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【13-003】中国の変化を見る目を養う(その1)

2013年 6月11日

和中 清

和中 清: ㈱インフォームを設立、代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業。
大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年3月に㈱インフォームを設立、代表取締役就任。
国内企業の経営コンサルティングと共に、1991年より中国投資のコンサルティングに取り組む。
中国と投資における顧問先は関西を中心に関東・甲信越・北陸から中国・四国と多くの中小企業に及ぶ。

主な著書・監修

  • 経営実践講座(ビデオ・テキスト全12巻) 制作・著作:PHP研究所
  • 自立型人間のすすめ(ビデオ全6巻)  制作・著作:PHP研究所
  • ある青年社長の物語~経営理念を考える~ (全国法人会総連合発行)
  • 経営コンサルティングノウハウ(ビデオ全4巻+マニュアル1冊) 制作・著作:PHP研究所
  • 上海投資ビデオシリーズ全4巻 (協力;上海市外国投資工作委員会)
  • 中国市場の読み方~13億の巨大マーケット(明日香出版)
  • 中国マーケットに日本を売り込め(明日香出版)
  • 中国が日本を救う(長崎出版)

この20年の中国の変化を考える

 天津から上海に戻るため、天津濵海空港に行った。朝から濃い霧で、飛行機はキャンセルとなり、急遽、天津駅から12時10分発の上海行き高鉄(高速鉄道)に乗った。列車は停車駅も多かったが、上海に17時半に到着して事務所に向かうことができた。10年、いや5年前すら体験できなかったことである。

 間もなく、深圳から上海に向かうにも同じ体験が可能となる。

 列車の中で原稿を書きながら、この20年の中国の変化に思いをめぐらせた。

 高鉄は2011年の事故後、速度制限を実施し、時速300㌔少しで走る。しかし高鉄車両製造の中国南車はCRH380A列車で時速570㌔の試運転に成功している。中国南車集団公司は115ある中央企業(国務院国有資産監督管理委員会、略称国資委、管理下の大手国有企業)の一つで本社は北京にあるが、工場は湖南省の株洲市にある。その株洲市で多くの農民工が学ぶ職業学校城(職業学園都市)が建設中で、既に地元就職率80%の学校が出現している。

 その農民工の変化から、中国の変化と課題について考える。

都市の暮らしを夢見る90后農民工

 10年前まで農民工の多くは、都市で稼ぎ、農村に戻り農業に従事した。

 大きな塊が都市に押し寄せ、波が引くように去り、次の集団が来た。

 90年代の初期には、上海の工場で社員を募集すれば、先が見えないほど延々

 と応募者の列が出来たが、それも遠い昔の出来事で、今は「民工荒」と言われる募集難の時代に突入している。

 1990年後生まれ、90后農民工には、70、80后世代とは違い、都市での人生を考え、そこに夢を求める人が増えている。

 しかし現実は夢とは違う。都市の住宅価格は、彼らに手が届かない水準である。戸籍、医療、教育など、国の制度も夢を保障できる体制ではない。

 数年前、台湾企業の富士康で十数名の自殺者が出たが、これは他の工場でも起こりうる問題で現実に起きている。富士康の深圳龍華の工業園では、40万人近い農民工が働いていた。残業に追われる単調な加工作業の日々は、自分を40万個の中に埋もれる一部品のような思いにもさせ、街でも職場でも生きる痕跡を見出せずに、夢が崩れ去る。

 70、80后農民工には、頑張って故郷の両親に送金するという使命感もあり、それが忍耐ともなった。だが、90后には“自分のために”と考える人が増えた。

 前にこの欄で、農民工の故郷への送金は年に20兆円にもなると述べたが、90后では送金も少なくなり、給料を自分のためだけに使う人も増えている。だから自分の夢が破れた時、突飛な行動に走る若者もいる。

自分の居場所が見つからない

 筆者も日々、多くの農民工に接する。いつも不安に思うことは、この夢と現実の落差である。経済成長で夢は膨らむが、現実の進行には時間が必要だ。

 現実が夢の後を追いかけ、時間の試練に耐えることも求められる。だが90后農民工の多くに、忍耐の言葉があてはまらない。

 最近、農村の小さな街でもフィットネスクラブができたと話題にもなっている。農村での金回収の看板も目立つ。職場で問題が起きると、すぐに親に電話をかけ、親の方から、嫌なら故郷に帰って来なさいという時代で、農村も豊かになり、忍耐の言葉が遠のくのもわかる。

 広東省の江門市の農村に香港企業の大きな鍍金工業団地が建設された。農村に突如現れた団地は、すぐに農民の生活を変える。寮を建て、食堂や雑貨店を開業する農民が増え、新築の3階建住宅の1階を月7万円程の家賃で貸して農家の現金収入が一気に増える。嫌なら帰りなさいとも言える時代になった。

 しかし、経済成長で都市が成長すれば、彼らの夢と現実の差はさらに開く。

 70后、80后農民工には、故郷に戻り、家を建てるという夢もあった。故郷への送金と家を建てる夢が深夜に及ぶ残業にも、休日出勤にも耐えさせた。むしろ多くの70、80后農民工は手当が2倍の休日出勤を望んだ。

 しかし、90后農民工にはその夢がない。残業も“ほどほど”を希望する人が多い。もっとも故郷に帰り家を建てようにも、すでに家は建て替わり、農地の譲渡で耕す畑もなくなる。90后だけでなく、70后も80后も農民そのものが減る時代である。だから今、都市でも故郷でも自分の居場所を見いだせずにいる農民工が増えている。

内陸の小都市開発の成功が鍵を握る

 農民工の抱える問題は、同時に中国が抱える問題でもある。

 その解決の鍵を握るのが内陸の小都市開発である。中国の都市化が進み都市就業者数は2012年までの5年間に年平均1174万人増加した。しかし今後、その増加を内陸都市で進めていかねばならない。

 故郷の農村に近い内陸の小都市に農民工を移し、そこで彼らの夢を叶えさせる。今、中国は国策での民族大移動を進めている。

 そのために沿海都市の最低賃金を大幅に引き上げ、内陸移転企業に助成を行い、省内に留まる農民工には奨励金を支給する。既に完成車生産は外資奨励プロジェクトから削除されたが、発展改革委員会と商務部は、中西部地区外資投資奨励産業リストを修正し、外資自動車生産投資を中西部投資奨励項目に追加し、6月10日から実施する。長安鈴木重慶工場、上海通用(GM)武漢工場、上海大衆(フォルクスワーゲン)新疆工場、長安福特(フォード)重慶工場、上海大衆長沙工場など、内陸での生産ラインの新増設計画が話題になっている。

 それらの政策による影響は、既に沿海部の農民工就業数に現れつつある。

 2012年の全国農民工数は2億6261万人、故郷を離れた流動農民工は1億6336万人で、2011年に比べて各々、983万人、473万人増えた。しかし、広東省、淅江省、江蘇省、河北省、上海での就業数は減少し、沿海部の比重が低下した。

 台湾の富士康(Foxconn )は民族移動の先兵で、政府と一体でそれを進めている。民族移動が成功し、農民工の夢が叶うか、大きな国家課題である。

地方の債務問題は都市化に影響する

 しかし立ちはだかる壁は厚い。筆者はそこに二つの問題があると考える。一つは既にこの欄で述べた、中国の製造業の問題。世界の工場の衰退の問題である。製造業が衰退すれば、内陸での受け皿も縮小する。

 もう一つが地方政府の債務問題である。1994年の分税制の税改革後、地方の財政収入の圧力が高まった。

 財政に占める地方の比率は、収入が1993年の78%から2011年に52.1%に減少、逆に支出は1993年の72%から2011年に84.8%に増加した。

 2013年の地方政府の予算草案では、財政収入は11兆5427億元、支出は11兆8927億元で3500億元の不足である。 

 地方は収入の多くを土地に求める。起債制限もあり、競って事業会社をつくり、それを受け皿に借金を増やして土地を開発し、いつしか土地開発投資が目的化した。

 地方政府の幹部評価がGDPと税収に偏り、面子投資も絡むため、開発に拍車がかかり、さらに負債が膨らむ。その結果、地方の債務残高は2010年末に10兆7175億元となり、土地譲渡を担保とする債務は2兆5474億元となった。

 農民を内陸小都市に移住させるには道路、住宅、学校、病院の莫大な都市化投資が必要である。第十二期五カ年計画期間の地方の都市化投資規模は30兆元。

 同期間の国家環境投資の10倍を超える。

 また、政府そのものが事業会社化して開発が目的ともなれば、違法開発も増える。

 中国の土地は国有土地である。土地譲渡と言っても、それは使用権の譲渡である。しかし譲渡すれば50年、70年の使用権の代金が一度に政府に入る。

 財政の大きな魅力であり、麻薬でもあり、いきおい土地開発に拍車がかかる。

 国土資源部国家土地総督察弁公室の報告では13の省での違法占用耕地面積は1万畝(6670㎢)を超え、東京23区の面積の10倍に及ぶ。今後、地方の債務問題と違法開発での農業用地の減少で、土地開発の制限も強くなり、それが都市化の進展にも影響する。都市化の遅れは農民工の夢の頓挫ともなり、中国の安定にも影響を与える。

農民工は内陸で生活者として生きられるか

 農民工が内陸都市に移ることは、そこで生活者として生きることである。

 40万個の中の一部品でなく、内陸の街で生きる痕跡を実感し、そこで消費者となることでもある。それが進めば、投資から内需主導経済への転換も進む。

 農民工の月収は図のように増加している。年収の平均が2万7500元としても

 2億人なら5兆5千億元(約83兆円)である。これまで、休日も取らずに貯めたお金が消費にも回る。

図1

 しかし農民工が内陸で生活者として生きるには、GDP(国内総生産)の成長だけでは十分でない。内陸の一人当たり可処分所得も増加しなければならない。

 図は2011年と2002年の全31省市の一人平均GDPと都市住民一人平均可処分所得をプロットし、比較したものである。上海の平均GDP、平均可処分所得の60%を基準に区分すれば、全地域が a 一人当たりGDPも一人当たり可処分所得も高い地域、b 一人当たりGDPは高いが、まだ所得には反映されていない地域、c GDPは低いが所得がある程度高い地域、d そのどちらも低く取り残された地域の何れかに入る。

 農民工の夢の実現には、d の地域が b に移り(成長の階段)さらに a に向かう(幸福の階段)ことが条件となる。(つづく)

図2
図3
図4

 


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