕方ない」の一言で我慢できた時代だった。

 だから、品質を誇る日本製品は、安い中国製品に勝てなかった。中国ローカル企業がメイドインチャイナを安く生産できる理由はいろいろある。素材の安さ、細部に拘らない仕上げ、非正規雇用による社会保険負担の節減、さらには税金や関税を逃れることで低コストによる生産が可能となる。

 一方で、中国でもグローバル化が進んだ20年でもあった。海外からの投資が増加し、人、物、情報が流入し、多くの中国人が観光、留学、仕事を目的に海外に出かけるようになった。情報が増えて物の真の価値に目覚める人も増えた。

 グローバル化は国際社会への接続(中国語では接軌)であり、中国社会にとっては「接続コスト」がかさむ時代でもある。その典型が環境や安全対応だ。

 中国の河川、湖沼は回復不可能なほど汚染されてしまった。環境破壊に対する政府の規制が強まり、環境対応のコストが増えている。汚水や排ガスの垂れ流しは許されなくなり、対応できない企業は廃業するか、コストをかけて対応しなければならないのである。また、輸出面からも工場の環境対応が求められ、対応できない企業は市場から排除されるようになった。例えば台湾の富士康(Foxconn)の中国工場は、欧州への輸出条件として、食堂の廃棄物等に関する認証まで求められている。

 「中国だから仕方ない」という言葉は、今や問題があれば「どうして対応できないのか」という言葉に置き換わり、対応できない製品の存続は難しくなっている。環境、安全、品質に関する要求に応じるには、生産工程を増やしたり、素材を変えたりしなければならず、自ずと生産コストは上がる。

 「壊れて当たり前」「中国だから仕方ない」と諦めていた消費者が、価格、耐用年数、品質を相互に比較して消費する時代になり、品質で勝負ができる時代が見えてきた。

 コスト増には労働生産性の改善によって対応しなければならないが、その時、中国製造業の問題点が顕在化してくる。

 選択肢は三つある。一つは材料、部品、製品の輸入拡大。二つ目は中国以外の外国企業との合弁、協力。三つ目は中国以外の国での企業買収と直接生産である。

 中国内での労働生産性の限界が見えてくると、中国製造業の海外移転は加速する。目の肥えた消費者が望む精度の高い製品を中国で生産することが難しいことや、熟練工が不足していることを合わせて考えれば、さらにそれは加速する。

 以前この欄で述べたように、製造業だけの問題ではなく、サービス業にも言えることである。2010年までの20年間は、中国のサービス産業に笑顔とマニュアルを導入するだけで、付加価値が高まった、と言ってもいい時代だった。しかし、今後は本物を求める人が増えてくる。

 しかし、サービス産業の付加価値を向上させることは、製造業より難しい。設備や機械で補うことはできず、人の意識、風土との戦いだからだ。もう一つ、やっかいな問題がある。それは「発展を急ぎすぎた中国」という問題である。

 日本では笹子トンネル事故をきっかけにインフラの老朽化問題が指摘された。建設後50年がその目安と言われるが、中国はその半分の可能性がある。1990年から2000年にかけて急ピッチで建設が進んだ道路や橋、ビルは、2015年から2025年にかけて建設後25年を迎える。外からは立派に見える建築物も内部にはいろいろな問題を抱えている。配管や強度などの問題である。

 中国のこの20年の経済成長は驚異的である。だが、設計時に想定された強度や許容限度と現実の利用状況の間には大きな相違がある。高速道路は、排水能力が不十分なため、大雨が降れば川のように水があふれる所がある。建築間もない工場で漏水がよく起きる。こうした問題がこれから各地で噴出するだろう。

 耐久性、安全性を十分考えなかったばかりに、これからはるかに高い代価を支払わされることに、中国社会は気づき始めるだろう。

 解決しなければならないこうした問題は、日本にとってはチャンスである。これをどう取り込むかが日本の課題となる。

内向き思考が続けば日本は取り残される

 日中対立を受けて、「チャイナプラスワン」の戦略が語られ、もう一つの拠点を中国以外のベトナム、ミャンマーなどに設ける動きが見られる。そうした国は中国と違って、親日的で日本人と似た考え方を持っているから、とも言われる。しかし、それは低コストを求めて中国に進出した企業に限っての話である。

 海外進出は元々、習慣や価値観が異なる人たちと付き合うことが前提である。一定のリスクが存在することは当然であり、まして中国は政治体制の違う社会主義国である。「中国人の考え方が云々」という言葉には、今更の感がある。

 チャイナプラスワンは、コスト上昇で中国生産が難しくなった企業、中国での市場開拓が思うように進まない企業が考えるべき対応策の一つで、日中が対立していなくても、起きてくる問題である。

 投資先を選ぶのに「日本人の考え方と近いから」という理由を挙げる人がいるが、これほど内向きの思考はない。日本は、政治も経済も内向き思考が目立ち、これが日本を停滞させていると思う。

 政治は、内部抗争が目立ち、外に向かっていくエネルギーが失せて、内向き、保守化、右傾化しているようだ。TPP(環太平洋パートナーシップ)協定交渉は進まず、相も変わらず国内農業保護か、市場開放か、の議論を繰り返している。内向き思考が高じて、「中国なしでも日本経済に影響はない」といった非現実的意見まで出てくる。まるで江戸時代末期の攘夷思想が再来したようだ。競争を避け続けていると、いつかニュージーランドに生息する鳥たちのように、日本が飛べない鳥になってしまうことが危惧される。

 内向きの極め付きは、1500兆円の個人金融資産が日本にあるから大丈夫という考えだ。個人金融資産は個人の預貯金だ。親が稼いだ貯金を食いつぶすまでは心配ないと言っているのと同じである。親が稼いだ金を使い果たし、足りなくなれば借金を増やす。薄氷の上を進まざるを得ない日本も見える。

 日本人は少なからず、日本を中心に世界を見ているようだ。異質なもの、日本的でないものに身構え、同質性を求める。同質性の中に安心とやすらぎを求める。それが高じたのがナショナリズムと右傾化、その延長線上にあるのが反中、嫌中思想なのかもしれない。中国人に人気の日本人歌手や芸能人まで「媚中派」として糾弾する人までいる。思考の単純さに呆れてしまう。

 私は最近、日本のS社のノートパソコンを買った。ところが、1週間で壊れてしまい、サービスセンターに連絡した。その時受けた質問は「パソコンを持ち歩きましたか」「壁のコンセントに直接差し込みましたか」というものだ。

 修理後3週間で2度目の故障が起きた。それに懲りて出張時は新幹線のコンセントに直接差し込んでも壊れない古いレノボのパソコンをバックアップ用に持ち歩いている。

 グローバル化の中で生きなければならない日本、その日本が内向きになり、日本的でないものに対して違和感を抱くようになれば、これほど致命的なことはない。

 内向きの日本に嫌気がさした企業は、見切りをつけて海外に向かい、日本の空洞化はこの先も続くだろう。日本の人件費が高いから、企業は中国に拠点を移し、日本の空洞化が進んだ、と考える人は少なくない。しかし、理由はそれだけではない。日本国内に留まれば、世界からどんどん遠ざかり、取り残されてしまうから、という理由の方が大きいのである。

(この項つづく)


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